どけ!!俺は(ヒミコの)お兄ちゃんだぞ!! 作:俺はお兄ちゃんだぞ!!
今回書くのを優先して返信できてなくてすいません。
これから返していきます。
誤字報告もありがとうございました。
最終話です、最後まで読んでいただけると幸いです。
私、麗日お茶子が雄英高校に入学して三ヶ月が過ぎた今日この頃。
この三ヶ月は色々なことがあり過ぎてあっという間に感じた。
USJ襲撃事件、体育祭、職場体験、どれも濃すぎて毎日が本当に慌ただしかった。
そのせいで私は今、ちょっとした危機に陥っていた。
「期末テストまで残すところあと一週間だが、お前らちゃんと勉強してるだろうな」
相澤先生の言葉を聞いて内心顔をしかめてしまう。
してはいるけど、範囲が広すぎて間に合わない。
「「全く勉強してなーい!!」」
相澤先生が教室から出た後、上鳴くんと芦戸ちゃんが叫ぶ。
正直、私も一緒に叫びたい。
おまけに期末テストは筆記試験だけじゃなく演習試験もあるって言うし。
うぅ、ここで赤点をとっちゃうと林間合宿に行けへんなる。
私が悩んでいる間にクラスのみんなは八百万ちゃんの家で勉強会をするみたい。
前回の中間テストでの私の順位は25人中の13位、ちょうど真ん中。
ちゃんと勉強しないと補習も十分あり得る。
「麗日はどうする?ヤオモモの勉強会くる?」
芦戸ちゃんが私を誘ってくれる。
すごく魅力的な提案だけど、すでに勉強の予定は決まってる。
「実は二年の先輩に勉強見てもらう約束してて」
「え!?麗日さん、二年生に知り合いがいたの!?」
私の話を聞いていたデクくんが驚いたように口を開く。
知り合いっていうか、なんというか。
「ちょっと奇妙な出会いがありまして、たぶんデク君も知ってる人だよ、有名人だし」
「僕も知ってる人?二年で有名人・・・・まさか」
私の言葉に思い当たる人がいたのか私を見る。
そんな彼に私は笑ってその人の名前を答えた。
◇
「ここに代入して、計算すれば解けます」
「なるほど!」
雄英に通い出してから始めた一人暮らしの私の部屋。
その部屋で私は先輩に勉強を教えてもらっていた。
すごくわかりやすい、一人で勉強するよりもスルスルと頭に入ってきた。
でも、こんなことしてもらっていいのかな?
先輩も自分の勉強があるのに、学年が違うから当然試験範囲も違うし。
私がそう聞けば先輩は微笑みながら口を開く。
「毎日勉強してるので今から焦ってやる必要もないのです。だからお茶子ちゃんは全然気にする必要ないです」
「ま、毎日勉強、すご」
さらっと言われた言葉に驚く。
人に教えるって、教える人の三倍は知識量が必要だって言うし、それぐらいしないとダメなんかな。
「ふふん、一年の頃から全部一位なのです。ちなみにお兄ちゃんは全部最下位です、なので私が一年の頃はブラド先生に驚かれました」
「あ、あはは」
なんて反応すればいいかわからず苦笑いを浮かべる。
そんな私を見て先輩、
被身子先輩とそのお兄さんである脹相先輩の二人は雄英高校では有名人だ。
二人して首席合格、そして体育祭でもどちらも一位を取っている。
これだけでも有名になるけど、二人は超がつくブラコンシスコン兄妹なんだ。
お兄ちゃんは体育祭では被身子先輩の名前を何回も叫んで先生に止められていたのは今でも記憶に残ってる。
当時、家族と体育祭を見ていた時は面白くて全員で吹き出してたからよく覚えてる。
そんなすごい被身子先輩と私が知り合いになれたのは、なんというか偶然だ。
まぁ、あれを偶然って言っていいのかわからないけど。
初めてテレビで見た時から、印象に残ってた。
お兄さんと一緒に映っていた彼女は、本当に嬉しそうに笑ってたから。
その笑顔があまりにも綺麗で、心から笑ってるんだろうなって見てる私も嬉しくなった。
だから雄英に入学して、初めて実際に先輩を見た時に思わず口に出してしまった。
ちょうどお兄さんと一緒にいた先輩が嬉しそうに笑っていて、テレビで見たあの笑顔そのものだったから。
『――――やっぱり綺麗な笑顔』
私が呟いた独り言、もちろん誰にも聞いてもらうつもりなんてなかった。
だけど私の口からその言葉が漏れた後、すごい勢いで先輩が私の方に顔を向けた。
『んん!!?』
まさか私の方を見るなんて全く想像してなかった私は思わず身体を硬直させ変な声を出す。
その間に先輩はすごい速さで私に近づいてきていた。
『いま、私のことキレイって言いました?綺麗な笑顔って言ってくれませんでした?』
『え、あ、は、はい。てか近』
もう少しでお互いの息遣いも届きそうなほどの距離。
な、なんでこうなったんや!?勢いがすごい!
『私はトガヒミコって言います。二年生です』
『い、一年の麗日お茶子です!」
これが私と被身子先輩の出会い。
基本的に先輩の方からグイグイ来て、最初はめちゃ戸惑ったけど。
でも今はすごい頼りになる先輩で尊敬もしてる。
そこから会うたびに話すようになって、こうして勉強まで教えてもらっている。
とてもありがたいけど、なんでうちにここまでしてくれるんだろう。
「仲良くなりたいからです」
私のそんな疑問に先輩は微笑みながら答えてくれた。
その言葉の後も彼女は言葉を続ける。
「お茶子ちゃんは私の笑顔をきれいって言ってくれました。とっても嬉しくて、あなたと仲良くなりたいって思ったんです。それから会って話す度にお茶子ちゃんの良いところをたくさん見つけて、もっと好きになりました」
そう言って先輩は私の良いところをたくさん言ってくれる。
柔らかほっぺが可愛いとか、優しい笑顔が好きとか、少し訛りがある話し方がかぁいいとか。
「も、もぉいいです!!は、恥ずかしくて死んじゃう」
他にもたくさん好きな所を言ってくれるけど、耐えきれなくなった私が手を前に出して止める。
私が止めると先輩は少し物足りなさそうにしながらも止めてくれて、ホッと息を吐く。
「で、でも仲良くなりたいのは私も嬉しいですけど、私としてその、何かお礼をしたいです」
「・・・・じゃあ、一つだけいいです?」
私が何かお礼がしたいと言えば、先輩は少し悩んだ後に口を開く。
なんだろう、少しドキドキしながら返答を待つ。
「お茶子ちゃんと恋バナがしたいです」
「こ、恋バナ!!?」
まったく予想してなかったお願いに思わず聞き返してしまう。
こ、恋バナって恋の話!?う、うちと被身子先輩が!?
「お茶子ちゃん、好きな人がいますよね」
「す、すす!!?」
先輩は私の言葉を待つことなく恋バナを始めようとする。
ま、まだやるって言ってないんだけど!!?
「そしてその人みたいになりたいって思ってますよね」
『勝って、私もデク君みたいに!!』
先輩のその言葉を聞いた瞬間、私の頭の中で体育祭の時のことがフラッシュバックする。
な、なんで今あの時のことを思い出すん!?
「ま、待ってください!ちょっとこの話はやめ」
「緑谷出久くん、ですよね。お茶子ちゃんの好きな人」
私の制止の声も聞かず先輩は話を続ける。
そして、彼女の口から発せられた名前に心臓が大きく跳ねたのを感じた。
私の口から最初空気だけが漏れる。
「ぶっっっ!!?え、ええ!?いや私は別にデク君のことは、その、と、友達で。尊敬はしとるけど、そんなんじゃ」
私が落ち着く間もなくどんどん話を進めていく先輩。
ていうかどうしてテク君の名前が!?
先輩は面識ないはずなのに、どうして!!?
「何回かお茶子たちが一緒にいるのを見かけたんです、その時のお茶子ちゃんの姿を見て思ったんです」
「い、いやだから私は別にデ「私も彼のことが好きなんです」ク君のことは・・・・」
・・・・・・・・・・・・・。
んん?
「と、被身子先輩いまなんと?」
震えながら先輩に聞き返す。
ただでさえ騒いでいた心臓が早鐘のように警報を鳴らす。
気付けば嫌な汗と共に身体も震えている。
わ、私の聞き間違いだよ、ね?
「緑谷出久くん、私も彼のことが好きなんです」
聞き間違いじゃなかった。
え、
「な、なぜ!?」
私の知らない間にデク君と先輩に接点が!?
驚愕のあまり固まってしまう私に先輩は好きになった経緯を教えてくれる。
「体育祭の時、一年生のステージをこっそり覗きに行ってたんです。入試の時とヴィランが襲撃した時にボロボロになった子が三回戦に出てるって聞いてたので」
デク君のことだ。
三回戦、あの時に先輩が私達のところにいたってこと?
全然気づかんかった。
「そしたらちょうど彼の番で、ボロボロで血を流しながら戦ってて、とってもかっこよかったんです。中学の時の初恋の人にもそっくりで、あっという間に好きになっちゃいました」
「お、おおふ」
三回戦、轟くんと戦ってた時のことだよね。
あ、あれを見て先輩はデク君のこと好きになったんだ。
「だからお茶子ちゃんと恋バナがしたいんです。好きな人が同じならすごく楽しいお話ができると思うから」
私の反応を見ながら嬉しそうに話す先輩。
そんなに嬉しそうに笑われたら、こ、断りにくい。
「で、でも正直意外でした。被身子先輩はお兄さん一筋みたいに思ってたので」
私も先輩を見かける時はだいたいお兄さんと一緒だった。
正確にはお兄さんが被身子先輩に会いに行っているみたいだけど、それでも見てるこっちが恥ずかしくなるくらいイチャイチャしてて、他に好きな人がいるとは夢にも思わなかった。
「お兄ちゃんは大好きなので、好きとは違うのです。あ、そういえば」
大好きと好きは違うの?っと私が疑問に思う中、先輩は何かを思い出したかのように一度口を閉じる。
そして何でもないかのように、その言葉を口にした。
「私が出久くんを好きになったって言ったらお兄ちゃん
デク君逃げて!超逃げて!!
◇
拝啓、オールマイト。
波乱の職場体験も終わり、穏やかだけど忙しい学園生活がまた始まりました。
雄英に入って三ヶ月が過ぎ、あなたのような笑顔でみんなを助けるヒーローを目指して進み続ける毎日です。
ワンフォーオールの力も怪我なく使えるようになり、本当にゆっくりとですがあなたに近づいている気がします。
そんな今日この頃。
――――僕はどうしてか危機に瀕しています。
「貴様がぁヒミコの想い人かぁ」
「ひぃ!!?」
実技試験対策の訓練をしに学校に来たら、なんかすごい怒気を纏った人に絡まれた。
この人って三年生の渡我脹相先輩だよな、どうして僕に、それもこんなに怒ってるの!!?
訳も分からず悲鳴を上げる僕に脹相先輩は目を血走らせてすごい表情で僕を睨んでくる。
「来い!!」
「うひぃ!?」
すごい顔で僕の首根っこを掴んだ脹相先輩はそのまま僕を引きずってどこかに連れて行く。
「あ、あの!ど、どこに行くんですか!それにいきなりなんで!?」
「お兄ちゃんとして貴様を試す!」
「いやますます訳がわからなくなったんですが!?」
わけもわからず連れて行かれた場所は見慣れた訓練所だった。
訓練所に到着した途端、僕は放り投げられて間抜けな格好で地面に転ぶことになる。
「構えろ」
「じょ、状況を説明してください!!どうして僕はここに連れてこられたんですか!?」
顔を上げれば仁王立ちで僕を見下ろす脹相先輩の姿。
突然すぎて状況を1割も理解できてないんですが!?
「俺の妹がお前に惚れたらしい。だからお前の力を試す。妹に相応しい男かどうかを確かめるためにな!!」
「・・・・」
脹相先輩の言葉を聞いて、思考が停止する。
えっと、何の話をしてるんだっけ?
どうして僕がここに連れてこられたかだったよね。
それで脹相先輩は妹さんが僕に惚れたから力を試すって。
「・・・・」
惚れた?
誰が?
誰に?
脹相先輩の妹さん、渡我被身子先輩が惚れた?
誰に?僕に?
「・・・・ほぁ!!?」
言葉の意味を理解した瞬間、目を見開いて奇声が口から飛び出る。
ぼ、ぼぼぼぼ僕のことが好き!!?ど、どうして!?
彼女のことはもちろん知っている、なにせ有名人なんだから。
雄英高校を主席合格、そして体育祭でも一位、学業でも一番の成績と取り続けている正真正銘の才女。
兄の脹相先輩の影響も合わさってこの学園で彼女を知らない人間はいないだろう。
そんな彼女が僕のことを!!?
「な、なにかの間違いじゃないんですか!?僕なんかに、渡我、えっと被身子先輩が惚れるなんて」
同級生でもない下級生の僕に被身子先輩が惚れる理由が全く思い浮かばない。
もちろん話したこともないし、僕自身も遠巻きに彼女を見たぐらいだ。
どう考えても脹相先輩の勘違いとしか思えない。
「勘違いじゃない、いいから構えろ。妹と付き合いたいならお兄ちゃんを倒していけ!!」
「ええ!?いやそんな、僕なんかが被身子先輩とお付き合いするなんておそれ「あ゙あ゙ん!?ヒミコと付き合いたくないだと!!?」
ダメだ、この人には何を言っても火に油だ。
こめかみに血管を浮かべて叫ぶ先輩に全てを悟る。
「いいから構えろぉ!お兄ちゃんを見せてやる!!」
そういって戦闘態勢に入る脹相先輩。
・・・・こうなったら覚悟を決めよう。
よく考えたらあの脹相先輩と戦えるチャンスなんて滅多にない。
状況の解決はおいといて、この状況を利用しない手はない。
「・・・・よろしくお願いします!」
そう声をあげて僕も構える。
新たに習得したワンフォーオール・フルカウル5%。
今の僕が雄英のトップにどこまで通用するか。
「行きます!!」
床を蹴り上げ移動する。
蹴り上げた床は激しい音と共に風を発生させ僕の速度を示してくれる。
まずは正面、と見せかけて右から!
腕を振り上げ正面から殴ると見せかけ、直前で進路変更し右に移動、脹相先輩の側面から攻める。
つ、ダメだ。しっかり目で追われてる。
僕の動きに合わせ視線が動くのを感じた、だけど攻撃はもう止まらない。
「動きの組み立てが単調だ」
僕の攻撃が届く前に先輩の腕が僕を掴む。
そして突っ込んだ僕の勢いをそのまま利用して放り投げられた。
っ!まだまだ!!
吹き飛ばされながらも体勢を整えて着地する。
着地し休むことなく即座に動く。今度は正面からいかずグラントリノのように壁を利用して飛び跳ね隙を伺う。
そして死角から再び脹相先輩に飛び込もうと移動した時、視界に何かが映る。
・・・・赤い点?いや、あれは血だ!
先輩の個性は自分の血を操る力だって知ってる、当然あれは罠!
「っ、しま」
「
僕の進路上に配置されていた血の球が弾ける。
球の形を崩した途端、その小ささからは想像もできない量の血が姿を現して僕の視界に殺到する。
ただでさえ速度をあげて突っ込んでいたところに、躱せない絶妙なタイミング。
「うっ!?血が拘束を」
現れた血が僕の身体を拘束する。
気が付けば手足が手錠の様に変化した血で固定されてしまった。
手足を封じられれば当然動けない、僕は脹相先輩を通り過ぎて地面へと激突する。
かと思ったら脹相先輩の血がクッションになって衝撃を抑えてくれた。
「聞いていた戦い方と違うな。戦闘スタイルを変えたようだが、この程度か。ヒミコから聞いていた超パワーはどうした」
「っっ、あれは使った部位が壊れてしまうので封印してるんです」
寝転がりながら脹相先輩の言葉に答える。
強い、戦いにすらならなかった。
あの血の球、明らかに量が合ってなかった。
血を操作するだけじゃなくて、血液を増加させることも可能なのかな。
「この程度の実力でヒミコを守れるか!!俺を倒せる実力をつけなければ妹と付き合うことは認めないぞ!!」
「あ、いやあの、や、やっぱり何か誤解なんじゃ」
再びヒートアップしだした脹相先輩に顔を引きつらせる。
縛られた状態の僕は無防備そのもの、そんな僕に脹相先輩はゆっくり近づいてくる。
そしてその表情を見て、血の気が引くのを感じた。
「ちょっと落ち着けよ脹相、後輩君も困ってるぜ」
僕が死を覚悟しようとした時、突然脹相先輩の隣に男の人が現れた。
まるで瞬間移動したみたいに突然。
―――――なぜか全裸の姿で。
「・・・・な、なにがどうなって」
一度に色々なことが同時に起きすぎて頭がおかしくなりそうだ。
い、いや落ち着くんだ。
この人も見たことあるぞ。
体育祭で脹相先輩とすごくいい勝負していた人だ。
テレビで何回も今みたいに全裸になってたから印象に残ってる。
「いきなりごめんね後輩君。脹相は妹ちゃんのことになると暴走しちゃうんだ」
「はい・・・・それはもう、よくわかりました」
僕がそういうと先輩は自己紹介をしてくれる。
脹相先輩はまだ言いたそうだけど、通形先輩になだめられていた。
その様子から二人の信頼関係がよくわかる。
「ていうか
「・・・・」
通形先輩の言葉に脹相先輩は無言になる。
その様子から答えは察せられてしまう。
僕としては今も脹相先輩の勘違いだと思うんだけど。
だって会ったこともないし僕を好きになる理由が思い浮かばない。
「ヒミコならわかってくれる。だから「てめぇは俺との勉強だバカ」
もう一度戦闘態勢に入ろうとしていた脹相先輩を背後から現れたブラド先生がその太い腕で拘束する。
また予想外の人物の登場で固まる僕を他所に先生はこめかみに血管を浮かべながら口を開く。
「急に飛び出したと思ったら、こんなところにいやがった。お前が俺に勉強を教えてくれと頼んだんだろ、妹に迷惑をかけたくないとか言って」
そのまま脹相先輩はブラド先生に連れていかれ僕と通形先輩は残される。
彼がいなくなったことで拘束から解放されて立ち上がる。
通形先輩の話によれば脹相先輩は勉強が苦手で、さすがにまずいと思ったのか先生に勉強を教えてもらうことにしたらしい。
「いやーごめんね。そうだ!よければ一緒に訓練でもしていくかい?親友が迷惑をかけちゃったし、いっちょ手ほどきしてあげるよ!」
「ほ、本当ですか!?」
これはすごいぞ。
三年生、それも実力でいえば脹相先輩に並ぶほどの先輩と一緒に訓練できるなんて。
一体どうなるかと思ったけど、いい経験になりそうだ!
――――その後、僕は通形先輩に腹パンをくらい、何回もうずくまることになった。
◇
なんとか期末テストを終え、林間合宿に参加することができるようになった僕達。
合宿先でプロヒーロー集団のプッシーキャッツの協力をもらいながら開始した個性伸ばしの訓練。
その合宿の最中、僕たちはヴィランに襲われた。
突然の襲撃に命からがら戦い、一緒にいた轟くんと協力してマスキュラーに勝利した僕は奴らの狙いがかっちゃんであると知る。
急いでかっちゃんを守るために動き、みんなと合流。
その後、残っているヴィランも制圧することに成功し、
警察に引き渡されるヴィラン達を見て小さく息を吐く。
よかった、一時はどうなるかと思ったけど。
みんなも同じようにホッと息を吐いているのが見える。
そんな中、相澤先生とブラド先生だけが険しい顔で何かを話していた。
・・・・なんだろう。もしかしてまだ何か。
疲れから気が抜けそうになったのを引き締めて耳を傾ける。
――――そして、固まった。
「・・・・うそ」
同じく横で聞いていた麗日さんも固まっている。
被身子先輩が、攫われた。
「先生!!被身子先輩が攫われたって、どういうことですか!?」
二人の言葉を聞いた麗日さんが詰め寄る。
それに対し相澤先生が口を閉じる。
「・・・・聞いてたのか」
「先生!!」
「・・・・二年の合宿先も俺達のところと同じように襲撃があったらしい。そしてそこで渡我が攫われた」
「っ!!そんな」
相澤先生の言葉で麗日さんが震える。
それを見て僕も拳を握り締める。
・・・・どうして被身子先輩が狙われた。
僕らの合宿上ではかっちゃんが、二人の共通点、それは。
「っ!?体育祭で優勝した人達!先生!!脹相先輩は無事ですか!?もしかして先輩も狙われているんじゃ!」
今回の体育祭、三年生で優勝したのは先輩だ。
この共通点が理由なら三年生も狙われていても不思議じゃない!
「心配ない、あいつは無事だ。そもそもヴィランに捕まるような男じゃない」
ブラド先生が僕の質問に答えてくれる。
けどその表情はすぐれない。
・・・・先輩はこのことを知っているのか?
あの脹相先輩が妹が攫われてじっとしているとは思えない。
まさか。
「・・・・あのバカが、どこかに飛び出していきやがった」
◇
「・・・・ん」
何があったんだっけ。
合宿に行って、みんなと一緒に訓練をして、夜中にキャンプファイヤーをして、それから。
「ここは」
ぼやける意識を覚醒させて辺りを見回す。
どこかのバー?おしゃれな雰囲気。
あと椅子に座らされて拘束されているみたい。
まぁでも、呪力で強化しちゃえば解けそう。
「目が覚めたか」
「あなたは誰ですか?」
「死柄木弔、よろしく
変な手に顔を掴まれた変な人が名前を教えてくれる。
この人だけじゃない、他にも六人いる。
「・・・・雄英の人じゃないですよね。もしかして私、あなた達に誘拐されました?」
「悪いな、ゆっくりお前と話したくてここに招待した」
「はぁ、そうですか」
どうやって私を誘拐したんだろう。
突然意識がなくなったし、この中の誰かの個性かな?
油断してたけど、殺意があったら気づいてたはず。
だったら誘拐した目的は私を殺すことじゃなくて本当に話すため?
「単刀直入に言おう。トガヒミコ、俺らの仲間にならないか」
「・・・・仲間ですか。誘拐しておいて勧誘とは」
思わずジト目でそう言ってしまう。
そんな私の態度に気を悪くした様子もなく彼らは言葉を続ける。
「考えてみてほしい。今の世界は本当に正しいのか?大多数派の人間が生きやすく、少数派の人間がその犠牲になるこの世界が。俺たちの戦いは問いだ。ヒーローとは正義とは何か、この社会が本当に正しいのか一人一人に考えてもらうための」
「・・・・まぁ、意味はわかりますが。言葉がカッコつけてるせいで全然響かないです。あとこれ外してください、勧誘される立場じゃないですこれ」
私は勉強はできるけど、別に頭は良くない。
言いたいことはあるならもっとわかりやすく言ってほしい。
拘束については自分で外せるけど、ダメ元で頼んでみた。
するとあっさり拘束を解いてくれた。
拘束を解いてくれたマスクで顔を隠したシルクハットをかぶった男の人が話しかけてくる。
「強引な手段だったのは謝るよ。けどな、我々は悪事と呼ばれる行為にいそしむ。ただの暴徒じゃねぇってのを分かってくれ。君を攫ったのはたまたまじゃねぇ」
「・・・・あなたですね、私を攫ったのは」
意識が途絶える直前にその姿が見えたのを思い出した。
どんな個性だろう、ひとまず一番警戒がいる人と覚えておく。
「女子高生を誘拐して紳士みたいな態度をとられても」
「ぐぅ!?その言い方やめて!おじさんの心にグサッとくるから」
「あとやっぱり話が長いです。もっと簡単に言ってください」
胸を抑えて苦しむ真似をする人をおいといて話を促す。
私を攫って、仲間に誘う理由はなんとなくわかった。
間違っていないか確認のためもう一度聞く。
「・・・・はぁ、つまりだ。お前は俺達と同じだ。大多数の人間の枠に入ることができない性を持つ人間。血が好きなんだろ?トガヒミコ」
「・・・・」
「お前のことを調べて驚いたぜ。なんでヒーローなんかやってるんだってな、どう考えてもお前はこっち側だろ」
そう言って私の過去を話し出す。
私の持つ欲求をこの人達は知ってる、その上で私を仲間に誘っているんだ。
「ここにいる人間はそれぞれ内容は異なるが、全員大多数からは受け入れられない人間たち。俺達の目的はこの偽善社会を壊すこと」
私を見つめながら彼は自分の目的を告げる。
やっぱり私の理解は合っていたみたい。
「あいつらは自分たちを正しいと言い張って、答えが違う奴らを悪だと決めつけ迫害する、ふざけるなって話だろ、てめぇらが決めた答えで俺達を縛るな」
彼の言葉にバーにいる何人かの人間が頷く。
私と同じ人たち、その言葉を前にも言われたことを思い出した。
「もしかして」
思い出した記憶からその名前を呼ぼうとした瞬間。
私に刻まれた術式が、
「・・・・なんだ、トガヒミコ。どこを見てる」
私がバーの壁に視線を向けたことを彼らが怪しむ。
もう、来てる。
私がどれくらい気絶していたかわからないけど、絶対来るだろうなって思ってた。
「・・・・どうやら話しはまた今度みたいです」
「は?」
「お兄ちゃんが迎えに来ました」
そう言った瞬間、私が見ていたところの壁が突然砕ける。
砕けた壁の向こうから人影が一人、それは当然。
「怖かっただろうヒミコ、もう大丈夫だ。なぜって?お兄ちゃんが来た!!」
そう言いながらお兄ちゃんが姿を現す。
こめかみに浮かんだ血管が切れそうなほどの勢いで怒っているのがわかる。
「「なんでこの場所が!!」」
いきなり入ってきたお兄ちゃんに中にいた人たちが即座に戦闘態勢に入る。
けれどもう遅い、すでに圧縮した複数の血の球が、彼らの近くに浮遊している。
「超新星」
お兄ちゃんがそういうと同時に圧縮された血が解放される。
圧縮から解放された血液は即座にはじけ、散弾銃のように近くにいた彼らを吹き飛ばす。
それだけじゃない、弾けて相手に付着した血は動き続け、相手を拘束する手錠に変わった。
「なん、だ。っ、いっってぇ!くそ、動けねぇ!」
超新星から一番離れてた場所にいた変わった手で顔を隠した彼だけはダメージが少なくすんだみたいだ。
他の人達はもろにくらってしまい、動けていない。
「ぐっ!?」
「お前が雄英を襲撃した時にいたというワープの個性か」
お兄ちゃんが黒い霧を纏っていた人にさらに攻撃を加えて気絶させる。
どうしてここにお兄ちゃんが来れたか、それは血と術式が関係してる。
私が赤血操術に目覚めてから、お兄ちゃんとの繋がりが深くなった。
お兄ちゃんによればもともと血がつながった者に何か特大の異常が起きれば術式を通してわかるらしかった。
けど、それが私とお兄ちゃんの場合はさらに進化して、集中すればお互いの位置や状態が把握できるようになった。
これは私達しか知らない秘密、だから彼らはお兄ちゃんがどうしてここに来れたのかわからない。
「俺の妹を攫ったんだ、覚悟は出来ているな」
「っっ、くそが」
殺気すら放つお兄ちゃんを前に彼は小さく吐き捨てる。
正直に言うと、もう少し彼らの話を聞いてみたかったな。
私と同じ人達、けれど今の私とは違う道を歩いている。
それがどうしてなのか、もっと話を聞きたいって思ってしまう。
でもこうして私が誘拐されたんだ、きっと雄英の方は大騒ぎになってるはず。
みんなにこれ以上心配かけないために早く戻らないと。
「まだだ!こんなところで、俺は!っ!?ぶぁっ!!?」
お兄ちゃんが攻撃を加えようとしたとき、彼の口から何か
それは彼だけじゃない、他の動けない人達からもだった。
「っ!?ちょ、うっ!?私からも」
彼等の様子を見ていたら急に吐き気が発生し、私の口からも泥が漏れた。
吐き出された泥は一気に広がり私を包んでいく。
「ヒミコ!!」
私の異常に気付いたお兄ちゃんが手を伸ばす。
けれど、それより早く泥が私を飲み込んだ。
そして暗闇、けれどそれは一瞬ですぐに視界が開けた。
「っ!?ここは」
広がった視界の先はさっきまでいたバーじゃない、知らない外の景色。
周りを見れば私と同じように泥から彼らが姿を現していた。
「久しぶりだね、トガヒミコくん」
私がワープの個性かなと考えていた時、後ろから私の名前を呼ぶ声が響く。
振り向いてみれば、また変わったマスクをつけた男の人が立っていた。
初めて会う、けれどなぜか前にも会ったことがあるような気がした。
「・・・・もしかして禪院先生?」
「ああ、久しぶりだね。元気そうで僕も嬉しいよ」
「・・・・あの時、私に何かしましたよね」
たぶんあの時、教室で二人で話した時だ。
香ちゃんと恵ちゃんを私が襲ったのはこの人が何かをしたんだ。
「ごめんよ、でもあれは君のためだったのさ。世間のルールと自分の性の間で苦しむ君を助けたかったんだ」
「・・・・先生が言っていた仲間ってあの人達のことですか」
一緒に泥の中から出て来た彼らに目を向ける。
お兄ちゃんの攻撃をくらって辛そうだけど、なんとか立っているみたい。
「そうだよ。彼らは君と同じだ、ぜひ・・・・はやいな」
先生は言葉を途中でやめ、私から視線を外し別のところを向く。
私も視線を追えば、遠くからお兄ちゃんがすごい勢いで来ているのが見えた。
お兄ちゃんは地面から建物の側面も関係なく縦横無尽に、まるで滑るように移動している。
前に教えてくれた、靴裏で血を高速回転させながら加速、身体にうすい血の膜を纏うことで空気抵抗なしで移動できるとか。
「ヒミコ!!」
「邪魔をしないでくれないか」
私のところに行こうとするお兄ちゃんを先生が阻む。
先生の腕が突然膨れ上がり、激しい音を発生させる。
嫌な予感を覚えたのも束の間、すごい衝撃波がお兄ちゃんを襲った。
何あれ、どんな個性?
攻撃を察知したお兄ちゃんは攻撃を躱す。
お兄ちゃんの横を走り抜けていった衝撃波は街を容易く破壊した。
「渡我脹相、君の力は大変興味深い。けど今は邪魔だ」
そう言ってお兄ちゃんに再度攻撃を加えようと腕を伸ばす。
でもお兄ちゃんもただではやらせない。
先生のいた足下の地面から血が滲み、突然槍のような形状になって飛び出した。
死角で反応できなかった先生は攻撃をくらい仮面に傷をつける。
「どけ!!俺はお兄ちゃんだぞ!!」
その隙にお兄ちゃんは手を合わせて
初速は音速を超えるというお兄ちゃんの技、
それに先生は反応し、まるでバリアみたいな何かを展開する。
お兄ちゃんの技と先生のバリアがぶつかる直前、先生の横にある建物の壁から何かが現れるのが見えた。
現れたもの、いや姿を見た瞬間、それが誰なのかすぐにわかった。
「パァワァァァァ!!!」
「っ!?通形ミリオ!!」
壁から弾かれるようにして高速で先生へと迫った通形先輩はその鍛えた拳で先生を殴る。
仮面すらも透過ですり抜け素顔へと入った拳を受け、先生から少し声が漏れた。
絶妙なタイミングで差し込まれた彼の攻撃で先生の防御が緩む。
その緩みをお兄ちゃんの技が貫き、仮面を完全に砕いて先生を後頭部から地面にすごい勢いで激突させる。
「大丈夫かいヒミコちゃん」
「はい、通形先輩も来てくれたんですね」
「もちろん!君が攫われたって聞いた瞬間にそこのお兄ちゃんが飛び出したから急いで追いかけた!」
私の言葉に通形先輩は笑顔で頷く。
クラスのみんな、それに一年生のことを聞けば全員無事らしい。
お兄ちゃんから三年生は合宿がないって聞いてたからそこは心配してなかったけど、他のみんなも大丈夫そうでよかった。
「・・・・厄介な男が来たね。だが学生二人で僕と戦う気かい?」
「そのまさかなんだよねこれが。ていうかあなたはだれ?なんかやばそうな雰囲気から只者じゃないことだけはわかるけど」
「なに、ただの先生さ」
そう言って通形先輩に攻撃を加える。
けれど透過の力を持つ彼にはすり抜けて効果はない。
その間にお兄ちゃんが通形先輩の横に並ぶ。
「・・・・ヒミコを攫った連中六人はともかく、この顔なしは危険だ」
「だよね。まぁでも俺ら二人なら余裕でしょ!」
警戒を見せるお兄ちゃんと笑みを浮かべる通形先輩。
先生は私の想像してたよりも遥かに強い。
もしかしたらかなり有名なヴィランなのかも。
さっきまでの攻撃、血を飲めたらともかく、今の私じゃ勝つのは難しいと思う。
そんな怖い先生を相手にしているお兄ちゃん達。
普通なら心配するところのはずだけど、全然そんな気になれない。
この二人が一緒に戦って、負ける姿が想像出来ないから。
「余裕とは心外だ、これでも有名人なんだぜ僕は」
目も鼻もない中、口だけが笑みを作る。
邪悪なその笑みに二人は全く怯まない。
「関係ない」
お兄ちゃんが先生の言葉を切り捨てる。
それに合わせるように通形先輩も口を開いた。
「そう、なんたって俺たちは」
お兄ちゃんは真顔、通形先輩は笑顔。
二人は違う表情を作りながらも口だけは同じ動きを始める。
そして、同時に動いた口から出来上がった音が言葉を作り出した。
私が入学してから、何度も聞いたその言葉を。
「
よし、タイトル回収も出来たな。
これで本作はいちおう完結となります
ここで完結としたのは、これから先は今までほど盛り上がらないと思ったからです。
理由は今まであった『緊張感』がなくなるため。
これまではヒミコがヴィランになるのか、それともヒーローになるのか。
彼女の苦悩とオールフォーワンという存在が展開に緊張感を与えていました。
しかしヒーロールートが確定したことでそれがなくなり、脹相とヒミコがヒーロー側になったことでヒーロー側が強化され、緊張感がなくなるどころか緩くすらなると思います。
それでも最初は面白いかもしれませんが、次第に飽きてくるんじゃないかと思うんですよね。
なのでここで完結した方が無難かなと思いました。