ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、同情する

《不可視化(インビジビリティ)》と《気配遮断》を重ね掛けし、俺は蹂躙されていくリ・エスティーゼ王都の屋根を蹴って駆け抜けていた。

 

眼下に広がるのは、まさに地獄絵図だった。

あちこちで建物が燃え上がり、あるいは崩落し、人の営みがあった場所がただの瓦礫の山へと変わっていく。

 

「……たった一人のバカ貴族のせいで一国が丸ごと滅ぶとはね。まじで可哀想だな。恨むんなら魔導国じゃなくて、そのバカ貴族を恨んでくれよ」

 

俺は心の中でぼやいた。フィリップとかいう名前だったか。あの底抜けの愚か者が魔導国の食糧輸送隊を襲撃しなければ、ナザリックも「飴と鞭」の計画を継続し、こんな徹底的な殲滅戦にはならなかったはずだ。

 

少し進むと、街の一角が文字通り『氷漬け』になっていた。

 

「……コキュートスの担当エリアか。こうして見ると、苦痛も恐怖も感じる暇もなく一瞬で凍死させてくれる分、あいつの殺し方が一番慈悲がありそうだな」

 

さらに先へ進むと、今度はアウラが使役している魔獣たちが通った後の惨状が広がっていた。原型を留めないほどに食い散らかされ、男か女かすら判別できない無惨な死体の山。

 

「……エッグ……」

 

流石にグロテスクすぎて、俺は顔をしかめて目を逸らした。

 

(早くアルベドを見つけて、このおぞましい観光ツアーから抜け出そう)

 

俺が《千里眼》を働かせて上空を見渡すと、ほどなくして王都の空の一角で、凄まじい爆発と衝撃波が連続して発生しているのを発見した。

 

「いた」

 

真紅のパワードスーツを着たアズスが、黒い翼を生やした絶世の美女――完全武装のアルベドを相手に、超苦戦を強いられていた。

 

「……まぁ、あのパワードスーツの火力と機動力じゃあ、いくら頑張っても絶対にアルベドの鉄壁の防御は抜けないし、勝てないわなぁ。ギリギリ逃げられるスピードはあるとは思うけど」

 

俺は建物の影から上空の攻防を監視した。アズスは必死に距離を取りながら弾幕を張っているが、アルベドは鬱陶しそうにそれを弾き飛ばしている。

 

(……逆に、アルベドが手加減をミスってアズスを殺してしまわないか心配になってきたぞ。まぁ、万が一そうなったら、あのパワードスーツを回収しに来る奴がいるはずだから、そいつを張って追えば良いだけの話だが)

 

俺がそんな最悪のケースを想定し始めた頃、アルベドが何らかの理由(おそらく魔導王の元へ向かうため)で追撃を緩めた。その隙を突き、アズスが最大出力のスラスターを吹かして戦線から離脱・撤退を開始した。

 

「よし、追跡開始(ストーキング・タイム)だ」

 

俺は《黒羽瞬身》と《影渡り》を駆使し、パワードスーツの航跡を絶対に見失わないよう、一定の距離を保ちながら王国郊外へと向かった。

 

追うこと数十分後。

アズスは、王国の惨状が一望できる小高い森の丘に着地した。

 

俺も少し離れた木の上に音もなく着地し、《隠密》を維持したまま聞き耳を立てる。

すると数分後、空間が歪み、アズスの前に一人の人物が転移してきた。

 

「――遅れて悪かったな」

 

そこに立っていたのは、周囲に四本の奇妙な武器をプカプカと浮遊させた、白銀の鎧を着た戦士のような姿だった。

 

「ツアー」

 

アズスが安堵したような声で、その白い鎧をそう呼んだ。

 

(……誰だあいつ? とりあえず、名前は『ツアー』っていうのか。覚えておこう)

 

ツアーは、アズスにアルベドとの戦闘について尋ねた。

 

「どうだった? 例の女悪魔は」

 

「どうにもならなかったぜ。全部の武装を使って、何とか近づけさせない戦い方をしたから逃げれたようなものだ」

 

アズスが肩をすくめて返す。

 

(嘘つけ。俺との戦いでかなりリソース削られてただろ)と内心でツッコミを入れつつ、俺は会話に集中する。

 

アズスが逆に問い返した。

 

「そっちはどうだ? 途中でアルベドが魔導王の元に向かっていったが……魔導王は倒せたか?」

 

「……いや。魔導王は、予想以上に強かったので倒せなかったよ」

 

ツアーの言葉に、アズスが息を呑む。

さらにツアーは深刻な声で続けた。

 

「しかも、後から来たあのアルベドという女は、魔導王自身が突破できなかった私の『世界断絶障壁』を、いとも容易く突破してきた。……あれを外部から突破するには、『始原魔法』か『ワールドアイテム』を持つ者のみだ」

 

(……『始原魔法』? なんだそりゃ? ワールドアイテムと同列に語られる力……ユグドラシルの魔法体系(位階魔法)とは別枠の、この世界独自の超常の力ってことか?)

 

俺は、アインズ様に報告すべき超重要キーワードを脳内に刻み込んだ。

 

「それで、お前なら魔導王に勝てそうか?」

 

「実力は理解した。……一騎打ちでなら、勝てる」

 

ツアーの静かな、しかし絶対的な自信に満ちた返答に、アズスはニヤリと笑った。

 

「さすが、世界最強の竜王(ドラゴンロード)だな」

 

(――竜王!)

 

点と点が繋がった。

あの白い鎧、中身はおそらく人間ではない。遠隔操作された鎧か何かだ。そしてアズスが「白いドラゴンからパワードスーツを借りた」と言っていた言葉。

 

(たぶん、あのパワードスーツの本当の持ち主は、あの『ツアー』って呼ばれてる竜王なんだな)

 

「それと、魔導王には『リク・アガネイア』という名を名乗っておいたから、今後の接触の際は気をつけてね」

 

ツアーが念を押すように言う。

 

順調に超重要情報がボロボロとこぼれ落ちてくる。俺の仕事としては100点満点だ。さぁ、もう帰ろう、と思ったその時だった。

 

「……ところで」

 

ツアーが、アズスのパワードスーツをジッと見つめて首を傾げた。

 

「アルベドから、随分と物理的な攻撃を受けたように見えるけれど……鎧の装甲がかなり傷ついている。大丈夫なのかい?」

 

(あっ)

 

アズスはどこか清々しい顔で、ヘルメットの奥で笑った。

 

「ああ、これはすまない。だが、アルベドにやられたわけじゃないんだ。……ちょっと、姪の婚約者と喧嘩してね。その時に、ちょっとな」

 

(おいバカ! 何を世間話始めてんだお前!)

 

「ほぉ。姪というと……ラキュースと言ったっけ? その婚約者は強いのかい? 名前は?」

 

ツアーが、明らかに興味を惹かれたような声で尋ねる。

 

(余計なこと喋んなよ……絶対喋んなよおっさん……!)

 

俺の必死の祈りも虚しく、アズスは自慢げに答えた。

 

「『静寂のハチ』って知っているか? そいつだよ。強かったぜぇ……たぶん、あの漆黒聖典の連中よりも強いと思うぞ」

 

(余計なこと言うんじゃねぇえええ!!)

 

俺は木の上で頭を抱え、危うく隠密が解けそうになるのを必死に堪えた。

なぜ魔導国最強レベルの敵対勢力である『世界最強の竜王』に、俺が王国の貴族の婚約者として認知されようとしているんだ。情報漏洩にも程があるぞ。

 

「そうか……。人間の成長は早いねぇ。ついこの間まで赤ん坊だったラキュースが、もう結婚するのか」

 

ツアーはどこか懐かしむような、優しい声で笑った。

 

「今度、その婚約者を紹介してくれ。……私と戦う魔導国相手に、味方になってくれるかもしれない。ぜひ会ってみたいものだ」

 

「おう、機会があったら会わせるよ」

 

(絶対に会わせるな!! 頼むから俺を巻き込まないでくれ!!)

 

俺は心の中で血の涙を流しながら絶叫した。

 

「……それでは行くか」

 

「ああ」

 

ツアーの言葉を合図に、二人の姿は転移魔法でフッとその場から消え去った。

 

完全な静寂が戻った森丘で、俺は深すぎるため息を吐いた。

 

「……とりあえず、これ以上の情報は集められないな。帰るか」

 

俺は《伝言(メッセージ)》を発動し、アインズ様へと通信を繋いだ。

 

『――アインズ様。八幡です。標的の追跡を終えました。いくつか超重要情報があります』

 

『おお、ご苦労! 何が分かった?』

 

俺は事務的に、簡潔に報告をまとめた。

 

『リク・アガネイアと名乗っていた白い鎧の本当の名前は「ツアー」であり、彼は「世界最強の竜王」と呼ばれていました。また、この世界には「始原魔法」というものが存在し、それはユグドラシルの「ワールドアイテム」でなければ対抗できない規格外の力であるとのことです』

 

『……! な、なんだと!? 「始原魔法」……「ワールドアイテム」のみが対抗できる……だと!?』

 

通信の向こうで、アインズ様がかつてないほど動揺し、驚愕しているのが伝わってきた。

 

『はい。これ以上の追跡は不可能と判断したため、ナザリックに戻ります』

 

『あ、ああ! よくやった八幡、これ以上ないほどの大功績だ! すぐに指定の座標にゲートを開く、戻ってきてくれ!』

 

通信を切り、俺は「ふぅ」と息を吐き出した。

とりあえず、副官としての――諜報員としての一仕事は完璧に終えることができた。安堵感が全身を包む。

 

指定された座標へと向かう道中、俺は森丘の端から、眼下に広がる王都の全景を眺めた。

 

美しい白亜の街並みはもうどこにもない。

ところどころがコキュートスの手によって永久凍土のように氷漬けになり、巨大な建造物は瓦礫の山へと変わり果て、様々な無惨な壊れ方をしている。

そして、あれほど活気に溢れていた王都から、人間の気配がまるで見事に消え失せていた。

 

「……本当に、何もかも消し飛ばしたんだな」

 

魔導国の力を見せつける、完璧な蹂躙劇。

もし、あのザナック王子が王国の実権を早く握っていれば。もし、フィリップという愚か者がいなければ。

王国が少しでも判断を間違えなければ、属国として生き延びる道もあったはずなのに。

 

「……まぁ、俺が同情したところで、死んだ人間が生き返るわけでもないしな」

 

俺は死んだ魚の目を細め、静かに呟いた。

そんな感傷に浸っていると、俺の目の前の空間が歪み、漆黒の《ゲート》が開かれた。

 

俺は一度だけ王国を振り返り、そして、自分の居場所であるナザリック地下大墳墓へと続く闇の中へ、無言で足を踏み入れた。




7月もできる限り更新しますので、応援よろしくお願いいたします。

投稿した日に読んでくれている人を確認するとすごいうれしいです!

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
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