時間を少し遡る。
八幡からの報告を玉座で受けた後、私は自室の執務室へと戻り、一人重いため息を吐いた。
「……始原魔法、か。それにワールドアイテムのみが対抗できる、ね……」
八幡は今回も、極めて――恐ろしいほど重要な情報を持ち帰ってきた。
未知の脅威である世界最強の竜王。そしてユグドラシルの理(システム)とは異なる魔法体系。
(あぁ……どうやって対策すればいいんだ。いや、ダメだダメだ。私みたいな凡人が一人で考えたところで答えなんか出るわけがない。こういうのはアルベドやデミウルゴスが完璧な対策を考えてくれるだろうし、彼らに任せれば良いか)
私は早々に思考を放棄し、別の案件へと頭を切り替えた。
今後の、八幡の運用についてだ。
現在、彼は私の直属の副官として動いてもらっている。そのため、彼の処遇や任務について、アルベドやデミウルゴスに下手な相談ができない状態だ。
(彼らとはまた違った意味で優秀な彼を、どう動かすのがベストなのか……)
ふと、先日デミウルゴスから提出された報告書を思い出す。
属国となったバハルス帝国において、皇帝ジルクニフが国内で発行させている新聞に、「魔導国との法整備は完璧に進行中」「魔導国からの使者と親睦を深めた」といった記事が掲載されていた。
そして、アルベドから上がってきた帝国の法整備に関する報告書の末尾には、小さく『製作者:八幡』と書かれていたのだ。
(たぶん、あの面倒くさそうな法の整備を丸投げされて、しかもジルクニフと仲良くなったのは八幡なんだろうな。すごいコミュ力というか、なんというか……)
結果として、帝国国内には「魔導国と仲良くやっている」という良好な空気が流れている。デミウルゴスも「流石はアインズ様が直々に選ばれた副官。素晴らしい手腕です」とひどく喜んでいた。
(八幡は本当にすごいなぁ……)
それに引き換え、私はどうだろうか。
(あぁ……そろそろ私も休みが欲しい。アルベドやデミウルゴス、八幡みたいに国の運営とか法律の整備なんて、ただのサラリーマンだった鈴木悟にできるわけないよぉ……。どうやって仕事をバックれようかなぁ……仮病? アンデッドに病気はないしなぁ……)
現実逃避のプランを練っていると、ふとドアがノックされた。
メイドの交代時間だ。
「失礼いたします。アインズ様、本日の当番を務めさせていただきます、フォアです」
「ああ、よろしく頼む」
私は威厳を保ちつつフォアに視線を向け……ギョッとした。
(……目が、バキバキにキマっている……だと?)
彼女の目は異様に血走り、というより、何やら顔全体がガンギマリ状態だった。しかも、顔が茹でダコのように赤い。
「ふ、フォアよ。大丈夫か? どこか具合でも悪いのではないか?」
「はいっ! 大丈夫です! 全く問題ございません! むしろ絶好調です!」
「ど、どう見ても大丈夫じゃないだろう……」
私は内心で冷や汗を流した。過労か? ナザリックの労働環境はホワイトを目指しているはずだが。
私は彼女を落ち着かせるために、さりげない雑談を振ることにした。
「最近はどうだ? 困っていることはないか?」
「はい! 充実した日々を送らせていただいております!」
当たり障りのない会話を続けるうちに、私はふと思いつきで話題を変えた。
「ところで、フォア。ナザリック内に、その……気になる者、好意を寄せている相手などはいるのか?」
すると、フォアの顔がさらにボフッ! と音を立てそうなくらい真っ赤になった。
(おおっ、これはいるなぁ〜)
私は心の中でニヤけながら推測した。
(もしかして八幡かな? 前に彼女と話した時、やたらと八幡の話題が出た記憶があるし)
私は、わざとらしく探りを入れた。
「そういえば、八幡が帰還したそうだな。彼は相変わらず忙しそうだが……」
「ひゃうっ!?」
フォアが肩をビクンと跳ねさせ、激しく動揺した。
(フフフ……ビンゴだ。八幡と何か進展があったらしいな)
私は「至高の四十一人」としての威厳を柔らかく崩し、慈愛に満ちた声で語りかけた。
「フォアよ。隠さなくても良い。私には、お前たちメイドは我が子も同然。……お前の父親として、ぜひその話を聞かせてはくれないか?」
「お、お父様……! アインズ様……!」
フォアは感動に目を潤ませ、モジモジとしながら昨日の出来事を語り始めた。
「じ、実は昨日、八幡様のお部屋にお邪魔しまして……その、八幡様はベッドで横になっておられたのですが……私が近づくと、その、強く抱きしめられまして……! 私も、その……我慢できずに、胸に顔を埋めて……朝まで、ずっとその、熱い腕の中で……!」
(※注:この時、フォアの証言には『パンイチの寝込みを襲った』『自分から添い寝した』という都合の悪い事実は完全に伏せられており、70%の誇張と妄想がブレンドされていた)
「なっ……!?」
私は頭蓋骨の中の存在しない脳髄がフリーズするのを感じた。
『つまり、八幡とフォアは……大人の関係、というか、愛し合った、ということか……!』
だが、改めてフォアを見てみると、顔は真っ赤だが、そこには確かな「幸せに満ちた女の顔」があった。
(……そうか。これが、結婚する娘を見送る父親の気持ちか……)
私は何とも言えない感傷に浸った。
お相手は八幡。会社組織でいうところの「社長直属のエース社員」であり、役職持ちのエリートだ。
(良い男を選んだな、フォア……。社長として、社内恋愛からの結婚報告を聞くって、こんな感じなんだろうな)
私は温かい気持ちになりながらも、すぐに上司としての配慮(コンプライアンス)に思考を切り替えた。
(しかし、八幡も隅に置けないな。……だが、部屋でそういうことをするんなら、なるべくアイテム等を使って遮音するなり、結界を張るなりして音を消した方が良いだろうな。ナザリック内には耳が良い種族が多いし、若気の至りでそういう音を聞かれるのは、彼らも恥ずかしいだろうからな)
後で八幡に、セクハラと言われないよう細心の注意を払いながら、遠回しに注意喚起(アドバイス)をしてやらねば。
(それにしても……無粋ではあるが、少し気になるな)
私はゲーマーとしての好奇心を疼かせていた。
八幡の種族は確か、ユグドラシルでもかなりレアな『妖怪(アヤカシ)』系の異形種だったはずだ。そしてフォアは『ホムンクルス』。
(仮にその二人の間に子供ができたとしたら……システム的に、かなりレアな新種族が生まれるのではないか……?)
未知のデータに対するワクワク感が止まらない。
私は咳払いをして、優しくフォアに告げた。
「フォアよ。お前の気持ちはよく分かった。私がお前のことを、全面的にバックアップしよう」
「ほ、本当ですか、アインズ様!」
「ああ。……まずは、八幡をここに呼んできてくれないか? 彼と、少し『男同士の話』がしたい」
「はいっ! すぐに呼んでまいります!」
フォアは花が咲いたような笑顔で一礼し、執務室を飛び出していった。
私は玉座に深く寄りかかり、カタカタと顎の骨を鳴らして笑った。
「なんだよ八幡。私に相談してくれたって良かったじゃないか。まったく、隅に置けない奴だなぁ……」
心の中に温かいものが広がるのを感じながら、私はこれからやってくる「エース社員」にどんな祝福の言葉をかけてやろうかと、ほっこりとした気持ちで考えを巡らせていた。
挿絵のリクエストです。
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おまかせ
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八幡+シャルティア
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