指定された通り、俺はアインズ様の執務室の前に立ち、一つ深呼吸をしてから重い扉を開けた。
「失礼します、アインズ様。八幡です」
部屋に足を踏み入れて、すぐに違和感に気づく。
いつもなら部屋の四隅に控えているはずの護衛のアンデッドや、入り口付近で待機しているはずのメイドの姿が、影も形もないのだ。文字通りの無人。
俺は少し首を傾げ、執務机に座るアインズ様に尋ねた。
「あの、護衛やメイドはどうなされたんですか?」
「ああ。二人きりで話がしたくてな。外させてもらった」
アインズ様が、カタカタと顎の骨を鳴らしながら、どこか穏やかな声で返してくる。
(……まじでなんだ? 身に覚えがなさすぎる)
二人きりの密談。ミスをやらかした記憶はないが、それにしたって空気が妙に和やかだ。
(……厄介な潜入ミッションの次は、これまた厄介な特秘の暗殺任務とか、そういう新たな仕事か?)
俺は警戒レベルを一段階引き上げつつ、死んだ魚の目を微かに細めて答えた。
「わかりました。……それで、お話とはなんでしょう」
すると、アインズ様は立ち上がり、俺の肩をポンと軽く叩いて、とても温かな声で言った。
「まずは、おめでとう、と言おうか」
「……はい?」
俺の口から、間の抜けた声が漏れた。
「だが、水臭いじゃないか、八幡。……確かに、仕事の仲間とか上司には、色々と照れもあって言いづらい事かもしれない。だが、私とお前の仲だ。そういうことは、水面下で進めるのではなく、直接言ってくれると嬉しく思うぞ」
(…………マジでなんの事だ? 何を言ってるんだこの骸骨様は?)
脳内で警報がガンガン鳴り響く。
おめでとう? 上司には言いづらい事? 俺とお前の仲?
ダメだ、全く文脈が繋がらない。ブラック企業の社長が、突然ポエムを読み始めたような恐怖がある。
俺は引き攣りそうになる顔の筋肉を必死に抑え、恐る恐る質問した。
「えと……なんの事でしょうか?」
「フフ、大丈夫だ。そんなに誤魔化して隠さなくても良い。……心配せずとも、この事を知っているのは今のところ私だけだ。安心して良いぞ」
アインズ様は、まるで全てを見透かした『理解のある親』のようなオーラを放ちながら、優しく頷いてみせた。
(本当に何を言ってるんだ! なんの事かさっぱりわからん!)
俺が完全に思考の迷宮に放り込まれ、「えと、あの……」と答えに詰まってフリーズしていると、アインズ様は少しだけ窘めるようなトーンになった。
「だが、いくら気が急いていたとはいえ、部屋に鍵をかけないのはダメだぞ。……あと、これを使うと良い」
ドンッ! と。
アインズ様のインベントリから、立派な装飾が施された魔道具のようなものが、大量に俺の腕の中に押し付けられた。
「あの、これは……?」
「『完全遮音の結界石』に、『振動無効化のタペストリー』だ。ナザリックには耳の良い種族が多いからな。……気兼ねなく愛を育むためには、防音対策は必須だろう?」
(え? 部屋の事? なんで俺が鍵閉め忘れて寝落ちしたこと知ってんの? それになにこれ? 遮音のアイテム渡されたんですけど? え、愛を育む? 音を消す? ……どう言う事?)
頭の中の処理落ちが限界を迎え、煙が出そうになる。
だが、目の前の最高権力者が「お前のためを思って用意した」というオーラをビンビンに出している手前、突き返すわけにもいかない。
「あ、ありがとう、ございます……」
俺は完全にフリーズした頭のまま、引き攣った笑みでとりあえず礼を言った。
「うむ!」
アインズ様は満足そうに頷くと、少し申し訳なさそうに肩をすくめた。
「だが、申し訳ないが、今は魔導国も色々と忙しい時期でな。……本来なら、ナザリックを挙げて盛大にやりたいのだが、今はできない。すまないな」
「盛大に……?」
「ああ。だが、この大戦がひと段落したら、必ずお前たちのために宴をやると約束しよう。楽しみにしといてくれ。……これは、アインズ・ウール・ゴウンの名において約束しよう!」
力強く断言され、執務室の中に謎の感動的な空気が満ち溢れる。
俺は、腕いっぱいに抱えさせられた防音アイテムの重みを感じながら、遠い目をして虚空を見つめた。
(……俺、疲れて寝てる間に、時空(とき)を超えた? それとも、知らない間にどこかのパラレルワールドに迷い込んだか?)
もう、ツッコミを入れる気力すら湧いてこない。
俺は完全に諦めの境地に至り、死んだ魚の目を限界まで淀ませながら、ただ一言、弱々しく返すことしかできなかった。
「……はぁ……」
挿絵のリクエストです。
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おまかせ
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八幡+シャルティア
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八幡+アルベド
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八幡+デミウルゴス
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八幡+コキュートス
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八幡+アウラ
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八幡+マーレ
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八幡+アインズ様
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八幡+メイド達