ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、新任務

「……はぁ……」

 

俺が時空の歪みにでも囚われたような顔で脱力していると、アインズ様は「うむ、察してくれて嬉しいぞ」と満足げに頷き、ゴホンとわざとらしい咳払いを一つ挟んで、声をビジネス用のトーンへと切り替えた。

 

「それはそうと、八幡よ。お前に新たな任務を頼みたい」

 

(あ、よかった。いつもの業務命令だ。やっぱり仕事の話が一番落ち着くわ)

 

俺は脳内の混乱を強引にシャットダウンし、防音アイテムの束を小脇に抱え直して、真面目な顔で拝聴する姿勢をとった。

 

「今回の任務だが……近いうちに、エルフの国へ遠征を行う。その際、アウラとマーレを現地に連れて行くので、お前も二人に同行してほしい。主な役割は、いつも通り護衛と斥候だ」

 

「エルフの国、ですか」

 

「うむ。アウラとマーレに同種の友達を作ってやりたくてな、今回の遠征はかなり長期の任務になることが予想される。今のうちにナザリックで必要な物資や装備の準備を進めておくように」

 

「承知いたしました」

 

長期出張か。異世界のエルフの国がどんな環境かは知らないが、隠密特化ビルドの俺が斥候として駆り出されるのは妥当な人選だろう。

 

「それと、遠征の開始まではまだ少し期間がある。基本的にはそれまで休んでいて構わないのだが……一つ、モモンに扮しているパンドラズアクターから要請が入っていてな」

 

アインズ様は少し苦笑するような気配を見せた。

 

「魔導国における『新たな冒険者』の育成計画の一環として、お前の知恵を借りたいらしい。午前中か午後のどちらか、お前の都合の良い時間だけで構わん。エ・ランテルの冒険者組合(ギルド)に顔を出して、新人の指導や育成を少し手伝ってやってくれ」

 

「冒険者の育成、ですか。分かりました」

 

完全な有給消化とはいかなかったが、要するに「一日のうち数時間だけ現場に顔を出せばいい」という、いわゆる拘束時間の極めて少ないフレックスタイム制のようなものだ。ブラック労働が基本のナザリックにおいて、この待遇は決して悪くない。

 

(午前中に適当に仕事を終わらせて、午後はエ・ランテルの美味い飯屋探しに洒落込もうかね)

 

そんなささやかなサボり計画を胸に、俺はアインズ様の執務室を退室した。

 

自室に戻った俺は、アインズ様から手渡された大量の防音アイテムを机の上にドサリと適当に置き、今度はこれでもかと言うほど厳重に部屋の鍵を閉めた。

 

ベッドに大の字になって寝転び、天井を見つめながら、先ほど命じられた『エルフの国』への遠征について考える。

 

(アインズ様は、アウラとマーレに同種の友達を作ってやりたい、なんて仰っていたが……本当にそれだけの理由か?)

 

いや、あの深謀遠慮の塊である魔導王が、そんな個人的な情だけで動くはずがない。絶対に何か、その裏に巨大な戦略的意図があるはずだ。

 

(……待てよ。エルフの国の近隣には、確かスレイン法国があったはずだな)

 

俺はナザリックで閲覧した周辺地図を脳内で引き出した。

スレイン法国。人間至上主義を掲げる、この世界の人類国家の最高峰。

法国といえば、つい数時間前に王都の安宿で一触即発になった、あの『漆黒聖典』の不審者集団が頭に浮かぶ。

 

ナザリックは世界征服を掲げて動いているが、あのスレイン法国に関しては、未だに全貌を掴みきれていない未確認の情報が多すぎる。アインズ様は、エルフの国を隠れ蓑にして、法国の戦力を削る、あるいはその奥にある何かを狙っているのだろうか。

 

「……ま、俺が考えたところでアインズ様の神算鬼謀(一万年先までの計画)が理解できるわけないしな」

 

俺は考えるのを放棄し、深くため息を吐いて布団を被った。

副官(サラリーマン)の鉄則は、上司の意図を深追いしすぎないことだ。俺は与えられた護衛と斥候の職務に全力を注ぎ、二人の子供(レベル100の怪物だが)を無事に守り切ればそれでいい。

 

俺は静かに目を閉じ、心地よい眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

――スレイン法国・聖都カミヤコ。

 

人類の最守護国家の中心に位置する最高会議場には、窓から差し込む厳かな光の中、国の命運を握るお偉いさんたちが一堂に会していた。

 

最高指導者である最高神官長を筆頭に、スレイン法国を統べる六大神官長――光神官長イヴォン・ジャスナ・ドラクロワ、火神官長ベレニス・ナグア・サンティニ、風神官長ドミニク・イーレ・パルトゥーシュ、土神官長レイモン・ザーグ・ローランサン、水神官長ジネディーヌ・デラン・グェルフィ、闇神官長マクシミリアン・オレイオ・ラギエ。彼らの顔は、かつてないほどの緊張に満ちていた。

 

その中央で、王都での極秘会談から帰還した『漆黒聖典』の交渉役――金髪の優男が、冷や汗を流しながら報告を終えた。

 

沈黙を破り、元・漆黒聖典の席次持ちであり、現在は土神官長のレイモンが、低い声で問いかけた。

 

「……それでは、クアイエッセ。その『静寂のハチ』という人物は、もしかしたら……我が国と同じく、プレイヤーの血を引く『神人(しんじん)』かもしれないのだな?」

 

金髪の優男――クアイエッセは、生唾を飲み込んで深く頷いた。

 

「間違いありません。何より私が驚愕したのは、彼の異常なまでの隠密能力です。第十二席次(天上天下)の不可視化による潜伏を完璧に見破ったどころか、我々を含めた漆黒聖典の誰も、直前まで彼の接近にすら気づけなかったのです。まるで虚空から突如として現れたかのように……。それに、あの瞬間に放たれた冷徹な殺気。ヘタをすると、あの番外席次と同格……あるいはそれ以上かもしれません」

 

クアイエッセの証言に、円卓を囲む神官長たちの間に一気に激しい動揺が走った。

 

「そんな馬鹿な……!」

 

「王国のアダマンタイト級の裏に、それほどの怪物が潜んでいたというのか!?」

 

「神人の血統は我が国で厳重に管理されているはず。どこから漏れたのだ!」

 

ざわつく老人たちを片手で制し、闇神官長のマクシミリアンが鋭い目を向けた。

 

「その静寂のハチとやらは、本当に人間なのか? 悪魔や亜人の類が化けている可能性は?」

 

「見た目は完全に人間でした」

 

クアイエッセは思い返すように答える。

 

「悪魔の可能性は低いかと。……これは第十席次(人間最強)の言葉ではありますが、『奴の気配には確かに人間の泥臭い匂いが混じっている』とのことでした」

 

「漆黒のモモンに続いて、今度は静寂のハチか……」

 

最高神官長が痛ましげに、深く息を吐き出した。

 

「魔導国という未曾有の化け物に対抗するため、人類の最高戦力は一人でも多く確保せねばならん。クアイエッセよ、その男を我が国に引き込めそうか?」

 

「……それは、非常に難しいかと」

 

クアイエッセは苦笑交じりに肩をすくめた。

 

「私が法国への亡命を誘った際、彼は私の存在そのものを完全に『ガン無視』していましたから。何より、青の薔薇のラキュースが、彼を自分の『婚約者』だと宣言しました。あの様子では、王国と運命を共にする可能性が高いかと……」

 

「惜しいな……。人類の至宝とも言える戦力が、あの亡国と共に消え去るというのか……」

 

重苦しい空気の中、今後のエルフ国戦線の維持、そして魔導国への警戒体制についての議論が続き、やがて最高会議は終幕を迎えた。

 

会議が終わり、長大な石造りの廊下を一人で歩いていたクアイエッセは、ふと背後に「冷たい気配」を感じて足を止めた。

 

「ねぇ、クゥちゃん」

 

「ひゃっ……!?」

 

クアイエッセは情けない声を上げて飛び退いた。

 

いつの間にそこにいたのか。特徴的な長い前髪を揺らし、左右で色が異なるオッドアイの瞳をした小柄な少女――スレイン法国の最終兵器にして、漆黒聖典・番外席次である『絶死絶命』こと、アンティリーネ・ヘラン・フーシェが、巨大なデス・サイズを弄びながらそこに立っていた。

 

「ば、番外席次……。驚かせないでください、心臓に悪いです……」

 

冷や汗を流すクアイエッセを無視し、アンティリーネは虚ろな、しかし異様な熱を帯びた瞳で彼を見つめた。

 

「さっきの会議の話、盗み聞きしちゃった。……ねぇ、その『静寂のハチ』って人。……私より強いと思う?」

 

クアイエッセの背筋に、極大の戦慄が走った。質問の答えを間違えれば、この気まぐれな怪物にその場で首を跳ね飛ばされかねない。彼は言葉を慎重に選びながら、必死に答えた。

 

「そ、それは……私の口からでは何とも申し上げられません。ただ、彼は純粋な暗殺者(アサシン)です。遮蔽物のない平原で、真正面からぶつかり合うのであれば、圧倒的にあなたに軍配が上がるでしょう。……ただ」

 

「ただ……何?」

 

「……もしそれが夜だったり、影の濃い暗い場所であれば、そこは完全に『向こうのフィールド』です。不意の一撃で急所を穿たれるようなことがあれば……もしかしたら、あり得るかもしれませんよ。あなたが、敗北するということが」

 

クアイエッセの決死の言葉を聞いた瞬間、アンティリーネの顔に、ゾクリとするような歪んだ笑みが浮かんだ。

 

「フフ……フフフフッ……!」

 

彼女は細い指で、自身の平坦なお腹を愛おしそうにゆっくりとさすりながら、薄気味悪い歓喜の笑い声を吐き出した。

 

「あなたがそう言うんであれば、本当にそうなのかもねぇ……。私を負かしてくれる、私を汚してくれる存在……あはは、楽しみだわぁ。……もしかしたら、私の『番(つがい)』として、これ以上なく相応しいかもしれない……」

 

彼女が望むのは、自分より強い子供を産むこと。

王国の影に潜む、漆黒聖典すら手玉に取ったという最強の暗殺者。その存在は、退屈に狂いかけていた彼女の闘争本能と生殖本能を、最悪の形で刺激してしまった。

 

「……あ、あの、番外席次?」

 

クアイエッセが恐怖のあまり声をかける。

 

ハッと我に返り、彼がもう一度正面を振り返った時――そこには、すでに番外席次の姿は影も形もなかった。ただ、廊下の奥へと消えていく、不気味な笑い声の残響だけが、冷たく響いていた。




あの神官たちのオジオバは存在感薄くて誰がどれだっけっていつもなってしまう…

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
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