ーーー女戦士の場合ーーー
「戦って直接身体で教えてくれよ!」
私は大剣を構え、目の前の冴えない男――ハチと名乗る臨時教官に向かって、挑発的に笑いかけた。
心臓がトクトクと高鳴る。私はこのエ・ランテルの若手の中でも、腕っぷしには相当な自信があった。あの偉大な漆黒の英雄モモン様に憧れ、重い大剣を我が身の一部のように振り回してきたのだ。
対するハチは、細身で猫背、何よりあの死んだ魚のような目が、どう見てもそこらの腑抜けた男にしか見えなかった。木の棒一本で私を相手にするなんて、舐められたものだと本気で怒りが湧いていた。
「はああああっ!」
地を蹴り、自慢の質量を乗せて大剣を振り下ろす。一撃でその生意気な棒切れごと叩き潰してやる――そう思った。
だが、次の瞬間、私の視界から彼の姿が「消えた」。
(……え!?)
大剣が虚しく空を切った慣性で、私の体が一瞬泳ぐ。その無防備になった私の、ビキニアーマーから露出したお腹の肌に、ひんやりとした木の棒の先端がピトッ……と触れた。
「よかったな。これがナイフだったら、お前は今ので確実に死んでいたぞ」
耳元で、冷徹で抑揚のない声が響いた。鳥肌が全身に立つ。
「クソッ!」と叫んで強引に大剣を振り回したけれど、彼はまるで私の動きのすべてを知り尽くしているかのように、風をすり抜けるように私の死角へと滑り込んでくる。武技も魔法も使っていない、純粋な肉体の速度と、完璧な重心移動。その美しさに、戦っている最中だというのに見惚れそうになった。
ペチン、ペチン。
木の棒の先端が、私の無防備な太ももの内側や、脇腹の柔らかい肌を容赦なく叩く。痛い、はずなのに。叩かれた場所からじわじわと熱が広がり、脳が痺れるような感覚に襲われた。
「あ、あんっ!? や、やだっ……当たらない……っ!」
防ぎようのない圧倒的な力の差。大剣を杖代わりにしなければ立てないほど息を切らした私を見下ろす彼の目は、相変わらず冷たく、そして酷く男らしかった。
その後、パーティーで挑んでも結果は同じだった。蹂躙され、床に突っ伏した私は、「くっ……殺せ!」と叫ぶのが精一杯だった。
でも、本当は。
差し出された彼の骨張った、男らしい手をギュッと握りしめた時、私の体の中の「女」としての本能が、激しく疼いていた。
これまでどんな男にも負けなかった私が、木の棒一本で、素の肉体だけで完璧に調教されてしまったのだ。彼に触れられた場所が、今もカァッと熱を持って疼いている。
「アンタ……本当に強いな……。女の子をこんなんにしたんだ、責任、とってくれよ?」
引き離された手の温もりを惜しむように、私は彼が去っていく背中を、潤んだ瞳で見つめ続けた。あの圧倒的な強者の前に、もう一度ひれ伏したい。今度は木の棒なんかじゃなく、あの強い腕で、壊されるくらいに抱きしめられたいと、本能が彼を激しく求めていた。
ーーー女魔法使いの場合ーーー
私は、パーティーの後方で杖を握りしめながら、ガタガタと震えていた。
仲間がたった一人で子供のようにあしらわれ、今度は私たちのパーティー全員で挑むことになったのだ。私は回復職(ヒーラー)として、絶対に前衛を死なせてはならないと、必死に呪文を唱える準備をしていた。
(大丈夫、前衛の二人が壁になってくれれば、後ろの私までは届かないはず……)
そう自分に言い聞かせた、次の瞬間だった。
瞬きをした一瞬の隙に、前衛の二人の間をすり抜けたハチ教官が、文字通り「音もなく」私の真後ろに現れたのだ。風の音すら、足音すら、呼吸の乱れすら本当になかった。
「……回復役は、常に周りに気を張ってろ」
鼓膜に直接吹き込まれるような、低くて、少し掠れた男の吐息。
「はぅ……っ!?」と、喉の奥から情けない声が出た。心臓が爆発しそうに跳ね上がる。
驚いて振り返ろうとした私の背中に、彼の持つ木の棒の先端が当てられた。そして、薄い絹の衣の上から、首筋から背骨に沿って、腰のくびれへと「スーッ……」と、まるで愛撫するように優しく、だけど逆らえない力でなぞり滑らされた。
「アッ……あんっ……はぁっ、んあぁっ……!」
頭のてっぺんから爪先まで、凄まじい快感と戦慄が突き抜けた。
背骨を直接触られたようなゾクゾクとする刺激に、私の頭の中は真っ白になり、全身の骨が溶けてしまったかのように力が抜けた。恥ずかしい声を漏らしながら、私は床に崩れ落ち、そのままペタンと腰を抜かしてしまった。
(なに……これ……。私、どうしちゃったの……?)
床にへたり込んだまま、ハチ教官が他のメンバーを無慈悲に、だけど完璧に叩きのめしていく姿を、私は熱い吐息を漏らしながら見上げていた。
いつもなら、男の人にこんな風にされるのは怖いはずなのに。木の棒でなぞられた背中が、ズキズキと甘く疼いて、もっと激しく、もっと痛く叩かれたいという悍ましい欲求が、胸の奥から溢れてくる。
「ヒーラー、お前はさっきも言った通り背後の警戒がザルだ」
冷淡に私の弱点を指摘する彼の瞳を見て、私は完全に自覚してしまった。
私は、この冷たい魚のような目をした教官に、徹底的に支配されたいのだと。彼の木の棒が私の肌を叩くたび、私は彼に屈服する極上の快感(Mっ気)に溺れてしまっていた。
彼が去った後も、私は乱れた服の胸元を自分でギュッと掴みながら、ハァハァと狂おしい吐息を漏らし続けていた。
ーーー女弓兵の場合ーーー
私は、訓練場の隅で弓を構えながら、最初からハチ教官の姿だけを凝視していた。
世間の女の子たちは、みんな『漆黒の英雄』モモン様のような、おとぎ話に出てくるような堂々とした白馬の騎士に憧れる。でも、私の好みは全然違った。ちょっと陰があって、世の中に退屈していて、何を考えているか分からないような男の人が、昔からたまらなく好きだったのだ。
だから、ハチ教官が訓練場に入ってきた瞬間、私の心臓は一目惚れの鐘を大音量で鳴らしていた。
(……ストライク。めちゃくちゃカッコいい……!)
あの、寝起きなのか、あるいは世の中のすべてがどうでもいいのか、気怠げに細められた「死んだ魚の目」。ボサボサだけどどこか色気のある黒髪。姿勢が悪くて猫背なのに、歩く姿は驚くほど滑らかで美しい。私にとっては、モモン様よりも何倍も魅力的な「ド直球の美男子」だった。
そんな彼が、大剣を振り回すギガを木の棒一本で、まるでダンスでも踊るかのように軽やかに翻弄し始めた時、私の胸は完全に打ち抜かれた。
(あ、ずるい……。あんなに気怠げなのに、戦う瞬間だけ、あの死んだ魚の目がギチッと鋭くなるなんて、反則すぎる……!)
ギャップ。そう、最強のギャップ萌えだ。
普段はやる気なさそうにベンチに座っているのに、いざ動けば誰も触れることすらできない圧倒的な強者。木の棒で女の子たちをペチペチと叩きながら、気まずそうに目を逸らすあの不器用な表情さえ、私の目には愛おしくてたまらないものに映っていた。
私も自分のパーティーで彼に挑んだけれど、私の放った矢はすべて木の棒のわずかな動きで叩き落とされ、気づけば私の顎の下に木の棒の先端が添えられていた。
間近で見る彼の顔、彼の匂い、そして冷たい視線。
「間合いを詰められた時の対処を考えておけ」
「……っ、はい……っ」
顔が火を噴くかと思うくらい赤くなり、私は弓を落としてその場にへたり込んでしまった。
終わった頃には、訓練場の中は彼の力に、そして彼の色気に骨抜きにされた女の子たちの甘い吐息で満ちていた。みんな口々に「責任とって」とか「ハマっちゃった」とか言っている。
(渡さない。絶対にあの教官を私のものにしてみせる……!)
私は、胸の高鳴りを抑えきれないまま、彼がそそくさと逃げるように去っていった扉を見つめ、彼という「本物」の男を追いかける決意を固く固く、胸に誓うのだった。
挿絵のリクエストです。
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