ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、闇に触れる2

廃墟の中は、外観以上に静まり返っていた。

俺はスキルを使い、自分の存在感を極限まで希釈する。アサシンやニンジャといった職業(クラス)は、こういう場面でこそ真価を発揮する。足音ひとつ立てず、影から影へと滑るように移動し、内部を偵察していく。

地上階は、埃を被ったガラクタが散乱しているだけの、ただの廃墟だ。だが、俺の鼻を刺激する甘い薬品と血の匂いは、明らかにこの建物の、もっと深い場所から漂ってきていた。

 

 

案の定、一番奥の部屋で、地下へと続く石の階段を発見した。

匂いの発生源はここだ。

俺は壁に張り付くようにして、慎重に階段を下りていく。地下は、地上とは打って変わって、人の手が入っているようだった。等間隔に松明が焚かれ、薄気味悪いオレンジ色の光が、長く続く通路を照らしている。

 

 

通路の途中、いくつかの鉄格子の嵌まった扉があった。牢獄だろう。中は空だったが、床には黒ずんだ染みがこびりついている。おそらく、ここが失踪した住民たちの、最初の収容場所だったに違いない。

一番奥の、ひときわ大きな扉の前まで来ると、中から複数の人間の話し声と、微かな呻き声が聞こえてきた。

俺は扉の隙間にそっと目を当て、中の様子を窺う。

 

 

その光景は、まさしく地獄の一端を切り取ったかのようだった。

 

 

広間の中心には、巨大な石の台座。その上には、手足を拘束された男が一人、ぐったりと横たわっていた。意識はないようだ。

そして、その台座を取り囲むように、五人の人物が立っていた。全員が、顔を深く隠すフード付きの黒いローブを身に纏っている。彼らは、何かの儀式を行っているようだった。

 

「……『揺り籠』への適合率は30パーセント。これならば、次の段階へ進めるぞ」

 

「教主様も、お喜びになるだろう」

 

「早くしろ。薬品の効果が切れる前に、魂の選別を終えるのだ」

 

 

ローブの男の一人が、紫色の液体が入った注射器を、台座の男の首筋に突き立てる。男の身体がビクンと痙攣し、口から意味をなさない呻き声が漏れた。

彼らは、失踪した貧民街の住民を実験体(モルモット)として、何か非人道的な実験を繰り返しているのだ。失踪事件の真相は、このカルト教団による計画的な拉致だった。

俺は、ローブの背中に、廃墟の入り口で見たのと同じ『螺旋と三つの点の紋様』が描かれているのを、見逃さなかった。

 

 

さて、どうするか。

デミウルゴスからの任務は、『真相の究明』と『組織の特定』。目的は、今この瞬間、達成された。このまま引き返し、報告すれば、任務は完了だ。

それが最も安全で、確実で、何より面倒のない選択肢だ。

 

 

(……だが)

 

 

俺の奉仕部で培われた、あるいは生まれつきの、面倒事を中途半端に終わらせるのを嫌う性分が、警鐘を鳴らしていた。

ここで終わりじゃ、報告書の内容が薄っぺらすぎる。組織の名前も、規模も、最終的な目的も分からないままでは、根本的な解決にはならない。

どうせやるなら、完璧に。それが、俺のやり方だ。

 

 

俺は儀式の部屋から静かに離れ、さらに奥へと続く通路へと足を進めた。

この地下施設には、まだ他の部屋があるはずだ。リーダー格の人間がいる部屋か、あるいは計画に関する情報が保管されている部屋が。

 

 

幸運にも、一番奥の突き当たりに、鍵のかかっていない小さな部屋を見つけた。

中は書斎のようになっており、机の上には、大量の羊皮紙と、帝国の詳細な地図が広げられていた。

俺は音もなく部屋に侵入し、机の上の書類に素早く目を通していく。

 

 

羊皮紙に記されていたのは、おぞましい実験の記録だった。

 

『被験体No.23、ネガティブエナジーの過剰投与により肉体が崩壊』

『被験体No.24、精神汚染に耐えきれず発狂。処理』

 

そこには、アンデッド化の非人道的な実験の過程が、詳細に、そして淡々と記録されていた。

 

 

次に、地図に目をやる。

この廃墟のある『泥濘』地区に、大きな×印がつけられている。そして、それ以外にも、帝都の貴族街や商業地区の数カ所に、小さな印がつけられていた。

他にもアジトが存在するのか。あるいは、協力者がいる場所か。

 

そして、俺はいくつかの書類の中で、頻繁に出てくる一つの名前に気づいた。

それは、バハルス帝国でも指折りの権力を持つ、とある大貴族の名前だった。

この、死を弄ぶ非道なカルト教団は、帝国の権力中枢と、繋がりを持っている。

 

「……思ったより、根が深そうだな」

 

 

フードの下で、俺は小さく呟いた。

これは、単なる貧民街の失踪事件などではない。帝国の体制そのものを揺るがしかねない、巨大な陰謀の一端だ。

 

十分な情報を得たと判断した俺は、来た時と同じように、誰にも気づかれることなく地下施設を後にした。

廃墟の外の、薄汚れた路地裏の空気が、これほど新鮮に感じたことはなかった。

 

 

「こりゃ、面倒なことになってきた」

 

 

俺は、懐に仕舞い込んだ実験記録の羊皮紙の一部を指でなぞりながら、独りごちた。

まずは、この情報をナザリックに持ち帰り、デミウルゴス……いや、アインズ様に報告し、次の指示を仰ぐ必要がある。

 

俺は、『泥濘』の闇に再び紛れるようにして、その場を静かに立ち去った。

帝都の夜は、俺が思うよりも、ずっと暗く、そして深い闇を隠しているようだった。

挿絵のリクエストです。

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  • 八幡+シャルティア
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  • 八幡+マーレ
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