俺が王都で拉致監禁と尋問を行い、アウラがアンクルウルサス・ロードを調教し、拠点側の俺たちが村に入るまでの期間。
それを村人視点で言えば、アウラがたった一人で巨大催眠蛇を追い払った三日後にあたる。
村では朝から少しした騒ぎになっていた。
アウラが事前に話していた「旅をしている叔父と弟」がやって来るというのだ。村人からすれば、あの巨大魔獣を追い払った凄腕の少女の『叔父』とは、どれほどの人物なのかという警戒と興味が入り混じっていた。
そこへ、変装したアインズ様とマーレが姿を現した。
アウラは設定通り、満面の笑顔で駆け寄った。
「叔父さん!」
アインズ様も、魔導王としての威厳が出すぎないように、少し声を低くして返した。
「ああ。アウラ、世話になったようだな」
そして、後ろに控えるマーレを手で示す。
「こっちは弟のマーレだ」
村中の視線がマーレへと集まった。同じダークエルフでありながら、アウラとは対照的に気弱そうな少年。
マーレは村人たちの視線に耐えきれず、オドオドと視線を彷徨わせた。
「こ、こんにちは……」
言いながら、アウラの背後へ半分隠れてしまう。
「ほらマーレ。大丈夫だから」
アウラが自然に手を引く。姉らしい振る舞いだ。
この場に、俺の姿はない。
正確には――見えないだけだ。
村外の巨大な木の上から、《隠密化》と《千里眼》を使ってその一部始終を見守っていた。
(……頑張れ、弟)
本人に聞かれたら絶対に言わないが、俺は少しだけ兄貴目線で応援していた。
アインズ様は長老会へ通され、『アイン・ベル・フィオール』という旅商人を名乗った。
顔の不自然さを隠すための装いをし、アウラを受け入れてくれた礼として、ドワーフ製の見事な金属器などを贈る。
村側はその価値にかなり恐縮していた。
問題は、ここからだった。
長老の一人が、アウラの活躍を称えるため、ダークエルフ特有の『植物を用いた比喩』を使って挨拶をした。
アインズ様は(なるほど。ダークエルフは植物を用いた比喩を礼儀として使うのか)と見事に誤解した。
そして、持ち前の記憶力とハッタリをフル稼働させ、『異様に凝った植物比喩を詰め込んだ超高度な挨拶』を返してしまったのだ。
俺は木の上から、村人たちの表情を観察していた。
《腐った目》を使うまでもない、ただの人間観察だ。
長老たちは笑顔で頷いている。
だが、視線が泳ぎ、誰とも目を合わせようとしない。
若者たちも、アインズ様との会話を避けるように少し距離を取っている。
敵意ではない。恐怖とも違う。
(……あれ?)
俺はその空気に、強烈な既視感を覚えた。
(これ……『何言ってんのか全然分かんないけど、知らないって言えなくて分かったふりして逃げてる時の顔』じゃねぇか?)
日本の会議室で、意識高い系の横文字専門用語を並べ立てられた時、誰も理解していないのに「なるほど、アグリーですね」と知ったかぶりで頷いている時のあの空気。それと完全に一致していた。俺も経験がある。
一方、アインズ様の内面は猛烈に焦っていた。
(何故誰も話しかけてこない……!? 私が何か失礼な表現をしたのか? それとも正体がバレたのか!?)
だが、骸骨の表情は変わらない。沈黙が続く。
俺は《伝言》を飛ばした。
『アインズ様』
『なんだ八幡?』
『たぶんですが、あいつらアインズ様の礼儀作法を全く理解できてません』
沈黙。
『……どういう意味だ?』
『「知らない」と言ったら恥ずかしいから、分かったふりして逃げてるだけです』
さらに沈黙。
『……本当か?』
『俺も昔、よくやってた顔なので、たぶん間違いないです』
アインズ様(鈴木悟)の内部で、(八幡! いてくれてよかったぁぁぁ!)という絶叫が響き渡ったのを感じたが、もちろん口には出されなかった。
すいません、今月は頻度少なめになります。
挿絵のリクエストです。
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おまかせ
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