ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、闇に触れる5

路地の闇に一人残り、俺は息を整えた。

手に入れた情報は、あまりにも重い。帝国の有力貴族が関与する、非道な人体実験。これは、俺が当初想像していたよりも、遥かに根深く、悪質な『病巣』だ。

 

 

俺はすぐにその場を離れ、安全な宿の一室に戻ると、間髪入れずにナザリックへと《メッセージ》を送った。

報告すべき相手は、もちろんデミウルゴス。面倒事の元締めだ。

 

『―――ほう。それはまた、見事な釣果ですな』

 

俺が、末端の協力者から引き出した情報の全てを伝えると、デミウルゴスは心の底から楽しんでいる、と分かる声で言った。

その声には、俺の働きへの賞賛と、これから始まるであろう新たな謀略への期待が、色濃く滲んでいた。まるで、面白いオモチャを見つけた子供のようだ。そのオモチャが俺じゃなければ、もう少し客観的に感心できたかもしれないが。

 

 

『その情報、即刻アインズ様にご報告いたします。素晴らしい働きです、八幡殿。我が主も、必ずやお喜びになるでしょう。……指示を、お待ちください』

 

 

通信が切れる。

俺は、ただ静かに、ナザリックという絶対的な司令塔からの次の命令を待った。

俺の役割は、情報を集め、それを上に送ること。その情報が、彼らの盤上でどのように使われるのか。それを決めるのは、俺ではない。俺はただの駒。チェスで言えば、敵陣の奥深くに送り込まれた、使い捨てのポーンみたいなもんだ。まあ、ポーンは敵陣の最奥にたどり着けばクイーンにだってなれるらしいが、俺の場合はたどり着いた瞬間、盤上から取り除かれるのがオチだろうな。

 

 

 

【ナザリック地下大墳墓 アインズの執務室】

 

 

デミウルゴスから八幡の最新報告を受けたアインズは、玉座にて深く腕を組んでいた。

彼の内なる鈴木悟は、エリオン伯爵という権力者の腐敗と、教団の非道な目的に対する強い怒りを感じていたが、それ以上に、八幡のその鮮やかな手腕に感嘆していた。

 

 

(……すごいな、彼は)

 

 

暴力に頼らず、対象の心理的な弱点を突き、恐怖を植え付けることで、完璧な形で情報を引き出す。それは、ユグドラシルの戦闘では決して評価されることのなかった、しかし、現実世界の情報戦においては、何よりも強力な武器だ。

友、スーラータンが創り出したキャラクターは、ゲームの世界を飛び出し、この異世界で、唯一無二の価値を持つ存在へと昇華しつつあった。

 

「―――アインズ様」

 

デミウルゴスが、恭しく口を開いた。

 

「今回の件、我らにとって絶好の機会かと。三日後の『供給』、これを利用しない手はございません」

 

「うむ。お前の考えを聞こう」

 

「はっ。八幡殿には、その『供給』が行われる夜、エリオン伯爵の屋敷へ潜入していただきます。目的は、屋敷地下に存在するであろう研究施設の全容解明、教団幹部と伯爵の直接的な繋がりの証拠確保、そして、敵戦力の詳細な査定。これらを、一切の戦闘行動なしに、完遂させます」

 

 

傍らに控えていたアルベドも、同意するように頷いた。

 

「帝国の腐敗した貴族の証拠……。それは、いずれ我らが帝国を支配下に置く際、これ以上なく有効な『武器』となりましょう。ジルクニフという若き皇帝を、より御しやすくするための、最高の首輪にも」

 

 

二人の完璧な守護者の進言に、アインズはもはや鈴木悟としての感傷を挟む余地はなかった。支配者として、最も合理的で、最もナザリックの利益となる選択肢は、一つしかない。

 

「……よかろう。その作戦を承認する。八幡に、新たな任務を伝えよ」

 

アインズは、威厳に満ちた声で告げた。

 

「ただし、重ねて言う。彼の安全を最優先とせよ。万が一、彼の身に危険が迫った場合は、任務の破棄を許可する。ナザリックの至宝を、つまらぬ駒と相打ちにさせることなど、私が許さん」

 

「「はっ!!」」

 

デミウルゴスとアルベドは、主君の深き慈悲に、深く、深く、頭を垂れた。

 

 

 

再び、帝都の安宿。

俺は、デミウルゴスから下された新たな指令を、静かに受け止めていた。

エリオン伯爵邸への、単独潜入。

目的は、戦闘ではなく、完全なる隠密偵察。

 

「……まあ、そうなるよな」

 

俺はもはや、ため息すら出なかった。俺の人生は、難易度設定がおかしいバグゲーみたいなもんだ。簡単なサブクエストだと思って受けたら、いつの間にか世界の命運を賭けたメインシナリオに強制参加させられている。セーブもできなければ、リセットボタンもない。とんだクソゲーだ。

 

 

俺に残された時間は、三日間。

その全てを、準備と計画に費やす。リア充がデートプランを練るような熱心さで、俺は潜入計画を練り上げていく。やってることは、月とスッポン、光と闇くらい違うが。

 

 

昼間、俺はワーカー『ハチ』として貴族街の周辺をうろついた。

エリオン伯爵邸の壮麗な屋敷を遠目に眺める。高い塀、警備兵の数、彼らの交代時間、巡回ルート。

 

(リア充どもの巣窟かよ。こういう奴らが、何も知らずに平和な日常を享受している裏で、俺みたいな日陰者が面倒事を処理する。世の中、うまくできすぎだろ。いや、俺がやらなくても、結局誰かがやるのか。社会の歯車ってのは、俺みたいな歪んだ形のやつも必要なんだとすれば、それはそれで救いがねえな)

 

 

俺は、ただの通行人を装い、その全てを脳裏に焼き付けていく。

夜になれば、スキル《千里眼》を使い、遠く離れた建物の屋上から、屋敷の夜間の警備体制を分析した。

明かりの灯る窓の位置、夜間の巡回兵の数、そして、屋敷のどこに死角が存在するのか。

 

 

計画は、二日目の夜には、ほぼ固まっていた。

三日後の夜、『供給』を運ぶ荷馬車が、屋敷の裏口に到着する。警備兵たちの意識は、その『荷物』の搬入に一瞬だけ集中するだろう。

その、ほんの数秒の隙。

俺は、その隙を突き、彼らが最も警戒していないであろう、屋敷の三階、使用人用の小さな窓から侵入する。完璧なプランだ。まあ、こういう完璧なプランほど、現場では想定外のトラブルが起きるのがお約束なんだが。

 

 

そして、決行の夜が来た。

俺は、夜の闇に溶け込むような黒衣を纏い、とある建物の屋根の上で、息を殺していた。

眼下には、ランタンの灯りが点々と灯る、静寂に包まれたエリオン伯爵邸が広がっている。

冷たい夜風が、俺の頬を撫でていく。

 

 

やがて、遠くから車輪の音が聞こえてきた。

目標の、荷馬車だ。

幌で覆われた、何の変哲もない荷馬車が、音を忍ばせるようにして、屋敷の裏口へと近づいていく。

裏口が、内側から静かに開かれた。

 

「……ショータイム、ねぇ」

 

俺は、誰に聞かせるともなく、皮肉を込めて呟いた。

 

「主役は俺じゃなく、あの荷馬車の中身だろうがな。俺は、舞台の隅でこそこそするだけの、ただの舞台装置(大道具)係だ。まあ、そっちの方が、よっぽど性に合ってる」

 

 

そう独りごちると、俺は主役たちに気づかれぬよう、猫のように静かに、舞台の袖ならぬ闇の中へと身を躍らせた。

これから始まるのは、奉仕活動などではない。

ナザリックの刃として、帝国の闇を切り裂くための、静かなる戦争だ。……いや、戦争なんて大層なもんじゃない。面倒な仕事、ただそれだけだ。

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
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