俺の申し出に対し、玉座のアインズはしばし沈黙した。
その空の眼窩で何を考えているのか、俺には到底窺い知れない。やがて、彼は重々しく口を開いた。
「……仕事、か。その心意気は賞賛に値する、比企谷八幡。だが、その前に確認せねばならぬことがある」
「確認、ですか?」
「うむ。お前が何者で、どれほどの力を持つのか。我々も、そして何よりお前自身がそれを把握する必要がある。スーラータンの創りしNPCだ、何か特別な力を持っているに違いない」
アインズはそう言うと、玉座から立ち上がった。
「第六階層へ行く。そこで、お前の性能(スペック)を見せてもらおう」
第六階層『大森林』。
転移門を抜けた先には、満点の星空が輝く夜の森が広がっていた。ナザリックの階層の一つが、これほど広大なフィールドになっているとは。ゲームの常識を遥かに超えたスケールに、俺はただ圧倒される。
アインズの傍らには、いつの間にかアルベドと、燕尾服を着た悪魔のような男――デミウルゴスが控えていた。どちらも俺を値踏みするような、鋭い視線を向けている。特にデミウルゴスとかいう男の目は、俺の腐った目とは違う種類の、底知れない昏い光を宿していた。絶対に敵に回したくないタイプだ。
「さて、八幡。まずは改めて、お前のステータスを見せてみろ。スキルや特性など、可能な限り詳細にな」
「は、はい」
アインズに促され、俺は再び意識を集中し、ステータスウィンドウを開く。
前回はあまりの衝撃にざっとしか見なかったが、今回は詳細な項目にまで目を通していく。
名前: 比企谷八幡
種族: 妖怪(アヤカシ)- 影系統
レベル: 88
称号: 創造主の忘れ形見、ひねくれ者、本物を求める者
職業レベル:
・アサシン Lv15
・ニンジャ Lv15
・スナイパー Lv10
・スカウト Lv10
・心理工作員(サイコロジカルオペレーター) Lv10
・他
基本能力値:
HP: 65
MP: 80
物理攻撃: 78
物理防御: 55
敏捷: 95
魔法攻撃: 45
魔法防御: 60
抵抗: 70
特殊: 90
主なスキル:
《隠密化(インビジビリティ)》: 姿を完全に隠す。高レベルの探知能力でなければ看破は不可能。
《無音歩行(サイレントウォーク)》: 足音や気配を完全に消し去る。
《致命の一撃(ヴァイタルストライク)》: 敵の急所を的確に突くクリティカルスキル。隠密状態からの初撃は威力が増加する。
《影潜み(シャドウダイブ)》: 影から影へと短距離を瞬間移動する。
《千里眼(クレヤボヤンス)》: 遠方の状況を視認する。
《弱点看破(ウィークネスアナリシス)》: 対象の弱点や精神的な脆さを見抜く。
特殊スキル(ユニークスキル):
《腐った目》: パッシブスキル。対象の偽り、敵意、欺瞞を感知する。交渉や尋問において、相手の心理的優位に立つ。
《自己犠牲という名の自己満足》: 自身に強力なヘイト(敵意)を集める。発動中、自身の防御力・抵抗力が大幅に上昇するが、行動終了後にデバフ(能力低下)を受ける。
《本物への渇望》: パッシブスキル。自身の目的達成のため、あるいは主君への忠誠を果たす時、全能力値にボーナスを得る。精神支配系の攻撃に強い抵抗を持つ。
「……なんだ、これ」
思わず声が漏れた。
敏捷と特殊能力に極端に偏ったステータス。アサシンやニンジャといった、典型的な暗殺者系の職業構成。
そして、何より目を引くのは特殊スキルの数々だ。
《腐った目》はまだいい。俺の性質をスキルに落とし込んだものだろう。
だが、《自己犠牲という名の自己満足》に至っては、もはや悪意しか感じない。あれか。俺が文化祭や修学旅行でやったことを、スーラータンとかいう奴はスキルとして実装しやがったのか。しかもご丁寧にデメリット付きで。
俺が自分のステータスにツッコミを入れていると、隣で一緒にウィンドウを覗き込んでいたアインズが感嘆の声を漏らした。
「ほう……これはまた、面白い構成だな。スーラータンらしい。物理攻撃力はそこそこだが、敏捷と特殊能力が極めて高い。完全な遊撃・暗殺特化型か。特にこの《心理工作員》という職業(クラス)は珍しいな」
デミウルゴスも、眼鏡の奥の目を細めて興味深そうに頷いている。
「素晴らしい。直接的な戦闘能力もさることながら、この情報収集能力と対人スキル……特に《弱点看破》と《腐った目》のシナジーは、諜報活動において絶大な効果を発揮するでしょう。流石は至高の御方の作品です」
「では、実際に動けるところも見せてもらおうか」
アインズがこともなげに指を鳴らすと、森の奥から一体の巨大な魔獣――レベル70相当のプライマル・ウルフが召喚され、こちらに敵意を剥き出しにして唸り声を上げた。
「あの魔獣を、お前のやり方で仕留めてみろ」
「え、俺が、ですか?」
「他に誰がいる」
無茶を言う。俺はただの高校生だぞ。喧嘩だってロクにしたことがない。
そう思った、はずだった。
だが、プライマル・ウルフを視界に捉えた瞬間、俺の身体は意思とは無関係に、最適解を導き出そうと動き始めていた。
(敵との距離、約50メートル。障害物多数。敵は聴覚・嗅覚に優れる。正面からの接近は愚策)
脳内に叩き込まれたNPCとしての戦闘知識が、最適な行動を俺に囁きかける。
俺は躊躇なくスキルを発動させた。
《隠密化》《無音歩行》
フッ、と俺の身体の輪郭が揺らぎ、周囲の風景に溶け込むように消える。気配も音も、完全に世界から消失した。
アインズたちが驚く気配を感じるが、今の俺には関係ない。
俺は森の木々の影から影へと、《影潜み》で高速移動する。プライマル・ウルフは獲物の気配が突然消えたことに混乱し、周囲を嗅ぎ回っている。無防備な側面ががら空きだ。
(……見えた)
《弱点看破》
狼の首筋、硬い毛皮で覆われていない僅かな隙間が、赤い光点となって俺の目に映る。
一瞬で背後に回り込み、隠密化を解除すると同時に、腰に差していた短剣――いつの間に装備していたのかも分からない――を逆手に握り、光点めがけて突き立てた。
《致命の一撃》
ザクリ、という鈍い手応え。
プライマル・ウルフは悲鳴を上げる間もなく、巨体をがくりと揺らし、そのまま地面に崩れ落ちた。
「……は?」
俺自身が、一番その結果に驚いていた。
手に残る生々しい感触。血の匂い。数秒前まで生きていた巨大な獣が、今はただの骸となって目の前に転がっている。
これが、俺の力。比企谷八幡というNPCの、性能。
俺が呆然と立ち尽くしていると、背後から満足げな声がかけられた。
「見事だ、比企谷八幡。レベル差があるとはいえ、初手の一撃で仕留めるとはな」
振り返ると、アインズがコツコツと拍手をしていた。
アルベドはまだ俺の力を測りかねているような顔をしていたが、デミウルゴスは恍惚とした表情で俺を見ていた。
「素晴らしい……なんと効率的な殺害でありましょう。アインズ様、彼の能力はナザリックにとって大きな力となります。ぜひ、私の下でその力を振るわせていただきたい」
「待て、デミウルゴス。彼の処遇は私が決める」
アインズはデミウルゴスの提案を制すると、俺に向き直った。
「八幡。お前の力はよく分かった。それは、ナザリックの内部で使うにはあまりにも惜しい力だ」
「……どういう、意味ですか?」
「お前には、ナザリックの外……人間の世界で、我々の目となり耳となってもらう」
アインズの赤い眼光が、俺を射抜く。
「帝国へ行き、ワーカーとして名を上げろ。そして、この世界の情報を、人間の中から我らのもとへともたらせ。……できるな?」
それは、拒否権のない命令だった。
だが、俺の心の中に、不思議と反発はなかった。
むしろ、このどうしようもない状況の中で、初めて自分の『役割』が与えられたことに、ほんの少しだけ、安堵している自分がいた。
人間社会での情報収集。裏での暗躍。
それは、かつて奉仕部で俺が担っていた役割と、どこか似ているのかもしれない。
やり方は違う。舞台も違う。だが、根底にあるものは同じだ。
「……御意に、アインズ様」
俺は静かに、そして深く、頭を垂れた。
こうして、元ぼっち高校生・比企谷八幡の、異世界での暗部としての初仕事が決定したのだった。
挿絵のリクエストです。
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おまかせ
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八幡+シャルティア
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八幡+アルベド
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八幡+デミウルゴス
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八幡+コキュートス
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八幡+アウラ
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八幡+マーレ
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八幡+アインズ様
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八幡+メイド達