俺の新たな日常は、特定の人間たちのストーキングから始まった。
……人聞きが悪いな。訂正しよう。特定のワーカーチームの、行動分析と脅威度査定だ。やってることは同じだが、言い方一つで、途端に仕事っぽくなるから不思議だ。デミウルゴスには一応数日前に、帝国のワーカー達の調べた限りの情報は書類にまとめて送ってある。その後、デミウルゴスにはあくまで書面上のデータであり、一応自分の目でも観察したいと申し出たらあっさり許可をくれた。なんか怪しいような気もするが今は気にしないでおこう。
主な観測対象として選んだ『フォーサイト』。
彼らを直接尾行するのは、あまりにも無粋で、俺の流儀に反する。俺のやり方は、もっと静かで、陰湿だ。
俺は、彼らの行動パターンを徹底的に洗い出した。
斡旋所の受付記録を、深夜、誰にも気づかれずに閲覧し、彼らが過去に受注した依頼の種類、達成率、そして報告書の筆跡から読み取れる性格まで分析する。
彼らが行きつけにしている酒場、武具屋、雑貨屋をリストアップし、店主や他の客との会話から、彼らの評判や金の遣い方といった情報を集める。
そして、夜になれば、彼らが拠点にしている宿屋が見える建物の屋上から、スキルを駆使して、彼らの部屋の様子を、ただ静かに観測する。
(……徹底してるな、俺。奉仕部で雪ノ下や由比ヶ浜の生態調査をしていた時より、よっぽど熱心だ。まあ、あっちは観察しているだけで胃が痛くなったが、こっちはただのデータ収集。気楽なもんだ)
数日間の観測で、分かってきたことがある。
斡旋所の評判通り、彼らのチームワークは、驚くほどに完成されていた。
リーダーのヘッケランは、常に全体の雰囲気を和ませ、危険な依頼と安全な依頼を見極める冷静な判断力を持っている。弓兵のイミーナは、口は悪いが、彼の最大の理解者であり、的確な援護でチームを支える。神官のロバーデイクは、物静かだが、その回復魔法と思慮深さで、チームの生命線を担っている。
そして、魔法詠唱者のアルシェ。貴族の出でありながら、それを鼻にかけることなく、ただ黙々と自分の役割をこなす。時折見せる、仲間への不器用な優しさは、かつての雪ノ下を彷彿とさせた。
彼らは、互いを信頼し、補い合い、そして、確かに強い絆で結ばれているように、見えた。
(……見せかけだ)
俺は、そう結論付けた。
所詮は、金と生存のための、一時的な協力関係。馴れ合いの共同体。
今は上手くいっているから笑い合えるだけだ。本当に絶望的な状況に陥れば、人間なんて、驚くほど簡単にお互いを裏切る。俺が、一番よく知っている。
彼らのその『本物』のように見える関係性が、偽物であることを証明したい。
そんな、自分でも気づいていない仄暗い欲求が、俺の心の奥底に渦巻いていたのかもしれない。
そんな観測活動を続けて、一週間が経った日のことだった。
その日、俺はいつものように斡旋所の隅で、彼らが新しい仕事を探しているのを眺めていた。
そこに、一人の、場違いなほど上等な服を着た男が現れた。おそらく、どこかの貴族か大商人に仕える、執事か秘書といったところだろう。
男は、他のワーカーたちには目もくれず、一直線に『フォーサイト』のテーブルへと向かった。
「―――皆様が、『フォーサイト』の方々ですな?」
男は、丁寧だが、どこか人を見下したような口調で言った。
「ああ、そうだが……あんたは?」
ヘッケランが、訝しげに答える。
「私の主が、皆様の腕を見込んで、是非ともお願いしたい仕事があると。極秘の依頼になります」
男は、周囲に聞こえないように声を潜め、依頼の内容を語り始めた。
俺は、聴覚を強化するスキルを使い、その会話を一言一句聞き逃さない。
「……とある、地図にない巨大な墳墓の、内部調査をお願いしたいのです」
「墳墓? 宝探しってわけか」
「ええ。前金として、皆様一人につき金貨50枚を。そして、無事に帰還された暁には、さらに金貨150枚ずつを。遺跡内で発見された物品によっては、さらなるボーナスもお約束いたします」
金貨200枚。
その言葉に、斡旋所の中が、微かにどよめいた。
それは、一介のワーカーが、一生かかっても稼げないかもしれない、破格の報酬だった。
イミーナの顔色が変わるのが、遠目にも分かった。アルシェも、息を呑んでいる。彼女たちには、金が必要な、切実な理由があるのだろう。
ヘッケランは、しばらく腕を組んで黙っていたが、やがて仲間たちの顔を見回し、そして決断した。
「……分かった。その依頼、俺たち『フォーサイト』が、受けさせてもらう」
男は、満足げに頷くと、契約書と前金の入った革袋をテーブルに置き、足早に去っていった。
『フォーサイト』のメンバーは、突然舞い込んだ、人生を変えるほどの大仕事に、興奮と緊張が入り混じったような表情を浮かべていた。
俺は、一人、酒場の隅で、エールを口に運んだ。
その味は、いつもより、ひどく苦く感じた。
地図にない、巨大な墳墓。
帝国上層部が、極秘に動いている。
そして、そのために、帝国最強クラスのワーカーチームが、使い捨ての駒として集められている。
(……そういうことかよ)
「……さて」
俺は、勘定を済ませて席を立った。
「どうせ、偽物だったんだ。確かめるまでも、なかったな」
俺は、自分にそう言い聞かせると、彼らに背を向け、雑踏の中へと消えた。
彼らの『本物』が試される舞台は、整えられた。
そして、その舞台が、ただの墓場であることを知っているのは、この帝都で、ただ一人。
この俺だけだった。
分かっている。
分かっているはずなのに。
酒場で、これから手にする大金で何をしようかと、未来を語り合って笑う彼らの姿を見ていると、胸の奥が、チリリと焦げ付くような、嫌な感覚に襲われた。
それは、かつて、奉仕部室の扉の前で、中の楽しそうな笑い声を聞きながら、中に入ることができなかった、あの時の感覚に、少しだけ、似ていた。
挿絵のリクエストです。
-
おまかせ
-
八幡+シャルティア
-
八幡+アルベド
-
八幡+デミウルゴス
-
八幡+コキュートス
-
八幡+アウラ
-
八幡+マーレ
-
八幡+アインズ様
-
八幡+メイド達