『フォーサイト』が破格の依頼を受注してから、彼らが出発するまでの三日間。
俺は、観測任務という大義名分を盾に、彼らの最後の三日間を、まるで死にゆく者を見守るハイエナのように、陰から眺め続けていた。
(浮かれているな、どいつもこいつも)
酒場で、彼らは手にした前金で豪遊していた。
リーダーのヘッケランは、仲間に次々と高い酒を奢り、イミーナと「この金で借金を返したら、二人で小さな店でも開くか」などと、ありもしない未来を語らっている。
神官のロバーデイクは、自分の取り分の一部を孤児院に寄付し、子供たちから感謝の言葉を浴びて、聖人のような笑みを浮かべていた。
そして、魔法詠唱者のアルシェ。彼女は、市場で妹たちのための可愛らしいリボンや、少し高価な菓子を買い込み、普段は見せない、歳相応の少女のような、柔らかい表情をしていた。
俺は、その光景を、冷めた目で見つめていた。
希望。夢。絆。
これから死ぬ人間が、見るには眩しすぎる、安っぽい幻想だ。
(……馬鹿な奴らだ)
金に目が眩み、己の実力も見えず、目の前にぶら下げられた餌に飛びついた、ただの愚か者たち。
俺の任務は、彼らの実力を査定すること。だが、査定するまでもない。この判断力のなさこそが、彼らの限界を示している。
ナザリックの脅威度評価は、ゼロに等しい。
追加の報告書には、そう記せばいい。俺の仕事は、それで終わりだ。
……終わるはず、だった。
出発の日の朝。
俺は、帝都の城門が見える鐘楼の屋根の上から、彼らを見下ろしていた。
朝日を浴びて、輝く装備。これから始まる大冒険に、期待と不安をない交ぜにしたような、高揚した表情。
彼らは仲間と笑い合い、互いの背中を叩き、そして、意気揚々と門をくぐっていく。
その先にあるのが、絶対的な絶望と、慈悲なき死が待ち受ける、ただの墓場であることなど、露ほども知らずに。
俺は、その光景から、目を逸らすことができなかった。
胸の奥で、黒く、冷たい何かが渦巻いている。
それは、同情ではない。憐れみでもない。
もっと、捻くれて、歪んだ感情。
(……証明してやる)
そうだ。俺は、これを見届けなければならない。
彼らが信じる、その安っぽい『仲間』という絆が、ナザリックという絶対的な恐怖の前で、いかに脆く、無価値であるか。
彼らが、己の命が尽きるその瞬間に、仲間を裏切り、罵り、己の愚かさを呪いながら、無様に死んでいく。その様を、この目で見届けるまでは。
あんたらの『本物』が、本物だったのか、それともただの安っぽいおままごとだったのか。
この腐った目で、最後まで見届けてやる。
それが、あんたらへの、そして、かつて同じような幻想を抱いていた、過去の俺自身への、最高の手向けだ。
俺は、自分の中に生まれた、その歪んだ決意に、静かに口の端を吊り上げた。
これは、任務じゃない。
俺個人の、奉仕活動だ。
『フォーサイト』の一行が街道の向こうに消えたのを確かめると、俺は鐘楼から音もなく飛び降りた。
宿に戻り、最低限の装備を整える。黒衣を纏い、フードを目深に被る。
ワーカー『ハチ』の仕事ではない。これは、ナザリックの刃としての、本当の仕事だ。
俺は、彼らとは別の門から帝都を出ると、森を抜け、獣道を使い、彼らの進む街道を、遥か後方から、影のように追跡し始めた。
スキルを駆使すれば、彼らに気づかれることなく、一定の距離を保って追うことなど、造作もない。
死に行く者たちの、葬送行進。
そして、俺は、その行列に付き従う、ただ一人の、名前もない死神。
ナ-ザリックへと続く道は、俺の捻くれた心と、ナザリックの冷徹な計画を乗せて、どこまでも続いていた。
彼らが、偽りの希望の果てに、本物の絶望と出会う、その時まで。
俺は、ただ静かに、その背中を見つめ続ける。
それが、俺にできる、唯一の弔いだった。
挿絵のリクエストです。
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