ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、漆黒の英雄と出会う

『フォーサイト』を追跡すること、三日。

 

街道を外れ、森を抜け、荒野を越える。その道程は、俺にとってはただの移動に過ぎなかったが、彼らにとっては希望への行進だった。馬鹿みたいに笑い合い、時には口論し、それでも互いを支え合う。その姿は、俺が必死に「偽物だ」と断じようとしても、あまりにも眩しく、そして、鬱陶しかった。

 

 

やがて、一行は開けた荒野に設営された、巨大な野営地にたどり着いた。

そこには、既に他のワーカーチームが集結していた。『竜狩り』、『ヘビーマッシャー』、『天武』……俺がリストアップしていた、帝国最強と謳われるチームが、一堂に会している。彼らから放たれる、歴戦の猛者特有のピリピリとした空気が、野営地全体を支配していた。

 

 

俺は、少し離れた岩陰に身を潜め、全体の観測を開始した。

これから始まるのは、ナザリックという絶対的な絶望を前にした、人間たちの最後の饗宴だ。

 

しばらくして、野営地がにわかに騒がしくなった。

ワーカーたちが、皆、同じ方角を見つめている。何者かが、こちらへ向かってきているのだ。

その中心にいる人物を見て、俺は、一瞬、自分の目を疑った。

 

 

漆黒の、禍々しい全身鎧。背中には、身の丈ほどもある二本の大剣。

その体から放たれる、圧倒的な威圧感と、支配者のオーラ。

俺の、NPCとしての本能が、悲鳴を上げていた。

間違いない。あれは、ナザリックの至宝。我が主、アインズ・ウール・ゴウンその人だ。

 

 

(……は? え? なにやってんの、アインズ様……?)

 

 

俺の頭は、混乱で真っ白になった。

なんで? どうして、ナザリックの絶対支配者が、こんな場所に? しかも、冒険者のような格好で。

え、何? もしかして、自らワーカーを迎え撃つために、わざわざ出張してきたとか? それとも、何かの高度なコスプレか?

 

俺が、アインズ様の深遠なる(そして、全く理解不能な)ご計画に思いを巡らせていると、次の瞬間、俺の全ての思考を吹き飛ばす、衝撃的な光景が目に飛び込んできた。

 

アインズ様(漆黒の鎧のモモン)が、乗っていた巨大な、もふもふとした、どう見てもハムスターにしか見えない、巨大な魔獣。

しかも、そのハムスターには、蛇の尻尾まで生えている。

 

荘厳な、漆黒の英雄。

跨るのは、巨大ふわもこハムスター。

 

その、あまりにもシュールで、破壊的なミスマッチ。

俺は、それまで保っていた、冷徹な観測者としての仮面を、維持することができなかった。

 

 

「……ぶふっ!!」

 

 

喉の奥から、堪えきれない、奇妙な音が漏れた。

まずい。俺は咄嗟に両手で口を固く塞いだ。だが、一度火が付いた笑いの発作は、止まらない。

肩が、小刻みに、ぷるぷると震える。涙が出てきた。

 

 

(だ、駄目だ……! 笑うな、俺……! あれは、アインズ様だぞ……! 不敬罪で、塵にされる……! き、きっと、あれも何かの高等戦術なんだ……! 敵の油断を誘うための、完璧な擬態……そう、擬態だ……! ……でも、ハムスター……っ! ハムスケって顔に書いてありそうな、ハムスター……! ぷっ、くくく……!)

 

 

俺が、岩陰で一人、腹筋の崩壊と戦っている、その時だった。

巨大ハムスターに跨り、威風堂々と野営地に入場していた漆黒の鎧――アインズ様が、ぴくり、と兜をこちらに向けた、気がした。

 

 

(……む?)

 

 

アインズは、完璧な『漆黒のモモン』を演じきっていた。

ワーカーたちの畏怖と尊敬の視線を浴び、絶対強者としてのオーラを放つ。アンデッドとしての精神安定化スキルが、羞恥心などという不要な感情を、完全に抑制している。

 

はず、だった。

 

だが、今、確かに感じたのだ。

遠くの岩陰の方から、ほんの一瞬、向けられた、強烈な『生暖かい視線』を。

それは、敵意でも、畏怖でもない。

もっと、こう、別の……学校のクラスで、一人だけ気合の入った発表をして、微妙に滑った時のような……そんな、刺すような感覚。

 

その瞬間、アインズの精神に、忘れかけていた感覚が、雷のように舞い戻った。

 

(……な、なんだ、この感覚は!? 非常に、居たたまれない……! なぜだ!? 感情は、抑制されているはず……! だが、今、猛烈な羞恥心が、魂を焼いている……! 誰だ!? 誰か、私を見て、笑っているのか!? この、ハムスケに乗っている、我を……!!)

 

アインズは、全能力を使い、視線の主を探ろうとした。だが、そこにいるのは、ただの岩。完璧なまでに、気配は消されている。

しかし、あの『笑われた』という感覚だけは、生々しく残っていた。

アインズは、必死に平静を装いながら、内心で叫んだ。

 

(……いかん! これ以上、ハムスケに乗っているのは危険だ……! 早く、降りたい……!!)

 

俺は、なんとか笑いの発作を鎮めると、涙を拭った。

どうやら、気づかれてはいないらしい。危ないところだった。

 

漆黒の鎧――モモンと名乗ったらしい――は、ワーカーたちの前で、「ここの警備を依頼された」とかなんとか、もっともらしいことを言っている。

 

なるほど。そういう筋書きか。

アインズ様自らが、冒険者モモンとして振る舞い、ワーカーたちが墓に侵入するのを見届ける。完璧なアリバイ工作と、現場の直接監視。デミウルゴスあたりが考えそうな、実に捻くれた作戦だ。

 

 

(……だとしても、ハムスターはないだろ……)

 

 

俺は、もはや畏敬の念が一周して、親近感すら湧きかけている、我が主君の姿を、生暖かい目で見守り続けた。

これから始まる悲劇の舞台。

その舞台監督は、どうやら、とんでもないお笑いのセンスもお持ちのようだった。

 

「……茶番だな」

 

俺は、腹筋の痛みに耐えながら、呟いた。

 

「最高に、悪趣味で、滑稽な茶番だ」

 

そして、その茶番の幕が上がるのを、俺は、ただ静かに、待っていた。




ハムスケを登場させちゃいましたが、本筋の結果と変わらないようにいたしますのでご容赦お願いいたします。




それと、新参者の私の作品にコメントやお気に入り登録してくれている方々、本当にありがとうございます。たいへん励みになっています!



コメントは読んでおります。ただ、返信に関してはできかねますのでお許しください。申し訳ございません。

この作品のオチは私の中で決まっているので、更新頻度は高くありませんが頑張って最後まで書き続けたいと思います。

挿絵のリクエストです。

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