ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、見送る2

アインズ様改め、冒険者モモンが、あの巨大ハムスター(どうやらハムスケという名前らしい)と共に野営地の警備についた後、ワーカーたちの間には奇妙な安堵と緊張が混じり合っていた。

 

アダマンタイト級冒険者がバックにいるという安心感。そして、それほどの人物が護衛につかねばならないほど、この墳墓は危険だという緊張感。彼らは、自分たちが振るうにはあまりにも大きすぎる天秤の上で、揺れ動いていた。

 

やがて、依頼主である帝国の代理人が、各チームのリーダーを集めて最後のブリーフィングを始めた。

渡されたのは、墳墓の第一階層から第三階層までの、不完全な地図。そして、目的はあくまで『調査』であり、危険と判断した場合は速やかに撤退せよ、という、建前だけの注意書き。

 

(……撤退、ね。させてくれるなら、の話だが)

 

俺は、岩陰からその光景を眺めながら、心の中で毒づいた。

これは、宝探しじゃない。ナザリックという、神々の実験場に放り込まれる、哀れなモルモットの選別に過ぎない。

 

 

ブリーフィングが終わり、各チームはそれぞれの持ち場に戻り、最後の準備を始めた。

『竜狩り』はパーティーメンバー同士で細かい作戦を立てている。『ヘビーマッシャー』は、重厚な盾を磨き、鬨の声を上げる。『天武』は奴隷のエルフを従えて静かに精神を統一し、刀の柄に手を置いている。

 

そして、『フォーサイト』。

 

リーダーのヘッケランが、仲間たちの肩を叩き、笑っている。

 

「よし、行くか、お前ら! ひと財産掴んで、全員で笑って帰ってくるぞ!」

 

「当たり前です!」

 

「ええ、必ず」

 

「……足を引っ張らないでよね」

 

彼らの間には、悲壮感など微塵もなかった。あるのは、困難な冒険に挑む、本物の冒険者(ワーカー)としての、確かな高揚感だけ。

 

夕暮れが、荒野を赤黒く染め上げる。

墳墓の入り口が、まるで巨大な獣の顎のように、不気味な暗い口を開けていた。

 

「時間だ」

 

代理人のその一言で、ワーカーたちは、覚悟を決めた顔で立ち上がった。

先陣を切ったのは、『ヘビーマッシャー』。彼らは、分厚い鉄の壁となって、暗闇の中へと吸い込まれていく。

続いて、『天武』、そして他のチームが、次々と。『竜狩り』は初日の攻略を放棄する代わりに、二日目の最優先券をもらい、墳墓の入り口で待機することになった。

最後に、『フォーサイト』が、互いに頷き合うと、その闇の中へと足を踏み入れた。

 

俺は、彼らの姿が完全に見えなくなるまで、その場を動かなかった。

役者たちは、全員、舞台に上がった。

 

さて、と。

観客が、いつまでも舞台裏にいるわけにもいかない。

 

俺は、ワーカーたちが使った正面入り口には向かわず、墳墓の側面へと回り込んだ。

そこは、何の変哲もない、ただの崖だ。だが、俺が、デミウルゴスから教えられていた特定の岩に手を触れ、ナザリックのNPCだけが持つ微弱な魔力パターンを送ると、ゴゴゴ、と低い音を立てて、岩壁の一部が内側へとスライドした。

現れたのは、人一人がやっと通れるほどの、小さな隠し通路。

 

(……従業員用通路、ってとこか)

 

俺は、その中へと滑り込むと、通路は自動的に閉じた。

内部は、ワーカーたちが進んでいるであろう、埃っぽい遺跡のような通路とは全く違う。磨き上げられた大理石の廊下が、魔力の光で青白く照らされ、ひんやりとした空気が流れている。これこそが、ナザリックの本当の姿だ。

 

俺が向かったのは、デミウルゴスに指定された、ある一室だった。

そこは、広大な空間に、いくつもの巨大な黒い水晶が浮かぶ、管制室のような場所だった。

それぞれの水晶には、まるで監視カメラの映像のように、墳墓の内部を進むワーカーたちの姿が、鮮明に映し出されている。

 

「お待ちしておりました、八幡殿」

 

部屋の奥の闇から、ぬるり、と一人の人物が現れた。

金色の装飾が施された軍服。純白の手袋。そして、どこか芝居がかった、仰々しい仕草。

第七階層守護者、デミウルゴス……ではない。

 

「我が名は、パンドラズ・アクター。アインズ様が自らお作りになられた、至高の存在。このナザリックの宝物殿と、財宝の管理を任されております!」

 

(うわ、出た……。アインズ様が作ったっていう、一番面倒くさそうなNPC……)

 

俺のNPC知識が、彼の情報を検索する。アインズ様の黒歴史の集大成。言動が、痛い。

 

「して! 貴殿が、かのスーラータン様の作品ですかな! なるほど、その腐敗した眼差し! まさに、我が創造主アインズ様の友人が創りしに相応しい、素晴らしい闇のオーラを放っておられる!」

 

「……どうも」

 

適当に相槌を打つ俺を気にする様子もなく、彼は、芝居がかった仕草で水晶の一つを指し示した。

 

「さあ、ご覧ください! 我が主、アイン-ズ様の深遠なるご計画の、第一幕の始まりですぞ!」

 

水晶には、ワーカーたちが、墳墓の第一階層を進む様子が映し出されていた。

彼らは、時折現れる低級のスケルトンを楽々と蹴散らし、簡単な罠を解除し、自分たちの実力に自信を深めているようだった。

 

「……茶番だな」

 

「いかにも! 茶番です! だが、最高の悲劇とは、最高の喜劇の後にこそ、訪れるもの!」

 

パンドラズ・アクターは、クックック、と肩を揺らして笑う。

こいつとは、絶対に仲良くなれない。

 

俺は、奴を無視して、別の水晶に映る『フォーサイト』の姿に目を向けた。

彼らもまた、順調に歩を進めている。リーダーのヘッケランが、罠の存在にいち早く気づき、アルシェが魔法でそれを無力化する。完璧な連携だ。彼らの顔には、笑みすら浮かんでいた。

 

(そうだ。笑っていろ。今のうちに、せいぜいな)

 

俺が、そう思った、その時だった。

別の水晶に映っていた『ヘビーマッシャー』の映像に、変化が起きた。

彼らは、広間の中央に置かれた、豪奢な宝箱を見つけたのだ。

リーダーが、慎重に罠を調べ、何もないことを確認すると、ゆっくりと、その蓋を開けた。

 

中身は、空だった。

 

彼らが、拍子抜けした顔で顔を見合わせた、その瞬間。

転移の罠が作動し、ナザリックの中で俺がもっともいきたくない場所に転移された。

到着後、しばらくして彼らの自信に満ちた顔が、一瞬にして、恐怖と絶望に染め上げられる。

そして、リーダーの叫び声を最後に、その水晶の映像は、おびただしい虫の大群に染め上げられた。

 

管制室に、静寂が戻る。

パンドラズ・アクターは、満足げに頷いている。

 

(……始まったか)

 

俺は、何の感情も浮かべずに、その結果をただ記録した。

前座は、終わった。

俺は、まだ順調に進んでいる『フォーサイト』の映像に、再び、その腐った目を向けた。

 

「さて。あんたらの物語は、どんな結末を迎える?」

 

俺の呟きは、静かな管制室に、虚しく響いた。

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
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