水晶に映し出される、一方的な蹂躙。
それは、もはや戦闘ですらなく、ただの『処理』だった。
俺は、ただ黙って、その全てを見届けていた。
ヘッケランとイミーナの亡骸は、アインズ様の命令を受けたアウラによって回収されていく。彼女が、死体の行先を聞き少しだけ躊躇い、「……マーレに、手伝ってもらってもいいですか?」とアインズ様に許可を求めている声が、微かに聞こえた。
神官ロバーデイクは、最後まで抵抗を試みたが、生きたまま捕らえられた。彼が「私を、どうするつもりだ……」と尋ねると、アインズ様は、興味深そうに、こう答えた。
『神の存在証明に使う』
彼の末路は、死よりも、おそらくは過酷なものになるだろう。
そして、アルシェ・イーブ・リイル・フルト。
彼女は、ロバーデイクの想いを託され、必死に逃走を図った。だが、闘技場という密閉された空間で、シャルティアから逃れられるはずもなかった。
絶望的な悲鳴を最後に、彼女の姿は、吸血鬼の影に呑み込まれた。
「―――フィナーレ! ブラボー! なんと感動的な終幕でありましょうか! 愚かなる者たちの、儚き夢の終わり! まさに、我が主が奏でる、破滅の交響曲!」
パンドラズ・アクターが、スタンディングオベーションでもするかのように、大げさに拍手を送っている。
俺は、もう何も映さなくなった水晶を、ただ見つめていた。
『フォーサイト』の絆は、最後まで壊れなかった。
彼らは仲間を庇い、思いやり、そして、共に死んでいった。
俺が、心のどこかで期待していた、裏切りも、罵り合いも、仲間割れも、何も起こらなかった。
彼らの『本物』は、本物だったのだろう。
だが、それが、どうしたというのだ?
その本物は、この絶対的な力の前に、あまりにも無力で、無価値で、無意味だった。
何の役にも立たず、ただ、死という同じ結果に至るまでの、ほんの数秒を稼いだだけ。
(……そうか)
俺は、静かに目を閉じた。
そして、自分の中で、一つの、冷たい結論にたどり着いた。
(本物かどうか、なんて、どうでもいいんだ)
この世界では、そんなものは、何の価値も持たない。
強いか、弱いか。
支配するか、されるか。
喰うか、喰われるか。
それが、全て。
圧倒的な、理不尽な力の前に、絆も、愛も、希望も、全て等しく無価値。ただ、塵芥のように消し飛ばされ、踏み潰されるだけだ。
それが、このナザリックで、この異世界で、俺が初めて見つけ出した、揺るぎようのない『本物』の真理。
俺は、第九階層の、あの豪奢な自室に戻っていた。
数時間前まで見ていた、血と絶望に満ちた闘技場の光景が、嘘のような静寂。
俺は、一人、ソファに深く沈み込み、目を閉じた。
『フォーサイト』の最期が、脳裏に焼き付いて離れない。
彼らを、悼んでいるわけではない。悲しんでいるわけでもない。
ただ、彼らの死によって、俺の中の何かが、決定的に変質してしまった。
かつて、奉仕部で、あの二人がいる部室で、微かに求めていた、あの温かい『何か』。
その幻想は、もう、俺の中には欠片も残っていなかった。
俺は、気を紛らわすように、部屋に置かれていた書物の一冊を、無造作に手に取った。
創造主スーラータンの、遺品だろうか。
その本のタイトルを見て、俺は、乾いた笑いを漏らした。
『やはり俺の異世界学園ラブコメはまちがっている。』
……悪趣味にも、程がある。
俺が、その本を床に投げ捨てようとした、その時だった。
コン、コン。
部屋の扉が、控えめにノックされた。
俺が、無言で扉を開けると、そこには、戦闘メイド『プレアデス』の一人、ユリ・アルファが、無表情で立っていた。
「八幡様。お疲れのところ、申し訳ありません」
彼女は、完璧な所作で一礼すると、告げた。
「アルベド様が、お呼びでございます。以前、お約束されておりました、『大切なお話』の準備が整った、と。ご足労願えますでしょうか」
アルベド。
その名を聞いた瞬間、俺の背筋を、闘技場で感じたものとは、全く質の違う、冷たい汗が流れた。
そうだ。忘れていた。
俺には、あの腹の底が読めない、ナザリックのNo.2との、面倒極まりない『約束』が、残っていたのだ。
闘技場の死闘。守護者たちの狂信。そして、アインズ様の絶対的な力。
それら全てが、これから始まるであろう、アルベドとの『話し合い』に比べれば、まだマシだったのではないか。
そんな、ありえない思考が、俺の頭をよぎる。
俺は、ユリ・アルファの背後で、深く、そして長い、ため息をついた。
それは、かつて、奉仕部の部室の扉を開ける前に、いつもついていた、あの溜息と、全く同じものだった。
「……分かった。案内してくれ」
俺は、新たな戦場へと、その重い足を踏み出した。
言葉と、忠誠と、そしておそらくは狂気が渦巻く、血の流れない、しかし、より厄介な戦場へと。
挿絵のリクエストです。
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おまかせ
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八幡+シャルティア
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八幡+アルベド
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八幡+デミウルゴス
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八幡+コキュートス
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八幡+アウラ
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八幡+マーレ
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八幡+アインズ様
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八幡+メイド達