ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

28 / 89
ぼっち、結末を知る2

水晶に映し出される、一方的な蹂躙。

それは、もはや戦闘ですらなく、ただの『処理』だった。

俺は、ただ黙って、その全てを見届けていた。

 

ヘッケランとイミーナの亡骸は、アインズ様の命令を受けたアウラによって回収されていく。彼女が、死体の行先を聞き少しだけ躊躇い、「……マーレに、手伝ってもらってもいいですか?」とアインズ様に許可を求めている声が、微かに聞こえた。

 

神官ロバーデイクは、最後まで抵抗を試みたが、生きたまま捕らえられた。彼が「私を、どうするつもりだ……」と尋ねると、アインズ様は、興味深そうに、こう答えた。

 

『神の存在証明に使う』

 

彼の末路は、死よりも、おそらくは過酷なものになるだろう。

 

そして、アルシェ・イーブ・リイル・フルト。

彼女は、ロバーデイクの想いを託され、必死に逃走を図った。だが、闘技場という密閉された空間で、シャルティアから逃れられるはずもなかった。

絶望的な悲鳴を最後に、彼女の姿は、吸血鬼の影に呑み込まれた。

 

 

「―――フィナーレ! ブラボー! なんと感動的な終幕でありましょうか! 愚かなる者たちの、儚き夢の終わり! まさに、我が主が奏でる、破滅の交響曲!」

 

パンドラズ・アクターが、スタンディングオベーションでもするかのように、大げさに拍手を送っている。

俺は、もう何も映さなくなった水晶を、ただ見つめていた。

 

『フォーサイト』の絆は、最後まで壊れなかった。

彼らは仲間を庇い、思いやり、そして、共に死んでいった。

俺が、心のどこかで期待していた、裏切りも、罵り合いも、仲間割れも、何も起こらなかった。

彼らの『本物』は、本物だったのだろう。

 

だが、それが、どうしたというのだ?

その本物は、この絶対的な力の前に、あまりにも無力で、無価値で、無意味だった。

何の役にも立たず、ただ、死という同じ結果に至るまでの、ほんの数秒を稼いだだけ。

 

 

(……そうか)

 

 

俺は、静かに目を閉じた。

そして、自分の中で、一つの、冷たい結論にたどり着いた。

 

 

(本物かどうか、なんて、どうでもいいんだ)

 

 

この世界では、そんなものは、何の価値も持たない。

強いか、弱いか。

支配するか、されるか。

喰うか、喰われるか。

それが、全て。

圧倒的な、理不尽な力の前に、絆も、愛も、希望も、全て等しく無価値。ただ、塵芥のように消し飛ばされ、踏み潰されるだけだ。

 

 

それが、このナザリックで、この異世界で、俺が初めて見つけ出した、揺るぎようのない『本物』の真理。

 

 

 

 

俺は、第九階層の、あの豪奢な自室に戻っていた。

数時間前まで見ていた、血と絶望に満ちた闘技場の光景が、嘘のような静寂。

俺は、一人、ソファに深く沈み込み、目を閉じた。

『フォーサイト』の最期が、脳裏に焼き付いて離れない。

彼らを、悼んでいるわけではない。悲しんでいるわけでもない。

ただ、彼らの死によって、俺の中の何かが、決定的に変質してしまった。

かつて、奉仕部で、あの二人がいる部室で、微かに求めていた、あの温かい『何か』。

その幻想は、もう、俺の中には欠片も残っていなかった。

 

俺は、気を紛らわすように、部屋に置かれていた書物の一冊を、無造作に手に取った。

創造主スーラータンの、遺品だろうか。

その本のタイトルを見て、俺は、乾いた笑いを漏らした。

 

『やはり俺の異世界学園ラブコメはまちがっている。』

 

……悪趣味にも、程がある。

 

俺が、その本を床に投げ捨てようとした、その時だった。

 

コン、コン。

部屋の扉が、控えめにノックされた。

 

俺が、無言で扉を開けると、そこには、戦闘メイド『プレアデス』の一人、ユリ・アルファが、無表情で立っていた。

 

「八幡様。お疲れのところ、申し訳ありません」

 

彼女は、完璧な所作で一礼すると、告げた。

 

「アルベド様が、お呼びでございます。以前、お約束されておりました、『大切なお話』の準備が整った、と。ご足労願えますでしょうか」

 

 

アルベド。

 

 

その名を聞いた瞬間、俺の背筋を、闘技場で感じたものとは、全く質の違う、冷たい汗が流れた。

そうだ。忘れていた。

俺には、あの腹の底が読めない、ナザリックのNo.2との、面倒極まりない『約束』が、残っていたのだ。

 

闘技場の死闘。守護者たちの狂信。そして、アインズ様の絶対的な力。

それら全てが、これから始まるであろう、アルベドとの『話し合い』に比べれば、まだマシだったのではないか。

そんな、ありえない思考が、俺の頭をよぎる。

 

俺は、ユリ・アルファの背後で、深く、そして長い、ため息をついた。

それは、かつて、奉仕部の部室の扉を開ける前に、いつもついていた、あの溜息と、全く同じものだった。

 

 

「……分かった。案内してくれ」

 

 

俺は、新たな戦場へと、その重い足を踏み出した。

言葉と、忠誠と、そしておそらくは狂気が渦巻く、血の流れない、しかし、より厄介な戦場へと。

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。