玉座の間にて、比企谷八幡と名乗る青年が「仕事が欲しい」と申し出てきた時、私の内なる鈴木悟は安堵と満足感を覚えていた。
忠誠の証だ。至高の存在である我々のために何かをしたいというその想いは、ナザリックのNPCとして完璧な姿勢である。友、スーラータンが創りし存在が、我々の下を離れず、こうして尽くそうとしてくれている。その事実が、素直に嬉しかった。
「……仕事、か。その心意気は賞賛に値するだ、比企谷八幡。だが、その前に確認せねばならぬことがある」
しかし、支配者アインズ・ウール・ゴウンとしては、未知の戦力を適切に評価することなく配置することはできない。彼がどれほどの力を持つのか、私自身が把握し、彼にも自覚させる必要がある。
第六階層へ転移し、彼にステータスを開示させた時、私の予想は確信に変わった。
職業(クラス)構成はアサシン、ニンジャを主軸とした完全な暗殺特化型。HPや物理防御を切り捨て、敏捷と特殊能力に極振りしたステータス配分。いかにも、対人戦(PvP)においてトリッキーな戦術を好んだスーラータンらしい、捻くれたビルドだ。懐かしさで胸が熱くなる。
「ほう……面白い構成だな」
特に目を引いたのは《心理工作員(サイコロジカルオペレーター)》というレア職業(クラス)と、ユニークスキルの数々だ。
《腐った目》は、デバフ系のスキルだろうか。そして《自己犠牲という名の自己満足》。なんだそのスキル名は。いかにも彼らしい悪趣味なネーミングセンスだ。だが、その効果はヘイトコントロールと防御上昇。使い方次第では、戦況を覆しかねない強力なスキルだ。スーラータンが「捻くれてるけど、いざという時は体を張る、そんなキャラが良いんだよな!」と熱弁していたのを思い出す。彼は、この比企谷八幡というNPCに、相当なこだわりを詰め込んだに違いない。
「では、実際に動けるところも見せてもらおうか」
レベル70のプライマル・ウルフを召喚する。レベル88の彼にとっては、決して倒せない相手ではない。だが、ステータス上、彼は防御が極端に低い。正面から戦えば、苦戦は免れないだろう。どう戦うかで、彼の真価が問われる。
次の瞬間、私は息を呑んだ。
八幡の姿が、何の予備動作もなく完全に消え失せたのだ。
《隠密化》と《無音歩行》。
完璧な発動タイミングだ。
そして驚くべきは、その後の動きだった。《影潜み》による高速移動は、まるでプログラムされた最適行動(マクロ)のように淀みがない。混乱する魔獣の死角へ完璧に回り込み、スキルを解除したその一瞬で、急所を的確に貫いた。
《弱点看破》からの《致命の一撃》。見事なコンビネーションだ。
レベル差を考慮しても、あの動きは尋常ではない。戦闘経験の豊富なプレイヤーでも、あれほど無駄のない動きは難しいだろう。彼の戦闘能力は、実質的なレベルで言えば90を優に超えているかもしれない。
これならば、問題ない。
彼の持つ能力は、ナザリックの防衛戦力として内部に留めておくにはあまりに惜しい。ステルス能力、探知能力、そして心理的な揺さぶりをかけるスキル。これほど諜報活動に向いた人材はいないだろう。
何より、彼のビルドは生存能力が高い。《影潜み》や各種隠密スキルがあれば、万が一の事態に陥っても、まず間違いなく生還できる。
友の遺してくれた大切なNPCだ。危険な任務に就かせることには一抹の罪悪感もある。だが、彼を失うリスクが低いと判断できた以上、この能力を遊ばせておく手はない。
デミウルゴスの進言を退け、私は彼に告げる。
「お前には、ナザリックの外……人間の世界で、我々の目となり耳となってもらう」
支配者として、そして亡き友への想いを胸に。
私は、彼の新たな役割を決定した。彼ならば、きっと見事に応えてくれるだろう。スーラータンが創った、最高に捻くれていて、最高に有能な、私の新たな手駒なのだから。
(アルベド視点)
第九階層より現れた謎の存在、比企谷八幡。
至高の御方であるスーラータン様の作品であるとアインズ様は仰られましたが、私にとっては、その出自がどうであれ、アインズ様のお側に現れた正体不明の存在はすべて警戒対象です。
彼の忠誠心を試すかのように、アインズ様は「仕事」を求める彼を第六階層へと連れ出されました。
私はアインズ様の護衛として付き従いながら、その一挙手一投足を観察し、彼が我らが主に仇なす存在ではないか、そして―――私の悲願のための駒となり得るかを見極めようとしていました。
開示された彼のステータスを見て、まず感じたのはその歪さでした。
あまりにも脆く、あまりにも鋭い。守りを捨て、殺意と隠密性にのみ特化した能力値。戦力として数えるならば、極めて扱いづらい、しかし嵌れば恐ろしいほどの戦果を挙げるであろう刃物。
そして、ユニークスキル。
《腐った目》《自己犠牲という名の自己満足》……ふざけた名前とは裏腹に、その効果は極めて厄介なものばかり。特に、人の嘘や敵意を見抜くという《腐った目》、そして心理を操る《心理工作員》という職業。これは……使える。
私の目的は、愛するアインズ様をこの地に縛り付け、孤独にした他の至高の御方々を探し出し、抹殺すること。
そのためには、強力な戦闘能力を持つ者だけでなく、情報戦に長け、敵の懐に潜り込み、その心を折るような特殊な能力を持つ者が必要です。
アインズ様が召喚されたプライマル・ウルフに対し、彼が取った行動は、私の評価を決定的なものにしました。
躊躇も、逡巡も、恐怖もない。
ただ、最短距離で、最も効率的に、目標の息の根を止めるためだけに最適化された動き。
その姿は、戦士ではなく、紛れもない暗殺者。汚れ仕事のために生み出された存在。
彼が魔獣を仕留めた時、私は歓喜に打ち震えそうになるのを必死で堪えました。
見つけましたわ、アインズ様。
我が「特別部隊」に相応しい、最高の人材を。
彼の忠誠心は、今のところ創造主たるスーラータン様と、ナザリックの現当主であるアインズ様に向いているように見えます。ですが、彼の持つ「本物を求める」という性質、そして「捻じくれた」性格。それらは、やりようによっては、つけ入る隙となるかもしれません。
アインズ様が彼を帝国へ送ると決定された時、私は心の中で喝采を上げました。
これ以上の試験場はありません。人間の世界という泥水の中で、彼がどれほどの切れ味を見せるのか。どれほど汚れた仕事をこなせるのか。そして、その忠誠心は絶対のものなのか。
ええ、アインズ様。今は、あなた様の決定に従いましょう。
ですが、私は見定めています。
比企谷八幡。あなたが、私の剣となり、アインズ様を捨て置いた裏切り者たちに、死の鉄槌を下すための先駆けとなるに相応しい存在であるかどうかを。
じっくりと、観察させていただきますわ。
挿絵のリクエストです。
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おまかせ
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八幡+シャルティア
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