ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、さそわれる

あの隠し金庫を発見してからというもの、俺は自室でまったく気が休まらなくなった。 壁の肖像画を見るたびに、その裏にある“悪意の詰め合わせセット”と“強制婚活申込書”の存在が脳裏をよぎる。まるで時限爆弾だ。いつ爆発するか、誰に見つかるか分からない。 アインズ様あたりが「おお、スーラータンはこんなものも残していたのか。面白い、皆に見せてやろう」とか言い出したらどうする? 俺の社会的生命(NPCだけど)は終わる。間違いなく終わる。

 

(……いや、待て。そもそも俺に社会的生命なんてあったか? ぼっちだぞ?)

 

そんな自己ツッコミを入れつつ、俺は数日間、なるべく部屋に近づかないように生活した。 幸い、アインズ様から賜った『休暇』はまだ続いている。デミウルゴスやアルベドからの呼び出しもない。 俺は時間を持て余し、ナザリックの巨大な図書館に足を運ぶことにした。第九階層にあるそれは、もはや図書館というよりは知識の要塞だ。天井まで届く本棚には、この世界のものからユグドラシル時代のものまで、ありとあらゆる書物が収められている。

 

「……静かでいいな」

 

ここなら、誰にも邪魔されずに時間を潰せる。俺は適当に手に取った本をめくりながら、思考の海に沈んだ。 『嘆きの谷』での一件、そしてアルベドからの不穏な誘い。 これから俺がすべきことは何なのか。 アインズ様への忠誠は揺るがない。それは大前提だ。だが、アルベドの計画は、その忠誠の形を歪めかねない危険な香りがする。

 

彼女は、他の至高の存在を『裏切り者』と断じた。 それは、アインズ様への愛が深すぎるが故の、純粋で、それ故に危険な狂信だ。 俺はその狂信に、乗り続けるべきなのか? それとも、距離を置くべきなのか?

 

(……どっちに転んでも、面倒なことになるのは確定だな)

 

結局、俺に選択肢はないのかもしれない。 このナザリックという巨大な組織の中で、俺という一個のNPCにできることなど、限られている。流れに身を任せ、その中で最善を尽くす。あるいは、最悪を回避する。 奉仕部でやってきたことと、結局は同じだ。

 

俺がそんな思考に耽っていると、ふと、視線を感じた。 顔を上げると、少し離れた本棚の陰から、こちらを窺う小さな影があった。 第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。 俺の視線に気づくと、彼はビクッと肩を震わせ、慌てて本棚の陰に隠れた。

 

(……なんだ? 俺に何か用か?)

 

俺が席を立とうか迷っていると、今度はアウラがひょっこりと顔を出した。

 

「よっ、ハチマン! やっぱりこんなところにいた! あんた、本当に暗いとこが好きだな!」

「……図書館は、静かにするところだ」

「わかってるって!!」

 

アウラは、人差し指を口に当てながら、全然静かじゃない声で言う。その隣で、マーレがさらに縮こまっていた。

 

「でさ、ちょっと聞きたいんだけど」

 

アウラは、声を潜める(つもりらしい)と、俺の隣に腰を下ろした。

 

「あんた、今度の休み、何すんの?」

「休み……? 俺は休暇中だが」

「ちがうちがう! アインズ様がさ、たまには皆で息抜きでもしたらどうだ、って言ってて! それで、私たちで今度、ピクニックみたいなのに行くことになったんだ!」

「……ピクニック」

 

その単語の、あまりの場違いさに、俺は言葉を失った。 この、魔王とその配下たちが集う、悪の巣窟ナザリックで、ピクニック? まるで、ラスボスが家庭菜園を始めるような違和感だ。

 

「それでさ、ハチマンも来なよ! あんた、ずっと部屋かここにしかいないんでしょ? たまには外の空気吸わないと、その腐った目がもっと腐るぞ!」

「……余計なお世話だ」

「あ、あの……」

 

もじもじしていたマーレが、おずおずと口を開いた。

 

「ぼ、僕……お弁当、持って行くので……その……八幡さんも、よかったら……」

 

上目遣いで、そう言われてしまっては、断りにくい。

 

(……はぁ。これも、一種の業務命令か?)

 

アインズ様のご意向となれば、断るわけにもいかないだろう。 何より、この双子の純粋な(そして厄介な)

善意を無下にするのも、後味が悪い。

 

「……分かった。考えておく」

 

俺がそう答えると、アウラは「やったね!」とガッツポーズをし、マーレは嬉しそうにはにかんだ。 嵐のように現れ、そして嵐のように去っていく双子を見送りながら、俺は再び深いため息をついた。

 

(ピクニック、ねぇ……)

 

アルベドとの密会という、超重量級のイベントを前に、まさかこんなほんわかしたイベントが挟まるとは。 だが、あるいは、これも必要なのかもしれない。 これから、ナザリックの、そして俺自身の、より深い闇に触れることになる。その前に、ほんの少しだけでも、こういう穏やかな時間を過ごしておくのも、悪くはない。 そう、嵐の前の、最後の静けさだと思えば。

 

俺は、読みかけの本を閉じると、静かに立ち上がった。 アルベドとの約束の時間が、近づいている。 俺は、覚悟を決めた。

 

「……行くか」

 

面倒事の待つ、あの悪魔の元へ。 俺は、図書館の静寂を後にし、守護者総監督の私室へと、その重い足を踏み出した。 この先に何が待ち受けていようとも、俺は俺のやり方で、この理不尽な世界を生き抜いてやる。 ただ、それだけだ。

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
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