ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

43 / 89
ぼっち、双子を見つける

アルベドとの密談を終えた翌日。 俺は、第九階層の廊下で、アインズ様に呼び止められた。

 

「八幡よ、少々頼みがあるのだが」

 

アインズ様は、いつものように完璧な執事姿のセバスと共に立っていた。その横には、なぜか蝶ネクタイをビシッと決めたコキュートスまでいる。

 

(……何やってんだ、こいつら)

 

そんな俺の心の声を知る由もなく、アインズ様は穏やかな声で続けた。

 

「近々、守護者たちとピクニックを催そうと考えている。その場所の下見を八幡、お前にお願いしたいのだ」

 

ピクニック。 昨日、アウラとマーレから聞いたばかりの単語だ。

 

「……恐れながら、アインズ様。私ごときが、そのような大役を」

 

俺は、丁重に辞退しようとした。どうせ、面倒なだけだ。

 

だが、アインズ様は、困ったように首を傾げた。

 

「いや、他に適任がおらんのだ。アウラとマーレに頼もうかと思ったんだが今は別の仕事をしていてな。デミウルゴスは、これ以上仕事を増やしたくない、シャルティアでは、美意識が違いすぎる。アルベドは……」

 

アインズ様は、ちらりと俺に視線を向けた。

 

「……多忙ゆえ、無理は言えん」

 

(……そりゃそうだろうな。神殺しの計画を立ててる最中だしな)

 

アインズ様は、俺とアルベドの間で交わされた『契約』を知る由もない。 彼は、あくまで守護者たちの団結と、彼らのストレス解消を願ってのことだろう。

 

「八幡ならば、冷静かつ客観的に、最適な場所を見繕ってくれると期待しておる。安全面も考慮しつつな」

「……御意」

 

アインズ様の直々の頼みとあっては、断るわけにはいかない。俺は観念して、その役目を受けた。

 

ナザリックの転移門をくぐり、俺は森の中へと足を踏み入れた。 ここは、ナザリックからほど近い、かつての王国の領土だった場所だ。今は、アインズ様の支配下にある。

 

(ピクニックの場所、か。安全で、見晴らしが良くて、食事が美味そうに見えるところ……)

 

そんなことを考えながら、森の中を進む。

 

森は、昼だというのに薄暗く、人気もない。 だが、その静寂を破るかのように、微かな物音が聞こえてきた。 複数の人間の話し声、そして、金属の擦れる音。

 

(……奴隷商、か)

 

俺は、茂みに身を隠し、物音のする方へと慎重に近づいた。 そこには、予想通り、数人の男たちがいた。 粗末な服装をした、いかにも悪人面をした男たち。奴隷商だ。 彼らは、鎖で繋がれた数人の人間を連れて、何かを交渉しているようだった。

 

「……どうです、旦那。この二人は、若い上に、どちらも魔力持ちですよ。これから教育すれば、とんでもないお宝になりますぜ?」

 

奴隷商の一人が、鎖に繋がれた二人の少女を指差して、そう言った。 俺は、その二人を見て、息を呑んだ。 ボロボロの服を身につけ、顔には煤と埃がついているが、その顔立ちは、確かに見覚えがあった。

 

(……アルシェの、妹たち……!?)

 

『フォーサイト』の魔法詠唱者のアルシェ。 彼女は、ナザリックに踏み込んだワーカーの一人として、シャルティアに捕らえられ、無慈悲にも処分された。 その際に、彼女が家族、特に双子の妹たちのために、必死で金を稼いでいたことを、俺は知っていた。 そして、その妹たちが、今、奴隷として、この森で売り飛ばされようとしている。

 

俺は、放っておこうと思った。 この世界の出来事だ。理不尽が罷り通る世界だ。 俺が知ったところで、どうすることもできない。 奴隷は、この世界では当たり前の存在だ。俺がナザリックの一員である以上、人間ごときに肩入れする義理はない。 それが、俺がこの世界で生き抜くための、俺の『ルール』だった。

 

だが、脳裏に、アルシェの顔がフラッシュバックした。 妹たちのために、必死に戦い、そして命を落とした、あの女の、悲痛な叫びが。 そして、セバスが言っていた言葉が、鼓膜に響いた。

 

『守るべきものができたことで、私の忠誠心は、より強固なものとなりました』

『『愛』は、決して弱さではありません。時に、人を超えた力を……絶望さえも打ち破る力を、与えてくれるものだと、私は信じています』

 

守るべきもの。 愛。 力。

 

俺は、迷った。 このまま見過ごせば、俺の心に、アルシェを見殺しにした罪悪感が、さらに重くのしかかるだろう。 それは、俺がこの世界で『人間』として生きる上で、決して無視できない、深い影となる。

 

(……もし、本当に、守る者があった方が、俺は強くなれるというのなら……)

 

それは、俺にとって、一種の『実験』になるのかもしれない。 偽善だ。そうだろう。 だが、俺は、そんな自分を騙し込むように、そう考えた。 本当に、守るべきものがあるというのなら、俺はどれほどの力を出せるのか。 ナザリックのルールに抵触しない範囲で、この理不尽に、どこまで抗えるのか。

 

俺が迷っている間にも、状況は動いていた。 奴隷商は、双子を指差し、相手の男に売り渡そうとしている。 相手の男は、顔に醜い傷痕のある、いかにも『そういう趣味』のありそうな男だった。 双子の顔には、絶望の色が深く刻まれている。

 

(……ちっ)

 

俺は、舌打ちをした。 こんなことは、俺の『仕事』ではない。 だが、俺は、静かに、そして、確実に、茂みから一歩踏み出した。

 

「―――悪いが、その商品、俺が買い取らせてもらう」

 

俺の声に、奴隷商も、相手の男も、驚いたように振り返った。 俺は、フードを目深に被り、顔を隠したまま、彼らの前に姿を現した。 今、この瞬間、俺の『実験』が、始まる。 そして、それは、俺の新たな『仕事』となるのかもしれない。

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。