「―――悪いが、その商品、俺が買い取らせてもらう」
俺の言葉に、奴隷商と、双子を買い取ろうとしていた男は、驚いたように振り返った。 奴隷商の一人、顔に醜い傷痕のある男が、俺を上から下まで値踏みするような視線で睨んだ。
「あんた、どちら様だ? こんな森の奥で、いきなり横入りたぁ、いい度胸じゃねえか」
俺は、フードを目深に被り、顔を隠したまま、ゆっくりと彼らに近づいた。
「ただの通りすがりだ。だが、その商品には、少々興味があってな」
俺の視線は、鎖に繋がれたまま怯えている、クーデリカとウレイリカの双子に向けられていた。 二人は、ボロボロの服を身につけ、顔には煤と涙の跡がついていたが、その瞳には、まだかすかな光が宿っている。
奴隷商は、俺の態度に不審そうな顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「ほう? 興味がある、だと? なら、正々堂々競り合ってくれや。こっちは、もう話がまとまりかけてるんだ」
彼は、隣にいた、双子を買い取ろうとしていた男に視線を送った。男は、いかにも下卑た笑みを浮かべている。
(……金で解決か。それとも、力で解決か)
俺の脳裏に、二つの選択肢が浮かんだ。 金を出すことは簡単だ。持ち金を使えば、奴隷商ごとき、いくらでも買収できる。 だが、それでは、俺の『実験』にはならない。 本当に守るべきものがあるのなら、どこまで『強くなれる』のか。 そして、この世界の理不尽に対し、俺の『力』がどこまで通用するのか。
奴隷商は、俺の返事を待たずに、苛立ちを露わにした。
「おい、兄ちゃん。いつまで黙って突っ立ってるつもりだ? さっさと決めねえと、こいつらはこの旦那が連れて行くぞ」
奴隷商のリーダー格の男が、双子の首に巻かれた鎖を乱暴に引っ張った。 クーデリカとウレイリカは、悲鳴を上げ、その場に膝から崩れ落ちた。 その光景を見た瞬間、俺の中で、何かが切れる音がした。
(……ちっ)
偽善だ。 そうだろう。 だが、俺は、そんな自分を騙し込むように、そう考えた。 本当に、守るべきものがあるというのなら、俺はどれほどの力を出せるのか。 ナザリックのルールに抵触しない範囲で、この理不尽に、どこまで抗えるのか。
俺は、奴隷商たちに背を向け、ゆっくりと歩き出した。
「おい、どこへ行く! 話はまだ終わってねえぞ!」
奴隷商の一人が、苛立たしげに声を上げた。
だが、俺は、何も答えなかった。 一歩、また一歩と、奴隷商たちから距離を取る。 そして、奴隷商たちの視線が、完全に俺の背中に集中した、その瞬間。
《影潜み》
俺の体が、地面に溶け込むように消えた。 奴隷商たちは、突然の俺の消失に、動揺する。
「な、なんだ!? どこへ行った!?」
「幻術か!? おい、探せ!」
彼らが混乱している間に、俺は既に、彼らの足元へと潜行していた。 狙いは、奴隷商全員。そして、双子を買い取ろうとしていた男もだ。
《影潜み》の状態から、奴隷商の一人の足首に、短剣を突き立てる。
ザシュッ!
それは、一瞬の出来事だった。 刃には、ナザリックで精製された特殊な麻痺毒が塗られている。 奴隷商の男は、悲鳴を上げる間もなく、その場でガクンと膝をつき、意識を失った。
次の瞬間、俺は別の奴隷商の背後に浮上し、首筋に短剣を突き立てる。
ゴシュッ!
今回は、麻痺毒ではなく、即死効果のある神経毒だ。 男は、呻き声すら上げられずに、そのまま前のめりに倒れ込んだ。
(……一人一人、確実に)
暗殺者(アサシン)としてのスキルを最大限に活用する。 《高速移動》、《空蝉》、《影縫い》……。 森の中に、俺の残像がいくつも現れ、奴隷商たちを翻弄する。 奴隷商たちは、何が起こっているのか理解できずに、次々と倒れていく。 彼らは、俺の動きを捉えることも、反撃することもできなかった。 まるで、不可視の刃に切り裂かれていくかのように。
最後に残ったのは、双子を買い取ろうとしていた男と、奴隷商のリーダー格の男だった。 彼らは、目の前で仲間たちが次々と倒れていく光景に、恐怖で顔を歪ませていた。
「な、なんだ!? 誰がやっている!?」
「見えねえ! 見えねえぞ!」
俺は、彼らの目の前に、わざと姿を現した。 フードを目深に被った、黒い装束の影。 奴隷商のリーダーは、腰の剣に手をかけようとした。 だが、その行動は、全て見切られていた。
俺は、彼の喉元に、短剣を突きつける。
「動くな。動けば、その首が飛ぶ」
冷徹な声で、俺は告げた。 男は、恐怖で顔を青ざめさせ、剣を抜くのをやめた。
そして、双子を買い取ろうとしていた男にも、俺は同様の処置を施した。 短剣の柄で、彼の首筋を強く叩く。 男は、呻き声を上げ、意識を失ってその場に倒れ込んだ。
「……これで、全員、だ」
俺は、意識を失った奴隷商たちと、買い手の男を見下ろした。 彼らを殺すことに、ためらいはなかった。 これは、俺の『仕事』だ。アインズ様の敵となりうる存在、そして、俺の『実験』を妨害する存在は、全て排除する。 その冷徹な判断は、俺の、捻くれた『正義』でもあった。
奴隷たちの鎖を外すと、クーデリカとウレイリカは、震えながら俺を見上げた。 その瞳には、恐怖と、そして、かすかな希望が入り混じっている。 二人は、俺に何も言えず、ただ、俺の足元にうずくまっていた。
(……さて、これからどうする、俺)
俺の『実験』は、思わぬ形で、第一段階をクリアした。 だが、本当の『仕事』は、これからだ。 彼女たちをどうするべきか。ナザリックに連れて行くわけにはいかない。 だが、このまま野に放つわけにもいかないだろう。
俺は、再び深く、深い溜息をついた。 こんな面倒なことになると分かっていたのに、俺は、なぜ彼女たちを助けてしまったのか。 アルシェへの罪悪感か。 セバスの言葉に揺さぶられた、自身の信念への疑問か。 それとも、ただの、俺の捻くれた『偽善』か。
どれが本心なのか、俺自身にも、もう分からなかった。 だが、一つだけ確かなことがある。 俺は、この双子を、この森に置き去りにすることはできないだろう。 そして、この『実験』は、まだ始まったばかりなのだ。
挿絵のリクエストです。
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おまかせ
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