『ピクニック』から数日。俺が自室で腐った目つきをさらに研ぎ澄ませていると、アインズ様から直々の呼び出しがかかった。今回は俺一人のようだ。面倒事が個別に発生するパターンか、と溜息を一つついて、執務室へと向かう。
「失礼します。八幡、参上いたしました」
「うむ、入れ」
重厚な扉を開けると、そこには執務机に向かうアインズ様の姿があった。
その顔(髑髏だが)には、いつもの威厳に加え、どこか疲労のようなものが滲んでいる気がした。
「八幡、急ぎ呼び立ててすまない。お前に、新たな任務を命じたい」
「御意のままに」
「近々、私はドワーフとの交渉に向かうつもりだ。目的はドワーフとの接触、及び彼らの持つ『ルーン技術』の獲得交渉だ」
アインズ様が、自ら。
俺は驚きを表情に出さぬよう、慎重に言葉を待った。ナザリックの頂点たるアインズ様が、わざわざ出向くほどの案件らしい。
「この遠征には、アウラを隊長として、使節団を護衛する形をとる。そして、その副官として、シャルティアも同行させる」
(……は?)
一瞬、アインズ様が何を言っているのか理解できなかった。
アウラが隊長で、シャルティアが副官?
あの二人の仲の悪さは、ナザリックでは公然の秘密だ。アインズ様の前では猫を被っているが、水面下での張り合いは凄まじい。そんな二人を組ませるなど、正気の沙汰とは思えない。
アインズ様は、俺の内心の動揺を知ってか知らずか、言葉を続けた。
「……シャルティアは、ここ最近、成果を出すことに少々焦りが見られる」
アインズ様の声には、わずかに苦悩が滲む。
「この任務は、力押しではなく、デリケートな『交渉』が主だ。彼女のその焦りが、悪い方向に出ないとも限らん」
アインズ様は、指の骨をこつこつと机に打ち付けた。
「そこで、八幡。お前だ」
アインズ様の赤い眼光が、俺を真っ直ぐに射抜く。
「お前には、シャルティアの直属の部下として、この遠征に同行してもらう」
「……私が、ですか?」
「そうだ。お前の任務は、シャルティアの補佐だ。だが、真の任務は、彼女の『監視』と『制御』だ」
(やっぱり、お守り兼監視役かよ……)
俺は、この世界に来てから、どうも面倒な女の後始末ばかり押し付けられている気がする。
「シャルティアが、なぜそこまで焦っているのか……その真意は、お前が直接彼女から聞き出すか、あるいは察してやれ。その上で、彼女が暴走し、私の計画を台無しにしないよう、お前が導くんだ。お前の冷静な分析力と、物事の本質を見抜くその『目』を信頼している」
……つまり、「問題児(シャルティア)が暴走しないようにうまく誘導しろ。でも、あんまりガチガチに抑えつけず、自分で考えさせて成長もさせろ」という、どこぞの高校の生活指導の先生が言いそうな、実に面倒くさい依頼だ。
奉仕部で、雪ノ下や由比ヶ浜の面倒な依頼を捌いてきた俺には、ある意味、天職なのかもしれない。
「……御意。アインズ様の、ご憂慮、お察しいたします」
俺は、深く頭を下げた。
「この比企谷八幡。シャルティア様が道を踏み外されぬよう、我が身の安全が許す限り、全力でサポート(監視)させていただきます」
「うむ、頼んだぞ。……ああ、それと」
アインズ様は、俺が『嘆きの谷』から持ち帰った、あの不気味な紋様が刻まれた石片を指さした。
「お前が発見した、未知の勢力……。アゼルリシア山脈方面にも、類似した気配がないか、道中の偵察も兼ねて、その『目』で探ってほしい。ドワーフの国が、万が一、奴らの影響下にあれば、交渉の仕方も変わってくる」
「承知いたしました」
「よし。出発は明朝だ。まずはコキュートスが管理するリザードマンの村へ転移し、ドワーフの国への案内役を確保する。準備を整えておけ」
「はっ」
謁見が終わり、玉座の間を辞去する。 重い扉が閉まると同時に、俺は深いため息を吐いた。
(……面倒くさい)
アルベドとの『神殺し』の密約。
そして、今度は、アインズ様直々の『守護者の監視』任務。
俺は、一体、ナザリックの何なんだ。便利屋か。それとも、二重スパイか。
だが、俺の心は妙に冷静だった。 『嘆きの谷』で、悪魔(強化体)を仕留め、俺は確信した。 必要なのは、力だ。 そして、この任務は、レベル100の頂点であるアインズ様と、最強の守護者たちの強さを、間近で『観測』できる絶好の機会でもある。
(……まあ、いいか)
面倒事は、いつものことだ。 俺は、自室に戻り、黒い革鎧の手入れを始めた。 レベル上げは一時中断だが、この任務は、それ以上の『経験値』をもたらしてくれるかもしれない。
俺の『仕事』は、こうして、ナザリックでも最も危険な守護者のお守りという、最悪の形で幕を開けたのだった。
挿絵のリクエストです。
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おまかせ
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八幡+シャルティア
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八幡+アルベド
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八幡+デミウルゴス
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八幡+コキュートス
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八幡+アウラ
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八幡+マーレ
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八幡+アインズ様
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八幡+メイド達