ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、お守りをする2

ゼンベルの案内で、俺たちは山脈の麓へと足を踏み入れていた。 険しい山道。吹き付ける風は冷たく、標高が上がるにつれて周囲の景色は岩肌と雪に覆われていく。 先頭を行くアインズ様とアウラ、そしてゼンベルからは少し距離を開け、俺はシャルティアの斜め後ろをついて歩いていた。

 

俺の視線の先で、このナザリック最強の守護者は、先程から奇妙な行動を繰り返していた。 アインズ様が前方で何か――例えば「ここの地形はアンデッドの行軍に適しているな」とか「ドワーフの都市構造はどうなっているのだ」といった何気ない言葉を発するたびに、彼女は懐から小さな手帳とペンを取り出し、猛烈な勢いで何かを書き留めているのだ。

 

「……シャルティア様」

 

俺は、意を決して声をかけた。

 

「さっきから、何をそんなに書いているんですか?」

 

シャルティアは、ペンを動かす手を止めずに答えた。

 

「決まっているでありんす。アインズ様の一言一句、その深遠なる叡智を書き留めているのよ。前回の失敗……あのような失態を二度と犯さぬよう、アインズ様のお考えを完全に理解しなくてはならないからね」

 

その横顔は、真剣そのものだった。だが、その真剣さは、どこか悲壮感を帯びている。 彼女の手帳を横目で盗み見ると、『アインズ様、雪を見て「白いな」と仰った。深い意味があるに違いない』といった、ただの感想までメモされていた。

 

(……完全に、空回りしてるな)

 

受験直前の、追い詰められた受験生を見るようだ。 「失敗」というのが、具体的に何を指すのか俺は詳しく知らない。だが、アインズ様があれほど心配するのだから、よほどのことだったのだろう。 今の彼女は、「役に立たなければ捨てられる」という強迫観念に囚われているように見えた。

 

「……書き留めるのは結構ですが、それ、本当に意味ありますか?」

 

俺が水を向けると、シャルティアはカッと目を見開き、俺を睨みつけた。

 

「なんですって!? 貴様、アインズ様のお言葉を軽んじる気!?」

 

「違いますよ」

 

俺は、いつもの死んだ魚のような目で、淡々と返した。

 

「アインズ様のお言葉は重要です。ですが、貴女は今、アインズ様の『言葉』を追うことに必死になりすぎて、アインズ様が『何を見ているか』を見ていない」

 

「……どういうこと?」

 

シャルティアの手が止まる。

 

「貴女は、デミウルゴス様やアルベド様のように、アインズ様の思考を先読みする頭脳労働は得意じゃない。……違いますか?」

 

「うっ……! それは……否定はしないでありんすが……」

 

彼女は、痛いところを突かれたように言葉を濁した。ナザリックにおいて、知略面で後れを取っていることは、彼女自身が一番気にしているコンプレックスなのだろう。

 

「なら、無理に彼らの真似をして、賢く振る舞おうとする必要はないんじゃないですか」

 

俺は、努めて事務的な口調で言った。

 

「アインズ様が、今回貴女を連れてきた理由を考えてみてください。知略が必要なら、デミウルゴス様を連れてくればいい。交渉術だけなら、アルベド様の方が適任だ。でも、アインズ様は貴女を選んだ」

 

「……わらわを、選んだ……」

 

「ええ。アインズ様が必要としているのは、貴女の『強さ』です。万が一、交渉が決裂した時、あるいは未知の脅威が現れた時。その圧倒的な武力で、アインズ様の御身を守り、敵を粉砕すること。それができるのは、ナザリック広しといえど、貴女が一番だ」

 

俺の言葉に、シャルティアは目を見開いた。 それは、お世辞ではない。俺が『嘆きの谷』で痛感した、絶対的な『個』としての力。それに関しては、彼女は他の追随を許さない。

 

「貴女は、最強の矛(ほこ)であればいいんです。難しいことを考えるのは、アインズ様や、隊長であるアウラ様の役目。……そして、貴女が考えすぎてパンクしそうになった時、ブレーキをかけるのが、副官である俺の役目です」

 

俺は、軽く肩をすくめた。

 

「だから、そんなメモ帳に齧り付いてないで、もっと堂々としていてください。貴女がオドオドしていたら、アインズ様の威光に関わりますよ」

 

シャルティアは、しばらく呆然と俺を見ていたが、やがてフンと鼻を鳴らし、手帳を懐にしまった。

 

「……生意気な口を利く副官でありんすね。誰がオドオドしていると言うのよ」

 

その口調には、先程までの悲壮な焦りは消え、いつもの傲慢さが戻っていた。

 

「わらわは、階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン。アインズ様の最強の矛。……そうね、貴様の言う通りだわ。小難しいことは、貴様ら下等生物が考えればいいこと」

 

「……はいはい。その意気です」 (下等生物扱いは癪だが、まあ、調子は戻ったか)

 

「八幡」

 

不意に、シャルティアが俺の名を呼んだ。

 

「……貴様、なかなか良いことを言うではないか。少しだけ、見直してあげてもよくてよ?」

 

「そりゃどうも」

 

シャルティアは、ドレスの裾を翻し、歩調を早めた。その背中は、先程よりも少しだけ、伸びているように見えた。

 

俺は、その後ろ姿を見ながら、小さく息を吐いた。

 

(……とりあえず、ガス抜き終了、ってとこか)

 

自分が期待されている役割を理解し、それに徹する。 それは、スクールカーストの底辺で、空気のように振る舞い続けてきた俺の得意分野だ。 高望みをして、自分に合わないキャラを演じようとするから失敗する。 今のシャルティアに必要なのは、賢さではなく、自分の強さへの自信だ。

 

前を行くアインズ様が、ふと足を止め、こちらを振り返った。

 

「どうした? 遅れているぞ」

 

「い、いえ! 今すぐ参りますわ、アインズ様!」

 

シャルティアが、嬉々として駆け寄っていく。アウラが「遅いー!」と茶化し、二人がまたギャーギャーと言い合いを始める。 アインズ様は、そんな二人を見て、やれやれといった様子だが、その雰囲気は決して悪くない。

 

俺は、その光景を後方から眺めながら、再び歩き出した。 アゼルリシア山脈の入り口、かつてのドワーフの都市への道は、もうすぐそこまで迫っていた。 俺の『お守り』の仕事は、ここからが本番だ。




遅れてすいませんでした。

挿絵のリクエストです。

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