ゼンベルの案内で、俺たちは雪深い山道を登りきり、ついにドワーフの国へと続く坑道の入り口にたどり着いた。 巨大な岩盤にぽっかりと開いたその穴は、まるで地獄の釜の蓋が開いたかのような、底知れぬ闇を湛えている。
「ここが入り口だ。この先は迷路みたいになってるから、俺から離れねえようにな」
ゼンベルが松明を掲げるが、アインズ様は片手を軽く振った。
「必要ない。……《集団全種族視覚強化(マス・フライ・ウィズ・オール・スピーシーズ)》」
アインズ様が魔法を唱えると、俺の視界が一変した。暗闇が晴れ、昼間のように周囲が見渡せるようになる。
(……便利だな、魔法って)
俺のローグ系スキルでも暗視は可能だが、こうしてパーティー全体にバフをかけられるのは、さすが魔法職の頂点だ。
「行くぞ。アウラ、警戒を怠るな」
「了解です、アインズ様!」
坑道の中は、静まり返っていた。 かつてはドワーフたちが掘り進め、活気に満ちていたであろう道も、今はただの冷たい石の廊下だ。 足音が反響するだけの空間。
「……静かすぎやしませんか?」
俺が呟くと、隣を歩くシャルティアが鼻を鳴らした。
「フン。ドワーフなどという種族は、土遊びがお似合いの下等生物。既に滅んでいるのではないかしら?」
「……シャルティア様。油断は禁物です。静寂こそが、最大の罠である場合もあります」
「分かっているわよ。あなたに言われなくとも、わらわの感知網に引っかかるものはまだいないわ」
口では悪態をついているが、シャルティアの目は真剣だ。彼女もまた、先程の会話を経て、少しは冷静さを取り戻しているらしい。ただ、その手には、いつでも武装を展開できるよう、力が込められているのが分かる。
(……やる気満々なのはいいが、フライングだけは勘弁してくれよ)
しばらく進むと、視界が開けた。 巨大な地下空洞。そして、そこに広がるドワーフの都市――『フェオ・ライゾ』。
だが、そこにはアインズ様が期待していた「生きた都市」の喧騒はなかった。 あるのは、圧倒的な静寂と、荒廃の気配だけ。 家屋は崩れ、通りには誰一人歩いていない。
「……無人の、廃墟か?」
アインズ様が、残念そうに呟いた。
「ゼンベル。ここは本当にお前の知っている都市か?」
「あ、ああ……。間違いねえ。だが、様子がおかしい。俺がいた頃は、もっとドワーフたちがいて、酒の匂いが充満してたんだが……」
ゼンベルも戸惑いを隠せない様子だ。
アインズ様は立ち止まり、周囲を見回した。
「八幡。お前の『目』で、ここをどう見る?」
ご指名だ。 俺は一歩前に出ると、都市の様子を観察した。腐った目(スキル)を凝らし、通常の視界では見えない痕跡を探る。 建物の壊れ方、地面に残る古い足跡、そして空気中に漂う微かな魔力の残滓。
「……単なる放棄された廃墟ではありませんね」
俺は冷静に分析結果を口にした。
「建物が内側からではなく、外側からの暴力的な力で破壊されています。それも、かなり最近……数ヶ月から数年以内でしょうか。火災の跡はありませんが、壁に残る爪痕のような傷……ドワーフの道具によるものではない。別の種族による侵略の可能性があります」
「侵略、か」
アインズ様が頷く。
「つまり、ドワーフたちはここを捨てて逃げたか、あるいは……」
「皆殺しにされたか、でありんすね」
シャルティアが、凶悪な笑みを浮かべて言葉を継いだ。
「アインズ様。もし侵略者がいるのであれば、このわらわが――」
シャルティアが殺気を放ちかけた瞬間、俺はすかさず一歩踏み出し、彼女の言葉を遮った。
「シャルティア様。敵の正体も規模も不明な段階での戦闘行為は、情報収集の機会を損ないます。まずは、生存者の捜索と、現状の把握が先決かと」
俺は、あくまで「副官としての進言」という体を崩さずに言った。 シャルティアは一瞬ムッとしたが、すぐにアインズ様の視線を気にして、コクリと頷いた。
「……ええ、そうね。八幡の言う通りだわ。わらわとしたことが、少し気が早かったようでありんす」
(……よし、止まった)
俺は内心で安堵の息を吐く。
「アウラ。何か気配はあるか?」
アインズ様が問うと、アウラは長い耳をピクリと動かした。
「うん、アインズ様。この都市には誰もいないみたい。でも……あっちの奥の方から、微かに音がするよ。何かを掘ってるような、叩いてるような音」
「掘っている音、か。生存者か、あるいは侵略者か」
アインズ様は少し思案した後、決断を下した。
「よし。音のする方へ向かう。だが、警戒レベルは最大だ。我々は交渉に来たが、相手が敵対するなら容赦はしない。……シャルティア、八幡」
「はっ!」
俺とシャルティアは同時に応える。
「シャルティアは、即座に戦闘に入れるよう準備しつつ、八幡の合図を待て。八幡は、前方の状況を解析し、敵か味方か、あるいは第三者かを見極めろ。……頼んだぞ」
アインズ様は、俺たちに「連携」を求めている。 暴走しがちな最強の矛と、それを制御する目。
「行きましょうか、シャルティア様」
俺は小声で囁いた。
「見せ場は、アインズ様がゴーサインを出してからですよ。それまでは、牙を研いでおいてください」
「フン。分かっているわよ。……貴様こそ、わらわの射線上に立ったら、背中から串刺しにしてあげるから気をつけなさい」
シャルティアは軽口を叩きながらも、その瞳には冷静な光が戻っていた。 どうやら、最悪のスタートだけは回避できたらしい。
俺たちは、音のする都市の奥深くへと、足を踏み入れた。 そこで待っているのが、ドワーフの生き残りか、それともこの廃墟を生み出した元凶か。 どちらにせよ、俺の『仕事』は増える一方だ。
挿絵のリクエストです。
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おまかせ
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八幡+シャルティア
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八幡+アルベド
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八幡+デミウルゴス
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八幡+コキュートス
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八幡+アウラ
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八幡+マーレ
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八幡+アインズ様
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八幡+メイド達