ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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あけましておめでとうございます。


骸骨、人事に悩む

アゼルリシア山脈への遠征から帰還し、ドワーフの国との国交樹立、ルーン工匠の確保、そしてクアゴアの従属という、これ以上ない成果を上げた私は、ナザリックの執務室で一人、報告書に目を通していた。

 

ふぅ、と息を吐く(アンデッドなので呼吸は必要ないが、気分の問題だ)。

 

今回の遠征は、私自らが赴くというプレッシャーもあったが、何とか『魔導王』としての威厳を保ったまま終えることができた。

だが、私が今、最も注目しているのは、この成果そのものではない。

 

私の手元には、二通の報告書がある。

一通はシャルティアからのもの。もう一通は八幡からのものだ。

 

シャルティアの報告書は、以前のような情緒不安定な乱れ文字ではなく、整然とした筆致で書かれていた。

内容は自身の功績を誇るだけでなく、反省点や、八幡との連携による戦術的効果について客観的に記されている。

あの『シャルティア』が、だ。

 

「……成長したな、シャルティア」

 

私は感慨深く呟いた。

 

ワーカー侵入時の失態以来、彼女は精神的に不安定だった。

空回りし、焦り、見ていて痛々しいほどだった。 それが、たった数日の遠征で、憑き物が落ちたように安定している。

その要因が何であるか、私は理解していた。

 

視線を、もう一通の報告書――八幡のものに移す。

そこには、事務的かつ簡潔に、クアゴアの間引き数、生存者の内訳、確保した資源、そしてシャルティアの行動記録が記されていた。

感情を排した、完璧な『業務日誌』だ。

 

「……比企谷八幡。やはり、彼は優秀だ」

 

私は椅子の背もたれに深く体を預け、天井を見上げた。

 

彼をシャルティアの副官につけたのは、一種の賭けだった。 器用ではあるとはいえ、相手は階層守護者。

難しいだろうと思っていたが、シャルティアの手綱を完璧に握り、彼女に花を持たせつつ、私の命令(虐殺の回避と情報の隠蔽)を遂行した。

 

「彼には、守護者ほどの強さはない。だが……」

 

彼は、他者を輝かせる術を知っている。

場の空気を読み、最悪の事態を回避するための『妥協点』を見つけ出し、組織を円滑に回す潤滑油となる。

これは、デミウルゴスやアルベドのような『天才的な知略』とはまた違う、もっと泥臭く、しかし実用的な『中間管理職』としての才能だ。

 

「彼を単独の諜報員として使うのは、もったいないかもしれん」

 

私は、新たな運用方法を思い描いた。

彼を『遊撃隊の副官』あるいは『守護者の補佐役』として固定する。

今回のように、力の制御が苦手なシャルティアや、実直すぎるコキュートスの側に彼を置けば、彼らの欠点を補い、ポテンシャルを最大限に引き出せるのではないか。

彼は、ナザリックに欠けていた『バランサー』になり得る逸材だ。

 

だが、私が彼に期待しているのは、それだけではない。

むしろ、ここからが鈴木悟としての本題だ。

 

私は机の引き出しから、一枚の羊皮紙を取り出した。

それは、さきほど八幡が提出してきた『休暇申請書』だ。

 

「……休み、か」

 

ナザリックのNPCたちは、忠誠心が高すぎる。

彼らにとって『アインズ様のために働くこと』が至上の喜びであり、休息を与えようとしても

 

「滅相もございません!」

「不眠不休で働けます!」

 

と返されてしまう。

ブラック企業も真っ青な労働環境だ。

私(鈴木悟)としては、彼らにホワイトな環境を提供したい。

彼らが私の子供のような存在であるなら、なおさらだ。

 

だが、誰もそれを望まない。

アルベドも、デミウルゴスも、セバスも。

 

しかし、比企谷八幡だけは違う。

彼は、平気な顔で「休みをください」と言ってくる。

 

「サボりたい」

「働きたくない」

というオーラを隠そうともしない。

ナザリック広しといえど、私に対して堂々と有給休暇を要求してくるのは、彼ただ一人だ。

 

「これは……チャンスかもしれん」

 

彼のような存在が、ナザリックに『新しい風』を吹き込んでくれるのではないか。

彼が積極的に休みを取り、それが「悪ではない」「むしろ効率を上げるための行為だ」ということを実証してくれれば、他の守護者たちの意識も変わるかもしれない。

 

「よし」

 

私は決心した。

彼を呼び出そう。

 

今回の任務の労をねぎらうと共に、今後の彼の処遇――『専属副官』としてのポジションについて打診する。

そして、何より重要な……『ナザリック働き方改革』についての意見を聞くのだ。

 

「彼なら、私の悩みを理解してくれるかもしれない。……いや、彼にこそ、この組織の『福利厚生担当』になってもらうべきか?」

 

私は少しだけワクワクしながら、アルベドを呼ぶためのベルに手を伸ばした。

 

「アルベド。比企谷八幡を執務室へ呼んでくれ。……ああ、重要な『面談』だ。邪魔が入らないよう時間を空けておいてくれ」

 

きっと彼は、呼び出されたことに対して「また面倒事か」と嫌そうな顔をするだろう。

あるいは、何か罰を与えられるのではないかとビクビクするかもしれない。

だが、すまない八幡。 これは、私とナザリックの未来のための、前向きな相談なのだ。

 

私は、久しぶりに期待に胸を膨らませていた。

この『捻くれた目』を持つ男が、私の胃痛の種である『ブラック企業・ナザリック』を、ホワイト企業へと変える鍵になるかもしれないのだから。

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
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