ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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リクエストの挿絵は1月の後半に出します


ぼっち、人事異動する

アゼルリシア山脈での長い任務を終え、俺はようやくナザリックへと帰還した。

泥と返り血に塗れた装備を外し、熱いシャワーを浴びて、自室のベッドにダイブする。

久方ぶりの、死ぬ心配のない空間。 俺は枕元に置いてある、ナザリック謹製の甘いコーヒー牛乳(マックスコーヒーの代用品)を一口すすった。

 

「……終わった」

 

報告書は、帰還直後にアルベドへ提出済みだ。

そして、その分厚い書類の束の最下段には、渾身の力を込めて書き上げた『有給休暇申請書』を忍ばせておいた。 どさくさに紛れて提出するという高等テクニックだ。

もしバレても「あ、混ざってました?」としらばっくれる予定だが、アインズ様の性格なら、功績に免じてハンコを押してくれる可能性が高い。

 

俺は天井を見上げ、ニヤリと笑った。

 

これで明日からは、誰にも邪魔されない至福の引きこもりライフが待っている。

目覚まし時計をかけずに眠り、本を読み、二度寝する。 これぞ、労働者の権利。これぞ、文明人の営み。

 

「……さて、寝るか」

 

俺が布団を頭まで被り、幸福な眠りにつこうとした、その時だった。

 

コンコン。

 

無慈悲なノックの音が、俺のささやかな平和を粉砕した。

 

「……誰ですか」

 

俺は布団の中から、極力気配を殺して問いかけた。居留守を使いたい。切実に。

 

「一般メイドのフォアでございます。八幡様、起きていらっしゃいますか?」

「……寝てます」

「アインズ様より、至急、執務室へ出頭するようにとのご命令です」

 

「……」

 

俺の思考が数秒停止した。

 

至急。出頭。

 

この二つの単語が意味するものは、ロクなことではない。

まさか、申請書がバレて怒っているのか?

それとも、シャルティアが帰還後に何かやらかして、連帯責任を取らされるのか?

 

「……分かりました。すぐに行きます」

 

俺は重い体を起こし、幸福の抜け殻(布団)から這い出た。

胃が痛い。 せっかくのリラックスムードは霧散し、代わりに社畜特有の憂鬱さが全身を支配する。

 

第九階層、アインズ様の執務室。 重厚な扉の前に立つと、俺の足取りは鉛のように重くなっていた。

 

「失礼します。八幡、参りました」

 

部屋に入ると、アインズ様は執務机の奥で、書類を手に座っていた。

その横には、俺が提出した報告書の束が積まれている。

そして、その一番上には……あの『有給休暇申請書』が置かれていた。

 

(……ああ、終わった。やっぱりバレてた) 俺は心の中で合掌した。

 

「うむ、来たか八幡。……休んでいるところを呼び立ててすまないな」

 

アインズ様の声は、意外にも穏やかだった。

 

「いえ……アインズ様のお呼びとあれば、いつでも」

 

「まずは座れ」

 

促されてソファに座る。俺は、まな板の上の鯉の心境だ。

 

「単刀直入に言おう。……今回の働き、見事であった」

 

アインズ様が口火を切った。

 

「ドワーフとの国交樹立、ルーン工匠の確保、そしてクアゴアの従属。全ての目的を完璧に達した。特に、シャルティアの制御に関しては、私の期待以上の成果だ。彼女の報告書を見ても、精神的に大きく成長したことが読み取れる」

 

「……はっ。恐縮です」

 

お褒めの言葉。ここまでは予想通りだ。

問題はここからだ。

 

アインズ様は、手元の『有給休暇申請書』を手に取った。 俺の心臓が早鐘を打つ。

 

「そして、これだが……」

 

アインズ様は、申請書をジッと見つめる。

 

「も、申し訳ありません! どさくさに紛れて提出するなど、不敬極まりないとは存じておりますが、決して仕事を放棄するつもりなど……!」

 

俺が必死に弁解の言葉を紡ごうとした、その時。

 

ポン。

 

乾いた音が響いた。 アインズ様が、手にしたスタンプを、申請書に力強く押したのだ。

そこには、真紅のインクで『承認』の文字が輝いている。

 

「……え?」

 

俺は呆気にとられた。

 

「許可する」

 

アインズ様は、ハンコの押された申請書を俺の方へ滑らせた。

 

「今回の任務は過酷だったろう。十分な休養が必要だ。申請通りの休暇を与える。……ゆっくり休むがいい」

 

「あ……ありがとうございます!!」

 

俺は深々と頭を下げた。 勝った。俺は勝ったんだ。

ナザリックというブラック企業で、正当な権利をもぎ取ったんだ!

俺の心の中で、ファンファーレが鳴り響く。

 

俺が申請書を大事に懐にしまい、退出の許可を待っていると、アインズ様がふと、声を潜めた。

 

「……さて、八幡。業務連絡は以上だ」

 

アインズ様は、どこか言いづらそうに、指を組んだ。

 

「ここからは……少し、個人的な相談に乗ってもらいたいのだが」

 

「……相談、ですか?」

 

休暇をもらえた高揚感で気が大きくなっていた俺は、安請け合いしそうになったが、アインズ様の真剣な眼差しに気圧された。

 

「ああ。……人事に関する、本気の相談だ」

 

アインズ様は、深くため息をついた(ように見えた)。

 

「八幡。お前は、このナザリックで唯一、私に対して堂々と『休みが欲しい』と申請してきた男だ」

 

「……は、はい(それは褒め言葉なんでしょうか?)」

 

「正直に言おう。私は……悩んでいる」

 

絶対支配者であるはずの魔導王が、弱々しく肩を落とした。

 

「他の守護者たちは、休みを与えても休まない。不眠不休で働くことが忠義だと思っている。……だが、私の元いた世界の基準で言えば、それは異常だ。いわゆる『ブラック企業』だ」

 

『ブラック企業』。

その単語が出た瞬間、俺とアインズ様の間にあった「支配者と下僕」という壁が、ガラガラと崩れ落ちた気がした。

 

「私は、彼らに休んでほしいのだ。ホワイトな環境を作りたいのだ。だが、私が『休め』と命じても、彼らは『アインズ様に見捨てられた』『役立たずだと思われた』と勘違いして、逆に精神を病んでしまう。……どうすればいいと思う?」

 

アインズ様は、すがるような目で俺を見た。

 

「お前なら分かるか? 労働者としての視点から、どうすれば彼らが、心安らかに休んでくれるようになると思う?」

 

(……この人、マジだ。本気で部下の働きすぎを心配してる)

 

俺は、懐に入れたばかりの休暇申請書の重みを感じながら、居住まいを正した。

休暇をくれた恩義もある。

何より、この「休み下手な同僚たち」のせいで、俺の休みが取りづらくなっている現状は打破せねばならない。

これは、俺自身の将来の安寧のためにも、重要なミッションだ。

 

「……恐れながら、アインズ様。率直に申し上げます」

 

「うむ。頼む」

 

「彼らが休まないのは、休むことが『悪』であり『怠慢』だと思っているからです。ナザリックにおいては『アインズ様のために働くこと』が至上の喜びであり、休むことはその喜びを放棄することと同義ですから」

 

「うむ……その通りだ」

 

「ですから、定義を変える必要があります」

 

俺は、腐った目で力説した。

 

「『休むこともまた、アインズ様への貢献(仕事)である』と」

 

「……ほう?」

 

「疲労した状態で働き続ければ、効率は落ち、ミスも増えます。それは結果としてアインズ様の利益を損なう。……逆に、適度に休み、万全の状態で働くことが、最も高いパフォーマンスを発揮し、アインズ様への最大の忠義となる。……そう思い込ませるのです」

 

アインズ様が、感心したように唸った。

 

「なるほど……。『休むこと=忠義』か。逆転の発想だな」

 

「はい。そして、そのためには『モデルケース』が必要です」

 

俺は続けた。

 

「誰かが率先して休みを取り、そしてリフレッシュした後に、以前よりも素晴らしい成果を上げてみせる。……『ああ、休むとこんなに良い仕事ができるんだ』という実例を、守護者たちに見せつけるのです」

 

アインズ様は、深く頷いた。

そして、その眼窩の奥の光を、ギラリと俺に向けた。

 

「素晴らしい意見だ、八幡。……つまり、お前だな?」

 

「……へ?」

 

「お前が、その『モデルケース』になってくれるというわけか。今回の任務で成果を上げ、そして休暇を取り、復帰後にさらなる成果を上げる。……お前こそが、ナザリックの新しい働き方を体現する存在だ!」

 

「あ、いや、私はただ、自分がだらだらしたいだけで……」

 

「よし、決めた!」

 

アインズ様は立ち上がり、高らかに宣言した。

 

「八幡! お前を『ナザリック労働環境改革推進・特別補佐官』に任命する! 今後は特定の部署に属さず、各守護者の副官をローテーションで務めながら、彼らに『正しい休みの取り方』と『効率的な働き方』を教育してやってくれ!」

 

俺は口を開けたまま固まった。

 

……副官のローテーション? 教育係? 特別補佐官?

 

「今回の休暇も承認するが、それはただの休みではない。『モデルケースとしての実証実験』だ。しっかりと休み、英気を養い、その効果をその身をもって証明してくれ。……期待しているぞ、八幡!」

 

俺は、手の中の承認済み申請書を見つめた。

休みは取れた。 だが、それは「休むこと自体が仕事」という、哲学的かつ逃げ場のない責務へと変貌していた。

 

「……善処、致します」

 

俺は深々と頭を下げた。 執務室を出た俺は、廊下の天井を仰いで、深いため息をついた。

 

(……結局、リラックスなんて夢のまた夢かよ)

 

俺の『ナザリック・ホワイト化計画』。

 

それは、俺自身の安眠を守るための戦いであり、同時に、この巨大組織の社畜体質を根底から覆すための、長きにわたる闘争の始まりだった。

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
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