ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

6 / 89
ぼっち、ワーカーになる?

俺は、黒い蛇と剣の意匠が彫られた重い扉を、ゆっくりと押し開けた。

キィ、と軋む蝶番の音。その先に広がっていたのは、俺の貧相な想像力を遥かに超える、『ザ・裏稼業』といった空間だった。

 

薄暗い室内。漂うのは、埃と安酒、汗、そして微かな血の匂いが混じり合った、淀んだ空気。

壁際には、使い古されたテーブルと椅子が雑然と置かれ、そこに座る者たちは一様に、新参者である俺に値踏みするような視線を突き刺してくる。

全身に傷跡を刻んだ筋骨隆々の戦士。フードを目深に被り、素顔を見せない魔術師らしき男。見るからにチンピラ上がりの若者グループ。その誰もが、まともな人間ではないことを全身で主張していた。

 

(うわぁ……気まずい。高校の入学式よりアウェー感あるんですけど……)

 

歓迎されているとは到底思えない視線の集中砲火を浴びながら、俺は内心で悪態をつき、顔には一切出さずに奥のカウンターへと向かった。

カウンターの向こう側で、分厚い帳簿に何かを書きつけていた男が、ゆっくりと顔を上げる。

片方の目は黒い眼帯で覆われ、もう片方の鋭い眼光が俺を射抜く。顔に走る古い傷跡が、彼の経てきた修羅場を物語っていた。この斡旋所の主だろう。

 

「……見ねぇ顔だな、小僧。ここはガキが肝試しに来るところじゃねぇぞ」

 

しゃがれた、ドスの利いた声。普通の子供なら泣いて逃げ出す場面だろう。

だが、残念ながら俺は第九階層の守護者たちという、この世の悪夢を煮詰めたような連中の顔を毎日見ている。目の前の男の威圧など、そよ風のようなものだ。

 

「仕事を探しに来た。『ハチ』だ」

 

俺が短くそう告げると、男――斡旋所の主は、意外そうな顔で俺を上から下まで舐めるように見た。

 

「ハチ、ねぇ……。そのナリで、腕は立つのか?」

 

その視線は、俺が身につけているナザリック製の装備の価値を、ある程度見抜いているようだった。

 

「それなりに、な」

 

俺は曖昧に答える。ここで下手に実力を見せびらかすのは愚策だ。目立つな、というデミウルゴスの命令が脳裏をよぎる。

 

主はしばらく黙って俺の目を見ていたが、やがてフンと鼻を鳴らすと、カウンターの裏から羊皮紙の束をいくつか取り出した。

 

「……まあいい。腕に覚えがあるなら、仕事はいくらでもある。死んでも文句は言うなよ」

 

彼はそう言うと、いくつかの依頼書をカウンターに並べた。

 

 

 

一つは、貴族の屋敷に忍び込み、不正の証拠を盗み出すというもの。報酬は破格だが、リスクが高すぎる。貴族と関わるのは面倒の種だ。却下。

一つは、最近勢力を伸ばしている盗賊団の討伐。これも戦闘がメインになる。目立ちすぎる。却下。

一つは、未踏の遺跡の調査。何が出てくるか分からない。論外だ。

 

 

 

俺の目的は、戦闘でも金儲けでもない。この世界の情報を、目立たず、地道に集めることだ。

俺は、依頼書の山の中から、一枚の地味な依頼書を抜き出した。

 

「……これで」

 

俺が指さした依頼書を見て、主は少しだけ眉を上げた。

そこに書かれていたのは、『帝都近郊の森に出没するようになった、薬草を食い荒らす害獣『グレイズ・ラット』の駆除』というものだった。報酬は、他の依頼に比べれば微々たるものだ。

 

「ほう……。もっと割のいい仕事に飛びつくかと思ったが、随分と謙虚じゃねえか」

 

「派手なのは性に合わん」

 

「……ちっ、面白ぇ小僧だ。いいだろう、その依頼、お前に任せる。森の薬草ギルドに顔を出して、詳しい場所を聞け。報酬は、駆除した鼠の尻尾の本数で支払われる」

 

俺が依頼書を受け取ろうとした、その時だった。

背後から、わざとらしい咳払いと共に、馴れ馴れしい声がかかった。

 

「おいおい、ゲッヘンのおっさん。そんなひよっこに仕事を回してやるなんて、親切じゃねえか」

 

振り返ると、派手な装備に身を包んだ四人組のワーカーが、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。リーダー格らしき剣士の男が、俺の肩を馴れ馴れしく叩く。

 

「坊主、悪いがその仕事、俺たち『クリムゾン・アーク』に譲っちゃくれねえか?お前さんみたいな駆け出しには、鼠退治もおっかねえ仕事だろう?」

 

取り巻きたちが、どっと下品な笑い声を上げる。

またテンプレートな絡みか。俺は内心でため息をついた。

 

「……興味ないんで。どうぞご自由に」

 

俺は男の手を振り払い、さっさとこの場を立ち去ろうとする。

だが、剣士の男は俺の依頼書をひったくると、代わりに別の依頼書を押し付けてきた。

 

「まあ、そう言うなよ。こっちのほうが、お前の得物にはお似合いだぜ?」

 

男が押し付けてきたのは、先程俺が却下した『盗賊団の討伐』の依頼書だった。

どうやら、面倒な討伐依頼を俺に押し付け、自分たちは楽な仕事で小銭を稼ごうという魂胆らしい。

 

「……」

 

一瞬、こいつらを黙らせようかという黒い衝動が頭をよぎる。

だが、俺は首を横に振ってその考えを打ち消した。ここで騒ぎを起こせば、それこそ奴らの思う壺であり、デミウルゴスの命令に背くことになる。

 

「……好きにしろ」

 

俺は盗賊団の討伐依頼をカウンターに置くと、何も言わずに斡旋所を出た。

背後から「だっせーの!」という嘲笑が聞こえたが、無視した。

 

外に出て、冷たい空気を吸い込むと、少しだけ頭が冷静になった。

結局、最初の仕事は横取りされてしまったわけだが、まあいい。仕事など、また探せばいい。

今日のところは、この街の地理をもう少し頭に入れておくことにしよう。

 

(まずは、この世界の『普通』を知るところから始めないとだな……)

 

情報収集の基本は、足で稼ぐことだ。それは、元の世界で奉仕部がやってきたことと何も変わらない。

俺は帝都の喧騒の中に再び足を踏み出した。

ワーカー『ハチ』の本当の初仕事は、まだもう少し先になりそうだった。

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。