ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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遅れてすんません。

挿絵も少しづつですが、進めています。


ぼっち、吸血鬼の副官になる

『ナザリック労働環境改革推進・特別補佐官』

 

アインズ様から授かった、やたらと漢字の多いこの肩書きが、俺の新たな重荷となっていた。

要するに、「守護者を休ませろ。そのための手本を見せろ」という無茶振りだ。

 

そして、俺が最初の「改革対象」として選ばされたのは、アゼルリシア山脈での遠征で一応の信頼関係を築けた、第一〜第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールンだった。

 

俺は現在、彼女の執務室(第三階層にある『死蝋玄室』の一角)にいた。

 

まずは現状把握だ。

 

「……というわけで、シャルティア様。貴女の普段の業務スケジュールを教えていただけますか?」

 

俺はメモ帳を片手に尋ねた。

 

シャルティアは、豪奢な椅子に足を組んで座り、不思議そうに首を傾げた。

 

「業務? ……そうでありんすね。まずは日の入りと共に行動し、第一から第三階層の巡回。配置されたアンデッドたちの状態確認。侵入者対策の罠の点検。ヴァンパイア・ブライドたちへの指導。その後、アインズ様への定時報告書の作成……」

 

彼女はスラスラと答えていくが、その内容は凄まじいものだった。

24時間体制の警備管理。部下の育成。事務処理。

さらに、先の失敗(精神支配)を繰り返さぬよう、空き時間は全て精神修行の鍛錬に費やしているという。

 

「……あの、休憩時間は?」

「休憩? 移動の合間にお茶を飲むくらいでありんすね」

「睡眠は?」

「アンデッドに睡眠は不要でありんす。精神を休めるための瞑想はするけれど、基本的には不眠不休でアインズ様のために働いているわ」

 

シャルティアは胸を張って言った。

 

「それが、至高の御方に造られた守護者としての誇りでありんすから!」

 

(……真っ黒だ。漆黒だ。ナザリックの社畜精神、ここに極まれり)

 

俺は乾いた笑いを浮かべながら、ペンを走らせた。

これでは、「疲れるから休め」と言っても通じるはずがない。

彼女にとって「休むこと」は「サボり」であり、存在意義の否定なのだ。

 

「シャルティア様。……ここで一つ提案なのですが、明日は『休暇』を取りませんか?」

 

俺は、恐る恐る切り出した。

 

「は?」

 

シャルティアの目が赤く光った。

そして、即座に釣り上がった。

 

「貴様、何を言っているの? アインズ様のために働く時間を捨てろと言うの? わらわに、また役立たずになれと!?」

 

殺気が部屋に充満する。

やはり、正面突破は無理か。

 

「落ち着いてください。これはアインズ様のご意志でもあります。……効率の話ですよ」

 

俺は、アインズ様直伝(というか俺が吹き込んだ)理論を展開しようとした。

 

「人間の筋肉も、酷使し続ければ断裂します。精神も同じです。一度緩めることで、次に締める時のバネが強くなる。つまり、より良い仕事をするための戦略的休息です」

 

「……人間の理屈を、守護者に当てはめないで欲しいでありんすね」

 

シャルティアは鼻で笑った。

 

「わらわの忠誠心は、疲労などで摩耗したりしないでありんす。休む暇があるなら、一つでも多くアインズ様の役に立つことを探す。それがわらわの愛でありんす!」

 

取り付く島もない。

「愛」という言葉が出た時点で、論理的な説得は不可能だ。

なら、攻めるべきはそこだ。

 

俺は、メモ帳を閉じ、深いため息をついてみせた。

 

「……なるほど。貴女のアインズ様への愛は、その程度ですか」

 

「なんですって!?」

 

シャルティアが椅子を蹴って立ち上がった。

 

「貴様、今なんと言った!? わらわの愛が足りないと言うの!?」

 

「ええ。だって貴女は、『働くこと』=『愛』だと勘違いしている。……アインズ様が本当に喜ばれるのは、貴女がただ命令をこなすことだけでしょうか?」

 

俺は、腐った目を細めて、悪魔の囁きを開始した。

 

「例えば……そう、休暇を取って、その時間を使って『アインズ様への個人的なプレゼント』を手作りする、というのはどうです?」

 

「プ、プレゼント……?」

 

シャルティアの怒気が、困惑に変わった。

 

「ええ。業務としてではなく、貴女個人の時間を使って、貴女の愛がこもった物を一から作るんです。手編みのマフラーでも、刺繍入りのハンカチでもいい。……アインズ様は、そういう『心のこもった贈り物』に、何より弱いお方ですよ」

 

ピクリ、とシャルティアの耳が動いた。

 

「考えてもみてください。アルベド様は、守護者統括として常にアインズ様の側にいらっしゃいます。業務の上では、彼女に勝つのは難しい」

 

俺は、決定的な一言を放った。

 

「ですが、アルベド様も忙しい。彼女が書類仕事に追われている間に、貴女が休暇を取り、愛のこもったプレゼントを作り上げたら……どうなりますか?」

 

「……業務以外のプライベートな贈り物……。アルベドにはできない、わたしだけの『愛』の形……」

 

シャルティアの瞳が、妖しく輝き始めた。

脳内でシミュレーションが始まったようだ。

 

(プレゼントを受け取り、感動するアインズ様。そして、歯噛みして悔しがるアルベド)

 

その光景がありありと浮かんでいるのだろう。

 

「……そ、それは、盲点だったでありんす」

 

シャルティアは、頬を紅潮させ、俺に詰め寄った。

 

「そうね、そうよ! アインズ様のために休みを取る……いいえ、アインズ様のための『愛の準備期間』を設ける! これこそが、真の忠義でありんすね!?」

 

「その通りです。さすがシャルティア様、お目が高い」

 

俺は心の中でガッツポーズをした。

 

(チョロ。……いや、純粋すぎる)

 

「いいわ、八幡! 貴様の提案に乗ってあげる! 明日から一週間、わらわは休暇を取るわ! その間、通常の業務は副官である貴様に一任するでありんす!」

 

「……へ? 一週間? 一任?」

「当然でしょう。わらわはプレゼント作りに集中するのだから、雑務は貴様がやりなさい」

 

シャルティアはそう宣言すると、大量の裁縫道具を抱えて奥の私室へと引っ込んでしまった。

残されたのは、俺と、山積みの書類、そして困惑顔のヴァンパイア・ブライドたち。

 

……あれ? 俺も一緒に休む(という名目でダラダラする)計画だったのだが。

まあいい。守護者の業務といっても、基本は優秀な部下に丸投げでいいはずだ。

俺は適当に執務室で本でも読んでいれば……。

 

そう思い、俺はシャルティアが残していった『業務マニュアル』と『当番表』に目を通した。

そして、数秒で眉間を押さえた。

 

(……なんだこれ。馬鹿なのか?)

 

そこには、狂気的なまでの非効率が羅列されていた。

『第一階層から第三階層までの全フロアを、一時間ごとに目視確認』

『侵入者検知の罠の魔力充填率を、0.1%単位で毎日記録』

『アインズ様の偉大さを讃える詩の朗読会(強制参加)』

 

これでは、部下たちが休めるわけがない。

シャルティアの「アインズ様への愛」が暴走し、無意味な確認作業や儀式的な業務が雪だるま式に増えているのだ。

これでは、いずれ現場がパンクしてミスが起きる。

そしてその責任は、代理である俺に来る。

 

「……おい、そこの君」

 

俺は、リーダー格のヴァンパイア・ブライドを呼んだ。

 

「は、はい! 何か処罰でしょうか!?」

 

彼女はビクリと震えた。どうやら、普段からかなり詰められているらしい。

 

「違う。……この業務フロー、今日から変更する」

 

俺は赤ペンを取り出し、マニュアルに容赦なく斜線を引いていった。

 

「まず、一時間ごとの全フロア巡回は廃止。重要拠点だけのスポット監視に切り替えて、巡回は六時間に一回で十分だ。アンデッドなんだから、センサー系の知覚スキルを使えば済むだろ」

「えっ……で、ですが、シャルティア様が『目視こそ愛』だと……」

「視覚情報に頼りすぎると幻術に引っかかる。感知スキルの方が確実だ。……これは『防衛精度の向上』だ。文句あるか?」

 

俺は屁理屈――いや、もっともらしい理由をつけて、次々と無駄を削ぎ落としていく。

 

「罠の魔力記録も毎日やる必要はない。週一回の点検に変更。異常値が出た時だけ報告しろ」

「朗読会は廃止。その時間で瞑想でもしてMPを回復させろ。疲労した頭で讃えられてもアインズ様は喜ばない」

「報告書は日報じゃなく週報でいい。緊急事項以外はまとめるように」

 

俺が淡々と指示を出すたびに、ヴァンパイア・ブライドたちの目が、まるで救世主を見るかのように輝きだした。

 

「そ、そんな……! 本当に休んでもよろしいのですか?」

「サボりじゃない。効率化だ。……お前らが過労で倒れて、アインズ様の威光に泥を塗るような事態を避けるための、リスクマネジメントだ」

 

俺は、修正したシフト表を彼女に渡した。

 

「浮いた時間は自由に使え。肌のケアでも、装備の手入れでも好きにしろ。……その方が、シャルティア様の部下として恥ずかしくないだろ」

 

ヴァンパイア・ブライドたちは、震える手でシフト表を受け取ると、一斉に深々と頭を下げた。

 

「あ、ありがとうございます……! 八幡様……いえ、副官殿!」

「ああ、体が軽い……! これで久方ぶりに生き血のパックでお茶ができますわ!」

 

(……よし。これで現場の業務量は半分以下になった。俺のところに上がってくる書類も激減するはずだ)

 

俺は満足げに頷いた。 自分が楽をするために環境を整える。

これぞ社畜の生存戦略。

これで、俺は執務室のソファで優雅に読書を楽しめる――。

 

「それと、八幡」

 

背後から、ガシッと腕を掴まれた。

振り返ると、裁縫道具を手にしたシャルティアが、目を血走らせて立っていた。

 

「貴様は『男』でありんしょう?」

「え、まあ、生物学的には」

「ならば、アインズ様(男性)の好みも分かるはず。……相談に乗んなさい」

「……はい?」

 

こうして、俺の「優雅な副官ライフ」の目論見は、業務改革の成功と同時に崩れ去った。

現場の業務?

そんなものは、俺に心酔した優秀なヴァンパイア・ブライドたちが、涙を流しながら完璧にこなしてくれた。

彼女たちは、俺がシャルティアに連行される姿を見て、「副官殿が私たちの身代わり(生贄)に……!」と合掌していた気がする。

 

翌日からの一週間は、地獄だった。

問題は、シャルティアだ。

 

『八幡! こっちに来なさい! アインズ様には赤と紫、どちらの糸が似合うと思う!?』

『八幡! 至急出頭せよ! クッションの中身は不死鳥の羽とドラゴンの髭、どっちが安眠できるのかしら!?』

 

ことあるごとに呼び出され、朝から晩まで「アインズ様へのプレゼント相談」に付き合わされた。

俺が業務を効率化して暇を作ったせいで、俺自身がいつでも呼び出せる「フリー素材」になってしまったのだ。

 

「ああ、見て、この肖像画のアインズ様! この眼窩の深淵さ! まるでブラックホールのようにわらわを吸い込む……! ステキ……!」

「アインズ様の素晴らしいところ、その1。声が良い。あの重低音が鼓膜を震わせるたびに、わらわの子宮がキュンとなるの……!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

最終的には、数時間に及ぶ「アインズ様がいかに素晴らしいか」というプレゼン(のろけ話)を聞かされ続けるハメになった。

俺は死んだ魚のような目(元々)で、ただの相槌マシーンと化すしかなかった。

 

(……業務改善なんてするんじゃなかった。忙しいフリをしておけばよかった……!)

 

一週間後。

目の下にくっきりとしたクマを作った俺は、完成した「手刺繍入りのローブ(アインズ様用)」を抱えてご満悦なシャルティアを見送りながら、深く後悔していた。

だが、その背後で、肌艶が良くなり生き生きとしたヴァンパイア・ブライドたちが「八幡様、お疲れ様です!」と差し入れを持ってくるのを見て、少しだけ複雑な気分になるのだった。

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
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