アインズ様から「執事セバスの元へ行け」という勅命を受けた俺は、第九階層にあるメイドたちの詰め所へと向かった。
だが、あいにくと言うべきか、当のセバスさんは外出中だった。
どうやら、王都での諜報活動か何かの任務に出ているらしい。
「……というわけですワン。セバス様は数日はお戻りにならないかと思いますワン」
代わりに対応してくれたのは、メイド長のペストーニャ・ショートケーキ・ワンコだった。
二足歩行する犬の頭を持つ彼女は、見た目のインパクトこそ凄まじいが、口調は穏やかで、醸し出す雰囲気は完全に「慈悲深いオカン」のそれだ。
「そうですか。では、ペストーニャさんに現状をお伺いします」
俺は気を取り直して、メモ帳を開いた。
「現在、一般メイドたちのシフト体制について、アインズ様が懸念されています。具体的には、24時間勤務のワンオペについてですが」
ペストーニャは、困ったように眉(犬にあるのか?)を下げた。
「確かに過酷に見えるかもしれませんが、彼女たちには当番の前日に『非番(休み)』を与えていますワン。41人で回しているので、しっかりと休息は取れているはずですが……あ!ワン」
「その『休み』の日、彼女たちは何をしているんですか?」
「基本的には自室で体を休めているか、共有スペースで待機していますワン。……ただ、特にやることもないので、次の勤務に備えて瞑想している子が多いですワン」
「……やることもない?」
俺はその言葉に引っかかりを感じた。
ナザリックには第九階層に豪華なスパリゾートやバーがあるはずだ。
アインズ様も「自由に使っていい」と言っていたはず。
「彼女たちは、リゾート施設を使わないんですか?」
「恐れ多くて近づけないというのが本音でしょうワン。それに、彼女たちは掃除と奉仕のために生み出された存在。……『遊び方』を知らないのですワン」
なるほど。
俺は詰め所の奥にある、メイドたちの共有スペース(休憩室)を覗き見た。
そこには、非番のメイドたちが数人いた。
だが、会話はない。
ただ椅子に座り、虚空を見つめているか、無言で指先の手入れをしているだけ。
まるで、電源の切れたロボットだ。
(……これはキツい。肉体的な疲労より、精神的な摩耗が早そうだ)
仕事は完璧でも、これでは「心」が死ぬ。
彼女たちに必要なのは、単なる休息時間ではない。
『没頭できる娯楽』と『自分らしさ(個性)の表現』だ。
「……ペストーニャさん。少し、実験をさせてください」
俺はアインズ様の許可を取り付け、即座に行動を開始した。
まずは自室に戻り、部屋にあったの本――ライトノベルやファッション雑誌などを段ボールに詰め込んだ。
さらに、アインズ様に頼んで「帝国」へ転移門を開いてもらい、市場で高級な布地や装飾用の鉱石を大量に買い付けた。
そして、それらを持ってナザリックの鍛冶場へ向かった。
そこには、至高の御方々が去って以来、腕を振るう機会がなく暇を持て余していた鍛冶職人(スミス)たちがいた。
「……すみません、皆様。少しお時間をよろしいでしょうか?」
俺はあくまで丁寧な口調で声をかけた。
鍛冶職人の親方が、ハンマーを置いて、ぎこちなくこちらを見た。
「あー……えっと、八幡の旦那……いや、様? 俺たちゃあ、その……何か仕事か?」
俺がアインズ様の客人(部下)だから、失礼がないように必死なのだろう。
「ええ、そうです。今回お願いしたいのは、アインズ様直属の一般メイドたちが身につける装飾品なのです」
俺は、わざとらしく困った顔をしてみせた。
「彼女たちは、アインズ様の御身の世話をする方々です。……もし、半端な出来の物を身につけさせてしまえば、アインズ様の顔に泥を塗ることになりますが……皆様の腕なら、大丈夫ですよね?」
「……!!」
親方の目の色が変わった。職人魂に火がついたようだ。
「そ、そいつぁ聞き捨てならねぇ……です! アインズ様の顔に泥なんざ塗れねぇっすよ!」
「任せてくだせぇ! 繊細かつ優美な……そう、至高の逸品を作り上げてみせますんで! ハイ!」
「期待していますよ」
準備は整った。
俺は再びメイド詰め所に戻り、殺風景だった休憩室の一角を改造した。
本棚を設置し、テーブルには職人たちが(恐ろしいほどのクオリティで)作り上げた、色とりどりのアクセサリーと布地を並べた。
「――本日より、週に一回の『教養および服飾研究の日』を設けます」
集められた非番のメイドたち(フォアを含む)とペストーニャの前で、俺は宣言した。
「ただ休むだけじゃ暇でしょう。この時間は、ここに置いてある本を読んだり、アクセサリーを選んで身につけたりして過ごしてください」
メイドたちがざわめいた。
「本……ですか? 私たちが?」
「アクセサリーなんて……制服の規定が……」
「それに、私たちのような者が着飾るなんて、おこがましいのでは……」
彼女たちの躊躇いはもっともだ。
だからこそ、俺はここぞとばかりに「アインズ様の威光」を借りることにした。
「アインズ様の許可は得ています」
俺は、皆を見渡して、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「アインズ様は、貴女がた全員の名前と顔を、完璧に把握されています。」
メイドたちが、はっと息を呑む。
「ですが、アインズ様はこのようにも仰っていました。『私の可愛い娘たちが、ただ仕事をするだけでなく、年頃の娘らしくオシャレを楽しみ、笑顔でいてくれること。……それを見るのが、私の喜びだ』と」
もちろん、これは俺の意訳(捏造含む)だが、アインズ様ならあながち否定しないはずだ。
「つまり、貴女たちがオシャレをして、心から楽しそうに笑っている姿をお見せすること。……それこそが、アインズ様への最大の『貢献』であり、親孝行なんですよ」
「アインズ様が……喜びだと……!」
「私たちの笑顔が……貢献……!」
メイドたちの瞳に、涙が浮かび始めた。
ただの労働者としてではなく、「娘」として愛されている。
その事実は、彼女たちの心を劇的に動かした。
「さあ、好きなものを選んでください。……ただし、あまり派手すぎるのは禁止です。あくまで『清楚な美しさ』を磨くこと。それが公序良俗を守るナザリック・メイドの嗜みですからね」
最初はおっかなびっくりだった彼女たちだが、一人のメイド――先日絆創膏をあげたフォアが、決意したように手を伸ばした。 彼女が選んだのは、小さな青い花のついたヘアピンだった。
「……八幡様。これ、つけてもいいですか?」
「ええ。……似合ってると思いますよ」
俺がそう言うと、フォアは花が咲いたような笑顔を見せた。
それを皮切りに、他のメイドたちも次々とアクセサリーを手に取り始めた。
「私はこのリボンがいい!」
「この本、挿絵が綺麗……!」
「ねえ、私の髪型、これに変えてもいいかしら?」
休憩室に、初めて「華やいだ空気」が生まれた。
彼女たちは鏡の前で互いに飾りを見せ合い、本を読んで感想を語り合う。
そこにあるのは、ただの休息ではない。
「明日、アインズ様に一番可愛い私を見ていただく」という、前向きなエネルギーだ。
「……驚きましたワン」
ペストーニャが、目を丸くしてその光景を見ていた。
「あの子たちが、こんなに楽しそうに笑うなんて……。ただ休ませるだけではダメだったのですね。あ!ワン」
「ええ。人間もホムンクルスも、適度なガス抜きと楽しみがないと、良い仕事はできませんから」
俺は壁に寄りかかり、コーヒー牛乳をすすった。
こうして、ナザリックのメイド隊に『週一回の自分磨き休暇』が定着した。
後日、アインズ様の部屋の掃除当番に入ったフォアが、緊張した面持ちで水差しを整えていた時のことだ。
執務の手を止めたアインズ様が、ふと彼女の方を見て、優しく声をかけた。
「お。……そのヘアピン、似合っているな」
その瞬間、フォアの動きが止まった。
「……へ?」
「青い花か。フォアの髪色によく映えているぞ」
アインズ様のその何気ない褒め言葉に、フォアは目を見開き、花が咲いたような笑顔を見せた。
「あ、ありが……ありがとうござい……ますっ……!実はこれ、八幡様にも似合っていると勧められたもので!」
「ほぉ〜、あの八幡が!詳しく聞かせてくれ」
「……!はい!八幡様は前に私の左手薬指に……」
その後、フォアの話を聞いたアインズ様がちょっとした勘違いを起こしたのは別の話。
だが、これで終わりではない。 この「メイド改革」は、ナザリックの『武力』を担う戦闘メイド集団の耳にも届くことになる。
そして、帰還した『正義の執事』との対話が、俺を待っていた。
次はもうちょい先になりそうです。
色々とコメントありがとうございます。
大切に読ませてもらってます。
挿絵のリクエストです。
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