ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、普通を知る

結局、初仕事はチンピラに横取りされるという、実に俺らしいスタートを切ってしまった。

だが、それで腐るほど俺のメンタルはヤワではない。むしろ、面倒な戦闘を回避できただけ儲けものだとすら思う。

俺は斡旋所での一件を早々に思考の外に追いやり、改めて帝都アーウィンタールの散策を始めた。目的は、この世界の『普通』を知ること。デミウルゴスから与えられた知識はあくまでデータだ。自分の目で見て、肌で感じなければ、本当の意味で理解したことにはならない。

 

 

まず向かったのは、街で最も活気のある商業地区だった。

石畳の道沿いに、様々な店が軒を連ねている。武具屋の店先には、鈍い輝きを放つ剣や鎧が並び、薬屋からは独特の薬草の匂いが漂ってくる。市場の広場では、色とりどりの野菜や果物、干し肉や魚などが山と積まれ、威勢のいい売り声と、値切る客の声が混じり合って、一種のBGMを形成していた。

 

「……」

 

俺は、リンゴのような果物を一つ手に取ってみる。

 

「兄ちゃん、それかい? 瑞々しくて美味いよ。一つ銅貨3枚だ」

 

店主の言葉に、俺はデミウルゴスから渡された金銭の価値を思い出す。銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚。つまり、この果物一つが日本円にして約30円といったところか。パン一つが銅貨5枚。安宿の素泊まりが銀貨2枚。

 

渡された金貨の入った袋の重みを確かめる。これだけあれば、豪遊とは言わずとも、数ヶ月は働かずに暮らしていけそうだ。しないけど。

 

物価を肌で感じながら歩いていると、ひときわ大きく、立派な建物が目に入った。

建物の前には、真新しい装備に身を包んだ若者たちが、希望に満ちた顔で出入りしている。

 

『冒険者ギルド 帝国支部』

 

掲げられた看板を見て、俺は先程の斡旋所の薄暗い光景を思い出し、乾いた笑みを浮かべた。

 

「……あっちは公務員で、こっちは非正規のフリーターみたいなもんか」

 

いや、依頼によっては非合法なこともやるワーカーは、フリーター以下かもしれない。

冒険者は、ギルドという組織に守られ、社会的な地位も名誉も得られる、いわば『表』の存在。対してワーカーは、何の保証もなく、汚れ仕事を引き受けるしかない『裏』の存在。

どちらが性に合っているかと問われれば、間違いなく後者だろう。日の当たる場所というのは、どうにも落ち着かない。

 

次に俺が向かったのは、市の中心部にあるという公立の図書館だった。

デミウルゴスほどの知性はないが、本を読んで情報を集めるのは嫌いではない。むしろ、人と話すよりずっと楽だ。

幸い、簡単な手続きで一般市民向けの書庫に入ることができた。俺は歴史や地理、博物学に関する本を片っ端から手に取り、読みふけった。

 

八欲王、六大神、十三英雄……。

この世界の成り立ち、かつて存在したという伝説のプレイヤーたちの痕跡。魔神戦争の顛末。周辺国家との関係。

デミウルゴスから教えられた知識が、文字として頭に入ってくることで、より深く、立体的に理解できていく。

この世界は、俺が考えていたよりもずっと複雑で、長い歴史を持つ、紛れもない『現実』なのだ。

 

数時間後、すっかり日も傾いた頃に図書館を出た俺は、夕食をとるために、昨日とは別の食堂に入った。

注文したエールと黒パン、塩気の効いた豆のスープをゆっくりと味わいながら、俺は意識的に周囲の会話に耳を澄ませる。

 

「おい、聞いたか? 鮮血帝陛下が、近々大規模な騎士団の閲兵式を行うらしいぜ」

 

「また王国への牽制か? あの若き皇帝陛下は、本当にやることが抜け目ねえ」

 

「カッツェ平野の方じゃ、最近アンデッドがやけに増えてるって話だ。冒険者ギルドも依頼を出してるらしいが…」

 

「うちの息子が騎士団に入ったんだが、最近訓練がえらく厳しいとぼやいてたな。何か大きな動きがあるのかもしれん」

 

断片的で、信憑性も定かではない噂話。

だが、これこそが、俺が求めるべき『生きた情報』だった。

皇帝の動向、周辺地域の異変、市民の感情。これらを繋ぎ合わせ、分析することで、帝国の、ひいてはこの世界の大きな流れが読めてくる。

 

食事を終え、宿に戻る頃には、街はすっかり夜の闇に包まれていた。

部屋の窓から、ランタンの灯りが点々と灯る帝都の夜景を眺めながら、俺は一日の成果を頭の中で整理する。

 

 

この世界の『普通』。

 

 

それは、剣と魔法が存在するファンタジーでありながら、人々が悩み、働き、笑い、噂話に興じる、俺がいた世界と何ら変わらない日常だった。

そして、その『普通』を知れば知るほど、ナザリックという存在がいかに異常で、この世界の常識からかけ離れているかを痛感させられる。

アインズ様や守護者たちの圧倒的な力と価値観は、この慎ましい日常を、赤子の手をひねるより容易く破壊し尽くせるだろう。

 

俺の任務は、そのための露払いだ。

そう考えると、少しだけ気が重くなる。

 

「……まあ、考えても仕方ないか」

 

俺は思考を打ち切ると、ベッドに横になった。

まずは、ワーカー『ハチ』として、この街に確かな足場を築くことが先決だ。

そのためには、やはり何か一つ、仕事をこなして実績を作る必要がある。

 

「……あの鼠退治、か」

 

チンピラ共に横取りされた、地味な依頼。

だが、薬草ギルドに顔を出せば、何か新しい情報が得られるかもしれない。それに、依頼の内容自体はまだ有効なはずだ。誰かが達成するまでは。

 

「……よし」

 

明日の方針が決まった。

まずは、薬草ギルドとやらに行ってみるか。

もしかしたら、あのチンピラどもより先に、仕事を片付けられるかもしれない。

そんなことを考えながら、俺はゆっくりと目を閉じた。異世界に来て、初めて迎える、目的のある朝のために。

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
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