ナザリック地下大墳墓、第十階層。
至高の支配者の執務室にて、私――アインズ・ウール・ゴウンは、提出された最新の労働状況報告書を読みながら、骸骨の顔の奥で「ふふふ」と満足感に浸っていた。
(よしっ! 完璧だ。完璧すぎるぞ八幡!)
プレアデスはお茶会でリラックスし、セバスはエスコート術に磨きをかけ、双子も子供らしく遊び、あのデミウルゴスとアルベドまでもが「休暇」を肯定的に捉えるようになった。
ブラック企業の社畜として過労死寸前まで働いていた鈴木悟にとって、自分の作った組織が「ホワイト化」していく様子を見るのは、何物にも代えがたい喜びだった。
(八幡を特別補佐官に据えたのは、我ながら神の一手だったな……)
彼の組織の歪みを鋭く突く「ひねくれた視点」を持っていたことが功を奏した。彼のような、良い意味でナザリックに染まりきっていない人材こそが、今の私には必要だったのだ。
(これだけの功績だ。八幡には何か特別なご褒美(ボーナス)をあげないとな……。金貨か? いや、彼はそういうのを面倒臭がるタイプだ。後でじっくり、一番喜ぶものを考えておこう)
私は、八幡への報酬の件を一旦頭の隅に置き、机の上の「別の書類」へと視線を移した。
途端に、存在しない胃がキリキリと痛み始める。
それは、休暇から復帰したデミウルゴスが嬉々として提出してきた、次なる大規模作戦の計画書。
『ヤルダバオトによる聖王国侵攻と、魔導王(アインズ様)の威光を世界に示すための壮大なるマッチポンプ計画』
(…………はぁ)
思わず、深いため息が漏れた。
デミウルゴスは「アインズ様なら既にお見通しでしょうが」というスタンスで計画を進めているが、正直に言おう。私は、彼が何を考えているのか、その計画の全貌が1割くらいしか理解できていない。
聖王国に行って、ヤルダバオト(デミウルゴス)と戦うフリをして、聖王国の人々を助けつつ恩を売る……大枠は分かる。
だが、その過程でどう動けば「さすがアインズ様!」というデミウルゴスの期待(一万年先を見据えた謎の計画)に応えられるのか、さっぱり分からないのだ。
(一人で聖王国に行くのは……胃が痛すぎる。八幡を連れて行けたら、私の代わりにデミウルゴスの意図を通訳してくれそうなんだが……)
私はチラリとそんな誘惑に駆られたが、すぐに首を振った。
(いや、ダメだ。聖王国は泥臭い戦場になるし、何より八幡は労働環境改革という大仕事を終えたばかりだ。)
聖王国の件は、私自身が腹を括ってなんとかするしかない。
しかし、私が長期間ナザリックを空けるとなると、別の問題が浮上する。
(魔導国の内政と……属国となった『帝国』の扱いだ)
バハルス帝国の皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。
彼は現在、我が魔導国への恭順を示しているが、その精神状態はかなり不安定だと聞いている。元営業マンである私には分かる。彼は「優秀すぎるがゆえに、見えない恐怖に怯えてパンク寸前」なのだ。
さらに、魔法詠唱者のフールーダ。彼は知識への渇望が強すぎて、扱いを間違うと暴走しかねない。
私が聖王国にかかりきりになっている間、誰かが彼らの手綱を握り、帝国の不満や暴発を抑えておく必要がある。
(……待てよ?)
そこで、私の脳裏にピコーン! と閃きが舞い降りた。
(八幡は以前、帝国に内偵に行っていて、現地の事情に詳しいはずだ。それに、彼特有のあの『物事を俯瞰で見れる目』と『ひねくれた人間観察眼』……あれなら、ジルクニフ殿の疑心暗鬼を上手くいなせるのではないか?)
同じく『頭が回るがゆえの苦悩』を抱える(と私が勝手に思っている)八幡なら、ジルクニフ殿の扱いなどお手の物だろう。
(よし、名案だ! 私が聖王国に出向いている間、八幡には帝国の件(ジルクニフとフールーダの管理)を進めてもらおう。ついでに、アルベドやデミウルゴスと協力して、ナザリックと帝国の間に生まれる内政や細々とした調整も上手くやっておいてもらえれば完璧だ!)
泥臭い戦場には連れて行かず、ナザリックの安全で涼しい執務室で、アルベドたちと共に知的な外交・内政業務に専念してもらう。
肉体労働を嫌う彼にとっても、これは悪い話ではないはずだ。
「――八幡か。至急、十階層へ来てくれ。……お前に、少し頼みたい仕事ができた」
私は、自分の完璧な采配に酔いしれながら、通信アイテム越しに上機嫌な声を出した。
一方その頃
。
自室で「ふぅ、これでようやく守護者連中の相手から解放される……。あとは適当な理由をつけて一週間くらい寝て過ごそう」と、人生最高の安らぎを噛み締めていた比企谷八幡は。
『アルベドとデミウルゴスというナザリックの二大怪物と同室で内政をこなしつつ、疑心暗鬼の塊である皇帝ジルクニフのメンタルケアと、狂った老魔術師フールーダの監視を一手に引き受ける』
という、聖王国の戦場に行くよりも遥かに精神を削られる『地獄のワンオペ留守番任務』が自分に降りかかろうとしていることなど、知る由もなかったのである。
挿絵のリクエストです。
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おまかせ
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八幡+シャルティア
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八幡+アルベド
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八幡+デミウルゴス
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八幡+コキュートス
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八幡+アウラ
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八幡+マーレ
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八幡+アインズ様
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八幡+メイド達