ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、理想の上司?

アインズ様から「三週間の有給休暇(という名の死刑執行前の猶予)」と「視察ミッション」を言い渡された俺は、重い足取りで第一〜第三階層へと向かった。

 

(……まずはシャルティアのところのヴァンパイア・ブライドたちか。どうせまた、「もっと業務を効率化して休みをください!」みたいな熱烈な要望が飛んでくるんだろうな……)

 

俺は、追加の業務改善案(という名の手抜きマニュアル)を頭の中で組み立てながら、第三階層の私室エリアへと足を踏み入れた。

 

「あっ! 八幡様がいらっしゃいましたわ!」

 

「ようこそお越しくださいました、副官殿!」

 

俺が顔を出すなり、数人のヴァンパイア・ブライドたちがパタパタと駆け寄ってきた。

以前の「過労で目の下にクマを作った幽鬼」のような姿はどこにもない。肌艶は良く、表情も明るく、そして何より身なりが美しく整えられている。

 

「……おう、お疲れ様。みんな元気そうだな。で、今日はどんな陳情だ? 巡回ルートの更なる短縮か? それとも備品の発注フローの改善か?」

 

俺が仕事モードで尋ねると、彼女たちは顔を見合わせ、ふふっと楽しそうに微笑んだ。

 

「いえ。本日の陳情は、そういうことではございませんの」

 

リーダー格のヴァンパイア・ブライドが、俺の腕をそっと引いた。

 

「八幡様、最近とてもお忙しそうでしたから。……お顔に、酷くお疲れの色が出ておりますわ」

 

「え? いや、俺は別に……」

 

「さあさあ、こちらへ!」

 

有無を言わさず、俺はふかふかの巨大なソファへと座らされた。

そして、一人が俺の肩を優しく揉み始め、もう一人が淹れたての温かいお茶(血ではなく、俺用の極上の紅茶だ)とお茶菓子をテーブルに並べた。

 

「あのな、お前たち。俺は一応、視察に来たわけで……」

 

「存じております。ですが、私たちの現状の『完璧な労働環境』を見ていただくには、八幡様にもリラックスしていただくのが一番かと」

 

肩を揉む手が、絶妙な力加減で俺の凝り固まった筋肉(妖怪でも肩は凝るらしい)をほぐしていく。

 

「……んぁっ……」

 

思わず、情けない声が漏れた。

アルベドやデミウルゴス、そしてアインズ様との胃が痛くなるような心理戦で、俺の体は無意識のうちにバキバキになっていたのだ。

 

「八幡様は、いつも私たちの声に耳を傾け、理不尽から守ってくださいます。シャルティア様も、八幡様のおかげで私たちにとても優しくなりました」

 

紅茶を差し出しながら、ブライドの一人が心底嬉しそうに言った。

 

「だから今日は、私たちが八幡様を労う番です。……どうか、少しでも羽を伸ばしていってくださいませ」

 

(……マジか。なんだこの天国は)

 

俺は、温かいお茶をすすりながら、彼女たちの純粋な好意に浸っていた。

ナザリックという絶対的な縦社会において、「部下の声を聞き、環境を整えてくれる上司」というのは、彼女たちにとって奇跡のような存在だったのだろう。

俺としては自分が楽をするための生存戦略のつもりだったが、結果的に俺は、彼女たちにとっての『理解ある理想の上司』として、確固たる信頼を勝ち得ていたのだ。

 

「……悪いな。ちょっとだけ、甘えさせてもらうわ」

 

俺が目を閉じて呟くと、彼女たちは嬉しそうに「はいっ!」と声を弾ませた。

 

――数時間後。

 

完全にHPとMPが回復した俺は、ヴァンパイア・ブライドたちに名残惜しそうに見送られながら、次の視察先であるコキュートス管理の『大湖(リザードマンの村)』へと転移した。

 

「おお! 八幡殿ではないか!」

 

村の広場に降り立った俺を、一番に出迎えてくれたのは、焦茶色の鱗を持つ屈強なリザードマンの戦士だった。

 

「あんたは……たしか、族長の」

 

「ザリュース・シャシャだ。……妻のクルシュから、貴殿の噂はいつも聞いている。コキュートス様をうまく説得し、我々の村の過重な事務作業まで根本から改革してくれた、ナザリックの恩人だと」

 

ザリュースは、俺の妖怪としての気配に怯える様子もなく、友人に接するように力強く俺の手を握った。

 

「恩人って……俺はただの副官だよ。それに、効率化した方が俺の確認作業も減るからな」

 

「ははっ、クルシュの言った通りだ。『あの人はいつも、照れ隠しで自分の利益のためだと言う』とな」

 

ザリュースが笑うと、背後から白い鱗の美しいリザードマン――村の代表であるクルシュ・ルールーが現れた。

彼女の足元には、まだ小さなリザードマンの子供たちが数人、俺の姿に興味津々で群がっている。

 

「いらっしゃい、副官殿。……ほら、お前たち。この方が、村のお仕事を半分にしてくれて、お父さんやお母さんがお前たちと遊ぶ時間を増やしてくれた八幡様よ」

 

クルシュが優しく促すと、子供たちは「はちまんさまー!」「ありがとー!」と、無邪気に俺の足に抱きついてきた。

 

「お、おいっ……。こら、危ないぞ」

 

俺は戸惑いながらも、子供たちの頭を不器用に撫でた。

 

「今日はコキュートス様からの陳情と聞いてきたんだが……」

 

「ええ。私たちの陳情は、『ぜひ八幡様に、今年の豊漁祭の主賓として参加していただきたい』というものよ」

 

クルシュは、広場の中央に用意された、山盛りのご馳走(巨大な焼き魚や果物)を指差した。

 

「……視察じゃないのか?」

 

「視察も兼ねているわ。私たちがどれだけ笑顔で、健康的に暮らせているか。それをあなたに見てほしかったの」

 

ザリュースも深く頷いた。

 

「ナザリックという強大な力の前に、我々はかつて絶望した。だが、コキュートス様という武人と、貴殿のような『声を聞いてくれる者』が上に立ってくれている。……今では、我々はこの環境に心から感謝しているのだ」

 

俺は、火を囲んで笑い合うリザードマンの家族たちを見渡した。

かつては恐怖で支配されていたはずの村が、今や活気に満ち、一つの大きな家族のような温かさを持っている。

 

(……俺、いつからこんな慕われるポジションになったんだ?)

 

ぼっちで、嫌われ者で、ひねくれ者の妖怪。

そんな俺が、異世界の怪物や亜人たちから、家族のように迎えられ、上司として慕われている。

 

「……悪くないな」

 

俺は、焼きたての魚を一口かじりながら、誰にも聞こえない声で呟いた。

 

ナザリックの深部には、アルベドやデミウルゴスといった、俺の精神を削る恐ろしい存在がいる。休暇明けには、彼らとの地獄のワンオペ留守番も待っている。

だが、俺には帰る場所がある。

俺のやり方を理解し、労い、笑いかけてくれる『心の味方』が、このナザリックの内にも外にも、確かに存在しているのだ。

 

「ほら、八幡殿! もっと食ってくれ! 酒もあるぞ!」

 

「あ、いや、俺は下戸で……って、おい子供! 俺の服で口を拭くな!」

 

俺は、リザードマンの子供たちにもみくちゃにされながら、この騒がしくも温かい『三週間の休暇』の始まりを、心の底から満喫していた。

 

(……まあ、三週間後の地獄のことは、三週間後の俺に丸投げしてやろう)

 

俺は、久しぶりに心の底から、自然な笑みを浮かべていた。




次回以降は八幡、長期休暇編です。

次回は5/3予定

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
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