ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、ジャンクを求める

ナザリックでの「労働環境改革」を一旦終わらせ、アインズ様から三週間の有給休暇を勝ち取った俺は、自室のベッドで至福のゴロゴロタイムを満喫していた。

 

誰にも邪魔されない時間。

ふかふかのベッド。

そして、メイドたちが三食運んできてくれる、至高の料理。

 

ナザリックの食事は、まさに完璧だった。

至高の御方々が設定した一流の料理人NPCたちが、最高級の食材を使い、栄養バランスから見栄えまでミリ単位で計算し尽くしたフルコース。味覚の鋭い妖怪の舌をもってしても、一切の妥協や雑味を感じさせない、まさに「神の食卓」である。

 

だが、休暇突入から三日目。

 

俺は、目の前に並べられた最高級のローストビーフとキャビアのサラダを見つめながら、深いため息をついていた。

 

「……違うんだよなぁ」

 

誤解のないように言っておくが、めちゃくちゃ美味い。ほっぺたが落ちるほど美味い。

しかし、俺の根底にある「千葉県民としての小市民的な魂」が、この完璧すぎる食事を前にして悲鳴を上げていたのだ。

 

(毎日毎日フレンチや懐石料理みたいなモン食ってたら、胃が休まらねえんだよ……!)

 

俺が今、猛烈に欲しているもの。

それは、脂がギトギトに浮いた深夜の豚骨ラーメン。

体に悪そうな添加物たっぷりのジャンクなスナック菓子。

そして、路地裏の屋台で売られている、焦げ目のついた安っぽい串焼き。

 

栄養バランス? 完璧な調理法? そんなものはどうでもいい。

俺の体は今、圧倒的な「B級グルメ」を渇望しているのだ。

 

(よし。……外に出よう)

 

ナザリックの外、つまり人間の世界へ行けば、泥臭くてジャンクな飯があるはずだ。

俺はベッドから跳ね起きると、すぐに身支度を整え、第十階層のアインズ様の執務室へと向かった。

 

「――ほう。休暇中に、外出したいと?」

 

執務机の奥で、アインズ様が骸骨の顎に手を当てて俺を見下ろした。

 

「はい。……と言っても、ただ遊びに行くわけではありません」

 

俺は、あらかじめ用意しておいた「完璧な言い訳(プレゼン)」をスラスラと口にした。

まさか「油ギトギトのラーメンが食いたいから」などというアホな理由で外出許可をもらうわけにはいかない。

 

「現在、我々魔導国は周辺国家との関係を構築しつつあります。しかし、報告書に上がってくる数字だけでは、市井の人間たちの『リアルな生活水準』や『不満度』は見えてきません」

 

俺は、もっともらしい真剣な顔を作って語る。

 

「そこで、この休暇を利用して、隣国であるリ・エスティーゼ王国の王都へ赴きたいのです。民衆が普段何を食い、何に金を払い、どんな会話をしているのか。……市井の食文化や物価に触れる『フィールドワーク』こそが、今後の魔導国の内政における重要なデータになると確信しております」

 

(どうだ。完璧なロジックだろう。要するに『屋台で食べ歩きしたい』ってだけだがな!)

 

俺が内心でドヤ顔を決めていると、アインズ様の眼窩の奥にある赤い光が、カッと強く輝いた。

 

「おお……おお! なんということだ、八幡!」

 

「え?」

 

「せっかくの有給休暇だというのに、お前は自らの足で敵国の内情を調査し、魔導国の未来のためのデータを収集してこようというのか! なんという忠義……! お前のその仕事に対する姿勢、まさに特任補佐官の鑑である!」

 

アインズ様は深く感動した様子で、大げさに頷いた。

 

(いや、違う。ただジャンクフードが食いたいだけだ。深読みしないでくれ鈴木悟さん)

 

「分かった、許可しよう! いや、これはもはや立派な業務の一環だ! 視察のための経費(路銀)はたっぷり支給させてもらうぞ!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

俺は、アインズ様から渡されたずっしりと重い金貨の袋を受け取りながら、引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。

まあいい、結果オーライだ。これで堂々と外で美味い飯が食える。

 

外出の許可を得た俺は、自室に戻り「変装」の準備に取り掛かった。

 

ナザリックの外に出るにあたり、俺の「妖怪」としての特異な気配や、鋭すぎる身体的特徴は目立ちすぎる。

俺は、宝物殿のパンドラズ・アクター(前回のトラウマが蘇りそうになったが、今回は事務的な手続きのみで早々に切り上げた)から借り受けた、認識阻害と気配遮断の恩恵を持つ『地味なローブ』をすっぽりと被った。

 

鏡の前に立つ。

そこに映っていたのは、どこからどう見ても「長旅で疲れ果てた、死んだ魚の目をしたしがない流れの傭兵(あるいは行商人)」だった。

 

「完璧だ。俺の生来のモブオーラと合わさって、存在感がマイナスを振り切っている」

 

これなら、誰にも目をつけられずに、王都のB級グルメを堪能できるはずだ。

後日待ち受ける「アルベドとの地獄のワンオペ留守番」のことなど、今の俺の頭には完全に存在しなかった。

 

「よし。行くか、美食(ジャンク)の都へ」

 

俺は、まだ見ぬ油っこい屋台飯と、平穏な一人旅に胸を躍らせながら、ナザリックの転移門をくぐり、リ・エスティーゼ王国へと旅立ったのである。

挿絵のリクエストです。

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