王都内にある、最高位冒険者チーム『青の薔薇』が拠点としている屋敷の一室。 深夜の冷たい空気が漂う中、ラキュース、イビルアイ、ガガーランの三人は、戻ってきた双子の報告を固唾を呑んで聞き入っていた。
「――つまり、戦闘にはならず、話し合いで終わったというのね」
ラキュースが、安堵の息を長く吐き出した。
「ええ。私たちの尾行は、最初から彼に筒抜けだった。彼は人混みを抜け、あえて人気のない路地裏へ私たちを誘い込んだのよ」
「彼の方から、ストーカーはやめてくれと忠告してきた。殺気はなかった。ただ……ひたすらに『面倒くさい』というような、ひどく冷めた目だったけれど」
ティアとティナの報告に、イビルアイが腕を組みながら低く唸った。
「それで、素性は聞き出せたのか?」
「彼の名は『ハチ』。特定の国には属していない、ただのワーカーだと言っていた。最近の情勢がキナ臭いから、仕事のタネを探しに王都へ来ただけだと」
「人類の味方かという問いには『どっちでもない。金次第で動くし、自分が飯を食えて静かに眠れる場所が一番大事だ』と答えていたわね。……嘘をついているようには見えなかった」
その言葉に、ラキュースは顎に手を当てて思案顔になった。
「ワーカー……。しかも、その実力と潜伏技術。……もしかすると彼は、バハルス帝国から流れてきたのかもしれないわね」
「帝国から?」
と、ガガーランが首を傾げる。
「ええ。帝国が魔導国の属国になってからというもの、非合法な裏の仕事や、法に縛られないワーカーたちの仕事は激減していると聞くわ。魔導王のアンデッドたちが治安維持を行っているなら、なおさらよ。仕事を失い、窮屈になった帝国から、この王国へと流れ着いた凄腕……それなら、辻褄が合うわ」
ラキュースの推測に、全員が納得しかけたその時。 ガガーランが、ハッとしたように目を丸くし、巨大な戦鎚を床にドンッと立てた。
「おい、待てよ。……帝国から流れてきたワーカーで、『ハチ』だと?」
「心当たりがあるのか、ガガーラン」
「ああ。裏稼業の連中から聞いた噂話だがな。帝国のワーカー界隈で、最近名を上げている凄腕のソロがいるらしい」
ガガーランは、仲間の顔を見回しながら重々しく口を開いた。
「『クリムゾン・アーク』って中堅チームを全滅させた静寂の沼の主――巨大なバジリスクを、たった一人で、しかも無傷で始末したらしい。どんな依頼も必ず一人でこなし、余計な騒ぎは一切起こさず、いつの間にか依頼を終わらせている。……その静かで確実な仕事ぶりから、裏社会の連中が畏れを込めて呼んでいる二つ名がある」
ガガーランは、声を一段低くした。
「――『静寂(サイレント)』のハチ」
その中二病心をくすぐる二つ名に、ラキュースの右手がピクッとわずかに反応したが、今はそれどころではない。
「静寂のハチ……。なるほど、あの異常なまでの隠密技術、《無音歩行》の達人であるなら、その名にも納得がいく」
ティナが、路地裏での異常な歩法を思い出しながら頷いた。
しかし、イビルアイは仮面の奥で鋭い目を細め、否定するように首を振った。
「待て。私もその『静寂のハチ』という噂は耳にしたことがあるが……だとしたらおかしいぞ。今日、私があの男から感じ取ったプレッシャーは、魔人にも匹敵するレベルだった。巨大バジリスクの討伐程度で収まる器じゃない」
イビルアイは、苛立たしげにテーブルを指で叩いた。
「それに、それほどの強者であれば、あの『鮮血帝』が見逃すはずがない。帝国の戦力として、何がなんでも手元に置いておくはずだ。野に放たれて王国に流れてくるなど……」
「だが、現に帝国から王国へ逃げ出してくるワーカーは後を絶たないぜ?」
ガガーランが反論する。
「鮮血帝も、今は魔導王の圧力でそれどころじゃないんだろうさ。あんな得体の知れない化け物(ハチ)に首輪をつけようとして、逆に国の中で暴れられたら目も当てられない。だから、あえて王国へ流出するのを黙認した……って線もあるんじゃねえか?」
「……確かに、一理あるな」
イビルアイも、しぶしぶといった様子で頷いた。 凄腕のワーカーが、魔導国の支配を嫌って王国へやってきた。現状、それが最も理にかなった推測だった。
「で、どうするんだ? 明後日、エ・ランテルに向かう街道の宿場町で会う約束を取り付けたんだろう?」
ガガーランがラキュースを見る。
「相手は金で動くワーカーだ。私たち『青の薔薇』の資金力、あるいは王国の予算を引っ張ってくれば、金で雇い入れることも不可能じゃないぜ? あんな化け物が敵に回るよりは、莫大な金を積んででも人類の味方につけておくべきだ」
「……そうね。ワーカーである以上、交渉の余地はあるわ」
ラキュースは深く頷き、リーダーとしての決断を下した。
「でも、相手の底が全く見えない以上、不用意に味方に引き入れるのも危険よ。……彼が本当に信頼に足る人物なのか、どのような理念(あるいは欲望)で動いているのか。彼の人となりを、私の目で直接見てから判断する」
「了解したわ。……絶対に、彼を怒らせるような真似はしないでね、ラキュース」
「私たちの命がいくつあっても足りないから」
双子が、心底疲れた顔で念を押した。
話し合いの方針が固まり、重苦しかった空気がわずかに緩む。 すると、ガガーランがニヤニヤと笑いながら、双子に顔を近づけた。
「それよりさぁ、ティア、ティナ。お前ら、路地裏でそいつと直接向かい合って話したんだろ?」
「ええ、そうだけど」
「肝心なことを聞いてねえぞ。……そいつ、いい男だったか?」
ガガーランのブレない欲望に、イビルアイが「貴様という奴は……!」と呆れ声を上げたが、ティアとティナは真面目に答えた。
「フードを深く被っていたし、路地裏が暗かったから、はっきりとは見えなかった」
「でも、少なくともブ男ではなかった。線は細かったけれど、整った顔立ちをしていたと思う」
「「ただ……」」
双子は顔を見合わせ、同時に言った。
「どうしようもなく、目が腐っていた」
「この世の全てを諦めきったような、死んだ魚の目だった」
「なんだそりゃ。ワーカー稼業で苦労でもしてんのかねぇ。……まあいい、明後日が楽しみになってきたぜ!」
ガガーランが豪快に笑い飛ばす。
こうして、『青の薔薇』による「未知の超強者(ただの有給消化中の妖怪)を引き入れるための極秘会談」の準備が、着々と進められていくのであった。
挿絵のリクエストです。
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