ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

8 / 89
ぼっち、面倒ごとを片付ける

翌朝、俺は宿を出て、昨日とは違う地区へと足を向けた。

目的地は、薬草ギルド。薬草の採取や売買を取り仕切る、職人組合のような組織だ。斡旋所のような胡散臭さはなく、冒険者ギルドのような華やかさもない。建物に一歩足を踏み入れると、様々な薬草が混じり合った、独特の青臭い匂いが鼻腔をくすぐった。

 

 

カウンターの奥にいたのは、人の良さそうな白髪の老人だった。俺が来意を告げると、彼はにこやかな笑顔で応対してくれた。

 

「『グレイズ・ラット』の駆除依頼について、ですか。はいはい、確かに昨日、斡旋所の方に依頼を出しましたな」

 

「その依頼、昨日『クリムゾン・アーク』と名乗る連中が受けていったはずだが」

 

 

俺がそう言うと、老人の笑顔がわずかに曇った。

 

「ええ、いかにも。威勢のいいワーカーさんたちが、『俺たちに任せろ』と請け負っていきました。……しかし、ですな」

 

 

老人は困ったように、白い眉を下げる。

 

「それが、彼らはまだ戻ってこないのです。普通なら、半日もあれば終わる仕事のはずなのですが……」

 

「何か心当たりは?」

 

「実は、彼らは出発する前に、こう言っていたのです。『どうせなら、鼠の巣ごと叩いて、森の奥にいるっていう大物も狩って、一攫千金だ』と……」

 

 

その言葉に、俺は昨日斡使所で見た、あのリーダー格の男の、自信と強欲に満ちた顔を思い出した。

 

「大物……?」

 

「ええ。彼らが向かったのは、鼠の目撃情報が最も多い森の奥……普段は誰も近寄らない『静寂の沼』の方角でして。あそこには、グレイズ・ラットよりも遥かに恐ろしい魔物が棲み着いているという噂があるのです」

 

 

老人は声を潜め、他のギルド員に聞こえないように続けた。

 

「沼の主は『バジリスク』だとか、いや『ヒュドラ』の幼体だとか……。どちらにせよ、オリハルコン級の冒険者でもなければ、まず生きては帰れないと言われています」

 

 

馬鹿な奴らだ。

俺は心底呆れた。グレイズ・ラットはレベル5程度の、いわば雑魚モンスターだ。それを狩る程度の腕しかない連中が、自分の実力もわきまえずに、伝説級の魔物に手を出すなど、自殺行為以外の何物でもない。

自業自得。放っておくのが一番だ。面倒に巻き込まれるのはごめんだし、彼らに何の義理もない。

 

……そう、思うはずだった。

だが、俺の頭は、俺の感情とは別のところで、冷静に状況を分析し始めていた。

 

一つ、あのチンピラ共が沼の主に返り討ちに遭ったとして、グレイズ・ラットの問題が解決するわけではない。むしろ、彼らが巣を刺激したせいで、被害が拡大する可能性すらある。そうなれば、いずれまた誰かがこの依頼をこなさなければならず、巡り巡って俺に面倒事が回ってくるかもしれない。

 

二つ、沼に潜むという『危険な魔物』の情報。これは、ナザリックにとって価値があるかもしれない。この世界の生態系の頂点に近い存在のデータを収集することは、今後のナザリックの活動において、有益な情報となり得る。

 

三つ、これが一番重要だが、俺はまだこの世界で一度も『仕事』をしていない。今回の件は、俺の能力……特に、探知・隠密能力を試す、格好の予行演習になる。

 

 

結論は、出た。

 

 

「……爺さん。その沼の場所、詳しく教えてくれるか」

 

 

俺の言葉に、老人は驚いて目を見開いた。

 

「ま、まさか、あなたが行くというのですか!? 無茶です! あなたのような若い方が一人で行っても……」

 

「助けに行くんじゃない。原因を調査しに行くだけだ。奴らがどうなろうと、俺の知ったことじゃない」

 

 

俺はそう言って、懐から銀貨を一枚取り出し、カウンターに置いた。

 

「これは情報料だ。沼で気をつけるべきこと、例えば毒の瘴気だとか、そういうのがあれば教えてほしい」

 

 

俺の目が本気であると悟ったのか、老人は諦めたようにため息をつくと、銀貨を懐にしまい、沼に関する情報を詳しく語り始めた。

沼の周囲には、吸い込むと神経に作用する毒の瘴気が発生していること。特定の薬草が、その瘴気を和らげる効果を持つこと。そして、沼への道は獣道しかなく、迷いやすいこと。

 

礼を言って薬草ギルドを出た俺は、その足で武具屋や雑貨屋を回り、最低限の準備を整えた。

老人に教わった解毒効果のある薬草と、携帯用のランタン、保存食と水。あくまで新人ワーカー『ハチ』として不自然でない、ごくありふれた装備だけを買い揃える。本当はナザリックのアイテムを使えば万事解決なのだろうが、それでは意味がない。

 

準備を終えた俺は、昨日とは違う、森へと続く北門をくぐった。

帝都の喧騒が嘘のように遠ざかり、静かな森が俺を迎え入れる。

 

「さて、と」

 

あのチンピラ共がどうなっていようが、心底どうでもいい。

俺が行くのは、人助けのためじゃない。

これから先、この世界で起こるであろう、もっと大きな面倒事を避けるためだ。

そう、これは奉仕活動などではない。俺自身の平穏のための、ただの害虫駆除だ。

 

俺は自分にそう言い聞かせると、沼へと続くという、鬱蒼とした森の奥深くへと、静かに足を踏み入れた。

面倒事は、さっさと済ませるに限る。

 

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。