「――はぁぁぁぁ」
本日何度目になるか分からない特大のため息が、俺の口から漏れ出した。 断る。絶対に断る。誰が悲しくて、休暇中に他人の育成なんていう教育実習みたいな真似をしなきゃいけないんだ。俺はぼっちなんだぞ。他人を導くなんて柄じゃないし、そもそも俺自身が導いてほしいくらいだ。
だが、そんな俺の決意を揺らがせるものが、目の前に差し出された。
「……これを受け取ってほしいの。私たちの誠意よ」
ラキュースがテーブルに置いたのは、一本の短剣だった。 鞘からわずかに覗く刃からは、どろりと重い闇の魔力が溢れ出している。俺の《腐った目》で見ずとも分かる。これ、ただの武器じゃない。
(……なんだ、この妙な『気配』は)
ナザリックの宝物庫にあるような、レベルやデータでガチガチに固められたマジックアイテムとは根本的に法則が違う気がする。以前、アインズ様が自慢げに見せてくれた、クレマンティーヌとかいう女から奪った『スティレット』に似た、この世界の独自の法則でエンチャントされた希少品だ。
(……ナザリックにない性能か。これ、アインズ様へのお土産にしたら、めちゃくちゃ喜ぶんじゃないか?)
「……ふぅ。分かったよ。そんなもの見せられたら、断るのも野暮だしな」
俺はもう一度深いため息を吐き、渋々と了承の意を示した。 適当に「修行」っぽいことをやって、この剣を貰って帰る。アインズ様のコレクションが増えるなら、この面倒臭さも多少は報われるだろう。
「受けてくれるのね! ありがとう、ハチ!」
「あー、感謝はいいから。とりあえず、実力を見ないことには教えるも何もないだろ。……外、行くぞ」
宿屋のすぐ横に、ちょうどいい広さの広場があった。 人払いも済んでいる。観客は、心配そうに見守るラキュースとガガーラン、そして仮面の下で俺を凝視しているイビルアイだけだ。
「いいか、修行の基本は『奪い合い』だ。……これを使おう」
俺はポケットから、適当な紐で繋いだ鈴を取り出した。それを自分の胸辺りに括り付ける。 忍者、修行、とくれば、やることは一つしかない。某国民的忍漫画の、あの試験だ。
「ルールは単純だ。今から一時間以内に、この鈴を俺から奪ってみせろ。俺はこの広場から一歩も出ない。攻撃、術、何でも使っていいぞ。なんなら、そこのリーダーや仮面の嬢ちゃんから強化魔法(バフ)を貰っても構わない。……始めろ」
俺が気怠げに宣言すると、双子の忍者は一瞬ムッとしたように顔を険しくした。
「……バフなんていらないわ」
「二人で十分よ」
ティアとティナが、同時に姿を消した。 《隠密化》と《無音歩行》。流石はアダマンタイト級、手際はいい。
だが――俺の視界には、彼女たちの動きがスローモーションのように映っていた。俺にとって、レベル30そこそこの彼女たちの移動は、這いずる虫を眺めるようなものだ。
「……遅いな」
右から来る苦無を、首を数ミリ傾けて避ける。 背後に回り込んだ影の蹴りを、一歩だけ横にスライドして空振らせる。 俺は一切、反撃はしなかった。ただ、彼女たちの攻撃を紙一重でかわし、あるいは重心を少しだけ操作して、二人をわざとぶつけさせたり、自分の足に引っかかるように仕向けたりする。
「っ……なに、今の!」
「捕まらない……影を掴んでいるみたい……!」
挑発するように、遊ぶように、俺は広場の中をひらひらと舞い続けた。 彼女たちの連携は確かに優秀だ。だが、所々で「個」の意識が強すぎる。忍びとしての型に嵌まりすぎていて、意外性がない。
残り時間は五分を切った。 ティアとティナは肩で息をし、体力も魔力も限界に近い。
(……そろそろ、終わりにするか)
実はこの修行、今の二人でもクリアできないわけじゃない。 二人同時に、全く異なる忍術を、互いの死角を補い合うように発動すれば、俺の回避ルートを潰して鈴を掠めることができる。それに気づくかどうかのテストだったんだが……。
一向に気づく様子がないので、適当に打ち切ろうとした、その時だった。
ティアとティナが、お互いの目を見つめ合った。 言葉はない。だが、双子特有の深い共鳴が、その視線の中に火を灯した。
(お……?)
二人が、死力を振り絞って同時に飛びかかってくる。 『まだ、気づかんかぁ~』と思い、今まで通り軽くあしらおうとした瞬間。
――空気が、変わった。
ティアが、視覚を欺く分身の術を展開し。 それと全く同時に、ティナが影を縫う拘束術を俺の『影』ではなく、『ティアの影』に向かって放った。
「――そこっ!!」
(……は!?)
自分の影を媒介にして、無理やり俺の機動範囲を狭める変則的な連携。 俺の回避予測を一点に固定し、そこに二人の刃が同時に重なる。 もちろん、本気で避ければかわせる。だが、俺は驚きのあまり、その場に一瞬だけ留まってしまった。
キンッ、という軽い音。
二人の攻撃は、俺の体には掠りもしなかった。 だが、俺の胸元に結ばれていた紐が、見事に切り裂かれた。 チリン、と鈴が地面に落ち、乾いた音を立てる。
「…………」
地面に転がる鈴を見て、俺は思わず唖然とした。 まさか、最後の一分で正解を、それも俺の予想を超えた形で見せつけてくるとは。
「ゼェ……ハァ……。これで……合格、でしょ……?」
ティアとティナが、地面に膝をつきながら、汗だくの顔を上げた。 ボロボロで、体力も限界なはずなのに。 その表情は、今までに見たことがないほど、晴れやかで誇らしげな笑顔だった。
(……やれやれ。これだから、人間ってのは想定外なんだよ)
自分より遥かに強い相手に、絶望せずに食らいつく。 その土壇場での「成長」という不確定要素。 それは、ナザリックのNPCたちにはない、この世界の住人たちが持つ、数少ない輝きなのかもしれない。
「……ふん。やればできんじゃん」
俺は、地面の鈴を拾い上げ、彼女たちに向けて放り投げた。 そして、自分でも無意識のうちに、ほんの少しだけ口角を上げていた。
「合格だ。……お土産代(短剣)の分くらいは、働いてやるよ」
その瞬間、広場にいた全員が、呆然とした後に、爆発的な歓喜の声を上げた。 俺はまたすぐに「めんどくさい……」と後悔の念に襲われることになるのだが、この時だけは、少しだけ教師気分も悪くないか、なんて思ってしまったのである。
アンケート機能ってどうやって終わらせるんだ?
誰かわかる人いたら教えてください…
挿絵のリクエストです。
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