ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、忍者の技を教える

翌日。

俺は、王都から少し離れた岩山が連なる荒野で、盛大な砂埃と魔獣の咆哮を、死んだ魚の目で眺めていた。

 

「ガガーラン、右から来るわ! 押さえて!」

 

「おうよ! このトカゲ野郎、叩き潰してやる!」

 

「ティア、ティナ、目眩ましを! その隙に私が魔法で撃ち抜くぞ!」

 

目の前で繰り広げられているのは、アダマンタイト級冒険者チーム『青の薔薇』による、魔獣討伐任務である。

今回のターゲットは『ギガントバジリスク』。「俺が帝国で倒した静寂の沼の主」のさらに上位種であり、家屋ほどの大きさを持つ巨大な魔獣だ。

 

(……ほう。流石は最高位冒険者ってところか)

 

少し離れた岩の上で腕を組みながら、俺は彼女たちの戦いぶりを客観的に評価していた。

前衛のガガーランが巨大な戦鎚でヘイト(敵意)を集め、ラキュースが遊撃と回復を担う。ティアとティナが死角から手裏剣や起爆符で牽制し、最後に後衛のイビルアイが強力な魔法で大ダメージを与える。

 

教科書通りの、見事な連携だ。

やがて、イビルアイの《水晶の槍(クリスタル・ランス)》がギガントバジリスクの急所を貫き、巨大な魔獣は地響きを立てて沈んだ。

 

「ふぅ……。討伐完了ね」

 

ラキュースが額の汗を拭い、ガガーランが「楽勝だったな!」と豪快に笑う。

 

「どうだ、ハチ! これが王国最高峰、アダマンタイト級のチームワークだぞ!」

 

イビルアイが、少し得意げに胸を張って俺の方を振り返った。

 

だが。

俺は岩から飛び降りると、一切の感情を込めずにパチパチと乾いた拍手を送った。

 

「……お見事。連携としては完璧だな。ゲームのチュートリアルなら百点満点だ」

 

「なっ、なんだその言い方は!」

 

イビルアイがムッとするが、俺は気にせず言葉を続けた。

 

「いや、実際スムーズだったよ。役割分担がしっかりしてる。……ただ、ある意味で『完結しすぎている』」

 

俺は、死んだ魚の目で彼女たち……特に、ティアとティナを見据えた。

 

「お前ら、ぬるま湯に浸かりすぎだ」

 

「「え……?」」

 

双子が、予想外のダメ出しに目を丸くする。

 

「お前らの戦法は『正解』だ。でも、それはあくまで『自分たちより格下、あるいは同格の、定石が通じる魔物』を狩るための正解にすぎない。もし、あの陣形ごとすり潰してくるような『本当の強者』が現れたらどうなる?」

 

俺の問いに、ラキュースがハッとして息を呑んだ。

 

「前衛の壁が破られた瞬間、お前らはどうせ『イビルアイの圧倒的な魔法力』に頼って逃げるか、特攻するしかないんだろ? チームとしての役割に徹しすぎていて、個々の動きに柔軟性がない。戦法としては正しいが、無駄が多すぎるんだよ」

 

俺は、昨日の広場での光景を思い出していた。

 

「ティア、ティナ。昨日の『鈴取り』の時の方が、よっぽど良い動きをしてたぞ。あの時は、お互いの役割なんて無視して、俺から鈴を奪うために必死に、柔軟に動いていた。……今日の討伐みたいに『前衛がヘイトを取ってくれるから、私は横からクナイを投げるだけ』なんていう作業じゃなかったはずだ」

 

二人はハッと息を呑み、そして恥じ入るように俯いた。

俺の言う通り、彼女たちは今日、単なる「牽制要員」として思考停止の動きしかしていなかったのだ。

 

「それに……」

 

俺は、倒れたギガントバジリスクの皮膚に刺さっている双子のクナイを指差した。

 

「お前らの攻撃、しょぼすぎないか?」

 

「うっ……!」

 

「そ、それは……相手の装甲が硬かったから……」

 

言い訳がましく視線を逸らす二人。

まあ、レベルの差(ステータスの限界)もあるだろうが、暗殺者としての致命傷を与える決定打(フィニッシュホールド)が欠けているのは事実だ。牽制しかできないから、戦術が広がらない。

 

(……やれやれ。お土産の短剣を貰った以上、もう少し使える手札を増やしてやるか)

 

俺は大きくため息をつき、双子の前に立った。

 

「いいか。忍びの牽制ってのは、本命の殺撃を隠すためのものだ。牽制だけで終わる忍びなんて、ただのウザい蚊だぞ」

 

「じゃあ、どうすれば……」

 

「形になる『一撃必殺の術』を一つ、叩き込んでやる。……よく見とけ」

 

俺は右手を前に突き出し、手のひらに魔力と妖気(気)を集中させた。

忍者、一撃必殺の術。俺のオタク(中二病)知識と、ナザリックで得た忍びクラスのスキルが脳内でリンクする。

 

(やはり、『NARUTO大先生』の教えを請うしかないよな。忍者スキルにも、似たような気流操作の技があったはずだ)

 

「……《螺旋風魔(らせんふうま)》」

 

ボォンッ!!

 

俺の手のひらの上で、凄まじい音と共に、高密度に圧縮された風と魔力の『球体』が乱気流を巻き起こしながら顕現した。

 

ギュルルルルルッ!!という、空気を切り裂くような甲高い音が荒野に響き渡る。

ただの魔法の火の玉や氷の矢ではない。魔力を暴走寸前の状態に留め、極限まで回転させることで圧倒的な破壊力を持たせた、近接用の暗殺技だ。

 

「なっ……なんだその密度は!?」

 

イビルアイが、仮面の下で驚愕の声を上げた。

 

「魔法……いや、武技か!? あれほどの魔力を、手のひらという極小の空間に圧縮して回転させているだと!?」

 

「見かけによらず、コントロールがクソ難しい技でね。だが、防御力ごと対象をミンチにするにはうってつけの技だ」

 

俺はそのまま、近くにあった人間大の岩に向かって、その『螺旋の球体』を押し込んだ。

 

ドゴォォォォンッ!!!

 

接触した瞬間、岩は砕けるというより、内側から弾け飛ぶように粉微塵になって吹き飛んだ。

後に残ったのは、クレーターのように抉れた地面だけだ。

 

「「…………ッ!!」」

 

ティアとティナの双子が、口をポカンと開けて、そのクレーターと俺の手のひらを交互に見つめている。

 

「……とまあ、こういうことだ」

 

俺は軽く手を払いながら、呆然としている二人に言った。

 

「お前らは二人いるんだ。一人が分身や牽制で死角を作り、もう一人がこの『一撃必殺』を背後から叩き込む。それだけで、お前らの戦術の幅は劇的に広がる。……イビルアイの魔法に頼らなくても、格上の装甲をぶち抜けるようになる」

 

俺は、死んだ魚の目で二人を見下ろした。

 

「教えるのはこの一つだけだ。だが、この『魔力の乱回転のコントロール』をマスターするには、死ぬほど地味でキツい反復練習が必要になる。……やるか?」

 

ティアとティナは顔を見合わせた。

そして、その瞳の中に、昨日の「鈴取り」の最後に見せたような、強烈な意志の火を宿した。

 

「「……やらせてください、ハチ先生!!」」

 

(……うわっ、先生って呼ばれた。めんどくさ……)

 

俺の心の底からの拒絶反応を他所に、双子たちは目をキラキラさせて俺に詰め寄ってきた。

ラキュースも「ハチ……! 貴方って人は、本当に……!」と何故か感動の涙ぐんだ目を向けてきているし、ガガーランは「いい男だねぇ!」と笑っている。

 

こうして、俺の貴重な有給休暇は、「忍者双子への『螺旋◯』習得スパルタ合宿」という、全く予定外の労働へと突入していくのであった。

挿絵のリクエストです。

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