「というわけで、《螺旋風魔》習得のための特訓を開始する」
討伐任務を終えた俺たちは、一度王都へと戻ってきた。
俺は市場の雑貨屋を巡り、薄い獣皮で作られた『小さい風船』と、子供の遊び道具である『ゴムボール』を大量に買い込んだ。
そして、宿屋の裏庭。
「イビルアイ、この風船の中に水と風(空気)をパンパンに詰めてくれ。ラキュースも手伝ってくれ」
「は、はぁ!? なぜ私がそんな子供の遊び道具みたいなものを……!」
「いいからやれ。特訓に必要なんだよ」
文句を言うイビルアイを適当にあしらい、アダマンタイト級の魔法詠唱者二人に水風船を大量生産させる。なんという魔力の無駄遣い。
「よし、準備は整った。第一段階だ」
俺は水風船を一つ手に取り、ティアとティナに投げ渡した。
「手から風の魔力(気)を放出し、その水風船の中の水を乱回転させて、内側から割ってみろ。……それが出来たら次の段階だ。じゃ、俺は出かけてくるから」
「えっ、出かけるって、どこへ?」
「決まってんだろ。観光と、お土産探しだよ。休暇中なんだからな」
唖然とする双子を裏庭に放置し、俺は意気揚々と街へと繰り出した。
ナザリックにいるアインズ様や、ヴァンパイア・ブライドたちへの適当な土産(もちろん経費で落ちるやつ)を見繕うためだ。
「……で。なんであんたがついてきてるんだ?」
俺は、隣を歩く豪奢な鎧姿の金髪美少女――ラキュースに、ジト目を向けた。
「ふふっ。貴方はこの国の地理には詳しくないでしょう? 私が案内してあげるわ」
ラキュースは、いっそ清々しいほどのドヤ顔で胸を張った。
いや、お前リーダーだろ。双子の特訓を見守ってやらなくていいのか。
そう言いたかったが、まあ、俺も健康な男子である。顔面偏差値カンスト近い美人が隣を歩いていて、悪い気がするはずもない。
「……好きにしろ」
俺はため息をつきつつ、彼女の道案内に甘んじることにした。
それから二日間。俺はラキュースの案内で、王都の美味い屋台を巡り、奇妙な民芸品などを買い漁った。
途中、ラキュースとも色々と会話をした。
そして宿に戻ると、ティアとティナが水びたしになりながら、見事に水風船を破裂させてみせた。
「……ゼェ……ハァ……! わ、割れたわよ……!」
「どう……これなら文句ないでしょ……」
「ほう。たった二日でクリアか」
俺は素直に感心した。流石はアダマンタイト級の忍びだ。魔力操作のセンスと才能は申し分ない。
「よし、じゃあ次は第二段階だ。この『ゴムボール』を、同じように内側から割ってみろ。水風船の比じゃないくらいの圧縮と回転が必要になるぞ」
俺は大量のゴムボールを押し付け、再び彼女たちを放置した。
今度は、青の薔薇の別の依頼のついでに、別の街へと移動することになった。
宿屋の裏庭でゴムボールと格闘し続ける双子。
そして、その街でも俺は食べ歩きと土産探しに出かけたのだが。
「ここの串焼きは絶品よ! さあ、こっちの店にも行きましょう!」
……なぜか、またしてもラキュースがピッタリと横にくっついていた。
(いや、だからなんでお前がずっといるんだよ。お前も暇なのか?)
心の中でツッコミを入れつつ、俺は隣で美味そうに串焼きを頬張る彼女を横目で見た。
まあ、いいか。奢ってくれるって言うし。美人と美味い飯。俺の有給消化としては、文句のつけようがない。
まぁ、流石に奢られっぱなしってのも悪いから、途中で何か奢ったが。
だが、流石にゴムボールは難易度が高かったらしい。
四日目の夜になっても、双子はボールをわずかに変形させるのが精一杯で、割るには至っていなかった。
手のひらの皮が擦り切れ、疲労困憊で座り込む二人。
「……行き詰まってるみたいだな」
俺は、二人の前にしゃがみ込んだ。
「ハチ先生……。回転と圧縮を同時に維持するのが、どうしても無理なの……。威力を上げようとすると、コントロールが手裏剣みたいに飛んでいっちゃうわ」
ティナが、悔しそうにボールを握りしめる。
「まあ、そうだろうな。一つの脳みそで、別々の複雑な処理を同時にやるのは限界がある。……だが、お前らは『二人』いるだろ?」
俺は、二人の頭をポンポンと軽く叩いた。
「一人でダメなら、二人でやればいい。お前ら双子の、その反則みたいな『連携』は何のためにあるんだ? 一人が圧縮(形)を維持して、もう一人が回転(威力)を加える。……難しく考えんな。使える手札は全部使え」
二人の目が、ハッと見開かれた。
俺はそれ以上は何も言わず、立ち上がって自室へと戻った。
そして、五日目の朝。
パーーーンッッ!!
宿屋の裏庭に、破裂音が響き渡った。
俺が窓から顔を出すと、引き裂かれたゴムボールの残骸を挟んで、ティアとティナが手を取り合って歓喜の声を上げていた。
(……よし。これで、事実上の完成だな)
その日の午後。
街外れの荒野で、最終テストが行われた。
「行くわよ、ティナ!」
「ええ、ティア!」
二人は標的の巨大な岩に向かって駆け出し、同時に手を合わせた。
ティアの手のひらの上で、ティナが魔力を重ね合わせる。一人が暴れる風を手のひらに圧縮して抑え込み、もう一人がそこに極限の回転を与える。
双子特有の、魂の双方向リンク。
一人では不可能な絶技を、二人で一つの術として成立させる。
「「――《螺旋風魔》!!」」
二人の手が、岩に押し込まれる。
ドゴォォォォンッ!!
鈍い爆発音と共に、岩の内部で乱気流が弾けた。
俺が最初に見せたものほど綺麗で巨大なクレーターにはならなかったが、それでも岩は内部から確かに破壊され、粉々に砕け散っていた。
「……やった……! やったわ、ティナ!!」
「ええ! これなら、どんな硬い魔物だってぶち抜けるわ!!」
砂埃の中で、二人は抱き合って飛び跳ねていた。
術の完成度としてはまだまだ荒削りだが、彼女たちは間違いなく、自分たちの限界を超える『新たな武器』を手に入れたのだ。
「……やれやれ。これで俺の教師(ボランティア)生活も終わりだな」
俺は、少しだけ肩の荷が下りたような、清々しい気分でその光景を眺めていた。
ふと横を見ると、いつの間にか俺の隣に立っていたラキュースが、両手を胸の前で組み、感動の涙を拭っていた。
(……だから、なんでお前はいつも俺の真横にいるんだよ)
俺は心の中でツッコミを入れつつも、まあ悪くない休暇だったと、小さく息を吐いた。
手土産の短剣も手に入った。美味い飯も食えた。義理も果たした。
これで、心置きなくナザリックへ帰れる。
……帰った後に待ち受けているであろう、『地獄の留守番』の存在から、今はただ目を背けながら。
挿絵のリクエストです。
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おまかせ
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八幡+アルベド
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