「ついに始まったわね、本格的な特訓!」
「ええ! あの絶技、絶対にマスターしてみせる!」
私たちティアとティナは、久々に心の底からワクワクしていた。
ハチ先生――私たちを圧倒的な実力でねじ伏せ、新たな道を示してくれたあの底知れない暗殺者の指導が受けられるのだ。テンションが上がらないわけがない。
街に戻ると、先生は市場で何やら買い込み、宿の裏庭でイビルアイとラキュースを呼びつけた。
「イビルアイ、この風船の中に水と風(空気)をパンパンに詰めてくれ。ラキュースも手伝ってくれ」
「は、はぁ!? なぜ私がそんな子供の遊び道具みたいなものを……!」
「いいからやれ。特訓に必要なんだよ」
アダマンタイト級の魔法詠唱者に、水風船を大量生産させるという暴挙。イビルアイはめちゃくちゃ嫌がって文句を言っていたが、不思議なことに、私たちのリーダーであるラキュースは満面の笑顔で「ええ、任せてちょうだい!」と嬉々として受けていた。
そして、山のような水風船が完成すると、先生は私たちに一つずつ投げ渡した。
「手から風の魔力(気)を放出し、その水風船の中の水を乱回転させて、内側から割ってみろ。……それが出来たら次の段階だ。じゃ、俺は出かけてくるから」
そう言い残し、先生は本当にさっさと出かけてしまった。しかも、なぜかちゃっかりリーダーも連れて。
「……とにかく、特訓あるのみね!」
「ええ! 見返してやりましょう!」
私たちは気合いを入れて水風船と向き合った。
だが、これが想像以上に難しい。風の魔力で中の水を回そうとするのだが、魔力が水に弾かれたり、威力が強すぎて風船ごと吹き飛ばしてしまったりする。うまいこと水を風でコントロールできないのだ。
それでも、私たちは寝る間も惜しんで魔力コントロールに集中した。
そして二日目。ついに、私とティナの手の中で、水風船が内側からの圧力に耐えきれず「パーン!」と弾け飛んだ。
「やった! 割れた!」
「私たち、天才かもしれない!」
水浸しになりながらハイタッチを交わした私たちだったが……その直後、ガガーランからとんでもない情報(噂)を聞かされた。
『おいおい、お前らが水浸しで頑張ってる間、あのハチとお嬢(ラキュース)は、街で美味いもん食い歩いてデートしてたらしいぜ?』
「…………ふぅ〜ん」
「…………そうなんだ」
私たちは、ビショビショの前髪から滴る水を拭いながら、目を細めた。
宿に戻ってきた先生に成果を見せると、先生は「ほう。たった二日でクリアか」と少しだけ驚いた顔をした。
そこまでは良かった。だが、次に出された課題は絶望的だった。
「よし、じゃあ次は第二段階だ。この『ゴムボール』を、同じように内側から割ってみろ」
……硬い。水風船とは次元が違う。
全神経を集中させ、一気に風の魔力を叩き込んで乱回転させようとするが、ゴムの強靭な弾力に阻まれて、全く割れる気配がない。
しかも、一回一回を全力でやっているため、尋常じゃない魔力と体力を消費する。
一日目、二日目、三日目……。
ゴムボールとの死闘が続く。反発する魔力を無理やり押さえ込もうとするため、私たちの手のひらは摩擦と魔力焼けで真っ赤に腫れ上がり、皮が剥けて血が滲んでいた。
そして今日、四日目。
「ハァ……ハァ……っ!」
「ダメ……。表面に、小さな穴を開けるのが限界……」
これでは割れたとは言えない。
限界を超えて魔力を練り続けた結果、手の感覚はとうに失われ、痺れだけが腕全体を支配している。
そんなボロボロの私たちの耳に、またしても最悪な情報が飛び込んできた。
なんと、私たちが別の街に移動してからも、ハチ先生と鬼ボス(鬼リーダー)は、二人きりで街をブラブラと歩き回り、イチャついているというのだ。
「……めっちゃムカつく」
「……ええ。本当にムカつく」
こっちは息をするのも苦しくて、手のひらは血だらけで、こんなに痛い思いをしているのに。
なぁにあの二人は、恋愛小説よろしく、呑気にイチャコラしとんじゃ! 暗殺者の特訓中に、なに青春ラブコメみたいなことしてんのよ!
「おおおおっ!! 爆発しろぉぉ!!」
私たちは、その怒りと理不尽への苛立ちをエネルギーに変えて、ゴムボールに叩き込んでみた。
……が、やはり上手くできない。怒りで魔力がブレてしまい、ボールはポーンと虚しく飛んでいくだけだった。
「ダメね……。圧縮と回転、二つを同時に極限まで高めるなんて、本当にできるの……?」
心が折れそうになっていた、その時だった。
「……行き詰まってるみたいだな」
声がして振り返ると、そこにはハチ先生と……なぜか、普段の動きやすい冒険者装備ではなく、少し着飾ったような『女らしい衣装』を侍らせた、頬を染める鬼ボス(ラキュース)の姿があった。
((……絶対に許さない))
私たちが怨み言を口にする前に、先生は私たちの前にしゃがみ込み、ポンポンと軽く頭を叩いた。
「一人でダメなら、二人でやればいい」
その言葉に、私たちはハッとして顔を上げた。
「お前ら双子の、その反則みたいな『連携』は何のためにあるんだ? 一人が圧縮(形)を維持して、もう一人が回転(威力)を加える。……難しく考えんな。使える手札は全部使え」
ドクンッ、と。
心臓が大きく跳ねた。
まさしく、天啓だった。
私たちは、弾かれたようにお互いの顔を見つめ合った。
「……ティナ! 私が風を圧縮して、外枠の壁を作る!」
「わかったわ、ティア! 私はその中で、風を極限まで乱回転させる!」
私たちは向かい合い、一つのゴムボールを挟むようにして、お互いの手を重ね合わせた。
最初は、お互いの魔力の波長が反発し合い、息が合わなかった。ティアの圧縮が強すぎれば回転が死に、ティナの回転が強すぎれば圧縮が吹き飛んでしまう。
でも、私たちは双子だ。
同じ胎内で育ち、同じ死線を潜り抜けてきた、世界で一番の半身。
だんだんとコツを掴み、お互いの魔力の流れが、まるで一つの血流のように同調し始めた。
そして、五日目の朝。
パーーーンッッ!!
ついに、私たちの手の中で、強靭なゴムボールが内側から無惨に弾け飛んだ。
「やった……!」
「やったわね、ティア!!」
私たちは、痛む手も忘れて、ボロボロの姿のまま抱き合って喜んだ。
その日の午後、荒野での最終テスト。
標的の巨大な岩に向かって駆け出し、二人で力を合わせる。
「「――《螺旋風魔》!!」」
私たちの手が岩に触れた瞬間、内部で激しい乱気流が爆発した。
最初にハチ先生が見せてくれた、あの地形を変えるような凄まじい破壊力には遠く及ばない。クレーターの大きさも半分以下だ。
けれど、岩は確かに、内側から粉々に粉砕されていた。
「……やった……! やったわ、ティナ!!」
「ええ! これで私たちも、格上に通用する一撃を手に入れたわ!!」
術の完成度としては、まだまだこれからだ。
でも、私たちは自分たちの限界を突破し、新たな『最強の手札』を手に入れたのだ。
砂埃の中で飛び跳ねて喜ぶ私たち。
ふと後ろを振り返ると、あの死んだ魚の目をした凄腕の先生が、少しだけ満足そうな顔でこちらを眺めていた。
……そしてなぜか、その真横には、感動の涙を拭う鬼ボス(ラキュース)が、ヒロインヅラをしてぴったりと寄り添っていたのだけれど。
「……とりあえず、任務(特訓)はこれで終わりね」
「……ええ。お礼に、あの二人の間に起爆符でも投げ込んでやろうかしら」
私たちは、手に入れたばかりの絶技の余韻に浸りながらも、ほんの少しだけ黒い感情を交えて、最強の先生とその隣のリーダーを見つめていた。
挿絵のリクエストです。
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おまかせ
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八幡+シャルティア
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