「……いよいよ、この平穏な有給消化も終わりが見えてきたな」
魔導国直轄地、エ・ランテル。
俺は、活気にあふれる大通りを歩きながら、重すぎるため息を吐いていた。
王国での青の薔薇とのゴタゴタを終え、ここへ立ち寄った俺の休暇日数は、すでに残り少なくなっている。
アインズ様やナザリックの面々への土産(例の『闇属性の短剣』や、各街の美味い菓子など)はもう十分に買い込んだ。ここエ・ランテルはすでにアインズ様の統治下であり、アンデッドたちが完璧な治安維持を行っているため、俺が視察や口出しをするような問題も特にない。
「さて、残りの時間は宿でゴロゴロするか……。ん?」
ふと大通りの外れを歩いていると、やたらと立派な施設と、そこに集まる若者たちの熱気に出くわした。
看板には『冒険者育成機関』とある。そういえば、アインズ様が冒険者を「未知を探求する者」として再定義し、そのための育成機関を作ったと報告書で読んだ気がする。
施設の入り口付近では、元ギルド長のアインザックが額に汗を浮かべながら、教官らしき男たちに大声で指示を出していた。
「おお、アインザックのおっさん、頑張ってんなぁ……」
俺が少し離れた場所から、完全に部外者の死んだ魚の目でその様子を眺めていると、背後からガシッと肩を掴まれた。
「おい、そこのお前! 何をぼーっとしている、講習の時間が始まるぞ!」
「……はい?」
振り返ると、いかにも体育会系といった風体の熱血教官が、俺を睨みつけていた。
「服装からして今日からの飛び入り参加組だな! さっさと第三訓練場へ行け! 今日は徹底的に基礎体力を叩き直してやるからな!」
「いや、俺は別に講習なんて……」
「言い訳はいい! ほら、行くぞ!」
(えっ、めんどくさっ……! なんで俺、立ってただけで新兵訓練にぶち込まれそうになってるの!?)
《無音歩行》や《隠密化》を切って普通に歩いていたのが仇となったらしい。適当に妖気を出して気絶させるか、それとも《影潜み》で逃げるか……と俺が逡巡した、その時だった。
「――待たれよ。その者は、私の知人だ」
低く、威厳に満ちた声が響き渡った。
漆黒のフルプレートアーマーに、真紅のマント。二本の巨大な大剣を背負ったその姿に、周囲の空気が一瞬でピンと張り詰める。
「も、モモン様……!」
教官が弾かれたように直立不動になり、慌てて俺から手を離した。
「こ、これは失礼いたしました! 漆黒の英雄殿のお知り合いとは露知らず……!」
「構わん。彼には私から話がある。少し借りていくぞ」
「はっ、どうぞ!」
漆黒の英雄モモン――その中身であるパンドラズ・アクターは、威風堂々とした足取りで俺の隣に並び、路地裏の方へと顎でしゃくった。
「……助かった。あやうく無駄な汗を流させられるところだった」
「Wenn es……いえ、お気になさらず、八幡殿」
人目のない路地裏に入った瞬間、モモンの兜の奥から、パンドラズ・アクターの芝居がかった声が微かに漏れた。
「それにしても、冒険者育成機関は大盛況みたいだな。アインズ様も喜んでおられるだろう」
俺が適当に話を振ると、漆黒の兜が深く、重いため息(のような動作)をついた。
「それが……現状は手放しで喜べるものではないのです。希望者が集まるのは良いのですが、いかんせん質が伴っていない」
パンドラズ・アクターは、周囲を警戒しながら声を潜めて現状を語り始めた。
彼(とアインザック)の悩みはこうだ。
未知を探求するという新しい理念のもと、多くの若者が夢を見て集まってくる。だが、用意したカリキュラムが実戦に即していないのか、それとも教官の教え方が古いのか、一向に実力のある冒険者が育たない。
「さらには、血気盛んな若者が多いためか、パーティー内でのトラブルや不和が絶えません。『お前は足手まといだ』と、能力の低い者をパーティーから追放する……そうした問題行為が急増しているのです」
「……パーティー追放、ねえ」
俺は腐った目をさらに淀ませた。
(なるほどな。なろう系のライトノベルなんかじゃ『勇者パーティーから追放されたけど、実は俺のスキルが最強で〜』みたいな展開がテンプレだが……ここは現実だ。追放されるやつは大抵、本当に無能で協調性がないからクビになるだけだ。覚醒イベントなんて起きやしない)
「その結果、パーティーを組めない『ソロ』の冒険者志望が施設内に溢れ返っています。しかも、その大半が協調性に欠けるか、致命的に実力が足りない者ばかり。このままでは、機関の運営そのものが立ち行かなくなります」
「ふーん。そりゃ大変だな。アインザックに胃薬でも差し入れてやれよ」
俺が完全に他人事で背を向けて立ち去ろうとすると、ガシッと再び肩を掴まれた。今度は、漆黒のガントレットに。
「そこで、八幡殿!」
「……嫌な予感しかしないんだけど」
「貴殿は、ナザリックの上下を問わず、様々な者の『声』を聞き、導いてきた実績がおありだ。……どうか今日一日だけで構いません。特別講師(先生)として、彼らの現状を見て、何かアドバイスをいただけないでしょうか!」
(……出たよ、特大の無茶振り)
俺は天を仰いだ。
青の薔薇の双子を育て上げたと思ったら、今度はエ・ランテルの落ちこぼれ冒険者どもの面倒を見ろと? 俺の有給は教育実習のための期間じゃないぞ。
「断る。俺は今から宿に帰って昼寝を……」
「先ほど、貴殿を厄介事から救い出したのは、他でもないこの私ですが?」
「うっ……」
漆黒の兜の奥で、パンドラズ・アクターが「貸しは返してもらいますよ」とニヤリと笑ったような気がした。
正論である。助けてもらった手前、ここで無下に断れば、あとでナザリックでどんな陰湿な嫌がらせ(中二病ポーズの強要など)を受けるか分かったものではない。
「……はぁぁぁ。分かったよ。今日一日、適当に見学するだけだからな。解決策まで期待するなよ」
俺が渋々了承すると、パンドラズ・アクターは「感謝します!」と大げさな身振りを交えて喜んだ。
「それでは、早速第三訓練場へ向かいましょう。『追放されたソロ』たちの吹き溜まりです。……貴殿のその『腐った目』で、彼らの本質を見抜いてやってください」
こうして、俺の休暇の最終盤は、ライトノベルの主人公になり損ねた「勘違いの落ちこぼれ」たちを現実のロジックで叩き斬る、臨時教官としての仕事で幕を開けるのだった。
挿絵のリクエストです。
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