ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、創造主の遺物と向き合う

「……はぁ。もう、いっそのこと永遠に眠りにつきたい」

 

アルベドの執務室から自室へと戻った俺は、泥のようにソファへ沈み込んだ。

帝国での激務を終えたばかりだというのに、間髪入れずに突きつけられた「骸骨の妊活調査」という無理題。

あの守護者統括は、俺のことを全知全能の神か何かと勘違いしているんじゃないだろうか。

 

「子供の作り方、ねぇ……」

 

天井を見上げながら呟く。骨と悪魔の間に生命が宿るロジックなんて、ファンタジーの域を超えてオカルトだ。

考えれば考えるほど胃のあたりが重くなる。

 

現実逃避をするように視線を動かすと、ふと壁際の本棚が目に入った。

そこは、俺の創造主である「スーラータン」という男の、業の深い遺産が隠されている場所。

 

(……そういえば、あの『婚姻届』。あの中になら、何かしらのヒントがあるかもしれないのか?)

 

以前見つけた時は、自分の名前が「夫」の欄にあることにパニックを起こして即座に封印したが、今は背に腹は代えられない。もし、あの変態創造主が何かシステム的な抜け穴を書き残していたとしたら。

 

俺は重い腰を上げ、本棚の「隠しスイッチ」である本を引き抜いた。

ゴゴゴ……と音を立てて現れた黒鉄の金庫。 俺はため息を一つ吐き、禍々しいオーラを放つレアアイテムの山をかき分けて、底に眠っていたあの「羊皮紙」を取り出した。

 

「……よし、今度は冷静に見るぞ。落ち着け、俺」

 

深呼吸をして、改めて『婚姻届』を広げる。 夫の欄には、やはり見慣れた自分の名前が署名されている。だが、前回はそこで思考をシャットダウンしてしまったが、よく見るとその下や裏面、さらには羊皮紙の端々に、びっしりと極小の文字で注釈が書き込まれていることに気づいた。

 

「……これは、ただの書類じゃないな」

 

読み進めるうちに、俺の死んだ魚のような目が驚愕に見開かれた。

そこには、夫婦のステータス配分や、属性の相性、さらには――。

 

「……子供の『初期レベル』、成長限界、固有スキルの継承確率……? これ、婚姻届の皮を被った『新キャラクターの設計図(キャラクターシート)』じゃないか」

 

スーラータンの奴、ユグドラシルのシステムを弄ったのか、あるいは特殊なワールドアイテムの類なのか、とにかく「既存のキャラ同士の間に、新たなNPCを生成する」ための特殊なロジックをここに書き残していたのだ。

 

「……本当にあるのかよ、こんなデタラメなアイテム。あの野郎、俺を一体何に使うつもりだったんだ」

 

自分の知らないところで「父親候補」にされていた事実に戦慄しつつも、これはアルベドの依頼に対する唯一の、そして決定的な「解答」になり得る情報だった。

 

しかし、情報の精度が足りない。このシートがどう機能するのか、発動条件は何なのか。 俺は一縷の望みをかけて、第九階層にあるナザリックの巨大図書館へと足を運んだ。

 

「……失礼。少し調べ物をさせてもらう」

 

司書を務める者たちに軽く挨拶を済ませ、俺はユグドラシルのシステム解説書や、かつてのプレイヤーたちが残した膨大な記録の山に潜り込んだ。

 

一日目。

ユグドラシルの「結婚システム」について。……結果、そんなものは公式には存在しないことが判明した。一部のプレイヤーたちがロールプレイで行っていた「結婚式」はあるが、システム的な恩恵は何一つない。

 

二日目。

「NPCの増殖」や「後継者システム」について。……これも空振りだ。ギルド拠点のNPC枠は厳格に決まっており、自然に増えることなどあり得ない。

 

三日目。

俺の手元にある婚姻届の筆跡や、使われているインクの魔力組成を調べたが、既存のどのマジックアイテムとも一致しない。

 

(……手詰まりか。アルベドが知らない以上、デミウルゴスに聞いたところで分からないだろうしな)

 

図書館の隅で、俺は力なく机に突っ伏した。 図書館の蔵書を三日間読み漁っても、この「婚姻届」に関する記述は一切見つからなかった。

 

考えられる可能性は一つ。 これは、スーラータンが独自に開発した、あるいは見つけ出した「ユグドラシルの仕様外(バグ)」、あるいは「運営すら関知しない隠し要素」だということだ。

 

(……これを扱える可能性があるのは、あのお方しかいないな)

 

俺は、鞄の中に大事に(というか忌々しく)しまった婚姻届をそっと撫でた。

アインズ・ウール・ゴウン。

スーラータンと共にこのナザリックを築き、ユグドラシルの全てを知り尽くしているであろう、俺たちの主。

 

アインズ様が聖王国から帰還されたら、まずはこの書類を、あの「骸骨の妊活」というトンデモ依頼への手がかりとして提出しよう。そして、ついでに聞かせてもらおうじゃないか。

 

「俺の創造主は、俺を誰と結婚させて、何を作らせようとしていたんですか?」と。

 

「……はぁ。アインズ様の帰還が待ち遠しいような、一生帰ってきてほしくないような、複雑な気分だぜ」

 

俺は、図書館を埋め尽くす知の静寂の中で、再び特大のため息をついた。 有給休暇が明けてから、俺の人生は加速的に「ろくでもない方向」へと突っ走り続けている。

 

だが、決意は固まった。 アインズ様が帰ってきたその時、俺はこの「爆弾」を、主君の膝元へ放り投げてやる。 その後のことは、その時の俺に任せよう。今はただ、数日ぶりに自室のふかふかのベッドで、泥のように眠る権利を主張させてもらうことにした。

挿絵のリクエストです。

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