ぼっち、ナザリックに飛ばされる   作:NewSankin

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ぼっち、骸骨に相談する

アインズ様が、聖王国での長きにわたる計画(出張)を終えてナザリックに帰還された。

 

その知らせを聞いた俺は、遂にあの「爆弾」を処理する覚悟を決めた。

守護者統括であるアルベドを通して、アインズ様への面会(アポイント)を申請する。時間がかかるかと思ったが、あっさりと許可が下り、その日のうちに時間を取ってもらえることになった。

 

俺は、インベントリの中に「スーラータンの遺産」と例の『婚姻届』をしっかりとしまい込み、第九階層にあるアインズ様の執務室へと足を運んだ。

 

コンコン、と扉をノックする。

 

「入れ」という威厳に満ちた声に、俺は一礼して入室した。

 

「失礼いたします、アインズ様。この度は、聖王国からのご帰還、誠におめでとうございます」

 

執務机の奥に座るアインズ様は、骸骨の顔でありながら、どこかホッと息をついたような、非常に満足げなオーラを漂わせていた。どうやら、デミウルゴスが描いたあの無茶振り極まりないマッチポンプ計画は、アインズ様の完璧な立ち回りによって、無事に大成功を収めたらしい。

 

「うむ。大儀である、八幡。……お前も、休暇はゆっくり休めたか?」

 

「はい。アインズ様の寛大な御心のおかげで、大変有意義な有給休暇を過ごすことができました」

 

俺は、蒼の薔薇とのゴタゴタやエ・ランテルでの臨時教官の件は適当に濁しつつ、表向きの感謝を述べた。

 

しばらく当たり障りのない雑談を交わした後、俺は顔を引き締め、ついに本命を切り出した。

 

「アインズ様。実は本日は、極秘にご相談したい件がありまして……。恐れ入りますが、護衛の方々とメイドを、一時的に下がらせていただけないでしょうか」

 

俺のただならぬ雰囲気に、アインズ様の眼窩の赤い光がスッと細められた。

少しの間思案された後、アインズ様は静かに頷いた。

 

「……よかろう。皆の者、しばし席を外せ」

 

アインズ様の命により、部屋に控えていた八肢暗殺虫(エイトエッジ・アサシン)とメイドたちが音もなく退室していく。 重い扉が閉まり、広大な執務室に俺とアインズ様の二人きりになった。

 

「さて。人払いをしてまで、私に何を見せたいのだ?」

 

「はい。実は……俺の自室、つまりスーラータン様の部屋の隠し金庫から、このようなものが見つかりまして」

 

俺はインベントリを開き、机の上に次々と「禍々しいオーラを放つアイテム群」を並べていった。

血を吸ったような大剣、凍てつくランス、曰く付きの防具など、PK(プレイヤーキル)の戦利品である遺物級以上のレアアイテムたちだ。

 

「なっ……! こ、これは……!」

 

アインズ様はガタッと立ち上がり、驚愕に声を震わせた。しかしすぐに、俺が人払いをした理由を察してくださったようだ。これらは、ナザリックの仲間であるスーラータンが「他プレイヤーから強奪した(ヒャッハーした)」品々であり、公になればいらぬ波紋を呼ぶかもしれない代物だからだ。

 

「……八幡。少し、見てもよいか?」

 

「もちろんです。本来、これらはアインズ様が管理されるべきものですので」

 

アインズ様は、骨の指でそれらの武具を一つ一つ、ひどく懐かしそうに、そして愛おしそうに撫でていった。

 

「ああ……懐かしいな。この『絶氷の篭手』、あの時スーラータンの奴が、氷竜王を名乗るプレイヤーを三日三晩粘着してPKした時の戦利品だ。『ドロップ率が渋すぎる!』とボヤきながら、執念で奪い取っていたな……。こちらのランスは、私が囮になって……」

 

アインズ様の口から、かつてのギルドメンバーとの「楽しかったネトゲの思い出(だいぶ物騒だが)」が次々と語られる。その声は、魔導王としての威厳を忘れ、ただの友人たちを懐かしむ一人の青年のようだった。

 

「……すまない、つい昔話に花を咲かせてしまった。それで、これらをどうするべきか、という相談だな?」

 

「はい。俺が持っているには過ぎたるものですので」

 

「うむ。基本的には宝物殿で厳重に管理することにしよう。だが……八幡、お前のクラスで装備できる短剣や暗殺具の類があれば、お前が引き継ぐといい。スーラータンも、自分の遺産が己の創造物に使われるなら本望だろう」

 

「ありがとうございます、アインズ様」

 

アインズ様が上機嫌になられた。

 

(よし、今だ!)

 

俺は、この絶好のタイミングを逃さず、インベントリの奥底からあの「羊皮紙」を取り出した。

 

「あと、もう一つ。……これも、見ていただきたいのですが」

 

俺が机の上に置いた『婚姻届』

 

アインズ様は「ん?」と顔を近づけ、その書類を一瞥した瞬間。

 

「おお! これは……! 確か、ユグドラシルの何周年記念かのイベントで配布された、限定アイテムじゃないか!」

 

アインズ様は、骨の手でバシッと机を叩いて興奮した声を上げた。

 

「期間限定で、ギルドの枠を消費せずに『お試しNPC』を作成できるというレアアイテムだぞ! カスタマイズの自由度が高くて、皆で大いに遊んだものだ。……ただ、これにはシステムの穴を突いた致命的なバグがあってな。特殊な手順を踏むと、期間限定のはずが『永遠に召喚されたまま』になってしまうんだ。運営も修正を諦めて仕様とした、曰く付きの……ん?」

 

アインズ様の赤い瞳が、書類の「夫」の欄でピタリと止まった。

 

「……これ、そのバグ版のやつじゃないか。しかも、夫の欄に……八幡、お前の名前が書いてあるぞ?」

 

「……はい」

 

俺は、この世の全ての絶望を背負ったような顔で頷いた。

 

「スーラータン様が、俺を誰かと結婚させて、新たなNPCを生成しようと企んでいたようなのです。……アインズ様、お願いです。この『夫』の欄から、俺の名前を消すことは可能でしょうか!?」

 

俺が必死に懇願すると、アインズ様は顎の骨に手を当てて「ん〜」と唸った。

 

「本来なら、このアイテムの所有者(署名した本人)であるスーラータンにしか、名前の解除はできない仕様なんだよなぁ〜」

 

(やっぱり無理か……!)

 

以前、俺自身で消そうとしても弾かれたのだ。アインズ様ならワンチャンあるかと思ったが、ユグドラシルのシステム的制約はどうにもならないらしい。俺は肩を落とし、最悪「妻の欄に適当なモブの名前を書いて消費するしかないか」と絶望しかけた。

 

「だが……まあ、やってみるか」

 

アインズ様はそう言うと、空間からキラキラと輝く不思議なアイテム(課金アイテムか何かだろうか?)を取り出し、それを婚姻届の上で砕いた。

ピカッ! と書類が眩く光り輝く。

光が収まった後、俺が恐る恐る羊皮紙を覗き込むと……なんと、夫の欄に書かれていた「比企谷 八幡」の文字が、綺麗さっぱり消滅していた。

 

「き、消えた……!! ありがとうございます、アインズ様!! 一生ついていきます!!」

 

俺は歓喜のあまり、魔導王に対して土下座せんばかりの勢いで感謝を捧げた。

 

「ははは、よいよい。お前は最近、本当によく働いてくれているからな。これくらいは上司としての当然の報い(ボーナス)だ」

 

アインズ様は、鷹揚に頷いて見せた。

 

俺はホッと胸を撫で下ろし、ふと疑問に思ったことを尋ねた。

 

「ちなみに……これって、この世界で今使ったら、どうなるんでしょうか?」

 

「ん〜、それは私にも分からないな。ユグドラシルのルールがどこまで適用されるか未知数だ。もしかしたら、この世界に新たなナザリックの一員を迎えることができるかもしれないし、あるいはただの紙切れとして何も起こらないかもしれない。……使ってみないと分からないな」

 

「ですよね……」

 

その時、アインズ様が執務室の時計に目を向けた。

 

「おっと、いかん。そろそろデミウルゴスとの会議の時間が差し迫っているな。聖王国での事後処理について詰めねばならん。……今日のところは、ご苦労だったな、八幡」

 

「はい。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。失礼いたします」

 

俺は、綺麗に空欄になった『婚姻届(兼、新NPC生成シート)』を大切にインベントリにしまい込み、一礼して退室した。

 

廊下に出た俺は、重い扉を背にして、深く、長く安堵の息を吐き出した。

 

(……これで、アルベドのあの狂った依頼に『報告できるモノ』ができたぞ!)

 

「アインズ様との間に子供を作る方法」

 

生物学的に不可能なその願いも、この「ギルドメンバーを増やすバグアイテム(子供生成シート)」に、アインズ様とアルベド、両名の名前を署名して発動させれば、システム的に『二人の子供に該当する新たなNPC』が生まれる可能性がある。

 

(よし。このアイテムをそのままアルベドに丸投げして、あとは俺は一切関知しないことにしよう)

 

休暇明けの地獄の業務に、一筋の光明が差した。 俺は、ここ数日間の胃痛が嘘のように晴れやかな気分で、スキップでも刻みそうな足取りで自室へと戻っていくのであった。

挿絵のリクエストです。

  • おまかせ
  • 八幡+シャルティア
  • 八幡+アルベド
  • 八幡+デミウルゴス
  • 八幡+コキュートス
  • 八幡+アウラ
  • 八幡+マーレ
  • 八幡+アインズ様
  • 八幡+メイド達
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