ウチのバンドはお騒がせ者   作:にわかバソドマソ

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朝波のバンクシー

 美術館は行ったことあるだろうか。俺はない。

 美術館にはそれぞれ独自の工夫が施されていて、日本は左回りだが海外では右回りで鑑賞する、絵画の裏にLEDを取り付ける、サイズと色味が離れたものを隣に並べるなど様々だ。

 そういった工夫を経てそれぞれの作品を素人目にも魅力的になるようにする。

 

 一方、そういった工夫がなくてもたった一枚の絵の本来の魅力だけで、衆目の目を引く作品もある。

 ピカソの『ゲルニカ』やよくネットミームに出てくるベクシンスキーの無名の絵画、通称"3回見たら死ぬ絵"などは有名だろう。

 

 そこら辺はバンドもとい音楽にも通ずるものがあるが、割愛。

 

 さて、ダラダラと適当にググッたような前置きを連ねたが、我らが朝波高校には"朝波のバンクシー"と呼ばれる絵画関係における怪物がいる。

 俺や瀬奈と同じクラスの桐生である。奴はよく校舎の壁に絵を描き、その絵画の魔性で通りががった人の足を止めさせる。

 以前にも話したが、奴の描いた作品はそれが視界に入った瞬間どんな人も魅入るらしい。

 それは美術館の様に周囲の工夫もなしに、絵だけの魅力で注目される『ゲルニカ』などと通ずるものがある。

 

 以前の結成ライブで、広報のために桐生にライブの告知ポスターを描かせたのを覚えているだろうか。

 デザイン案自体は瀬奈が考え、それを桐生が仕上げたものだ。

 

「お前らの結成ライブの広報ポスターが一部の生徒たちを狂信させ、信仰団体ができている」

 

「……は?」

 

 ってな具合に学校を揺らしているらしい。

 

 ……いや馬鹿か?

 

 なにがどうなったら軽音部のライブ告知ポスターで信仰団体が生まれるんだよ。

 

 俺を昼休みに職員室に呼び出した真壁からの一言はマジで意味不明だった。

 当の真壁もクソデカため息をついて、

 

「いや、俺も気持ちは分かる。桐生の絵は確かに素晴らしいものだ。だが入学してから2ヶ月の間、信仰団体やら狂信やらは発生しなかった。だから軽音部に何かあるんじゃないかと踏んでいるんだ」

「馬鹿も休み休み言えや。いやマジで」

 

 いくら俺らが普段怒られてばっかとはいえ、それは冤罪過ぎるだろ。

 

「落ち着け鳴海、なにか手掛かりが見つかるだけでもいいんだ。なにかないのか?」

「ねぇよボケカス。普段桐生が描いてる壁画や地上絵はともかく今回はポスターだぞ?しかも瀬奈考案のデザインの。ありえねぇだろ常考」

「……まぁそうだよなぁ」

 

 真壁が深々と椅子にもたれ掛かる。明らかに疲弊してんな。

 

「おいどうしたよ真壁ェ、あきらか元気ねぇじゃん」

「お前らの結成ライブ、それを止めるのを羽鳥と二年C組連中による妨害、志水のファンたちの軽音部擁護の声、正直これだけでも既に胃が痛いのに更にポスターの信仰団体の設立だぞ?後始末が追いつかないんだよ」

「正直すまんかった」

 

 ここまで大きくなるとは思わんだろ普通に考えて。しかもサラッと志水ちゃんのファンも色々やってたみたいだし。

 

「そんで?話は終わりか?」

「いや、桐生にその信仰団体を解体してほしいのだが、お前が付き添え」

「いやそれ生徒会の仕事だろ。三條にやらしとけよ」

「成功したら次回お前らが何かしでかした時の罰を一度関係者全て免除してやる」

「……それ、今回の二の舞になるだけでは?」

「お前が加減するんだよ」

「うんすまん、それはそう」

 

 ということで軽音部結成ポスター信仰団体の解体ミッションを受注したのであった。

 

 


 

 

 放課後、桐生を連れて真壁から聞いた信仰団体の活動場所に向かっていた。

 

「なんでこんなことになったのかねぇ」

「うーん僕も流石に描いた絵が信仰されるとは思っていなかったよ」

「桐生、お前が思うに原因はなんだ?」

「うーん、それが全く心当りがないんだよね。しかもポスターの原本じゃなくて印刷されたものだし」

「普段の画風と違うからとかは?」

「瀬奈ちゃんが考えたデザインだからなぁ。あの子の黒板に描いた絵とかみてもそれはないんじゃないかな。可愛いけどね」

 

 桐生本人にも原因が分からないらしい。これじゃあ解体が実力行使になるんじゃね?仙洞連れてくれば良かった。

 

 つーかこいつ、いつも俺たちと馬鹿やっているから薄れているが、描いた絵をオークションに出品すれば数百〜数千万円で取引されるらしい。そう考えりゃ、遅かれ早かれ宗教出来たんじゃね?

 

「てか信仰団体の解体ってどうやんの?流石にやったことねぇぞ」

「そりゃないでしょうよ。あったら怖いよ」

「"朝波のバンクシー"さんの力でどうにかならんかね」

「僕はそんなスゴい人じゃないけどね」

「嫌味か」

「んーん。スゴい人っていうのは鳴海くんだと思うよ。いつも何かに挑戦してる。その姿をみて僕も壁画を始めたんだもん」

「えぇ……」

 

 悲報、桐生が"朝波のバンクシー"として活動するきっかけがまさかの俺だった件。

 

「やめろよマジで。桐生のやらかしを俺に転じられそうだから」

「そんなことするつもりはないけど、僕は中学まで人に絵を見せるの嫌いだったから、鳴海くんをみて感化されたってだけだよ」

 

 なんか志水ちゃんとかもそうだけど、周りの人間がある種の激重感情を俺に向けてきている気がしてならないんだが。怖い、怖いよ俺。

 

 というやり取りをし、ようやく目的地に着いた。

 普通の多目的室にしかみえんがここで儀式が行われているらしい。

 

「さぁーて、こっからが本番やでぇ」

「そんなに気負ってなさそうだね」

「1歩間違えりゃ暴力沙汰だった仙洞のクラスの方がよっぽど怖いわ」

「それは頼もしいね」

 

 てなわけではいオープン!

 

「軽音部鳴海だぁ!大人しくお縄につけぇえい!」

「こんにちは〜、ちょっとお邪魔しますね」

「な、何者だ!」

「今言ったでしょ、ちゃんと聞いとけよ……まぁいいや、軽音部鳴海だぁ!大人しくお縄につけぇえい!」

「律儀」

 

 ということで始まりました、信仰団体解体RTA。目標タイムは10分といったところてすね。

 扉を開けたらまず目に付くのは、ガラスケースに入れられたポスター。そしてそれに膝まづいて頭を下げている10人程の男女だった。

 ガチの信仰団体やんけ。関わりたくねぇ〜。

 

「な、鳴海だとぉ!?なぜ貴様がここに!」

「いやお前らが崇めてるの俺らの部活のポスターな。おかしなことすんの辞めてくれる?男女問わず制服剥いで校庭に磔にすんぞ?」

「魔女狩りみたいになってるよ鳴海くん」

「くっ!なぜ貴様が我らの邪魔をする!我らは貴様に被害を出していないだろ!」

「なんでそこまで典型的な悪役ムーブ出来るん?現役高校生だろお前」

「練習したのだ!」

「こっちも律儀」

 

 なんかアホらしくなってきたな。コイツらただの悪ノリ集団じゃね?

 

「それで?なんでポスターを崇めているのかな?」

「おぉ、この聖遺物を創造された桐生様ではありませんか!」

「俺との扱いの差よ」

「貴方様の普段の絵はどれもとても素晴らしいものです。しかし!これは違う!このデザインだけはポップでキャッチーな我々現代人の普遍的なセンスにも突き刺さったのです。これを見た瞬間に思いました。あぁ、私はこのポスターを神とするために生まれてきたのだと」

「過言が過ぎるだろ」

 

 さらに悲報、信仰団体が出来た原因、デザイン案に瀬奈が関わったからな件。

 俺らに原因ができちまったじゃねぇか。こりゃなんとしてでもコイツら解体しんと、真壁に殺されるな。

 

「僕の絵もちゃんと評価はしてくれるあたり好感度高いよこの人たち」

「ありがたきお言葉」

「なんか絆されてるし」

「でも僕の本来の絵で信仰団体作ってくれなかったから許しません。はいこの絵みて」

 

 そう言って桐生は懐から一枚の絵を狂信者達に向かって掲げた。

 

「な、なんだ……こ…れ…」

「意識……が…」

「う…うぅ……」

 

 それをみた狂信者達は全員倒れた。え、なにそれ怖い。見たら死ぬ絵的な?

 

「あ、鳴海くん気をつけてね。この絵は僕オリジナルの"見たら過去1週間の記憶を消す絵"だから」

「それどんなメン・イン・ブラック?」

「まぁポスターみて狂信できるくらいの感性がないとこんな効かないから安心してよ」

「とりあえず絶対にこっちにそれ向けんなよ」

「ははは」

 

 なんか黒さが滲み出てんぞ。隠せ隠せ。

 

「これで例のポスターを見た時の記憶はなくなったから、これにて一件落着だね!」

 

 いや流石にフィクションが過ぎるだろ!




鳴海
チート過ぎる桐生にドン引きした。
今回のミッションに俺いる必要あった?

真壁
ただでさえ後始末が多いのに、意味不明な信仰団体まで出てきて無事胃が終わった。
軽音部に原因があると最初から疑っていたが、見事正解。

桐生
美術方面における作中1のチートキャラ。
まだ自力では宗教が作れないと知り、さらに修行に励む。
当初はヤーさんの息子にする計画だったが、気が付いたらこんな風になってた。


今後こんな化け物を出すことは多分ありません。
ショタ化やTS化のような番外編だと思ってください。

ちなみに私は京都国立近代美術館が好きです。
興味がある方はぜひ行ってみてください。
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