ウチのバンドはお騒がせ者 作:にわかバソドマソ
︎︎白目剥いて失神してた大瀬良を叩きおこし、早速曲選びをする。
「曲どーするよ?」
「東は何が弾ける?」
「んー有名どころは大体弾けるかな。聴いたことさえあれば耳コピもアレンジもできる。」
「ゆーしゅーだね、先輩!」
︎︎本当に優秀だなコイツ。なんで誰とも組んでないんだマジで?虚栄心が過ぎるだけの下手くそとかか?
「そんじゃあドロスの『Starrrrrrr』にするか」
「うん!それなら行けるよ!」
「おーけー。瀬奈、配信の準備して」
「……え」
「分かったー!」
︎︎曲が即決まった俺たちは早速機材の準備に取り掛かった。大瀬良は曲が決まる前から準備してたけど。
︎︎それより気になることがある。なんか東の表情固くね?お前もっと爽やか笑顔振りまいてただろ。
「東、どうした?」
「本当に配信するのかなって思って」
「そのつもりだけど、インスタライブ。なんかあったか?」
「……いや、なんでもないよ」
︎︎なーんか様子が変だなコイツ。配信をすると言ったあたりから。やっぱりなんかあんのか?
「まぁ、なんかあったら言えよ。すぐやめるからな」
「うん、大丈夫だよ、大丈夫」
「配信準備おっけー!」
「おーう、そんじゃあやるかー!」
︎︎ヤバそうなら配信ブチ切ればええか(楽観)。今は新歓イベントを楽しまにゃ!ま、東の加入が決まった時に既に(瀬奈が)フォロワーに告知はしていたからもう引くに引けないんだけどな!この1週間でフォロワー3000人になったからな。待機もそれなりの数いるだろう。
「はい皆さんこんにちはー!朝波高校軽音部です。今回はなんと!遂に!新入部員が来てくれたから新歓ライブをやるぜぇえええ!」
「いぇーい!」
「はい自己紹介をどうぞ!」
「ふぅ……どうも!今日から朝波高校軽音部に所属する2年の東龍之介です!担当はキーボード!入って即ライブということで緊張していますが頑張ります!」
「はい、というわけで新入りの東でした!今回は1曲しかやらないけどその分それだけに気合い入れてくから我慢してな。そんじゃあ早速、[ALEXANDROS]で『Starrrrrrr』」
︎︎俺が曲名を言い切ると同時に大瀬良がイントロを弾き出す。この曲のイントロまじでカッコいいよな。サビ直後とかキレイにハマったら脳汁ヤバそう。
︎︎それにしても東のやつ、緊張してただけか?今は普通に見える。まぁええか。今は集中しよう。
『I see a light in darkness
Waited for thousand years or less
光る夜の下 足が止まった
言葉を失い ただ固まった』
︎︎うん。強炭酸コーラをイッキ飲みしたことを若干後悔していたが、なんの問題もなく声が通る。そして不安だった東は完璧に音を合わせているしズレもない。これなら安心。
『I feel the night is ending
Time is just running out by the morning
頭の中では完璧だった
ところが外に出そうとした時に
「あっ」と気付く』
︎︎瀬奈も久々に音が増えたからノリノリでベースを弾いている。なんならぴょんぴょん跳ねてる。相変わらずベース弾いてる時が1番可愛い。
『私の昔の理想は 跡形も無くなった
だからもう一度 性懲りもないままに
立ち上がって』
︎︎大瀬良は相変わらずの技術力でこの曲の世界を表現している。無表情なのは相変わらずだが、さっきまで失神していたとは思えないほど音の乗りが良い。画面越しでも伝われ、この凄さ。
︎︎そしてこのサビ前の段階的に上げていくところがマジで癖。気持ち良すぎだろぉ!
『彷徨って 途方に暮れたって
また明日には 新しい方角へ
この場所で この乱れた時代で
傷付きながら その欲望を守り抜いていく』
︎︎喉がはち切れてでも声を上げろ。このハイトーンを掠れさせたりするな、裏返らせるな。さんざん練習したミックスボイスの成果を発揮しろぉ!大瀬良と瀬奈もコーラスをキレイにハモらせてくる。やっぱり音が1つ増えるだけで全然いつもと違うな!
『失っていく 失っていく
幼い頃抱いた夢
逃げ去っていく 逃げ去っていく
昔の自分にとどめ刺して』
︎︎サビ終盤のこの畳み掛ける感じもたまんねぇ!と、ここでチラッと大瀬良と瀬奈にアイコンタクト。そんで最後に東と目を合わせる。ここの見せ場はくれてやるよ。そんな俺の意思が伝わったのか東の顔が強ばる。おーい緊張してんのか?ここまでやれるならイけるだろ。
︎︎───と思ったがここで事件発生。東が一拍遅れた。完全ソロだったのが裏目に出たのか、ライブ視聴者にもそのミスは伝わっただろう。
︎︎一応、インスタライブは1曲フルでやって無事終了できた。東自身で自分のミスをリカバリーしたからか、違和感を覚えた視聴者はあまり多く見なかった。しかし、東にはやはりなにかあるようで、見ると項垂れていた。
「東先輩、どうしたの?」
「あそこのソロ、完全に出遅れてた」
「緊張しちまったのか」
「……」
︎︎東は何も言い返さない。いや言い返せないのか。あんだけ高い技術があってあそこだけミスったのはなにかある。
「おい、なんか言えや」
「……すまない!君たちに一つ言わなければならないことがある!」
「さっきの一拍遅れのこと?」
「それしかないでしょ」
「俺は、注目に弱いんだ!」
「ほう?」
「小学生の頃ピアノをやっていたんだが、その頃からずっとそうだった」
「でもコンクールで優勝しまくってたんでしょ?掲示板で見たよ」
︎︎え、掲示板ってそんな個人の経歴まで書かれんの?プライバシー皆無じゃんこわ。じゃなくて、
「確かにその通りなんだが、所詮は小学生。俺が一拍程度ミスしても周りとは覆せないほどの差があった。だけどあまりの緊張に心臓が痛くなってね、ピアノを辞めたんだ」
「なんかとんでもねぇこと言ってないかコイツ?」
「スゴい自尊心」
「一周まわって清々しいね!」
︎︎いくら小学生つったって、大人顔負けレベルの天才はいる。そん中で一拍のミスが順位を引っくり返す材料にならないとか。バケモンか?
「その後に始めたのがキーボードでね。バンドはボーカルが主役だろ?だからそこまで緊張しないと思っていたんだ。けれど現実はそう甘くなかった。キーボードにもソロはあるし、むしろメインでリードする時だってある。当時の仲間にはその音やリズムのズレの多発が原因で外されたよ」
︎︎東はそういって力なく笑った。なるほどなァ。そりゃインスタライブやるってなったら直接注目されなくても緊張するか。しかも今回は自分が加入したことによる記念だしな。
「だから君たちも、まだ入ったばかりでなんだが俺を外してもらって構わない。もちろん、名前は貸すから部活は存続する」
「バカかてめぇ」
︎︎東が顔を上げる。その目は見開いていた。ダラダラ過去回想語ったと思ったら、自分を外せとか宣いやがる。瀬奈、大瀬良と顔を見合わせる。
「俺は東にはいて欲しい。そっちの方がノれるから」
「僕も同感かな。それにこんなハイレベルなキーボード。そう簡単に見つからないもん」
「大瀬良くん…早川くん…」
「でも俺は、確実に君たちの足を引っ張る!」
︎︎クハッ、本当にアホかコイツ。
「おい東ァ」
「……鳴海くん」
︎︎俺は東の胸倉を掴み、顔を近づける。
「あんまり俺らを舐めてんじゃねぇよボケカスゥ!」
︎︎そういって思い切り頭突きをかました。東はめちゃくちゃ痛そうにしている。
「過去にてめぇを捨てたゴミ共と俺らを一緒にすんなや。そんな奴らと違って俺らはお前を見捨てない。だからてめぇも気張ってついてこいよ」
︎︎この言葉で、東は目を潤ませる。緊張しいに続いて泣き虫かよ。泣き虫枠は瀬奈で充分だ。
「……でも、俺は、」
「まだ不安なのか?そのあがり症が踏ん切りつけなくさせてんのか?」
「その通りだ。君たちの気持ちはすごく、すごくすごく有難い!だが、少なくともこれがなくなるまで、俺のプライドにかけて!君たちとは一緒にやれない」
「はー、そうきたかー」
「こうなると厄介だよね。意地でも動かせない」
「面倒くさいね」
︎︎おいあんまり言ってやるなよ。かなりナイフ突き刺さってんぞ。2人とも無自覚なのがタチ悪ぃ。でもまぁ、そういうことなら任せとけ。
「俺にいい案がある」
ちっちばかし、荒療治だがなァ。
Starrrrrrr/[ALEXANDROS]
鳴海
東の技術の高さに驚いた。
緊張してミスしやすい程度で仲間を見捨てるほどカスじゃねぇよ。
早川
久々に音が増えて一番喜んだ(可愛い)。
東先輩は大丈夫!だって拓斗と僕と大瀬良がいるから!
大瀬良
今回は失神から目覚めてすぐということもあり暴れなかった。
東がミスを自分でカバーした技術の高さに尊敬した。
東
初めてのセッションを完璧に合わせた上に緊張しやすいのにたった一拍しかズレを起こさなかった化け物。
今回のことがきっかけで鳴海たちを真に信頼した。
思ったよりシリアスった。