人間のいない世界   作:ラシン

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3.『移動城塞』

 

洞穴の中はひんやりとしており外との隔絶を感じさせた。天井の岩を滴る水滴の音が洞穴に響いている。

道中は暗かったが、洞穴の奥がほのかに明るい。目的のポケモンはそう遠くないはずだ。

 

「火の粉の匂いがするな。近いぜ、おめぇら用心するんだ」

 

しばらく進めばそこそこ大きな空洞に繋がっていた。暗い横穴から中を覗くと、そこには複数のベロバーと体表が紅色で腕が伸びたベロバーのようなポケモンが篝火を囲んでいた。おそらくあいつがギモーだろう。左腕を抑えながら鞄の方を向いている。物色中だろうか。

 

「くそ、あの触手野郎!鈍いくせになんてパワーだ、冗談じゃねぇぞ!……お、こりゃ何だ?」

 

「それは多分めざめいしッスね、売ればそれなりの値段にはなりそうッスよ」

 

「ほー、良いじゃねぇか。ついでに地図も入ってるから近場の集落で売り捌くか!」

 

「「「いぇーい」」」

 

 

 

「……ふざけたことを抜かしやがる」

 

イワパレスの鋏がギチギチと音を立てて開閉している。相当お冠のようで、はちゃめちゃに怖い。ニャスパーなんか全身の体毛がぞわりと震えてたし、俺も膝がぶるりと震えた。ギャングみたいな圧の出し方だ。

 

「んじゃとりあえずは鞄に入ってた食料で一つ晩餐と……」

 

「ほぉ……随分と楽しそうな予定じゃないか。一枚噛ませてくれよ盗人諸君」

 

そう口上を垂れながらイワパレスは横穴から身を晒した。

まるで絵本の魔王みたいな雰囲気で地響きのような声を出すイワパレスさん。控えめに言っておっかなすぎる。そんな殺気をもろに浴びるギモー一味には少しだけ同情した。

 

「べ、ベロバー共!敵襲だ!」

 

ギモーが叫ぶと、一拍遅れてベロバーたちが襲いかかってきた。しかしベロバー達はみな、恐怖と命令の間で潰されそうな顔をしていた。多分イワパレスがたった今捨てたボコボコにされたベロバー竿も影響していそうだ。

 

「洒落臭ぇぞ木っ端どもが!」

 

イワパレスが両の鋏を向けると、無数の岩が弾丸のようにベロバー達に発射された。あれは故郷のルガルガン爺がよく使っていた技、ロックブラストだろうか。威力と速度がえげつない。

岩の弾丸は萎縮気味のベロバー達に容赦なく襲いかかり、数匹を残して瀕死状態にしてしまった。あの壁に大きめの岩ごとめり込んでるベロバーは生きているのか?

 

「お、お前ら……」

 

「さて、窃盗は重罪だぜギモーとやら。お山の大将やってんだ、ケジメくれぇつけてもらおうか。大人しくしやがれ、仕事が楽になる」

 

「くっ……」

 

ギモーの命運もこれまで、って感じだな。にしてもイワパレスさんはちゃめちゃに強いポケモンじゃないか。ユレイドルさんもそうだったが、もしかしたら名うての旅ポケモンなのかもしれない。

 

イワパレスの強さに圧倒されていると、数匹のベロバーがこちらにこっそりと走ってきているのが見えた。どうやらどさくさに紛れて逃走を図っているようだ。

しかし出口の横穴には俺たちがいるし、ベロバーたちはちゃっかり高そうな木の実や道具、ついでに地図も持ち逃げしようとしている。俺たちの報酬だ、逃す気は無い。

 

「おい、どこに行く気だお前ら」

 

「あんた達もギモーの仲間なんでしょ!大人しく捕まりなさい!」

 

俺たち二匹も横穴から出れば、ベロバー達も逃げ場がないことを悟ったようだ。ニャスパーなんて指をビシッと指して格好つけている。いつもより目つきも鋭い気がしてくるな。

 

「ぎぎぎ、くそがっ……」

 

「諦めんじゃねぇ、相手は二匹だ、三匹で行きゃ何とかなる!」

 

「うおぉぉお、そこを退けえぇぇえ!!」

 

「あ、おい! 馬鹿、先走るな!!」

 

 

「任せてザングース、あのくらいなら僕の念力で……」

 

一匹のベロバーが強引に突破してこようとしているが、こちらにおわす方をどなたと心得える。ニャスパーの念力は多少の大きさのポケモンなら、動きを止めるくらいわけもない。初見殺しもいいところな性能なのでやってやれ!

 

……ん? どうしたニャスパー大先生、手を前に突き出してサイコオーラは発してるのに、ベロバーは止まっていないぞ?

 

「あ、あれ?ザ、ザングース、効いてないかも」

 

「は……?」

 

ベロバーの空元気な突進がニャスパーに迫る。寸前で爪の一撃を滑り込ませてぶっ飛ばすことに成功した。打ちどころが悪かったのか、飛ばしたベロバーは地面に伏したまま目を回して動かない。

 

「あっぶねぇ!こいつら、アブソルと似たタイプの敵だ」

 

「なら攻撃は任せたよザングース、防御は任せて!」

 

ニャスパーの使うサイコパワーはたまに効果がないポケモンがいる。効きにくいではなく効果が全くないポケモンだ。ニャスパー曰く、アブソルにも効かないらしい。

原因は不明だが、黒いポケモンに効果がないことが多かった気がする。だからベロバーにも効かないのは聞いてない!

ともあれ残るベロバーは二匹。数こそ不利だがやってやれなくはない。それに、ニャスパーはサポートに回った時がいちばん強いからな。

 

「くそ、考えなしの脳足らずが!まずは白い方からだ!挟んで叩くぞ!」

 

「おぅよ!」

 

二匹のベロバーは横に散開し隙を伺うように立ち回るようだ。狙いは分かるが、ニャスパーを放置するとはありがたい。

俺はそんなフォーメーションなど意にも介さず、指示を出していた方のベロバーに接近した。多分こっちの方が頭が回るだけ強いからな。

んでもって、こういう時は最大火力でぶっ飛ばすに限る!

 

「くらえ! ブレイククロー!」

 

「ごぁ、は……」

 

急所にでも当たったのか、ベロバーは地面をバウンドして転がり、目を回した。あと一匹だ。

しかしベロバーは横に散開していただけあり、すぐ背後から攻撃がくる。

 

「その腕食いちぎってやる!」

 

ベロバーが俺に噛み付こうと飛びかかった、が。ベロバーは空中で何かにぶつかったように弾かれた。何が起こったのか分からないのか、ぽかんとした顔をしている。

これがニャスパーの得意技、サイコパワーを凝縮し空中に見えない障壁を張ることができる。ニャスパーは光の壁だかリフレクなんちゃらって言ってたか。

まぁ何はともあれ隙だらけだ。

 

「次はお前だ!ブレイククロー!」

 

「ぐ、は……」

 

最後の一匹も目を回し、ベロバーは三匹とも戦闘不能。俺たちの勝ちだ!

ついでにユレイドルの荷物も戦闘のために捨て置かれてたから被害もなし。最良の結果ではなかろうか。

 

「やったねザングース!僕たちだけでも戦えたよ!」

 

「あぁ、そうだな。やればできるもんだ」

 

実際、俺たちがちゃんと戦ったのはこれが初めてな気がする。

前に故郷を野盗が襲ってきた時には、まだ幼かったのもあって隠れることしかできなかった。また野盗が来ても戦えるように、アブソル対俺たちの形式でその後ちょくちょく戦う訓練を始めたんだ。

俺たちの中ではアブソルが一番強かったが、二対一なら俺たちの方が強かった。ニャスパーとのコンビネーションには自信がある。アブソルも加えれば百人力だ。

 

「あれ、そういえば静かだね。イワパレスさんの方はどうなったのかな」

 

ユレイドルの荷物を拾い集めながら、ふとニャスパーが零した。確かに静かだった。戦闘は終わったのだろうか。

岩陰から二匹でそっと覗いて見た。

戦いは既に終わり、イワパレスによって後始末まで済まされていた。イワパレスの岩ヤドにはユレイドルの荷物が乗っていて、戦闘で汚れた彼の鋏には、先端にベロバー球が付いた竿が握られていた。ぐるぐる巻きどころかベロバーの顔でできた惑星みたいだ。あ、ギモーの顔も見つけた。ボコボコにされた顔が痛々しい。

 

「お、そっちも終わったかい。お疲れさん」

 

「イワパレスさんもお疲れ様!……凄いことになってるねギモー達」

 

「おぅよ、こいつらは後で集落に着いたら『第三コロラータ監獄』に送ってもらう。そこで再教育ってことらしい」

 

「任せるようで悪いな」

 

「なぁに、元はと言えばこっちが巻き込んだ様なもんだ。気にしないでくれ。……お、まだ3匹いたか」

 

イワパレスさんは、さっき俺たちが倒して地面に転がったベロバーたちをぎゅむむぎゅとベロバー球に押し込んだ。窮屈そうだ。

 

「さて、ユレイドルも待ちぼうけで暇だろう、戻るとしようか」

 

 

 

洞穴を出ると既に日が落ち始めていて、鬱蒼とした森は茜色に染まっていた。今まで何度も見てきた空だが、今日はいつもより輝いて見えた気がする。

ユレイドルの元へ戻ると、彼女は会った時と同じ木陰ですやすやと寝こけていた。イワパレスは苦笑すると、殻を抜けてユレイドルを岩殻の上に寝かせた。その岩抜けられるのかよ!

 

「悪ぃなあんたら、この分だと集落に着くのは遅くなっちまいそうだ。合わせちまうのも悪ぃから先に行ってて構わんぞ、割とここから近いんだ。あー、集落までの道は分かるかい? 地図はほれ、こいつをやるよ」

 

「貰っても良いのか?」

 

「わはは、大丈夫大丈夫。ここらの歩き方はもう覚えとるし、使ってもらうのが道具の本懐だからな。ゆっくり集落を目指すよ」

 

 

その後、「ほいじゃ、またどこかでな〜」と鋏を振るイワパレスと別れた俺たちは地図に従い進む。この分だと、日が落ち切る前には近場の集落に辿り着くことができそうだ。

 

「良いポケモン達だったね、ユレイドルさんとイワパレスさん。強くて優しくて、かっこよかった」

 

「そうだな。でも、あれくらい強くなければ旅ができないってことかもしれない」

 

「…………そう、かもね」

 

「アブソルを止めるためにも。俺には、俺たちにはまだ力が……」

 

「ねぇ、ザングース」

 

不意に足を止めたニャスパーを振り返る。いつも通りの無表情、いや、口を引き結んで眉を少し寄せている。……キレてるな。

 

「ザングース、あんたのその卑屈になるのは良くない癖だよ。少なくとも今の現状ではね。確かにアブソルを取り戻すには戦力は必要だと思う、そんなの分かりきってるよ。だからって一、二のポカンで強くなるわけないでしょ?集落でやった三匹での特訓はもう忘れちゃった?少しずつ、少しずつなんだよ。こうやってアブソルの元に向かう道程と一緒。僕は、三匹で、元のように、いつも通りに、あの故郷で過ごしたいんだ」

 

「……あー、えっと……俺は別に外法に手を出す気は無いぞ」

 

「…………なら、良いよ」

 

ニャスパーは俺を追い越して、すたすたと先に進んで行く。あいつ意外と熱いところがあったんだな。まぁ確かに俺の言い方も悪かったけども。

ともあれニャスパーの言う通りだ。少しずつ、確かな力をつけていこう。……とりあえず故郷のルガルガン爺くらいまで。

俺もニャスパーに続いて歩みを再開した。目指す集落は目前だ。

 

 

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