ZZZ ―風雅探偵事務所―   作:舘向井雛壇

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薄れゆく香りを辿って(5)

「おはよ~」

「おはようなのだわ」

『おはよう、二人とも。なんだか眠そうだね』

「ちょっとアリスと話し込んでたら寝るの遅くなっちゃったんだよね」

『あんまり夜更かししないようにね……ん?』

 

 食堂に来た二人に、ソーマは何となく距離感が近くなったようなと思っていると錬も一歩遅れて到着する。何かを考えているようでかるく挨拶だけすると食堂の椅子に座る。

 その少し後にコール氏、そして食事を運んできたエリーが続く。

 

「やあおはよう、皆さん」

『おはようございます』

 

 各々が挨拶を返し、エリーがその間にテキパキと料理を並べていく。全員分の食事が並んだところで食前の挨拶をして食事をとり始める。

 にこにことほほ笑みながらコールはふと思いついたように錬の方を向くと話を切り出した。

 

「風雅くん、昨日は街の方を見て回ったそうだがどうだったかな?」

「老齢の方が普通より多いぐらいで、のどかな街だなというところですね。先生も随分慕われてるようで、よくしてもらったという話をよく聞きましたよ」

「はは、それは少し恥ずかしいな。こういう孤立した街だから助け合いは往々にして必要だから、私も出来る範囲で手を貸しているだけさ」

「あとは、義肢の方が多いというイメージがありますね。お会いした方のほとんどが義肢を装着されていたかな」

「この街の老人は過去に何かしらあることが多いから、義肢のユーザーは多いね。噂を聞きつけてやってこられた方も居る」

「わざわざホロウを越えてまで……みんなの評判がいいわけですね」

「いやいや、出来ることをしているだけですよ」

 

 穏やかな朝食の会話は特に情報を得られる訳でもなく終わった。

 今日は滞在二日目。

 ソーマは消費電力を抑えつつ探知用のレーダーを使って邸内の状況を調べていた。表層部の地形は完全に把握しているが昨日見つけた地下部分の構造はまだ把握しきれていない。エリーとコールの目を盗んで邸内を移動して地下へ続くと予想される扉の前へと来ていた。尻尾のマニュピレータ―を用いてピッキングを施す。あっという間にかちりという音がこぼれて扉のロックが解除される。鍵穴からマニュピレータを引き抜いて取っ手に巻き付けると扉を開く。

 

『案外セキュリティは甘いのかな』

 

 あるいは誘われているのか。

 どちらにせよ斥候役の自分は出来る限り情報をさらうしかない。するりと入り込んだ扉の中はまた普通の部屋のようだった。手早く床をスキャンして目には見えない情報を取込む。足跡は机の前に続いており、そこで何かをやっているようだ。机をぐるりと眺めた後考える。

 

『指紋……は無いな。エリーさんが毎日掃除してるみたいだし消えてる。他に何か手がかりになるような物……』

 

 何かあるだろうか、と痕跡を消されている部分が他にないか部屋中を見回してみる。

 

『足跡から考えるに、机で何かをやると壁が動いてその先に向かっているように見える。さすがに壊すのはまずいからそれは最終手段として……コールさんみたいな老齢の人でも動かせるギミックが仕込まれていると前提に考えよう』

 

 いつ来るかも分からない侵入者のために偽装をし続けるとは考えにくい。

 引きだしをじっと観察してみるとふと椅子に座った時に正面にくる引き出しのツマミが他の引き出しのツマミより多く摩耗しているように見えた。試しにそのツマミをつまんで引き出しを押さえて引っ張ってみるとすこんと抜けた。抜けたツマミを確認してみるとUSBの差込口のような金属が見える。

 

『足跡と身長を考慮して、多分埋め栓みたいなのが……あった』

 

 差込口を埋めて隠していたゴム栓を抜いてツマミの金属端子を挿し込む。ぴぴ、という軽い電子音が鳴り、壁の一部が引っ込むと横にスライドしてゆっくりと開いていく。

 そっと扉の内側を覗くと地下に続いていく階段が伸びている。

 ふう、と目的を達したことを理解して脳内インターフェースからメッセージ機能を起動すると手短に仕組みを書いて錬へと送付する。これで自分に何かあっても所長がどうにかしてくれるはずだ。

 

『さあて、鬼が出るか蛇が出るか』

 

 警戒を引き上げて階段を下っていく。

 二階分の階段を下り切ると今度はまっすぐに伸びた廊下。上の屋敷の暖色の照明とは違う冷たい印象を覚える白色灯が廊下の奥まで照らし出している。最奥にはスチール製と思しき扉が鎮座している。

 廊下を進み、一番奥まで。

 最奥の扉は引き戸のようで取っ手を引っ張ってみればあっさりと開いた。どうやらこちらには鍵をかけてないらしい。部屋の中へ入ってみると作業机と寝台、何かをしまっている棚が壁一面にと。一つの部屋に納められている。

 

『医療用薬品まであるってことは……ここで処置もすることがあるのか。研究室ってよりは手術室っぽい』

 

 麻酔、鎮静剤、その他もろもろ。機械だけじゃなく治療としても十全に作業をこなせるようになっている。

 義肢というものを取り扱う以上医療系の知識を避けては通れないらしい。さて、ここに情報は無いものかと調べ始める。部屋の中にあるものは先ほども言った通り壁一面の棚、施術を施す手術台、隅の方に置かれた作業台。まずは作業台から調べようと椅子の上に上ると机の上を見てみる。

 大学ノートと筆記用具が置かれている。表題には何も書かれていない。表紙をめくってみるとどうやら施術を行った相手の記録を取っているようだ。日記のような書き込みも見受けられる。

 一人一人の症状と体の状態を記録に取り、体に負荷のかかりづらいコネクタ埋設施術を検討・実行し、製作した義肢の装着、その後の調整まで肉筆でしっかりと記録してある。読み進めていくと、患者の名前の欄にエリーの名前を見つける。施術の内容に加えて、コール自身の独白も綴られている。

 

『施術は5年前、最初は普通の義肢を与えたんだ。でも……重傷を負って既存の義肢接続部が破損。修復も難しいため既設部を除去後、新型受け軸の埋設術を施す』

 

"これはセルフチェック・セルフメンテナンスも行える最新式のものである。人間の構造を再現することに最大限の注力を行った。しかしそれも永遠に続けられるわけもない、必ず外部のメンテナンスなどを行う必要性は存在し続ける。SF映画に出てくるような自己修復可能な義肢であればどれほどよかっただろうか”

 

"新型の義肢は戦闘にも耐えうる頑強な耐久性をも持ち合わせている。エリーは私に恩義を感じてか側付き兼護衛として働いてくれることになった。戦闘職としてはやや不安な実力であったためDDA棄民の中から元防衛軍の指導教官の経験を持つカフェの店長をリハビリトレーナーとして指定し、格闘技能の指導も依頼した。いずれ私が居なくなっても手に職を付けていれば今後もどうにかはなるだろう"

 

"術後経過は順調。幻肢痛などの後遺症も発症せず、リハビリも問題なく進んでいる"

"問題が発生した。DDAがエリーに施した施術をどこかから知り、技術供出を求めてきた。人に近い構造を持ちながら劣悪な環境にも耐えうる義肢というものは彼らにとって垂涎の技術だろう。廉価品を設計して売り出した場合のシミュレートを行い膨大な利益になりうるだろうという予測がたてられた事は私自身も知っている。問題はDDAが裏で繋がっているTOPSの軍事産業部門への技術流出だ。"

 

"真っ当な会社へ流れればいいが、旧都陥落によって行き場を失った市民や再起不能となった退役軍人などを使い捨ての実験体扱いしていたDDAと繋がっている企業なぞ信用に値しない。"枝"の監査の噂もあるが、実態の分からない部署に期待するわけにもいかない。彼らの影響下から逃れなければならない"

"棄民とエリーを連れてホロウによって隔絶した土地に移住することにした。幸いここの老人たちは自分たちの境遇に同情し、戸籍の背乗りなどに同意してくれた。身寄りの無い一団と相談して、彼らに移住地を用意、彼らには市政の強制介入までの間、戸籍を借り受けることになる。ひとまずの時間稼ぎは、これで何とかなるはずだ"

 

『……直近のコールさんが抱えている案件はこれか。しかし軍需産業部門か』

 

 話が一旦区切られ、そこでこのページは終わっていた。べージをめくり次のページへと読み進めていく。

 

"やられた"

"どこかから研究中の技術を盗まれた"

"疑いたくは無いが、棄民の中に内偵が居るのかもしれない。メンテの際にそれとなく探ってみよう"

"しかし、この回路の組み方はどこかで見たことがある気がする"

 

『ここまでか』

 

 それ以後の記述は無い。消した様子もないことからこのノートへの記述をやめたのだろうか。

 ノートの内容をすべて記録して元に戻しておく。出来れば原本を持ち出したいが、いつコールがここに来るか分からない以上部屋を荒らすわけにもいかないだろう。

 他にも目立ったものは無いかと机の引き出しを探ってみる。そうすると引き出しの中から写真立てに納められた写真を発見する。5人の若者と1人の老人が集まって撮ったもののようで、ただ色褪せ具合などからかなり古いものの様に思える。そこに写っているものを見ていると背後から突然声をかけられる。

 

「何か見つかったか?」

『っ!! ……所長でしたか』

「ああ。しかしよく見つけたな」

『痕跡がしっかり残っていましたから。そうだ所長、この写真に見覚えはありますか?』

 

 マニュピレータが錬の方に伸びて握っていた写真を渡す。その写真を、錬は口元に手を当ててじっと見つめる。何かを思い出そうとしているような、錬は少しだけそのまま考え続けて写真をソーマに返す。

 

「見覚えは無いが、コールさんの若い頃、多分例の研究室に在籍していたころじゃないか? 写真の若い面子にベオウルフ卿と師匠の面影がある人が居る」

『ということは、ここに写っている人たちが研究室メンバーということですか。でもこの写真に写ってる生徒は5()()……』

「恥ずべき過去、か。ぼんやりとだが大枠は見えてきた気がするな」

 

 写真立てを机の中に戻して引きだしを閉じる。

 

『ノートの方も確認してみましたが、エリーさんに関することの記述がメインでした。テキストデータに出力した物をメールで送ります』

「あとで確認しておくよ。しかし、わざわざこんなスペースを作るなんてよっぽど警戒していたみたいだな」

『その割にはセキュリティが甘かった気もしますが』

「…………」

 

 目を閉じて黙した錬。

 すこししてから目を開くと戻ろうとソーマに声をかけて部屋をでる。

 地上階に戻ってから隠し扉を元に戻して原状に戻しておく。部屋の外に出てソーマはずっと考えこんだままの錬。おそらくこれまでの情報を整理した上で事の真相を探しているのだろう。

 

「ソーマ、ちょっとコールさんのところに話を聞きに行こう」

『それは構いませんが、なにか目途がついたので?』

「いいや。だがはっきりさせておきたい事が出来た」

 

 廊下を歩き始めた錬の後ろをついていく。足取りや検知できるバイタルからは感情の揺らぎは見て取れない、本当にコールに何かを確認したいだけなのだろう。屋敷の中を抜けて屋敷に来た時に案内されたコールの部屋。その前に立った錬は躊躇いなくノック。

 数秒待った後に中から扉が開かれる。ひょいと顔を出したのはアリスについて同席していた星那だった。

 

「どしたの?」

「コールさんに聞きたいことがあってな、今は大丈夫か?」

「構いませんよ、どうぞ入ってください」

「……だってさ」

 

 星那の後に続いて入ると机を挟んでコールの論文を学ぶアリスと教えるコールが居た。

 こちらの来訪に気付いて一旦手を止めているが、端々に見える論文の量は非常に多い。あれを全て学んでいるとすれば驚異的だ。教育用として体系化されているわけでもないであろう資料をもとに自らの血肉としているわけなのだから。

 

「やあ風雅くん。どういった御用かな?」

「コールさん、あなたが学徒であったころの話を伺いたい。特に、研究室であったという恥ずべき過去について」

「……、ベオか。ロウの弟子相手だから口が緩んでしまったかな」

「やはり知っておいでですか、あなたとジェディス氏と師匠も関係しているだろうとは聞いていましたが」

「まずは君の推察を聞いたほうが良さそうだ。間違いがあれば、訂正しよう。そちらの方が早い」

 

 持っていたペンを置き、足を組んで話を聞く体勢を整える。

 対する錬は、少し目をつぶった後に一つ息を吐くと意を決して目を開く。

 

「五十余年前、あなた方は"犯人"の研究室に所属していた。研究室の人員はあなた方4人に加えて"犯人"、そして……"被害者"。恥ずべき過去とは、その被害者にまつわることではないですか?」

「――――――続きを聞こうか」

「ベオウルフ卿は踏み込んではならない領域がどの分野にも必ず存在すると語っていた。最初は四人の内の誰かがそこに踏み込んで袂を分かったと思っていました。だが、ある写真を見て考えが変わりました」

「地下の施術室に入ったんだね? そしてそこにあった写真を見た」

「その点ついては、無法と無礼を働いたことを謝罪します。続けますが研究室である以上成果の報告は求められる。あなた達の研究の結晶と呼ぶべき論文は、"犯人"の元に集まっていた」

 

 語られる推測にコールは表情一つ変えず、聞きに徹している。沈黙が、肯定を示していた。

 

「"犯人"は一つの研究室の創設を認められるほどには優秀な人物だったのでしょう。だからこそあなた達の研究の素晴らしさを理解し、その先にある禁忌の領域を認識することが出来た」

「そして、"被害者"を……リリィを使って踏み入ってしまった」

 

 最後の結論を、コールは引き取って語った。その結論は錬が推測していた通りのものだった。

 

「すまない、間違ってたら指摘するつもりだったんだがね。この部分だけは自分の口から告げたかった」

「ベオウルフ卿が語る恥ずべき過去とは、自分が作り上げた理論を悪用されてしまったことについてですね」

「ああ、ベオのことはベオに聞かなければいけないだろうが、おおよそは間違いないはずだ。リリィ、リリィ・エトワールは当時の私たちよりも少し年下の子でね、彼女もまた優秀な学徒だったよ。真っ当に進めばもしかすればエーテルの真実を突き止めたかもしれない才媛だった」

「だった……?」

「殺害された。ほかならぬ研究室室長、マリシャス・ディルビル博士の手によって」

「当時の事は推測でしかないから何があったかは完全には分かりませんが、恐らくあなた達の技術の被検体にされて、ですね」

 

 そう言われて、コールは頷く。

 

「彼女は高いエーテル適性を持っていた。彼女の体から採取した検体をエーテル空間に放置してもケースにしていたものの方が先にエーテル結晶化したほどだ。無機物以上の耐性は、研究者としては羨ましくもあったかな」

「エーテルへの高い適性……先生たちの研究は人体のエーテル環境への適性を上げるための手段で、それを元から高い人に施術してどうしたかったのかしら」

「それは結局分からずじまいだった。私たちが博士の所業を知り、リリィを助けに向かった時点で処置は完了し、全ての資料と資材は廃棄されてしまっていたからね」

 

 当時の事を思い出したのか、しきりに手をこすり合わせながらコールは呟いた。気のせいか、顔色も心持ち悪いような気がする。

 

「その後、リリィの遺体は収容され、マリシャスは逮捕、投獄された。事件は一つの決着を迎えて、しかし私たちに埋めようのない傷をつけた。結果、研究室は教授の博士の逮捕も相まって解散、私たちは離散することとなった」

 

 以上が、私の視点から見た当時にあった出来事だ、とコールは言葉を締めくくった。

 具体的に何があったかは語られなかった。しかし、それこそがリリィという人物に降りかかったおぞましい結末を指し示しているようで口を開くのをためらってしまう。

 

「それをもって、清算を完了したとあなたは断じた」

「あ……!」

『清算が完了してはいなかったというのは、まさか』

「ああ、マリシャス博士は裁判にかけられ、裁かれて世を去った。そのはずだったんだが……私がDDA棄民の救済に動き始めた時、棄民の中で行方不明になっている人物が居た。彼らはいずれもエーテル適性が高い人物で、その時はまだ嫌な予感止まりだった」

「盗まれた技術、盗まれた論文……」

「ああ、確信を持ったのはここに移住した後、DDAの襲撃を受けてからだ。リリィに行われた施術と同じ痕跡を持つ被験者に襲われた、自己意識はなく、ただただエーテリアスのように暴れ狂うだけだったが……リリィの時と同じだと感じた」

「なるほどねぇ……くだんない大人っていつの時代もいるもんだね」

 

 腕を組んで星那が呆れたように呟く。とんとんと腕を叩く様子から見てかなり苛立っているようだ。実験の被験者としても使いつぶされることにしても、彼女にとっての逆鱗をひどく逆撫でしているような物なのだろう。事実、ソーマと星那のリンクから流れてくる彼女の怒りは強いものだ。

 

「ベオウルフさんと連絡を絶ったのも、自分でどうにかしようと考えたから?」

「ああ。タイムフィールド家も厳しい状況に陥りつつある現状、こちらの厄介事にも、過去の清算に老骨を引っ張り出すのは憚られたからね。ただでさえ息子を失ったんだ、アイツが苦しみを背負う必要はない」

「……先生、申し訳ありませんがその気遣いは撤回を願いたいのだわ」

「アリスくん?」

「おじいさまはきっと友人である先生と共に忌まわしい過去を清算したいと考えるのだわ。むしろ仲間外れにされることを怒るはずです」

 

 少し自信なさげに、しかしはっきりと言い切る。

 

「おじい様はいつも正しいことを為しなさいと仰るのだわ。だからきっと、自分の過去を勝手に清算されることはひどく嫌がられると思う。友達であるコールさんになぜその苦しみを分かち合ってくれないんだ、と」

「ベオウルフ卿も何かあったことは察していらしたでしょうね。連絡を絶たれたことを不審に思っていられました」

「……連絡を絶った? 私からはしばらく連絡を取れなくなると手紙を書いたのだが」

「――――――。そうか、なるほど。そういうことか。思いやるにも強硬的だ」

 

 口元をおさえ、そして何かを察したか、錬は呆れたようにため息をついた。

 そして小さく評する言葉を口にするとコールに確認の質問を投げかける。

 

「エリーさんのことは、どのようにしようと考えていらしたんですか」

「うん? 正直なことを言えば、悩んでいた。どうにかDDAとの関係に決着をつけたあとは知り合いの技師に後を託そうと考えてはいたが」

「事情を把握はしていた、と。となるとタイムフィールド家の介入を誘導していた……ということでいいかな」

「御明察、とお答えいたします」

 

 いつのまにやら部屋の入口に立っていたエリー。すました顔でその裏にある感情を読み取らせない彼女はコールの方を見ると頭を下げる。

 

「申し訳ございません、コール様。最後の手紙をお送りせず、私の方で預かっておりました」

「ベオの介入を誘導するためと言っていたが、どういう事だい?」

「DDAとの対立はすでに決定的な物です。しかしこちらは姿をくらませて時間稼ぎしたとはいえすでに位置も割り出され、市政の援助さえなければ殲滅されていてもおかしくはありませんでいた。このままではコール様を含めて皆いずれ命を奪われる、あるいは実験台として()()()されてもおかしくない。……ですので、TOPS側でコール様の友人であるベオウルフ・タイムフィールド様を頼りにせざるをえない。そう考えて動きました」

 

 過ぎた真似をしてしまい、申し訳ございません。

 そう言って頭を下げるエリーにコールは困ったように頭を掻いている。人の良さそうな顔が困ったように眉を八の字に描いている。

 

「私たちの身を案じての行動なんだね? それならそう責める訳にもいかないか……」

「コールさんは自分たちだけでどうにかしようとしてたけど、エリーさんはそれだとどうにもならないと考えていた。だからコールさんの手紙を握りつぶして、ベオウルフさんに疑問を抱かせて調査させるように誘導した。昔のことで隔意を抱かれてると思ってたベオウルフさんは私たちに調査を依頼して、現状に至る、でいいのかな」

『ヘイ星那、ナイスまとめ』

「お兄ちゃんがそれ言うんだ。ありがとうだけど」

「あれ、ということは……おじい様からの依頼はこれで完遂ってことになるのかしら」

「そうなりますね。もっと……」

 

 ちらりとコールに視線を向けると彼は一つ頷くと口を開く。

 

「事ここに至って、タイムフィールド家を排除するつもりは無い。そして風雅くん、君たち探偵事務所には本来なら埒外な事を依頼してもいいだろうか」

「引き受けましょう。師匠のやり残し、かつての後悔、悪縁、それらの清算には弟子の自分も携わらせていただきたい」

「タイムフィールド家の名代として、是非私も参加させていただくのだわ!」

 

 三者は顔を見合わせて頷きあう。

 こうしてオールドタウンの住民たちに絡みつく陰謀と古い因縁を断つための戦いが動き始める。




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