ZZZ ―風雅探偵事務所―   作:舘向井雛壇

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怒れる鉄拳を振りかざせ(2)

 少しの間をおいて、一行はダイアリンからもらった情報をもとに新エリー都と郊外の境目の、郊外よりにある施設に到着していた。見た目はなんてことはない普通の施設。3、4階建ての病院といった雰囲気だろうか。

 そこから少し離れた小高い丘で車を止めて双眼鏡で施設の外観を観察していて、施設の建設時のデータと外観に差異が無いかをチェックしている。

 

『今のところデータと差異は無いですね』

「つくづくクランプスの黒枝の情報網が怖くなってくるな。建築士とか始末されててもおかしくないだろうに」

『死人の声でも聞いたんですかね』

「死人に口は無いと思いますが。死んでしまえばそこで終わりなので」

「それはそうなんだがね」

 

 参照データが正確なのを確認できたところで、図面を広げて侵入ルートの策定に入る。

 建物の周囲を覆う外壁には一定間隔でカメラが設置されている。その壁を越えて設備に到着するまでに15mのスペースが存在する。

 まず確実に侵入者対策の何かしらが施されていると考えるのが筋だ。それを越えてようやく本館に到着するわけだが内部構造についてはここから確認することは出来ない。

 

「騒ぎは起こしたくないから、忍び込みたいですね」

「だとするなら……都合のいいものがあるな」

「いい感じに出入りもあるみたいだし、やっちゃう?」

『おお、皆悪い顔していらっしゃる』

 

 ソーマは思わず苦笑いを零したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リクソン・シェバーはしがないホロウレイダー兼配達人だ。インターノットや仲介屋で募集されている配送依頼を引き受けては悪路を越えてあちこちに荷物を運んでいる。

 今日も贔屓にしている仲介屋で紹介された相手から荷物を引き取って郊外に近いところにある施設に資材を搬入してほしいという依頼を引き受けてやってきた。

 正直、ホロウ内でもないのに自分のような運送屋に頼む時点で怪しい臭いがプンプンするが、付き合いやら金の都合やら、人間断ってはいられない事情があるのだ。

 

「つっても、荒野をトラックでってのは暇だなぁ」

 

 舗装されているとはいえ砂埃が舞うような風景がどこまでも続くような道路を延々と一人で走るのも退屈だ。中継局が設置されていないのかラジオも聞くことがままならない。バックナンバーのディスクでも持ってくればよかったか。

 

「ん? ……は?」

 

 進行方向の道路に、ありえないものを見た。

 メイドだ。

 品の良さそうな仕立ての服を着たメイドの女性が立っている。

 なんでこんなところに、なんでメイド、そんな疑問が次々と頭の中を通り過ぎていく。しかしこのまま進めば轢いてしまうことになるのでブレーキを踏んでゆっくりと車体を止める。

 車が止まるといそいそとシートベルトを外してトラックの運転席から外に出て女性の元へ向かう。

 

「あれ?」

 

 トラックの運転席から下りる時に一瞬視線が外れる。

 そして扉を閉めて彼女のほうに向かおうとしたところで、呆けた声が漏れ出す。一瞬、一瞬だ。それだけしか視界から外していないのにメイドの姿は忽然と消えていた。

 彼女が居たであろう場所に立って周囲を見回してももちろん誰も居ない。

 

「は、ははは、夢でも見てたか? 仕事中だってのに眠っちまったか?」

 

 実を言うとリクソン、結構お化けの類が苦手だったりする。双子の幽霊で有名なバレエツインズなど正直近寄りたくなかったりとそこそこ筋金が入っている。

 夢だったなら仕方ない、仕方なかった。そう自分を言い含めてトラックの運転席に戻る。

 シフトを動かしてサイドブレーキを切り、車を発進させる。土ぼこりをあげて走っていくトラック。その荷台の観音開きの扉がふらふらと揺れている。風に揺られてはためく扉、それをいつのまにやら車に乗り込んでいた錬が内側から戸を閉ざした。

 

 数十分後、施設のゲートをくぐり抜けた車は荷下ろし場に駐車していた。

 トラックの持ち主であるリクソンは受け入れ開始までの時間まで少し運転席で休憩することにしたらしく運転席で目を閉じている。錬たちはその間にコンテナの外に出ると監視カメラなどに引っかからないように施設を進んでいく。

 

「さすがに中に守衛は多くないな」

「内部に守衛を設置してどうすんのって話じゃん? いやまあ不審者対策にある程度は居るだろうけどさ」

「守衛がこちらに居ないのはこちらにとっても都合がよろしいかと。迅速に証拠を集めましょう」

『センサーに感なし。今ならいけます』

「んじゃま、行こうか」

 

 ソーマのセンサーを頼りに職員と出くわさないように進み続ける。

 義肢のリハビリスペースがあり、そこを覗いてみると職員が義肢の取付を行ったばかりの被験者にリハビリを行っている様子が見て取れる。ここだけ見れば、通常の病院の様に見える。義肢もDDAで販売されている正規品が接続されているようだ。

 

「ここはまだ普通の仕事をやってるみたい」

「テスターかモデルケースとして招致されて来た人たちかな。下へ向かおう」

『地下階層なら、こっちですね』

 

 非常用の階段を下っていき、地下三階のフロアへ移動する。そこは施設内のライフラインを納めたフロアのようで発電設備などが収められた部屋があった。部屋の内部は煌々と照らされており、いっそ少し眩しいぐらいだった。

 

「ソーマ、発電施設のケーブルを調べてくれ。()()()()()()()()()()があれば当たりだ」

『確かにありますが……なぜ下だと?』

「何かあれば埋めて無かったことに出来るから。コンクリでもなんでも無かったことに出来るものはいくらでもある」

 

 不都合な物は地中の中、闇の中。そんな風に始末するバカは多いんだ。

 錬はそう言うとソーマが見つけたケーブルがある壁面を触りながら調べていく。しばらく壁をまさぐった後に、あったと呟くと()()()()()()()()()()()()()()()()()引っ張る。ぎぎ、という音と共にコンクリートの壁を貫通して鉄製の扉が開かれた。

 

「ホログラムで表面を誤魔化してたみたいだな。照明が妙に明るいのもホログラムと本物のコンクリの質感の差を誤魔化すためか」

 

 そう言いながら扉をくぐってその先にあった階段を下っていく錬。

 コンクリートの壁に偽装されていた壁の向こう側の階段を下っていくと何度かの階段の折り返しの後にB6Fと記載された表示灯が見えて階段が終わる。そしてまっすぐにどこかへと繋がる廊下が伸びている。ためらうことなく廊下を進み始める。

 廊下を進むと左右の壁にいくつかの扉がある。

 資料室、実験室、施術室、事務室、倉庫。簡易な部屋の名前を示すプレートがLEDの照明に照らされて光を反射している。

 どこから手を付けるか、と考えてすぐに資料室の扉を開いて中に入る。中は本棚が並べられそこにはぎっしりと様々な資料が置かれている。

 手近なファイルを取り上げてパラパラとページをめくっていくと被験者の名前とどのような施術をしたのか、どんな技術だったかを記載していた。

 

「うん、やっぱりろくでもない。ただ目的の物じゃないな」

『証拠にはなりそうなので、保存だけはしときますね』

「頼む」

 

 ソーマに頼んで、次々と資料を記録していく。

 

「……なんか、薬品の治験の記録も多いな?」

「義肢の移植に使う麻酔じゃないの。拒絶反応を抑える薬とか、いろいろ薬事的な絡みもあるでしょ」

「それはあると思います。しかし、義肢メーカーが自作するようなものかと言われれば疑問視せざるをえません」

「最終的には自社制作の方が安くつくだろうから研究しているという可能性は?」

「少なくとも、私の前の義肢をつけられた頃はやっていなかったはずです」

「ということは着手したのはここ何年か、多く見積もっても新エリー都に移転してからという事になるか」

「そのよう、ですね」

 

 古い方のバインダーを開いて中身を改めていたエリー。

 言葉がつっかえるような言い回しに、一瞬ひっかかりを覚えつつも一旦そこは流す。今必要なのは証拠だ。

 必要なデータをソーマとスマホに記録していく。後程、ダイアリンとも情報共有することになっているのでここで情報はバックアップ含めて保存しておきたかった。

 ある程度情報を回収したところで、時間も限られると切り上げる。さっさと次の部屋に移動して逐次その部屋も探索していく。やはり事前に分かっていたことではあったが、それぞれの部屋で人体実験の痕跡が見受けられた。清掃は行われているようだが、被験者を拘束する部分に血が黒く乾燥したような染みが出来ている。

 

「これは、酷いな」

「体になじまない義肢を無理矢理移植し、死亡までの拒絶反応の経過観察を行っていたようです」

「よくある手段だわね。クソみたいな興味津々の視線でひたすら観察されるやつ。この人は可哀そうだけど、ある意味亡くなってよかったかもね。中途半端に義肢とウマが合って、後遺症に悩まされながら生きていく必要が亡くなったんだから」

『星那、そういうのはよくない』

「……ん、ゴメン。気が立ってるみたいだわ。どうしてもあそこ(研究所)を思い出しちゃうみたいで」

 

 星那の言葉に、ちらりと彼女の顔色を窺ってみる。少しばかり、血の気が引いているように思える。

 言われてみれば確かに、彼女からすれば嫌な頃の記憶を想起させるようなものばかりで気分が悪いのだろう。

 パーカーのフードをひょいと摘まみ上げて深く彼女に被せてぽんぽんと頭を叩く。

 

「わぷっ!? どうしたの、所長?」

「いや、悪いなと思ってな。嫌なことを思い出すなら外で待っていてもいいんだぞ?」

「大丈夫だよ、見慣れてるから」

「それは大丈夫とは言わんよ。調べるのは俺がやるから、休んでなさい」

「ホントに大丈夫だってば。所長は心配性すぎだって」

 

 膨れる星那。

 すまん、と謝りつつも内心の心配は変わらない。

 そんな錬の内心は置いておかれ、星那はエーテルワイヤーを生成すると部屋の隅に置かれたパソコンを起動すると接続して内部のデータを吸い上げ始める。

 

「おっけ、とりあえず引き抜くだけ引き抜いてお兄ちゃんの外付け記憶媒体に保存しといたから」

『解析進めときますね。で、あとの情報は……』

 

 そこまでソーマが言ったところで、全員が廊下に目を向ける。

 廊下の奥、上階に向かう階段のほうから足音が聞こえてきた。しかもこちらに向かってくることからどうやら目的はここのようだ。施術室に身を隠せるところは存在しない。どうするか、そう考えても時間制限(職員)は迫ってくる。

 

【―――】

「え?」

 

 星那の声がきこえたその瞬間、その場にいた全員は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 直後、施術室の扉が開いて現れたのは野暮ったそうな研究員。彼は室内の様子を見て、ほんの少し違和感を覚えたがすぐに気のせいかと思って次の施術の準備をしろという命令をこなしにかかった。

 すこしして、職員は仕事が終わったので引き上げていく。

 直後、その場にホロウでしか見かけないはずの空間の裂け目が現れる。そこから一行が転がり出るように施術室に現れる。

 

「なん、だったんだ一体……?」

「ホロウの裂け目が現れてどこかに連れてかれる感覚があって、それで」

「気が付いたらまたここに吐き出されていました。時間的にもさほど経っていません」

 

 腕時計を確認してみれば確かにさほど時間は経っていない。

 

「星那、裂け目に呑まれる直前に何か気付いてなかったか」

「えっと、声を掛けられた気がする。ここに居る人とはまた別の声で……()()()()()()()()()()()()()()って」

「……まだこのフロアを調査したいところだが、その異常は後回しにするには怖いところだな」

()()()というのは、どこか分かるのですか?」

「ワイヤー経由で情報を脳内に打ち込まれてるから、分かる」

『――――――!』

 

 ぎょっとしたようにソーマが顔を上げる。

 エーテルワイヤーを用いた情報のやりとり、その技能を使えるのはプラン・コメットのブリーダーユニットに与えられた機能だ。それに干渉出来るという事は相手もまたそれに類する存在だという事になる。

 

『罠じゃないのか、星那』

「……少なくとも、悪意は感じなかった、と思う」

「よし。お招きいただいてるんだ、待たせる訳にもいかないからすぐに向かおう。星那、案内を頼む」

「うん」

 

 星那が先導するように進み始める。

 フロアの最奥、何もない壁の前で星那が手を伸ばすと壁の表面にノイズが走り始める。様々な色が交じり合ったエーテルによる空間の裂け目が現れる。

 

「こっちへ来て、って」

「ホロウ内でもないのに空間の裂け目を作る、か。とんでもないな」

 

 行こう、と裂け目の中に足を踏み入れる。

 再びの視界が歪む感覚の後に、どこかへと体が移される。

 視界が元に戻り、薄暗い廊下に一行は立っていた。錬は試しに壁に近づくと軽く壁を小突いてみる。軽いノックの音が周囲に響くが手には何も付着していない。

 

「まだ新しい建物みたいだな。埃も建築材の粉も無い」

「裂け目の中にある建物ってことは、ホロウ内に新しく建築されたってことだよね。そんなこと出来るの?」

「相応のコストをかければあるいは、といったところでしょうか。オールディホロウのエーテル整流器の設置作業すらかなりの手間がかかりましたから」

「詳しいことはこの先の奴に聞くことにしよう。ここでぐだぐだ話すよりは話が進むだろ」

『エコーで地形を読み取りました。先導します』

 

 ソーマが先行して歩き始める。

 それについていく形で各々も歩き始める。建物の中は静まり返っており人の気配は感じられない。ひたすらに自分たちが放つ足音だけがこつこつと響いている。

 

「星那、ガイドはまだ通じてるか?」

「うん。けど一本道だからあっても無くても同じでしょ今のところ」

「ホロウの中だとそれが通じないからなぁ……と」

 

 ぴたりと一行の足が止まる。

 視線の先、通路を抜けた先の広場に現れるエーテリアスの姿。

 

「とりあえず、ホロウの中ってことだけは確定か」

「排除しますか?」

「しなけりゃ進めないでしょ」

『戦闘準備、完了してますよ』

「ホロウの中である以上時間はかけたくない。速攻をかけるぞ」

「『了解!』」

 

 飛び出していく星那とソーマ。爪牙と鉄糸がさくりとエーテリアスを刻んでいく。

 それに続いて錬とエリーが削られたエーテリアスにトドメを刺していく。瞬く間にエーテリアスは数を減らしていき、エーテルの粒子へと還元されていく。

 3分と経たず、そのすべてが粒子に還されたエーテリアス。武器を納めたところで星那はじっと頭を片手で押さえて顔をしかめている。

 

「星那、大丈夫か?」

「大丈夫、また勝手にガイド情報送られてきてるから整理してるとこ……こっち」

 

 広くなっていた部屋の壁をすこし弄ると隠れていた扉が開かれる。

 また隠し扉か、と呆れていると階下から漂ってくる臭いに顔をしかめる。

 

「薬くっさ……」

「病院のような臭いですね。消毒液やらなにやらの臭いが混ざり合ったような……知っている臭いです」

「降りよう。先に進まなきゃ、何も分からない」

 

 剣を構えたまま下っていく。

 錬はふと手の中の剣がカタカタと震えていることに気が付いた。手に力を込めてその震えを抑え込んで進んでいく。

 

「――――最悪だな」

 

 階段を下った最下層、そこに広がる光景に顔をしかめる。

 人が居た、人だったモノが居た。

 拘束され、雑多なチューブを体に突き立てられ、かすかな吐息のような声が垂れ流されている。行き場を失った者たちを利用した実験場。その醜悪な現状を改めて錬たちは突きつけられた。

 

『全員生命活動を行っているようですが、これは……』

「異化現象スレスレを維持して、出荷待ちってとこみたい」

「……さすがに見知った顔はありませんが……見ていて気分のいいものではありませんね」

 

 先に進みながら、それぞれの所感が口から零れ落ちる。胸に溜まった嫌な気分を吐き捨てなければやってられないと各々が感じているようだ。

 そうして奥に進み続けて、ようやくその広間の最奥へとたどり着く。

 きい、きい、と椅子にもたれかかっている誰かが居た。手に持った本のページをめくり、鼻歌を歌っている。そして足音でこちらに気付いたのか、ぴたりとその鼻歌は止まる。

 

「やあ、いらっしゃい。驚いたな、こんなところに来客が来るとは思わなかった」

 

 パタンと本を閉じて机に戻して椅子の人物が立ち上がる。

 若い男だった。年頃は20歳前後だろうか、人の良さそうな微笑みを浮かべて清潔感のある印象を覚える。髪色は白、遠目で分かりづらいが目の色は金だろうか。立ち居振る舞いからはさほど武術に優れているような足取りには見えない。

 

「そういう割には驚いているようには見えませんね。失礼だが、名前を伺っても?」

「はは、昔の教え子には何を考えているか分かりづらいと言われた物さ。名前ね、マリシャス・ディルビル。そういう風に呼ばれているよ」

「……は? アンタが?」

 

 戸惑う星那に無理もないと自身も戸惑いながら正面に立つ()()を見る。

 話に聞くマリシャス・ディルビルは50年以上前に教授職に就いていたはずの男。当時にその地位なら現在は推定70代から80代の年齢になるはずだ。にも関わらず今の彼はともすれば自分より若い姿になっている。

 

「おや、私の事を知っているのかな? もしかして私の論文あたりを読んでくれたのかな。いやあ、君のような少女が学びを得るための一助となったのなら嬉しいが……どうかね?」

 

 胡散臭い、ただただ胡散臭い。

 錬が彼に抱いた印象はそれだった。表面上は喜んでいるように見えるが、彼の目はこちらをすべて視界に入れて()()している。まるで実験動物を観察するかのように個人と全体を注視し続けている。

 

「そんなの知らない。私が知ってんのはアンタの悪名だけ」

「おおっと、若気の至りが今にまで残っているのか! これは恥ずかしいな!」

「それは一旦脇に置かさせてください。あなたは、ここで何をしているのですか?」

「何を、かと言われれば……検証だよ。()()()()()の恩寵を人の手によって再現しうるのか。私の研究テーマはいつだってこれさ」

 

 にこりと笑う男。吐き出された言葉に、後ろでギチリと音がする。恐らく、エリーが拳を握りしめた音だろう。

 

「まあ君たちには前提となる知識が無いので事実だけを語れば、人体を用いた検証実験。ありていに言って人体実験だね」

「それは……あなたのかつての教え子、コール・スローターたちの研究成果を簒奪して行うものか?」

「それは誤りだよ、探偵君」

「誤り?」

()()()()()()()()()()()

「――――死んでしまえ」

 

 エリーの急激な加速、鉄拳を振り上げてマリシャスに襲い掛かる。巨大な鉄塊と化した拳がうなりを上げて叩きこまれる。

 

「エリーさん!?」

「っ、このっ……!」

 

 しかし、叩きつけられた拳はマリシャスの眼前で停止する。

 マリシャスの眼前で何かのフィールドのような物が展開されてそれがエリーの拳を防いでいるようだ。エリーも割ることは難しいと判断したのか拳を引いて戻ってくる。

 ギリギリと悔し気になる金属がこすれる音に思わず肩を叩いて落ち着かせる。

 

「落ち着け。怒るのも無理は無いがな」

「いやぁビックリしたね。君もそう思うだろう、()()()?」

 

 今度こそ、絶句する。

 彼の背後、暗がりの中にあったものがマリシャスの声で照明が点灯して照らし出される。

 十字架に磔にされた聖女のごとく、白い機人の少女がそこに居た。胸から零れ落ちる一筋の鮮血とかすかに動く胸元が彼女の生存を指し示している。そしてそれを見上げる星那は、また頭を押さえて苦しみに耐えながら口を開く。

 

「所長、あの人が()()()()()()()

 

 古く錆びついた因縁は、徐々に本来の姿を取り戻そうとしていた。

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