ZZZ ―風雅探偵事務所―   作:舘向井雛壇

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怒れる鉄拳を振りかざせ(4)

 最初に動いたのは、星那とソーマのコンビだ。

 適当な机にワイヤーを引っかけるとソーマの巻取り機構を駆動。重量のある金属製の机をエーテリアスの顔面目掛けて投げつける。次いで動き出すのは錬。前衛へと飛び出して真っすぐにエーテリアスへと斬りかかる。

 

「かった!?」

 

 斬りつけた刃から帰ってきた感触に腕が痺れそうになる。剣を引いてその場を飛びのくと振り上げたシリアルキラーの手のひらが羽虫を叩き潰すかのように錬が居た場所を叩き潰す。

 容易く地面を砕いたその威力に冷や汗をかきつつも場所を後から続いてくるエリーに譲る。

 ブースターに点火して突撃をかましてきたエリーの拳がシリアルキラーを殴り飛ばす。たたらを踏んで後退するシリアルキラー、その首元にエーテルワイヤーが巻き付いて引きずり倒す。3m以上はあろうかという巨躯が倒れてずん、と衝撃が伝わる。

 

「崩れたなら、仕掛ける」

 

 体表の固さは味わったが、ならばそうでないところを狙うだけだ。関節部を狙って刃を振り切る。

 

「って関節もか!?」

 

 手に返ってくる感触は先ほどよりはマシだがそれでもひたすらに固いと思われる。試しにあちこち斬りつけてみるがどこも帰ってくる感触は固い。

 そうしている間にシリアルキラーは地面に手をついて立ち上がり始める。ギチギチと歯車が軋むような音を立てながらロボットダンスを思わせる動きで元の体勢を立て直す。頭と思しき部分をカチ、カチ、と動かしてそれぞれを視界に納めていく。

 

「何だ?」

「っ、来ます!」

『――――――』

 

 四つの腕を振り回しながらシリアルキラーが走り出す。その目標は、エリー。巨躯をドスンドスンと足音を響かせながら襲い掛かってくる。赤ん坊が飛び回る羽虫を叩き潰すかのように何度も何度もエリーへ向けて叩きつけている。恐らくこの面子の中で一番自分に脅威だと判断した上での行動だろう。

 エリーもそれを分かっているのか攻撃を弾くのではなく回避することで注意を引き続けている。

 おかげでフリーになったこちらが動ける、と錬は星那とソーマに合図を送る。

 

(()()の盤面自体はある程度頭に描けてる。必要なのはそこまでの()()()()。削りは俺が、崩しは星那達に任せればいいか)

 

 研究所の床を蹴って、エリーと挟撃の形に持っていく。地面を叩く攻撃の間隙に関節を目掛けて風雷をねじ込むと先ほどよりも深く傷を付けることが出来た。固さから推察して切り方を変えてみたがどうやら効果はあったようだ。

 

「これなら、削れるか」

 

 かすかにでも傷が入るなら問題ない。やれる。

 そんな確信をもってエリーと共に錬は次なる攻撃へと移っていく。

 

 星那とソーマは一つのユニットとしてともに錬とエリーへの支援を継続している。錬が関節を狙ってダメージを蓄積させているから自分の方はそれが安全に出来るように支援を継続していくと判断してソーマにエーテリアスの周囲を駆け巡ってもらう。

 施設内にある椅子や机、実験器具などをワイヤーで吊り上げてはシリアルキラーに繰り返し叩きつけていく。視野がどうなっているかも分からないが少しでも邪魔になればと繰り返す。

 

『やぁっ!!』

「えいやっ!!」

 

 時折隙を見つけてはソーマがヒートクロ―で切り込んでいく。

 交差する瞬間にワイヤーをひらめかせ縦横無尽に戦場を駆けまわる。エーテルのワイヤーのきらめきは場にそぐわない輝きを見せつけて舞う。熱爪はその糸に導かれてシリアルキラーの外殻を削っていく。シリアルキラーの挙動は遅く、全員が囮になり、全員が本命の一撃を叩きこむ。入り乱れての連撃にシリアルキラーはついてこれていない。

 

「星那、ソーマ、そのままこっちに合わせて崩してくれ! エリーさん、決めれるのは貴女の火力しかありません、お願い出来ますか」

「承知しております。体勢さえ崩していただければ確実に」

「頼りになりますね、フリーだったら勧誘したいとこでしたよ」

「まだまだ未熟の身ですよ。それはさておきあの固さ、元々あった義肢を取込んでエーテルで強化したもののようです」

「義肢の素材をエーテルで強化してる、ってことか。嫌になるね、エーテルって言えば大体なんとかなるってのは」

「脅威もありますが、それが出来るのがエーテルのエネルギーというものですから文句を言っても仕方ないでしょう?」

「それはそうなんですが……っ、何か来るぞ!」

 

 おもむろにシリアルキラーがコアを格納している頭部の仮面をはぎ取る。ちちち、という鳴き声とも思える音が聞こえてきたかと思うと複数本の光がやたらめったらに吐き出される。

 地面を、壁を、えぐりながら襲ってくるそれに所員たちはばらけて回避しはじめる。追いかけてくる光線の群れを潜り抜けながら先陣を切るのは星那。ワイヤーを射出するとどんどん縛り上げていく。叩きつけてきて厄介な副腕も腕同士で括り付けて可動範囲を縛っていく。

 

「オッケー、縛ったあ!」

「上出来! ソーマ、合わせろ! 膝!」

『分かってますよ! ブレード全励(フルレイジ)!』

 

 光線を潜り抜けた二つの影が、刃と鋸をシリアルキラーの膝裏を斬りつけて姿勢を崩す。

 がくんと膝の力が抜けて跪くエーテリアス(シリアルキラー)。せめて腕だけでも拘束を解こうともがいているが、最後の一人がそんな足掻きすら許さないと接続した異形の腕を構えて歩み寄る。

 一歩一歩、床を踏みしめて、エネルギーを貯め込んで苛烈に明滅する大拳を握りしめるその姿、眉根を寄せたしかめっ面に錬は何となく彼女が持つ"怒り"を感じ取る。理不尽を強いられ、人生を奪われ、無為に殺されてしまった人たちへの憐憫から来る邪悪への怒り。

 

「あなた達の無念、私が預かりましょう。――――だから、どうぞ安らかに、痛みなく、お送りいたしましょう。救いあれ(Release)

 

 閃光の拳が、振り抜かれる。

 短距離、短時間ながら音速すら超えるような一撃が振り抜かれる。

 衝撃が、音も光も置いていく。

 バキンと固いものが割れるような音の後にシリアルキラーのコアが砕かれる。異化現象によって結合していたエーテルの組成はコアの破損と共に崩れ始め輪郭を失っていく。エーテリアスとしての死が表出しているのだ。

 エリーは振り切った拳を引くと、冷却に入った如来掌ユニットとの接続を解除する。跪き、消えゆくエーテリアスの遺骸の前でそっと手を合わせると静かに祈りを捧げる。その意図を汲み取った錬たちもまた、各々らしい形で死んでいった者たちへと祈りを捧げる。

 やがてエーテリアスの遺骸は完全に消滅した。後に残されたのは無機物ゆえに完全に異化しなかった義肢の残骸だ。

 

「嫌なもんだな、人が死んだとまざまざと理解させられる光景だ」

「それでも、ここで終わらせられただけまだマシだったと、救いがあったと、そう思いたいです。報われないただの肉塊となり果てて死ぬよりは、こうして祈りを捧げられた分だけマシな終わり方だったと」

「実際マシでしょ、侵食末期を越えてエーテリアスになるなんてホロウの中じゃありがちな終わり方だけど、そうなる時なんて大体一人ぼっちで終わっちゃうんだから。こうやって誰かに看取られるんなら悪くない」

「星那……」

『報われる終わり方の方がこの終末世界じゃ珍しいと思いますよ? 祈りを一つ貰えるだけでもそれは幸運なことだと僕は思います』

「二人とも……ありがとうございます」

「いーよ、別に。それよか、この後どうすんの?」

 

 星那とソーマの言葉に、エリーは微笑んで頭を下げる。星那はそれにひらひらと手を振って受け付けず視線を錬の方に向けてこれからの方針を尋ねてきた。そうだな、と口元に手を当てて考える。

 ここを調べることも考えたが、事前に来ることが予想されていた、というか招き入れられた時点でろくな情報が残っているとは考えづらい。一応は調べるが成果は怪しいところだろう。それよりもここに来る裂け目が消えた以上脱出を目指さなければならない。そもそもここがホロウ内かどうかすら怪しいのだから。

 

「ふーん、でも一応ここはホロウ内なんじゃない? 異化現象起きてるし、エーテリアス化した後もコアを砕くまではエーテリアスの肉体が維持されたわけだから」

『ここにあった調整槽の数に使えるだけのエーテルが必要となればなおさらそうだと思います。問題はキャロットが無いってところですが』

「さすがにあの磔の人のような転移能力は万人が持っているわけでは無いですから、施設内にキャロット生成用の設備はあると思います。設備維持用のスタッフの出入りもあったでしょうから」

「……そうだな。例外事例ばっか出てきてたから疑り深くなってた。ここのエーテルがどんだけヤバいとこか分からんし座標だけ記録して引き上げよう。後日、調査を行うとするか」

 

 決断を下し、引き上げを宣言する。

 ソーマに座標を記録してもらって一行はその場を後にして出発した。

 

「収穫、あんまり無かったね所長」

「そうでもないさ。マリシャスの存命、磔の機人の存在、調べなければならないことが増えたとはいえ分かったのは十分な収穫だ。あとは郊外の施設で手に入れた情報も収穫と言える」

「それはそうなんだけどさ、本当に知りたいことの情報が無かったのがもどかしいんだよー」

「そこは追々な」

 

 前のめりに調査したところで見落としが多くなるだけでいいことは無い。求める真実と、手にする情報、得られたものをどう扱うか。一旦冷静になってから落ち着いてそこを整理していきたいところだ。

 施設の中を進んでいく道中で、偶然コンソールを見つけそこからキャロットのデータを吸い上げておく。

 やはりと言うべきかなんというべきか、他のスタッフ用の緊急時の対応としてデータが用意されていたのだ。ソーマにそれを吸い上げてもらって確認してもらう。

 

『……マジか』

「どうかした?」

『ホロウネーム《アルゴス》。それがここのホロウの名前です』

「アルゴス……《一心無我》星見雅様が虚狩りの称号を戴冠なされた事案、異常共生体エーテリアス「レルナ」による急速な拡大が起きたホロウですね」

「ああ、当時まだ新人だった星見が単騎駆けを実行。「レルナ」の増殖を上回る速度で「レルナ」の偽装コアを排除、そして最終的には「レルナ」のコアを斬って放棄するはずだった街を救った、という顛末だな。ただ問題があるとすれば、ここは「レルナ」の暴走が起きたことで各方面から重要監視ホロウ指定をされていたはずだ」

「TOPSだけじゃない、防衛軍とか治安局とかHIAとかホワイトスター学会とか、そこらへん?」

『そこらへん全部だね。コア偽装というすさまじく厄介な能力は前兆段階から潰すべしってことで監視が続けられてるらしいよ』

「ああ、そういう。確かにエーテリアスはコアを砕いた後は霧散して消えて確かめられるけど、発見前はそうはいかないもんね」

「そうだな、だから……――――消える?」

 

 誰も居なくなった後の実験施設、地に伏したシリアルキラーの()

 

「エーテリアスは、コアを砕けばエーテルになって霧散する」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「エーテリアス化する際には、対象の全てを飲み込んでエーテリアスになる」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 

 がり。

 

 がり、がり。

 

 がり、がり、がり。

 

 がりがりがりがりがりがり。

 

 音がする。床をひっかくような音。

 背後の来た道から聞こえてくる金属がこすれる音。ゆっくりと錬は振り向いた。そこにある真実を目にするために。

 ()が合った。色白を通り越した異様な白い腕に、金の眼が埋め込まれている。腕と目の異形。

 直感的にこれまで出くわしてきたエーテリアスとは違うと理解させられるその姿に咄嗟に錬は号令をかけることしかできなかった。

 

「走れっ!!」

 

 号令に従って星那、ソーマ、エリーが走り出す。全員、背後から迫ってくる異様な怪物に緊張感を漂わせている。その殿を引き受けながら錬は双剣を引き抜きながら背後にちらりと視線をやって追いかけてくる怪物に一つだけ思う。

 

(()()()()()()()()()()()()?)

 

 と。

 

 

 

 

 

 異形の怪物の追撃は素早かった。

 濁流の様に白い異形の腕が施設を砕きながら追ってくる。無数に溢れ出す腕が瓦礫を掴み、投げつけて進行を妨害してくるが全て叩き斬って打ち落とした。だがその行動だけでも随分距離を詰めてこられている。このままではどこかのタイミングで追いつかれるだろうということは容易に想像がついた。

 

「エリーさん、如来掌ユニットの冷却は終わってますか!?」

「全開は難しいですが、多少の無理は利きます!」

「なら外壁を突き破って外へ! 中じゃやりあうのに手狭過ぎる!」

「承知いたしました。では早速ユニット接続、イグニッション!」

 

 エネルギーに点火して加速する拳が施設の壁面に激突する。

 ガラガラと崩れる壁から一斉に全員が飛び出す。少しの間を置いて腕の異形もまた壁の孔から這い出して来る。ぼこりぼこりと醜悪な肉泡を膨れ上がらせながらそれはやがて一つの大きな腕となる。全長は10m前後だろうか、先端は人の掌のようになっておりその中心に模様の様にも思える目があり、それがぎょろぎょろと忙しなく周囲を観察している。

 

【A,a,i,1i,a,aaa?】

「鳴き声、いや言葉、か?」

「適当な声を出してるようにしか思えないけど……」

「声にイントネーションがある。呂律の回ってない酔っ払いの言葉みたいな雰囲気に思える」

「エーテリアスの中には生前の面影を残す場合があるといいますが、それでしょうか?」

「分からない。が、一つだけ確かなことがあるとすれば……」

 

 ()()()()

 

「俺たちに害意があることだけだ」

 

 ブンと腕を大きく振るって地面を薙ぎ払うように怪物がその身をふるう。地表を削り取りながら巨大な腕が襲ってくる様は恐ろしい。だが単調な攻撃を受けるほどこの場の面子はやわではない。

 

「義肢をベースにしたなら、記録媒体のデータを参照したのかも! テロに利用するつもりで命令を保存しててそれを読み取ったとか!」

「人体の電気信号を読み取ったのと同等の行為を義肢にした、ということですね。であればあの姿にも納得がいきます、義肢として腕はもっともメジャーな形ですから」

『であれば、殴る、叩く、チョップ、掴む、ひっかく、振り払う、突く、あたりが予想されますね』

「考察は後! 次が来るぞ!」

 

 指を曲げた、引っかくような手の形で振り下ろされる。叩きつけたそれをそのままがりがりと地面をひっかいていく。

 宙に舞う土埃で視界を悪くしながらも巨体から繰り出される猛攻を捌いていく。

 

「思ったより、パターン化しているか?」

「読み取ったのが義肢に積んである補助AIの思考パターンならその動きをトレースしてるんでしょう」

「さっきよりは柔らかいからまだいいけど、こうデカいと単純な動きでも厄介だよ」

『さっきと同じようにエリーさんに一撃でコアを吹き飛ばしてもらいますか?』

「クールダウン中だし、追加で壁をぶち破ってもらったからな。まだしばらくは使えんだろ」

「そうですね、あと10分ほどは使えないかと」

「思ったより短いんだ。それなら持ちこたえれる?」

「……いや、短期決戦を狙う。ちょっと気にかかることがあるからな」

 

 降りかかる瓦礫を剣を振るって弾き飛ばす。地面を掻きむしる巨大な手の攻勢は止まっていない。

 表面は白い肌のような質感をしているが、硬度はそこそこ以上にあるらしく地面を容易くえぐっている。ぎょろぎょろと金色の目を走らせてこちらの姿を捉えている。

 

「了解、んじゃまた縛り上げますか。ソーマ、手伝って」

『分かった。じゃ、行ってきます所長』

「頼んだ、行ってらっしゃい」

 

 ソーマの背に飛び乗って星那が跳びさっていく。

 残された錬とエリー、エリーは襲い掛かってくる大きさの暴力を躱しながら錬に問いかけてくる。

 

「気にかかることとは、何でしょうか?」

()()の元になった義肢は破損や装着者の絶命を検知して自爆するようになっていたはずです。それがもし生きているとしたら……と思って」

「ホロウ内とはいえ、私たちも無事ではすまないかも、と?」

「恐らく。エーテリアスのコアを砕いて即時に霧散する状態に持っていけば自爆までに何とかなるかなって考えてます」

「それなら私の義肢を待った方が良かったのではないでしょうか。私なら一撃でいけますし」

「うん、そうなんだけども……現時点で不測の事態の積み重ね状態だからあんまり時間をかけるのも、ねという推測です」

「推測ですか」

「推測です」

 

 確証はない。だが誘導されて罠に仕掛けられた状態で時間をかけすぎるのもよくないという感覚がある。悪辣な企みのもと生まれた存在をそのまま放置していい結果が生まれてくるわけがない。それを分かっているのかエリーも分かりましたと頷いた。

 

「しかし、どうやってあの巨躯のコアを砕きますか? 分かりやすい目玉はついていますがアレがコアという確証もありませんが」

「縦に一刀両断しますよ。今度は自分がアレを斬ります」

「……出来るので?」

「出来るから言ってるんですよ」

 

 だから頼みます。

 言外に告げられた言葉にエリーはため息を一つ吐くとこくりと頷いて星那とソーマが暴れる戦場に踏み込んでいく。一人離れた場所に残った錬は、さて、と気を取り直して手元の双剣を見下ろして一人ごちる。

 

「久々に、やるかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリーは飛び込んで早々縛り上げられた怪物のどてっぱら目掛けて拳を全力で振り抜く。拳を中心として怪物の全身に波紋のように衝撃が走り、怪物の肉体はくの字に折れる。

 

「Oh……エリーお姉さん、パワフルネ……」

「とっくにご存知でしょうに。それにこれでもまだ全開ではないのですよ? 全開にしたら動けなくなるので使えませんが」

『うーん、馬力で負けてるの悔しいな。僕も機械なんだけども』

「用途の違いです、お気になさらず」

 

 2撃目を叩きこんだところ、その背後に跳びまわっていた星那とソーマが着地する。あちこちの地面をアンカーにして腕の怪物の動きを少しずつ縛っていっているらしく、ときおりワイヤーを引きちぎってはいるものの動きは鈍くなっていっている。

 

「そのままぶん殴りまくって! 悶えてるとこ縛ってくから!」

「承知しました。お気をつけて」

「お互いにね! 行こう、ソーマ!」

『はーい。レッツゴーだ!』

 

 再び跳びさっていく星那を見送ったところでひらりとその場を飛びのく。

 ずん、と巨大な質量が自分を圧し潰さんと叩きつけられ土ぼこりを巻き上げる。手でひらひらと土煙を払って腰を落とす。正拳突き。こと様々な型があるが自分が一番威力を乗せられるのはこの型だという結論を得たのは風雅探偵事務所一行と出会う少し前のこと。

 まだ短い期間ながら師匠(カフェの店長)には手厚く育ててもらった。この腕を恩人(コール)に授けてもらった。四肢を失い、這いつくばって生きていた今までの苦しみを共にしてきた友人たちには多くの支えを貰っていた。

 

「だからあなたという存在は、私にとってはあってはならないんですよ。見ているだけで腹が立つ」

 

 白い巨腕にささやきかけるように吐き捨てる。

 ブースターで加速した怒りの鉄拳を振りかざす。

 空気を燃焼させ、先端は音速を越えた拳は天へ向けて振るわれる。

 鯖折のように体を曲げた怪物、その周囲をエーテルのワイヤーが一挙に取り囲む。続く巻き取るモーターの駆動音が怪物の体に食い込んで縛り上げていく。

 

ご希望(オーダー)、完遂いたしました。準備は出来ていますね?」

「頼むよ、所長!」

『後はお願いします』

 

 土埃の向こう側、剣を構えているであろう所長に向けて言葉が贈られる。届いた声に錬は応える。

 

「委細承知。――――――抜剣・――」

 

 囁くような声が宙に零れ落ちていく。

 静寂が訪れる。その直後全てを押しとどめるかのような、それとも押し流すかのような、膨大な力の奔流が顕現する。ひゅんという軽い風切り音がエリーの耳をするりと流れていく。

 

「――――これにて終幕(CASE CLOSED)

 

 パチン、と剣を納めた音が耳に届いた瞬間、巨大な腕の怪物は真っ二つに切り裂かれる。

 内部にあった侵食された機械部分も一切が破壊されて機能を停止している。

 

「なんともまあ、埒外とはこのことを言うんでしょうか」

 

 大量のエーテルが分解されていく。その中でエリーは錬の方を振り向く。

 土埃の向こう側、彼のシルエットだけが目に入る。

 直近に見た、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 驚いて一度目を瞬いて、そうした時にはそのシルエットは元の彼に戻っていて、自分が見たものは気のせいだったのだろうか。白昼夢でも見てしまったのかもしれない。だが。

 

(今はただ、感謝を)

 

 こうして一つの戦い荷が幕が下りることとなった。

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