ZZZ ―風雅探偵事務所―   作:舘向井雛壇

19 / 20
UA10000を越えました。ご愛顧いただきありがとうございます。
これからも皆さんが楽しんでいただけるような作品を作れるよう頑張っていきたいと思いますのでどうかお付き合いいただけるよう、よろしくお願いいたします。


情けは人の為ならず(3)

(なんでジェディスさんがこんなところで、いやそれより拘束されて暴行を受けてる、こんだけ血の臭いがするってことは結構重傷のはず。助けないといけないのは間違いない。んじゃあ助けなきゃだけど周りに居る軍人っぽい人たちはなんだ? 軍人なら怪我の手当て、応急処置ぐらいなら簡単に出来るはず。これだけ血の臭いが濃くなるほど放っておくとは思えない。だとしたら――――――)

 

 ジェディスに重傷を負わせたの(コレ)はあの軍人たちの仕業だ。

 そう結論付けるしかなかった。

 理由は分からないがジェディスを拘束して尋問か拷問を行って現状に至ったと考えるのが妥当なのかもしれない。つまり今目の前でやっているのはそういう非人道的な手段に訴えることに何のためらいもない集団であることをフレディは認識した。

 

(どうする。ここで飛び込んだところで何かできる訳でもない。銃に撃たれてはい終わり。それじゃ何の意味もないよな)

 

 

 そっと欄干の淵から体を離して見えない位置に引っ込む。見知った顔が危機にさらされている状況を目の前にしてぐらついた心をなんとかなだめながらどうすべきか頭を悩ませる。

 

(どうにかしてジェディスさんを救出してホロウの外へ連れ出して、そこから救急病院に運んで処置してもらって……そんなに時間をかけてたらジェディスさんの体力が持たない。もっと早くどうにかしないと)

 

 ここに潜んでいるだけなのも時間がただ浪費されるだけ。決断は早く下さなければならない。

 少しだけ目を瞑って考える。

 そうして、すこしだけ考えて出した結論は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィクトリア家政の不意を打ってジェディス・カティアスの拉致を成功させて数時間。

 ()()に沿って彼が持つ研究データを奪うために尋問を繰り返しているが一向に結果は得られていなかった。現状は命を奪うところまでいかないように最低限の止血を施し尋問を継続している。ただそろそろ場所を移動しなければ、この場所を突き止めてきたヴィクトリア家政の追撃・奪還作戦がこちらを襲うだろうという予測が部隊に共有されていた。

 

「HQ、こちらアルゴン4、異常無し。対象も問題ない」

『HQ了解、引き続き監視を続行せよ、なおこれから0100時間後現状を放棄し別行動拠点へと移動する。準備はHQにて完了するためそちらは監視に専念せよ』

「アルゴン4了解。引き続き監視を続行する」

 

 定時報告を済ませ、インカムから手を離す。

 視線は監視対象であるジェディス・カティアスへと向かう。彼のパーソナルデータは概略しか知らないが、ホロウ関連やエーテルについて著名な学者であるらしい。今回はその研究データを彼から奪う事が今回の任務になる。隠密に事を進めることもオーダーに入っていたため参加した小隊は全メンバー中二個小隊に留まるが、十分と体調が判断した。

 

「……ん?」

 

 ゴーグルの視界越し、何かが光ったように思えて視線を引っ張られる。ぼんやりとした()()()()()。まるで焚火のような――――――。

 

 ジリリリリリリ、とけたたましいベルが突然耳朶を打った。

 

「っ、火災報知器か!?」

 

 頭上の消火用スプリンクラーから雨のような放水が始まり前進を濡らしていく。

 ライフルを構えて周囲を警戒しながらインカムへと手を伸ばす。

 

『グレネードだッ!!』

「!?」

 

 発される注意の声、悪い視界の中にちらつく影。それらに思考が奔る。

 

(退避、いや対象が爆破に巻き込まれる。現状で爆破を喰らえば確実に死ぬ! ならば!)

 

 即座に銃口を落下してくるものに向けて引金を引く。

 発砲を二回。発射された弾丸が()()()を貫いてその中身を一気にぶちまける。消火剤の粉末が穴をあけられた事で解放された圧力によって外へ押し出され被っていたマスクに降りかかる。

 

(まずっ、視界を塞がれた!)

 

 咄嗟にゴーグルを手でこするが汚れが広がるだけで視界はなお悪くなる。このままではマズイとマスクのロックを外して引っぺがす。

 

「いらっしゃいませ! ご注文の金属バーのフルスイングですっ!」

「がぁっ!?」

 

 いつのまにか忍び寄っていた謎の人物が振るった金属棒が顎を的確に打ち抜く。脳を揺らされ、膝をついたところをさらにもう一度、衝撃が襲って隊員の意識を刈り取る。

 そしてそれをやった下手人、フレディは隊員が起き上がってこないことを確認すると素早く彼の装備からナイフを引き抜くと椅子に拘束されたジェディス・カティアスのもとへ向かうとその拘束を手早く切って彼を開放する。長時間拘束されていたためか、ぐらりと揺らいだ体を受け止めると俵を担ぐように持ちあげてすぐにその場を離れる。

 

「うぅ……」

「ジェディスさん、目を覚ましたか?」

「きみ、は……この前の……」

「あんまり喋らない方が良いよ。結構な怪我だし、一応処置はされてるみたいだけど俺がだしたスプリンクラーの水の所為で体も冷えてるだろうから」

「そうか、助けてくれてありがとう。だが、今の状況だけは教えてくれないか?」

「なんも分からんですよ。俺は仕事の依頼でここに潜っただけですし、あいつらがどこの誰でジュディスさんを何で狙ったとかそういうのは全く分からないんで。ただ連れ出す時に火災報知機を鳴らしたんでこのままだと追手が来そうってぐらいですね」

「……重ね重ね、すまないね」

「俺が勝手にやっただけなんで、お気になさらず」

 

 倉庫の中を走り抜けて、崩れた外壁から外へ。

 スプリンクラーの水が足跡を残しているが、走っているうちにその水気も足跡となって薄くなってきている。本当ならもっと痕跡を隠しておくべきなのかもしれないが、諸々の条件を考えると絶対的に時間が足りていない。

 

「とりあえずこのままホロウ外に逃げます。自分のバイクがあるんでそれで安全なところまで運んで……」

「いや、ぐぅ、その前に、回収しなければいけない物がある」

「回収って……後じゃダメなんですか? あいつらに追いつかれるかもしれないんですよ?」

「アレは決して誰にも奪われてはならないものなんだ。だから何が何でも今回収しなければ……」

 

 焦っている。

 重傷を負い、このまま捨て置けば命を落としかねないジェディスがそれを押してもなお回収しようとしている何か。それが一体何なのか、自分には分からないが彼にとってはきっと必要な物なのだろう。

 

「拘束から解放してもらっただけで十分ありがたい、感謝するよ。しかしこんなところまで来てこれ以上危険な目に合わせるのは君に申し訳ない、ここから先は、私一人で何とかしようと思う」

「無茶言わんでください! そんなボロボロのままで動き回って無事で済むはずがないでしょう!? それにあいつらもジェディスさんを放っておくわけないでしょうに!」

「ああ、そうだね。その通りとしか言いようが無いよ。仮に目的を果たした所で最後は奴らに射殺されるかまた拘束されるか……まあ、ろくな結末は待っていないだろうとは思う。それでも、()()の開発者として命ある限り、その責務を果たさなければならない」

 

 フレディにその意味は理解できなかった、理解できなかった。

 だがしかし。

 ジェディスの視線はブレない。確固たる信念がそこにあるように思えた。恐らく、自分がこれ以上何を言ってもブレないだろうちう確信が自分の中に表れるぐらいには。

 

「ああもう仕方ないな、退けないって言うなら早くその用事を終わらせましょうや。そっちの方がよっぽど楽にすみそうだ」

「まさか、手伝ってくれるのかい? さっきも言ったがこれ以上君を危険にさらすつもりは」

「だからと言って一回助けた相手が死ぬのを分かってる状況に追い込んでおいて放っておけるほどこっちも血も涙も無いわけじゃないんですよ。回収の必要があるモノがあるなら最速最短でこなす。それが現状の最善でしょ」

 

 にっと笑うフレディにジュディスは少しだけ息を呑んだ後、諦めたようにため息をついた。

 

「確かに、今の私ではあの連中と出くわした時にどうにか出来る訳もない、か」

 

 確固たる信念を見せた様子から一転、弱々しい姿を見せる彼に苦笑しつつ立ち上がる。

 

「だーからさっさとすませようっつってんですよ。さ、行きましょ」

「……ははは、そっちが君の素かい?」

「どっちも素ですよ。最低限人に礼節を払ってるだけです。今はもうそんなとりつくろう余裕は無さそうなんでやりやすいほうでやらせてもらうッスから」

「なるほど、それは、合理的だ……うん、よろしく頼むよ」

 

 了解っす、と返してジェディスから受け取ったデータを元に動き始める。

 夜闇の中を歩き続けて、歩き続けてジェディスが望む場所へと向かう。時折何かを感じ取ったジェディスは進路変更をするようにフレディに伝えてそれに従って時折行ったり来たりを繰り返しながらも徐々に目的地へと近づいていく。

 

「君は」

「なんです?」

「……何故ホロウレイダーのようなことをしているのかね? こう言ってはアレだが、わざわざ危険な場所に出向かずともアルバイトで必要な金は稼げると思うが」

「なんだ、そんなことっすか。いやまあ、確かにそう言われたらそうなんですけどね。俺は……そうしたいからそうしてるだけなんです。欲しいものがホロウのどこかにあるっていうか」

「欲しい、ものかね? 確かにホロウ内は有用な物資が無数にある。解明・未解明問わず何かしらの有益なものはあるだろう。事実、私も個人的な要件を満たすためにホロウに深入りしたこともある。だがホロウはランビュリスの大迷宮がごとく、踏み込んだものを食い殺す怪物も居る」

「だから危険だからやめておけ、ですか? はは、知り合いの仲介屋……明けの明星さんにもよく言われます」

「む、明星くんとも知り合いかね」

「よく依頼を斡旋してもらってます。新米向けの仕事の仲介の中に、たまにイレギュラーが紛れ込むことがあるんでその対応をする代わりに定期的に仕事を貰ってます。で、話を戻すんですが、俺の探し物はどこにあるのか分からないんです。だから自分自身で探すしかない」

 

 ずり落ちかけたジュディスを抱えなおし、しっかりと体を支える。

 

「そんなシンプルな話です。要は探し物に使える金も人脈も無いから自分の足で頑張ってるって話です」

「その、探し物というのは?」

「旧都陥落。それだけで納得していただけませんか?」

「――――。すまない。立ち入ったことを聞いてしまったようだ」

「元々こっちがあれこれ勝手に話してただけですから気にしないでください。それより、目的のものというのは近いですか?」

「ああ、計算通りならもうすぐのはずだ」

 

 そう言って示されたのは倉庫街の一角に設置されたプレハブ小屋。恐らくホロウに飲み込まれる前は作業員たちの休憩スペースだったのではないかと思われる場所だ。

 

「計算通りって……そういえば聞いてませんでしたけど、探している物はどういった経緯で隠されたんですか?」

「話としては先日君と出会ったあの日の少し前まで遡る。私はある者たち、言ってしまえばここで作戦行動を行っているかれらに私の研究データの供出を求められ、断った」

「今の様子を見るに、それが要求から恐喝に、最終的には強奪になった、ですか?」

「ふふ、話が早くて助かる。その脅威を認識した私は、古い知己を頼ってヴィクトリア家政というものたちに護衛を依頼、その庇護下で難を逃れようとしていた。しかし奴らも相応の事情か何かで諦める訳にはいかなかったのだろう。セーフハウスを強襲され、逃走劇が始まった」

「護衛についていたそのヴィクトリア家政の人たちはどうしたんです?」

「何分数が多かったのでな、足止めのために徐々に殿として人数が減っていき……最終的にそばに居た護衛は控えていた別動隊の不意打ちなどで隙を作られ、私が拉致されたわけだ」

「となると、荷物はその逃亡中に隙を見て隠した、ってことっすか?」

「ああ。元々確保していたキャロットデータとデータスタンドの情報をすり合わせてここに荷が届くようにしていたんだ」

 

 ガラガラと引き戸を開けて中に入ると、長い間放置されているため侵食されたことでエーテル結晶が生えたパイプ椅子や長机、ポットなどが置かれている。

 埃が積もっていないのはおそらく侵食現象で埃が極小のエーテル結晶になったからだろうか。

 

「ああ、よかった。計算はあっていた」

 

 よろよろと机に近寄ったジェディスは、そこに置いてあったそこに似つかわしくない謎のカバン型のケースを見て安心したようにほっと一息ついた。カバンにつけられたコンソールから番号を入力するとカコン、と音を立ててケースのロックが解除される音が聞こえた。

 そっと中身を開くと中にある物を取り出して傷が無いかを確認。どれもが大丈夫だったようで今度こそジェディスは安心した。

 

「それが探していた荷物ですか?」

「ああ。私の長年の研究結果。その成果が結実したものだ」

「よく分かりませんが……見つかったならよかった。とりあえず早く脱出してしまいましょう! ここにいたらまたあいつらが」

「っ、っ!」

 

 パァン、と乾いた空気が弾ける音が耳に届く。

 同時に、体を衝撃が突き飛ばす。

 長机を巻き込みながら倒れ込んだフレディとジェディス。そのまま長机の陰に隠れるような状態になる。一体何なんだと思っていると、コツコツコツ、とコンクリートを叩く軍靴の音がする。

 

「チッ……まあいい。おい、聞こえているな。無駄な抵抗はせず出てこい」

 

 聞こえてくる男の声。

 机の裏から少し顔を出して確認すると、小屋に入ってきたのは迷彩柄のバンダナをして煙草を咥えた男だった。手には拳銃を携えて油断なく構えている。

 

「じいさん、アンタの体は俺たちの尋問で限界のはずだ。付け加えてこの周囲を俺の部下が囲んでいる。俺を突破したとしてもすぐに捕らえられる。詰みと言える状況だ」

「君か、ヤコブソン。まだ追ってきていたのかね」

「仕事の真っ最中だからな。依頼を完遂するまで遂行し続けるのが我らサーペンツの流儀だ」

「仕事熱心な男だな。老人の知恵など必要ないだろうに」

「それを判断するのは依頼人だ。ここに目的があって来たのは察している。先ほど回収したのがアンタの理論の結実とやらなんだろう? 引き渡してもらおうか」

「――――――。それは」

「でなければ、そこに居る子供を殺す。言っておく、これは交渉ではない、要求でもない、命令だ」

 

 軍人の男から放たれる冷めきった言葉に、フレディは冷や汗を一筋垂らす。

 どうやら自分たちは泳がされ、ここまでの案内をさせられていたようだった。彼の言葉通りなら自分たちは包囲されて逃げることは難しい、いやすでに不可能の領域に入っている。

 

「ジェディスさん、渡してしまおう。ここで死ぬよりは大人しく従ったほうがいい!」

「ほう、子供の方が物分かりがいいか。まあ確かに、爺さんのほうが頑固だという話はよくある話だが」

 

 せせら笑うような男の声に、呼吸が荒いジェディスはふー、と大きなため息をつくと口を開く。

 

「仮に、投降したとして……私たちの命の保証はされていない。そうだな?」

「……あ……」

「――――――」

「よく悪党が使う手だ。信用も信頼も無い、後先考えない、欺瞞の言葉」

 

 ジェディスはそばに居るフレディの手を掴むとその手に自分が持っていたものを乗せる。

 

「すまない。君には私の負債を押しつけることになる。恨んでくれていい、憎んでくれていい、だが私は」

「ジェディスさん? 一体何を言って――――」

「君に、生きて欲しい」

WAKE UP――――Good Morning,Dukalion

「貴様ら、何をっ――――!?」

 

 発砲される銃弾、しかしその銃弾が発砲される前にすでに事は済んでいた。

 フレディとジェディスを中心に、小屋の中に膨大なエーテルの嵐が吹き荒れる。

 フレディは見る。――――――自分の腕が異形に包まれていく様子を。

 塗りつぶされ、一拍ののちに透き通るように鋭敏になった五感が戻ってくる。

 

「――――――!? なんだこれ、なんなんだ!?」

「それが、研究の結実って訳か。仕方ない、排除して奪わせてもらう」

 

 発砲。

 視界の端でそれを捉えたフレディは襲い掛かってくる弾丸を()()()()()()()咄嗟に腕を振るう。甲高い音を立てて弾丸はあらぬ方向へと弾かれる。

 

「固い……!」

「それがデュカリオン。私がホロウという災害を越えて生きていくために作り上げたものだ、ぐっ」

「ジェディスさん!?」

「気にするな、傷が痛んだだけだ。それよりも、その力を使えば現状を打破できるはずだ。巻き込んでしまった私が言うのも烏滸がましいが、戦ってはくれまいか」

「……この力があれば戦えるんですね?」

「ああ、間違いない。詳しい使い方は、デュカリオンが教えてくれるだろう」

「何が何だか分からないけど、分かりました。そうする必要があるなら俺、戦います」

 

 机に手をかけて力を入れる。重量のある机は軽々と持ち上げられ、フレディ――――デュカリオンの胸元まで持ち上げられる。

 

「受け取れッ!!」

「チィッ!!」

 

 そのまま投げつけられた机を男は咄嗟に身を躱す。回避された机はそのまま小屋の入口を吹き飛ばしながら外へ飛んでいく。

 そんな様子に目もくれず、デュカリオンは男に向けて踏み込むと拳による近接打撃戦を開始する。どうやら男も強化戦闘服を着ているようで人工筋肉によるサポートを受けながらデュカリオンの拳を回避、カウンターの一撃を叩きこむ。装甲の薄い、インナー部分を狙った打撃は高い効果を発揮する、()()()()

 

「凄いな、この鎧」

「効いてないか!?」

「みたいだ、なっ!!」

「ぐおおおおおおっ!?」

 

 胸倉をつかみ上げて振りかぶる。この後に来る衝撃を正確に予想した男は咄嗟に歯を食いしばる。

 ぶん、と勢いをつけて投げられた男は小屋の壁を突き破り、十メートル以上を吹き飛んだあと地面を転がる。痛烈な痛みに言葉にならない声を漏らしつつもようやく止まったところで地面に手をついてふらつきながらも立ち上がる。インカムの通話スイッチを押しつつ苦し気に命令を下す。

 

「各員、戦闘態勢。上級エーテリアス想定でかかれ、絶対に油断するな」

『了解、α、β、戦線に出ます。隊長の直援にα2、α3を回します』

 

 通信が途切れると同時、崩れた壁の向こうの暗がりからデュカリオンの姿が現れる。

 

「こっちも時間が無ぇんだ。さっさと終わらせてもらうぞ」

 

 ズンと音を立てて地を蹴って襲い来るデュカリオン。強化服の出力を上げてどうにか対処して拳の嵐をさばく。しかし一手ごとに触れる力から腕が痺れていくのがわかる。あまりにも格の違う力がそこにあると否が応でも理解させられる。

 

『狙撃、5秒』

「!」

 

 インカムに入った音声に、即座に求められる動きを把握する。

 襲い来る拳を出力を上げることで受け止める。限界を超える負荷に強化服が警報を鳴らすが、5秒持てばそれでいい。

 3、2、1――――――。

 

「ぐっ!?」

「さすがに効くよな、スナイパーの一撃は?」

「お、っらぁあああああ!」

CALL――――Prometary-Blade

「ちっ、足りんか!」

 

 脳天に直撃した狙撃銃の弾丸は、しかし弾かれる音を甲高くあげて多少なりとものダメージを与えただけにとどまった。のけぞったデュカリオンはたたらを踏んで後退するもすぐに体勢を立て直すと呼び出した剣をその手に握る。そしてそのまま男を両断せんと振るわれる。

 それを咄嗟に近接用の鉈を背嚢から引き抜き、襲い来る刃を受け止める。

 

Art's lord――――Sevalance

「フンッ!」

「馬鹿力が!」

 

 つばぜり合いが成立したのも数瞬。灼熱の刃が鉈を特殊鉄鋼製の鉈を容易く溶断した。かつては旧都陥落後に戦力補填のために計画されたというシルバー小隊の制式武装の一つとして数打ちながら高い評価を得たそれも天才が用意した一品には勝てないらしい。

 距離を置いてどう出るか、とデュカリオンの様子を伺うと何やら剣を見て動かない。一体何を考えている、と疑問が脳裏を過ぎるも今の内、と後ろから近づいてくる部下に後ろ手にハンドサインを送る。それを受けて後ろの二人は左右に別れて等間隔の位置につく。

 

「こうか?」

 

 ぼそりと呟いたかと思うと剣を腰の鞘に納め、抜刀の構え。これまでの動きからそこそこの場数を踏んだ我流のそこらにいるホロウレイダーだというのがデュカリオンの評価だった。しかし、今の目の前の動きは拙いながらも間違いなく確立された武術の型の動き。携えていた銃器を咄嗟に引き出しながら命令を下す。

 

「制圧射撃! 崩せ!」

『了解!』

「喰らえ!」

 

 アサルトライフルから放たれる弾丸の雨、しかしデュカリオンの侵攻はその程度の小雨では止まらない。爆発的な加速と踏み込み、そして居合が隊長と呼ばれる男に襲い掛かる。自分の命を刈り取りに来ている刃を目の前にして――――――男は笑う。

 

「なんで――――」

 

 背中に何かが当たった感触がする。なんだ、と思う暇もなく次の瞬間、強烈な衝撃がデュカリオンを襲う。視界が爆炎に飲み込まれ視界を奪う。

 爆炎にデュカリオンが包まれたのを確認して、警戒を緩めないまま考える。

 もしこれでも一定以上のダメージが無い場合は――――――。

 そんな思考をしていると、耳にガン、と甲高い音が聞こえてくる。それを耳にした男はふぅ、と息を吐き出すと手をあげる。

 

「現状火力での攻略は不可能と判断する。……撤退だ」

『いいので?』

「手の施しようが無いからな。依頼人にも文句は言わせん。行け」

『……了解』

 

 爆炎の中から歩いてくるデュカリオンに、男は声をかける。

 

「おい坊主、腹立たしいが今の俺たちではどうやらお前に対応することは難しいらしい」

「……だったらさっさと引いたらどうだ?」

「ああ。部下には今撤退命令を下した。お前が何もせんでもすぐに居なくなる。それとも、徹底的に俺たちを追って潰すか?」

「いや、退くならわざわざ追いかける必要はない。けどな」

 

 ヒュン、と燃え盛る剣が一度だけ振るわれる。

 何を、と思っていると遠くのクレーンが断ち切られたかのように崩れていく。ここからあのクレーンを斬ったのか、と男の中で鎧への脅威レベルの更新が行われる。

 

「ジェディスさんには二度と手を出すな」

「……いいだろう。手を出せなくなるようだしな」

「どういう……まさか」

「さてまだ間に合うかどうか」

 

 踵を返して去っていく男。だがデュカリオンはすでにその背中を追う余裕は無かった。即座に小屋へ向かって走る。

 

「ジェディスさん!」

「あぁ……無事に、戻って来たか……」

「っ……! やっぱり俺をかばった時に」

 

 小屋の壁に体を預けぜえぜえと荒い呼吸をするジェディスに、フレディは急いで近寄って状態を確認する。暗くて分かりづらいが足下に血だまりも出来ている。間違いなく血を多く失っている。

 それまで傷はあれど出血はしていなかった。心当たりがあるとすれば、自分が庇われた時のみ。

 

「急いで止血して、病院に……」

「いや、ぁ……、むり、だろうね。元々、尋問で体力を失って、これとくれば、もう無理だ。ホロウから、出るだけで、時間切れだろう」

「喋らないで。すぐに病院に連れていきますから」

「だから、聞いてほしい」

「黙ってください、傷に――――――」

「聞くんだ!」

 

 怒声に近い声に、言葉を止められる。

 ふう、と熱を吐き捨てるように息をついてジェディスはまっすぐ鎧越しにフレディを見る。

 

「デュカリオンは、私が、人生を賭けて作り上げた、未来への灯火だ。だが、その力は、良くも悪くも、使う事が、出来る」

「アイツらはだからこれを狙って」

「ああ。……これは、身勝手な頼みだ。フレディ君、君にそれを、正しく使って欲しい、未来ある君に、それに正しく、あるべき未来を与えてやって欲しい」

「そんなこと言われたって、俺なんかにそんな難しいこと分からないよ」

「私だって、そうだ。どれだけ長く生きても、いや、生きれば生きるほど、分からなくなっていく。それでも、人は進まねばならない。そうやって、生き抜いた果てに、ようやく、答え合わせが待っているのだよ」

「答え合わせ……?」

 

 がくん、と力が抜けてジェディスが倒れ込む。咄嗟に体を支えるがそうやってようやく気付く。体が熱を失い、息がか細くなっていっている。今まさに、目の前で一つの命が終わりを迎えていると、フレディは悟った。

 

「重荷を預けて、すまない。老人の、エゴに、付き合わせてしまう」

「……いいえ。確かにエゴかもしれませんが、引き受けます。こんな俺でよければ」

「そう、か。ははは、いや、きみだから、いい。私は、最後の最後に、恵まれた……ありが、と

 

 静かに、老人は息を引き取った。腕の中で冷えていくその骸に、フレディはひどく悲しくなった。自分をかばって命を落とすというのに恨み言の一つも言わず、逆に重荷を預けてしまうと後悔して逝った。自分の不出来が、判断ミスが、彼を死に追いやってしまったというのに。

 少しだけ時間が経って、このままここに居てはジェディスの体もホロウの侵食を受けてしまう。連れ出さないと、と立ち上がったところでふと小屋の入口に誰かが立っていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――――アンタが、その人を殺したの?」




ご意見ご感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。