ZZZ ―風雅探偵事務所―   作:舘向井雛壇

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送り火を探して(1)

「所長、なんか変な依頼がプロキシの方のメルアドに来てるよ」

「なんども言ってるけど勝手に人のメールボックスを見ないように。部外秘の判断もあるんだからね、星那」

「そこらへん私らならだいじょーぶだよね、何せ私たち自身が部外秘の塊みたいなもんだし」

『そこらへんうろつきまわる機密情報の塊とか管理者とかからしたらブチギレ待ったなしだなぁ」

「製薬会社の上客なのは間違いないでしょうね、胃薬的な意味で」

 

 ある日の風雅探偵事務所、そのオフィスにて。

 タブレットをひらひらとさせながらやってきた星那が仕事の知らせを持ってきた。一応そのアドレスの管理者である錬は苦言を呈しつつタブレットを受け取ると開封されているメールに目を通す。

 

「調査依頼、対象はホロウ内にて最近行動が確認されている『デュカリオン』を自称するホロウレイダー……? 場所は……雑多だな。あちこちのホロウに出てるのか」

「デュカリオンってのは聞いたことあるよ。最近あちこちのホロウに出ては人助けしたりギャングを潰したり、インターノットでは結構噂になってる」

『えーっと、特異な風貌の防護装甲服を纏ってて色々燃えてて……いろんな情報が錯綜してるね』

「つまりはその正体を調べろってことだよね」

「何故デュカリオン氏を調べるのか、というのが気になるところでしょうか」

「噂の謎の人物の正体を見破りたい、っていうのがパッと思いつくけどわざわざそれでお高い所長に依頼するかなぁ?」

「言っておくが適正料金だからな?」

 

 諸々の経費込々なんだよ、と言うとデスクで帳簿整理していたゼイリシボンプのネイシャもンナンナと頷く。

 いつぞやの放火事件以降、事務所に常駐して諸々の経理を管理してくれているネイシャは続々と増える所員の給料周りもきちんと管理してくれている。出会いは偶然だったが、それは幸運だったと言えるだろう。

 

「話を戻そう。依頼はデュカリオンの捜索および調査。出現するホロウはまばらだが、範囲的にはヤヌス区を中心にしていると推測できるとのことだ」

『そこまで調べてるんなら地力で次の出現するホロウを推測出来そうなものだけど』

「ん~、日付毎にマッピングしても隣同士だったり真反対だったり不規則だね」

「そこまでまばらなら、移動方法は必然的に乗り物が必要になってきますね」

「山間部の奥の方にあるホロウまで行っている日もあるな。ここは確か道幅が狭く、普通車でも通行が厳しかったはずだ」

『となるとバイクが推定の移動方法になりますね。後はホロウ内で防護服を着て戦闘を行えるなら、相応に若い人材という風に考えられます』

「依頼人はそこまでは同じように考えられるはずだ。にも関わらずこっちに依頼してきたという事は、これ以上が分からないということか」

「こう範囲広いと、取っ掛かりが無くない? ヤヌス区を中心って言っても、周りのホロウは小中大、無数にあるよ」

「そうだな。だとしたらデュカリオンは何故そのホロウに赴いたのか、という理由付けを推測する必要がある」

『あ、ちょっと待ってください』

 

 ソーマが声を上げると待ったをかける。

 ひょいと尻尾を振ってタブレットを指した。

 

『そもそも、まだ受けるって話もしてないし依頼人とも話が出来てないですよね?』

「それは、そうだな。ソーマの言う通り、そっちの方が先だ」

『ンナ!(依頼料の交渉も必要だよ!)』

「ええ、そうですね。ネイシャは物事をきちんと考えれて偉い子です」

 

 いい子いい子と撫でられてご満悦なネイシャにほっこりしつつも改めてタブレットの画面に表示されたメール画面に目を向ける。

 固い文面ではあるがところどころに口語のような書き口がある。その部分もどちらかと言えば若者よりのような雰囲気を察せられる。となると依頼人は若い人物だろうか。

 

「まあとりあえず、会ってみるしかないか」

「所長は確定として、他に誰が行く?」

「そうだな……記録係としてソーマかな」

「私はどうしましょうか」

「星那と一緒に留守番で。ソーマが離れるなら星那についてあげておいてほしい」

「承知いたしました。星那様の護衛、拝命いたします」

「そんな堅苦しくしなくてもいーんだけどね」

 

 そもそも自分の身ぐらい守れるし、と星那がふんと鼻を鳴らす。どうやら連れていってもらえないと分かって少しばかりへそを曲げてしまったようだ。

 

「そうへそを曲げるなよ、星那。君が凄いことは知っているが、今回は依頼人の素性も詳しくは分からない。そこに星那を連れていくわけにもいかないだろ? 陽那っていう存在が現れた以上警戒するに越したことはない」

「分かってるけどさ、それならお兄ちゃんだってそういう話になるじゃん?」

「ソーマなら事前にそういうのには察知できるだろうから。それに機械知性人って言い訳も効くしな」

「いやあ、お兄ちゃんの同型なんて早々いないでしょ」

「安心してくれ、ビリーという目立つけど構われてない前例が居る」

「それは邪兎屋の悪評が原因じゃないかな」

 

 ちなみに言えば邪兎屋の評判は賛否両極論だ。なんなら賛の方にも腕はいいけど、といいう評価もちらほらある。

 

「まーいいけどさ。待ってろって言うなら待っててあげるよ」

「悪いな、お土産にケーキでも買ってくるよ」

「そうやってお菓子で誤魔化そうとする! 誤魔化されるけど!」

「助かる。それじゃエリーさん、星那のことお願いします」

「承知いたしました。お二方とも、お気をつけて」

『はい、行ってきます』

「お兄ちゃんも気を付けてね」

『分かってるよ、星那こそエリーさんに迷惑をかけないようにね』

 

 事務所を出ていった二人。その背中を見送って星那はソファにぼすっと座り込む。その表情を見てエリーは少しほほ笑むと彼女の頭を撫でる。

 

「私が入る前は三人で行動されていたそうで……寂しいのですね?」

「……うん。事務所に来る前はお兄ちゃんとずっと二人でやってきてたし、事務所に入ってからは三人で一緒だったから。こうやって留守番していろって言われるのは初めてだから」

「そうですか、私では居ても居なくても同じ、と」

「え、いや、そういう意味じゃなくて!?」

「ふふ、冗談です。今回はあくまで仕事を受注するかの打ち合わせ、いざ本番になれば星那さんの力は重宝されるでしょう。それまでは英気を養って備えましょう」

「んもー、冗談きっついよエリーさん。それはその通りなんだけどさ」

 

 大人しく撫でられながら天井を見上げて思う。仕事に出ていった二人が何事もなく無事に戻ってきますように、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『で、ホントのところはどうなんです?』

「何がだ?」

『こうして連れ出したのは、僕の依頼のことでしょう?』

「察しがよくて助かるよ。ソーマの依頼、『星那が今後平穏に生きられるようにしがらみとなる違法研究所のその後について調査・壊滅に協力してほしい』だっけか」

 

 車に乗って走り出した二人、後部座席に寝そべるソーマは平時よりいくぶんかトーンを落とした声で本題を切り出した。

 星那とソーマが風雅探偵事務所に転がり込むことになった切っ掛けのソーマ誘拐事件、その折に一定以上の戦闘力があると評価されて正式に依頼された。これは二人だけの話なので星那は知ることは無い。

 

『ええ。二つ返事で引き受けてくれるとは思いませんでしたが』

「……ま、色々俺にも思うところはあるわけだ。デュカリオン調査の依頼も本当だから到着までに話をしよう」

 

 車に備え付けられたミュージックプレイヤーを操作すると何かが再生され始める。しかし車内には何の音も流れてない。しかしソーマは頭を持ち上げるとぐるりと周囲を見渡すと感心したように息を吐く。

 

『妨害音波ですか』

「盗聴されてるとは思わんが、念のためな。仕事柄壁に耳あり障子に目ありって事例にはよく出くわす」

『難儀な仕事ですねぇ』

「人様の秘密を根掘り葉掘りすることもあるからな、人の事は悪く言えんよ。で簡単ながら調査結果が出た。端的に言えば、二人が言っていた通りに研究所は表向き壊滅していた。現場の研究所も今は廃墟だったよ」

 

 先日のマリシャスとの邂逅の後、ソーマからの情報を元に当該ホロウへと潜入を行って座標情報を元に調べたところ研究所にたどり着くことは出来た。

 現場は多数の戦闘の痕跡が残されていた。さすがに時間が経っているためか異化現象により死体の類は消え失せていたが浸食を受けてエーテル結晶に覆われた戦闘機械のスクラップが多数見受けられた。

 

「中には、ソーマと同じタイプのが結構な数居たよ」

『……僕の兄たちです。星那の制御傘下にあったADシリーズの猟犬たち、星那を逃がすために一体、また一体と殿を引き受け、散っていった』

「末っ子だったか」

『星那には兄ぶってますけどね、実際ロールアウト自体は僕の方が先ではあるんですけど』

「群体ユニットだったか。指揮ユニットの星那と組むことで全体の意思を統一した戦略部隊、ホロウ内部で追い込み猟を受ける側になるのは最悪だろうな」

『時間制限のある迷宮で追い込まれるのは確かに嫌なもんでしょうね。追い込む側でしたけど。それはさておき、星那を逃がすために僕たちは戦って、そして僕と星那だけが生き残ることになりました』

「そしてしばらくの放浪の後に俺の事務所に、か」

『治安官と聞いていたのに探偵となっていたのには驚きましたけどね』

 

 少しの沈黙。

 錬が何事かを考えている。その横顔を見つめながらソーマはメモリー(記憶)の中にある数キロバイトの情景を想起する。鋼の体は冷たく、霧の水気がコーティングに弾かれて水滴となっていて。しかして透明は赤に染め上げられていく。倒れた肉体からは生気が失われ、貫いた手刀からは鮮血がしたたり落ちる。

 

『――――きっと、あのお巡りさんなら助けてくれるから』

 

「――――――」

『なにか気にかかることでも?』

 

 遠い情景を思い出しながらも、言葉を止めた錬に声をかけるといや、と首を横に振って思考を打ち切ったようだった。きっと何かを思い出したのだろう。だが確証がなく口にするのをはばかっているといったところだろうか。

 

「聞いた、というのは誰から?」

『聞きます?』

「……いや、ソーマがそうしないなら、いい」

 

 何となく予想がついていた回答が帰って来て、思った通りと喜ぶべきか、それとも。

 車は新エリー都内を進んで、ヤヌス区の中心からは少し離れた地域の駐車場にゆっくりと停車した。ヤヌス区の中心街の近くに位置しつつも一歩引いた場所にあるここは都会の喧騒と田舎の静寂が独特の交わり方をしたのか雰囲気も特有のものがある。

 自動車から降りた一人と一機はゆっくりと目的地へと歩いていく。

 住宅街の中、ぽつんと突然現れるカフェ。鳴子を鳴らしながら扉をくぐると店内には落ち着いたBGMが流れ、カウンターの中に居るマスター・ティンがいらっしゃいませと声をかけてくる。

 

『いらっしゃいませ、本日はどのようなコーヒーをご所望でしょうか?』

「エスプレッソを一つ。それと待ち合わせをしているのですが」

『ああ、でしたら壁側、最奥の座席の方が待ち合わせをしているとおっしゃっていましたね』

「ありがとうございます。行くよ、ソーマ」

『失礼します、店長さん』

『ごゆっくりどうぞ』

 

 店内で言われた場所を覗いてみると、一人の高校生ぐらいの女の子が座っていた。

 ちらりと机に並べられたものを確認して机のわきに立つ。

 

「こんにちは。ヴェルナーの法則さんでいいかな?」

「は、はい! ええ、っと……アルタモントさん、ですよね?」

「ええ。それで、今回はデュカリオンと呼ばれる人物を捜索してほしい、という依頼でよろしかったでしょうか」

「そう、そうなんです! かのお方をどうか探していただきたいんです!」

 

 急にぐいっと身を乗り出してきた少女、HNヴェルナーの法則の爛々とした目に思わず気圧されて身を引いてしまう。

 

「あの方との出会いはホロウの中でした。私はちょっとしたバイトでホロウの浅いところを探索して遺失物などの回収をやっているのですがあの日突然ホロウ内のエーテル分布が大幅に塗り替わりエーテリアスたちも活性化していました。しかし依頼の期日が迫り焦っていた私はそれでも仕事をこなさなければと無謀にもホロウに押し入ってしまいました。しかし活性ホロウ内でのエーテリアスの脅威はご存知の通りで活性により滞在時間も極端に短縮されて私はたちまち窮地に追いやられてしまいました。私もそこで死を覚悟してその場で遺書をしたためて、しかしエーテリアスにあわや命を奪われかけたその時! その時に! デュカリオン様は顕れたのです! 炎の長剣を手にして襲い掛かるエーテリアスを一刀両断! 突然の乱入にエーテリアス達も思わずあとずさり! そこで一言、私に『下がっていて』と優しく仰られてくださったのです! そこからは映画もかくやと言わんばかりの大立ち回り! 襲い来るテイルヴィングをばったばったと斬り捨てて残るはデュラハンのみ! さすがに他より強いデュラハンは手こずるかと思いきや剣の腕をスパンと斬り落とし、盾をも容易く両断してしまったのです!」

『お客様、申し訳ございませんが他のお客様のご迷惑になりますのでもう少しお声を小さくお願いいたします』

「あ、すいません。ゴホン、そうやって私を助けていただいたのですが私の仕事を完遂したうえで外まで送り届けてくれたのです。しかしすぐにその場を立ち去ってお礼も言えず……私はかのお方にあって助けていただいたお礼をしたいのです。その為にかのお方と再びあいまみえたいのですが居場所はようとして知れず。アルタモントさんにはかのお方の居場所を調べていただきたいのです」

「ああ、うん。分かったよ」

『所長? 推し活に押されて負けてませんか所長?』

「いや仕方ないだろコレ……断ったらあとが怖そうだし」

 

 キラキラと目を輝かせるヴェルナーの法則に錬はそっと目を背けながらソーマのツッコミに反論する。そんな錬たちの様子を気に留めず、ティンの制止が入ったことで少し落ち着いたヴェルナーの法則は自身の横に置いてあるカバンからいくつかのプリントアウトした資料を取り出すと机に並べる。

 

「メールですでに事前資料を送ってるのは目を通してもらいましたか? こっちが残りので私が独自に収集、推測を行ったデュカリオン様の次の行動予測です」

「え、そこを調べて欲しいという依頼だったような」

「これが外れた場合は別視点で検討をしたいのでお願いします。まずは私が予測したホロウを一緒に調べてほしくて」

「いいですよ。資料の方に目を通しても?」

「どうぞ、素人の集めた情報なんでそんなに精度のあるものじゃないですけど」

 

 拝見します、と声をかけて資料を手に取る。

 どうやらインターノットの書き込みやホロウ内で撮影された写真を出来る限り集めた上で時系列順に並べていったもののようで様々な口調の文章が張り付けられている。写真には黒いインナースーツの上に赤い装甲を纏った人型の粗い画像が撮影されている。どうやら剣を構えているようで、剣を構えてエーテリアスと向かい合っている。

 その輪郭を指でなぞりながら、依頼人の推測を読んでいく。

 

【デュカリオン様は現状、インターノット上に出されている緊急の救援依頼などを中心にして行動を行っていると思われる。特に緊急性の高いものが無い場合はギャングの情報を集め、ホロウ内の活動拠点を潰すことでホロウ内における活動の危険性を下げるように動いていると推測できる。もしデュカリオン様を捜索する場合、緊急の救助依頼が無い場合は赤牙組などのホロウ内の活動拠点を見つけ意図的に情報を流すなど、デュカリオン様の行動を誘導するように考えるべきかもしれない】

 

 確かに救助も違法拠点の取り潰しもソーマが集めた情報の中で見受けられた。

 

「結構しっかり調べられてますね」

「まあバイトの都合で知っておかなきゃいけないこと色々あるんで……ギャングの勢力圏とか危険なエーテリアスの出没情報とか。その伝手を頼ってデュカリオン様の情報を集めまくりました」

『バイトの方がダメになっても情報屋でやっていけそう……』

「まあそれはいいんですよ、どうでも。それでプロキシとしてホロウ内を案内してもらう、でいいんですか?」

「ええまあ、引き受けましょう。それで値段なんですが」

「お、お手柔らかにお願いします」

 

 その場で話が決まり、報酬の話を纏め終える。

 デュカリオンの調査資料については調査資料の一部として引き受けることになり事務所側が管理することとなった。

 

「で、デュカリオンを発見して礼を言うとして、その後はどうする?」

「それはもちろんこのあまねく敬愛をあの方に捧げて――――――」

『うーん、さすが終末世界。濃い人は濃い』

 

 こうしてデュカリオン捜索依頼は受注された。




という訳で新しい章の始まりです。

全くの余談ですが個人的な推しはイヴリンさん、儀玄師匠、朱鳶さんだったりします。分かりやすいね。
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