「こんにちは、縫製ショップ《クロスパッチ》の店員のアルビナさんでよろしいでしょうか」
「え、あ、はい。その、どちら様でしょうか」
ルミナスクエアの街頭の一角、錬は人受けの良さそうな笑みを浮かべてアルビナという名の店員に声をかけた。ぱっと見の彼女の印象は近所の綺麗なお姉さん、といった感じだろうか。彼女はいきなり声をかけられてナンパでもされるのかと警戒しているようだ。
「ああ失礼、私はこういったものでして」
「風雅探偵事務所……ああ、店長が依頼されたという?」
「ええ、そうです。ちなみに星那の保護者もしています」
「呼ばれて飛び出てじゃんじゃじゃん、ぴーす」
ひょこっと錬の後ろから出てきた星那にアルビナは目を丸くする。
何度か二人の間を視線が行き来した後、うーんと考えこみ。
「星那ちゃんのおと……お兄さん!」
「いっぺん言い間違える必要ありましたかね」
まだ30も行ってないのに星那ほどの子供が居るなんてないでしょと言いかけて同期の何人かに居ることを思い出してげんなりとした表情を見せる。
くすくすと笑うアルビナさんに苦笑いしつつ、改めましてと話を戻す。今日ここに来たのは彼女に確認したいことがあったからだ。
「実はお伺いしたいことがございまして」
「私で良ければ、お店に嫌がらせがこれ以上来てほしくありませんから」
「では――――――」
質問をいくつかして、それに回答を得ると錬は満足そうに頷いた。
対し、アルビナは不安そうに眉根を寄せて尋ねてくる。
「その、このお話は依頼したことに関係あるのですか?」
「確証を得るためにお聞きしました。一先ず、ご依頼は果たせそうとだけはお伝えしておきます」
「……?」
そばで二人の会話を聞いていた星那はふと首をかしげる。アルビナの会話に何か違和感を感じている。何だろうと考えこんでいると話が終わったのか、アルビナが挨拶をして去っていく。それを見送ったところでようやく星那は違和感の正体に見当がついた。
「あ。依頼のこと知ってる風だったからだ。所長、アルビナさんって依頼のこと知ってるの?」
「ああ、知ってるよ。店長さんとは……あー、実質的な夫婦関係らしいから。正式な籍も今度入れるらしいけど」
「10歳も歳離れてるのに?」
「そういう事例もあるの」
「あるの?」
「あるの」
あるのかー。
そう言って星那はなるほどとうなずいた。
さて、行こうかと錬に促されて星那はルミナスクエアの街中を歩きだす。いくつかのビルの前を通り過ぎて路地裏に入ると、すぐそこにはビルの室外機の上に腰かけたやつれた姿のボンプ。こちらに気が付くとひょいと下りてこちらにてくてくと歩いてくる。
『ンな!(こンにチは、たンてイさン!』
「んん?」
「いよいよスピーカーの寿命が近いみたいだな」
『ンな~(うン)、ンななンななな(でも、たンてイさンからシンぴンを貰えるからなンとかなリそうなンだ)!」
「それはよかった。ただ、仕事はきっちり頼むぞ」
『ンな!(もちろン!)』
ボンプの声がおかしいと思ったら、どうやらスピーカーが壊れかけているらしい。
しかし、頼んだ仕事とは一体何だろうか。疑問に思って所長の方を向いてみるが所長は特に何かを言及することもなくいくつかの打ち合わせをした後に野良ボンプを見送った。
「所長、何をしようとしているの?」
「問題解決。事件の全容はおおよそ掴めたからな」
「ええ。事件の真相も分かったの?」
「おおよそは。裏付けとしてアルビナさんに聞きこんだわけだ」
先ほど話した内容を思い返す。
所長が聞いたのは、アルビナの周囲に就学中かつ若い男性は居るか、その男性は進学受験に失敗しなかったか、その男性とは仲がいいか。などの事柄であったと思う。事件とは関係の無さそうな男子学生のことを重点的に聞いていたようだが、どう事件に繋がるのだろうか。
「星那が聞いてきた噂、覚えてるかい?」
「えーと、どこかの家の学生さんが合格したとか、どこかの夫婦仲が悪いとか、食品の値上がりが激しいとか……」
「パーツは揃ってるから、昨日言ったように情報というパーツを繋ぎ合わせていってごらん。ちなみに値上げの話はいいから」
「繋ぎ合わせる、分かった」
頭の中にある情報を整理して単語帳のページの様に並べてみる。縫製ショップ、嫌がらせ、野良ボンプ、店長とアルビナさんの関係、受験を失敗した男子学生。
昨日言ったことと言えば四つのパーツ。頭の中で情報を書いたメモを並べ替えて、4つの項目、犯人、動機、目的、手法に当てはめていく。すると星那の頭の中に一つの事件の形が浮かび上がる。なんてことはない、
「なんとなく目星はつくけど、机上の空論じゃない?」
「だから現場を押さえて話を聞こうってわけさ。野良のボンプ達に手助けを求めたのもそれが理由」
「なるほど? でもまたすぐに動くのかな」
「時間が無いし、一度ラインを踏み越えたのなら自制が効かなくなっている可能性がある。加害者被害者双方のためにもあまり時間をかけるべきじゃないんだ」
そう話しているとまた先ほどのスピーカーが壊れたボンプが戻ってきた。
『んナナ!(来たよ!)』
「よし、行くか」
「了解。今度はどうすると思う?」
「中に直接」
「……そうなる可能性は低いけどそう簡単に一線を越えられる?」
「自分はボンプにお願いした、というだけだからな。心理的抵抗は低いだろうよ。ましてや、今回は二重に言い訳が効く」
年頃の暴走は怖いね、と嘯く錬に星那は眉根をしかめる。正直、そういった考え方は理解しづらい。頼んだだけ、放火しただけ、
「だったら、一時の過ちでそんなことさせちゃいけない」
「……そうだな。ちゃんと止めて、治安局に自首させよう」
所長はそう言うと、ボンプの案内するほうへと足を向けた。
しばらくルミナスクエアの路地裏を行き、ある室外機の前で野良ボンプは足を止めた。
『んナ、んナナナんナ(着いたよ、ここが待ち合わせ場所)』
「ありがとう、助かるよ。星那、周囲にワイヤートラップを、逃がさないように」
「了解。ソーマ、周囲の監視をお願い」
『分かった』
ビルの屋上から飛び降りてきたソーマに、野良ボンプはんナァ!? と驚くがソーマはなんてことは無さそうに頷く。Uターンするようにビルの外壁を駆けあがっていく。驚いたように見送る野良ボンプに、じゃあ後はよろしくと言い残して錬と星那は人目につかない物陰に身をひそめる。
しばらく待っていると、ジーパンにシャツ、その上にパーカーを羽織った少年が足早にやってきた。フードを目深にかぶり、周囲を気にしてるのか忙しなく視線を彷徨わせて誰も居ないかを確認している。
「(あれホントに一線超えるかなぁ)」
「(そのつもりが無くても超える可能性は否定できないからな。もう一度あのボンプが火をつけるよう依頼されたのを確認したら、捕まえよう)」
「(了解)」
そっと見ていると、少年はボンプに近づくと何事かを話し始める。
しばらく
『だから、またこれをあの縫製ショップ《クロスパッチ》のあちこちに置いてきてほしいんだ。昨日の店の裏の布の回収箱みたいに人の目に見えないように』
「所長、確定」
「よっしゃ、行ってくる」
録音データを確保したことを報告すると、所長は音もなく少年の背後に立つとポンとその手に肩を置いた。
「やあ、こんにちは」
「ひぎっ!?」
驚いて距離を取ろうとした少年だが、がっちり肩を掴まれて逃れることが出来ない。
驚きと混乱できょどっていた少年は、声を荒げながら叫ぶ。
「な、なんなんだよアンタ! 放せよ!」
「諸々話を聞いたらね。俺は風雅探偵事務所所長、風雅錬。クロスパッチの店長から嫌がらせの調査と犯人の特定を依頼されててね」
にこにことしながら語る錬に少年は顔の色を変える。ここまで露骨に反応を見せられて、錬は分かりやすい青さをしてるなぁと内心思いつつボンプの手にある機械を取り上げる。
「あっ!?」
「ところが先日、調査を始めた途端クロスパッチが放火にあってね。幸い小火で済んだが……さすがに事が放火まで至れば悪戯では済まなくなる」
「だ、だったらなんだよ! 俺は放火なんか知らない!」
「……はぁ」
呆れてため息を吐いた錬はいきなり少年の腕を捻り上げると壁に押し付けて動きを封じた。突然の暴力に少年も目を白黒させて抵抗しようともがくが錬の拘束はびくともしない。
「あのな、これはお前に与えられたチャンスなんだよ。お前が自分がやりました、自首しますって言えば、治安局に連れてって自首させてやる。そうでなければお前はじきに治安局に犯人と特定されて逮捕されるだろう」
「な、何の証拠があって」
「小火騒ぎの時、廃棄されたボンプ用バッテリーを使った発火装置を使ったろ。本当なら燃えて仕込んだ機構が消えたんだろうが、昨日の小火は出火後すぐに発見されてな。治安局は放火とみて捜査を開始したよ」
そう囁くと少年の顔色は真っ青に染まる。そんなに動揺するなら最初からするな、と言いたくなりつつも錬はさらに少年の心を完全にへし折るために言葉を繋ぐ。
「今俺が握っているこれを治安局に持ち込めば、同一の機構から同一犯だという事と君が犯人であることはすぐにバレるだろう」
「…………動機、は」
「アルビナさん」
間髪入れずに告げられた名前に、少年は顔色が青を通り越して白くなってしまう。観念したのか、力が抜けて抵抗をやめた少年から手を放す。
壁に背を預けてずるずると座り込んだ少年。そんな彼の上に野良ボンプを置く。ボンプ自体そこそこ重さがあるのでこうしておけばどける動きが挟まるため逃がす可能性がぐっと低くなる。
「君は、新エリー都に移り住んでから近所のアルビナさんと仲が良くなった。きっかけは親の不仲で家に居づらく、外をうろついてたら夜中にうろつく君を心配したアルビナさんが気にかけたから」
「……はい。それでアルビナさんは俺にとって希望の星みたいな人で、憧れで……だからいい学校に入っていつか恩返ししたいと思ってたんです、けど受験に失敗しちゃって」
「そんな時に、店長とアルビナさんの婚約を知った?」
横から割り込んだ星那の言葉に、その存在に気が付いていなかった少年はびっくりしつつもうなずいた。
「最初はああ、失恋だなって思ったんです。ただ相手が10以上も上と知って……店長にもアルビナさんにも悪い噂が流れてて……そこできっと店長にアルビナさんが脅されてるって思ったんです」
「ちょ、ちょっと待って。いきなり話が飛んでる。両方に悪い噂が流れてるんならヒドイ噂を流してる奴が居るとかそういう方に行くんじゃないの!?」
「え、そりゃ……あれ、なんで俺、アルビナさんが脅されてるって思ったんだ……?」
うう、と頭を抱え始めた少年に、錬は険しい目つきを向ける。
「それこそ、君が誰かにそういう噂を吹き込まれたりしたんじゃないか?」
「誰かに……? いや、そんなはずは……」
ぶつぶつと呟く少年を、錬は頬を張り飛ばす。
「いったぁ!?」
「一旦それは置いておけ。話を戻そう。アルビナさんが脅されたと思って、どうしたんだ」
「あ、ああ。その、まずは店長から引きはがさなきゃと思って、店長の店が傾けば離れるかと思って嫌がらせをし始めたんだ。そこらに居る野良ボンプを何体か見繕って、単純な仕事を割り振ってやらせた。ゴミをぶちまけたやつだと、ごみをそこらから集めてくる係、ごみをぶちまける係、周囲を見張って何かあったら知らせる係……野良のボンプは処理系統が劣化している可能性があるからそういう風な単純なタスクの方が向いてるし、ボンプ自身の良心を誤魔化すためにいい事をしてる風に装ってちょっとずつだけ関わらせた」
「個々のボンプは悪いことを手伝っている自覚は無く、ただ困ってる人を助けてるだけの感覚だったという事ね」
星那の言葉に、少年は頷いた。
「たまに論理回路が破損している奴も居るから、そう言った奴を直してやれば感謝して手伝ってくれることが多いからそれにつけこんでやらせた。昨日のやつも、アルビナさん経由で探偵に依頼したことを知ってボンプ達に油を吸ったゴミとかを集めさせて回収箱に入れさせて最後は発火装置を置かせた」
「よし、
音声記録用のデバイスをポケットから取り出した錬は、録音を停止しながら言葉を続ける。
「君は、自首するつもりはあるか」
「……はい。もう全部バレちゃったし、そもそもなんか俺の認識がおかしいことも分かりましたから。これ以上続ける理由もありません。というかそもそも、そんなことしちゃいけないはずなのに、何故か俺はそのラインを越えてやっちゃってしまってたから」
「よし、反省の色あり、再犯の可能性低し。店長さん、そういうことでいかがですか」
その声に、きょとんとした星那。すると少年を押さえつけていたビルの裏口からひょっこりと依頼人であるクロスパッチの店長が顔を見せた。その表情は微妙そうな顔で、視線は少年を見据えていた。
「君は、アラタくんだね。アルビナからよく名前は聞いていた」
「う……はい。この度はご迷惑をおかけしまして、すいませんでした」
「君なりにアルビナを思って起こした行動だということは分かったから、それはいい。同じ女性に好意を抱いた者として助けになりたいという気持ちは理解できる。……独りよがりだったのは、反省すべき点ではあるがな」
ふうとため息を吐く店長に、アラタ少年はなお一層縮こまってしまう。自覚した自分の精神状態の異常、やらかしてしまったことへ湧いてきた罪悪感、罪なきボンプ達を巻き込んでしまった後悔。それらが彼の心の中で積み重なって重しになっている。
「治安局へは私も同行しよう。幸い被害に遭ったのは私の店だけだ。私が処罰を望んでいないことを申し入れれば、君の反省を見せている態度も相まって刑罰もまあそこまでひどいものにはなるまい」
「いいん、ですか?」
「そもそも、現状ですらそこそこダメージを負っているからね、ウチ。嫌がらせを受けるような悪いことをしたんじゃないか、とね。それを真っ向から否定したところでどうにかなるものではないし、それなら加害者が若い君であることを利用して、寛大に赦すという姿勢を見せることで何とか持ち直そうという訳さ」
疲れたように言う店長の言葉に、アラタはうつむいて黙り込んでしまう。
「ま、そういう事で打算ありきだが依頼人の最大限の利益を追求するならここがベストと考える。受け入れるか、アラタくん」
「はい。俺の方は何かを希望する権利もないので」
「よし。それじゃすぐそこの治安局に行くか」
「その必要は無いぞ、錬よ。此度もまたよい落としどころを作ったようだな」
先ほど店長が出てきた扉、そこから小さな影がひょっこりと顔を覗かせる。その顔を見た錬の表情はあっという間に苦虫を噛み潰したように苦み走ったものになる。
「青衣先輩……いらっしゃったんですか」
「うむ、放火があったばかりの店の店主が人目をはばかり動いたとあればこれすなわち兆しなり。そう思い、店長殿に話を聞いて此度の錬の企みを知ったのだ。まったく、相も変らぬ影働きぶりよ」
「いやいや、単なる探偵としての仕事ですよ」
「治安局の情報を抜くことがか? 鑑定課の者も困ったものだ、部外者に情報を流すとは」
やれやれ、とため息を吐く彼女。治安局の制服を纏い、手には三節に分かれる棍を握る傍目から見れば童女と思ってもおかしくない少女。あれで治安局においては古株だというのだから初めてみる者は驚きを隠せないだろう。
そして彼女の言動に表情こそ動かさなかったが内心ドキリとさせられる。
「旧交を温めるのはいいが、肝心要の者とは温めぬとはなぁ」
「朱鳶は関係ないでしょうが」
「朱鳶とは言うておらぬが?」
「所長、この人は?」
くいくいと服の裾を引っ張られて我に返る。はあ、とため息を吐いて手で彼女を示しながら言う。
「治安局特務捜査班の
「うむ、これこの通り」
ひじのプロテクターをずらして、そこに見える球体関節を見せる青衣。それを目にした星那は驚いて青衣の顔にずいと近づくとじーっと見つめ始める。急に接近された青衣は咄嗟にのけぞって逃げようとするが星那は追いすがってじっくり眺め続ける。
「ホントだ。あちこちにパーティションラインがうっすら見える。ここまで出来がいいパーツはあんまり見ない」
「む、知能機械人に知見があるか。なるほど、最近童を引き取ったと聞いたがなにやら背景があると見える」
「はてさて、どうですかね。偶然拾っただけですが」
「朱鳶など我が錬に子供が出来たぞと言ったら卒倒しかけたぞ」
「……あんまり後輩で遊んであげないでくださいよ、青衣先輩」
「ふ、ふ。さすがの解決屋も後輩はかわいいと見える。猶更旧交は温めよと言うべきか?」
「分かりました、分かりましたからもう勘弁してください。それよか、容疑者の搬送、お願いしていいんですね?」
「うむ、任されよう」
念のため、お縄を頂戴するがよいと青衣がアラタ少年の手に手錠をかける。大人しくそれを受け入れたアラタは、錬に一度頭を下げて踵を返す。
ではの、と去っていく青衣たち三人を見送りながら、ふと最後に錬は口を開いた。
「アラタくん。君が聞いた店長たちの噂は……誰から聞いた?」
「え? えーと……すいません、分からないです」
「――――――そうか」
ちらりと青衣から視線を向けられて、もう大丈夫と頷いて引き留めたことを詫びる。
去っていった三人、その場に取り残された二人、いや三人。事が終わったことを確認したソーマがビルの屋上から下りてくる。
『終わりましたか』
「うん、治安局に連れて行ってもらったよ。こっちも逃げるの防ぐように作ってたワイヤートラップ回収しないと」
「……」
『所長?』
「うん? ああ、いやすまん。ちょっとぼーっとしてた」
何事かを考えていた錬は、置いて行かれたボンプを見下ろして嘆息する。
「青衣先輩、このボンプも証拠映像持ってるんだから連れて行ってくれよ……」
仕方ないので、一旦彼も連れて帰ることにした。
全員で事務所への帰途について歩いていると星那が疑問に思っていたことを聞いてくる。
「所長って元治安官なの?」
「勤続年数はそう長くないけどな。ざっくり6、7年ぐらいか」
『結構長いです、それ』
「十年一昔っていうだろ」
「意味が違う気がする!」
いいんだよ、細かいことは。年取ればあっという間だ。
さあ、帰るぞとせかしながら歩ていく。
十年一昔、そうであるなら十年経ってもいない出来事は最近のことなのだろうか。連れ帰っているボンプを見下ろしてずきりと痛む過去の古傷。今更どうしようもない過去を思ったまま、風雅探偵事務所の案件は一つの閉幕を迎えた。
後日、連れ帰ったボンプは正式に風雅探偵事務所のお抱えボンプとなることになった。事件に必要なデータは治安局に提出し、彼そのものの処遇をどうするかという話になったところで星那がせっかく手伝ってくれたんだからと保護を希望し、野良ボンプが一体でも少なくなりトラブルの芽が消えるならと治安局に後押しされ、ついでにソーマもそっと日中お話出来る友達が欲しいと少しだけ色気を出して。
このボンプが捨てられる前は税理士ボンプとして確定申告をしっかりこなしていたという事が分かったところで錬も認めざるを得なかった。
「
そう語る錬の背中は煤けていたという。
風雅探偵事務所
所長、風雅錬を筆頭とした私立探偵事務所。
所在地はバレエツインズ近郊にあり、一見はうらぶれた探偵事務所。しかしながら裏ではプロキシ業やホロウレイダー業にも必要とあれば手を出しており、真っ当とは言い難い側面もある。
最近は子供の所員が一人入り、元気よく学校に行く姿をよく目撃されている。
また謎の黒い狼の噂がインターノットに出回っており、時折それを探しに来た野次馬が事務所の周囲をうろつくことが増えたのが目下の悩みらしい。
直近でゼイリシボンプという新しいメンバーが増えた。元は野良ボンプだったそうだが今はオーバーホールを受けて新品の外装を身にまとって誇らしげに拾ってくれた事務所のために経理作業に励んでいる。