錬は星那を伴ってヤヌス区にある六分街を訪れていた。
ここはヤヌス区中心地のルミナスクエアとは違った雰囲気を持つ街で、小さな商店街という趣を持つ場所だ。今日はここにある貸しビデオ店にソーマの娯楽になりそうなビデオを借りに来ていた。最寄り駅構内から一歩外へ出ると数階建てのビルなどが近い距離に密集して建築されている。その一階部分に様々な店が看板を出している。
「所長、そこのおもちゃ屋、音動機売ってるんだけど……」
「
「思いっきしホロウ内で活動する武装ばっかじゃん」
「ホロウで使える装備は需要があるんよ。実際俺も仕事で急ぎで必要になった時は何度か利用させてもらったこともある」
「ホントいろんなとこに顔出してるよね、所長」
「コネが重要になることも多い業界だからな。必然的にいろんなところと繋ぎが切るわけだ」
コネが多ければ、それだけ入ってくる情報が多くなるわけだからな。
そう言いながら二人は立ち止まって到着した店の看板を見上げる。貸しビデオショップ《RandomPlay》。今日の目的の店でなんてことはない普通のレンタルショップ。だが星那から見れば周囲で裏稼業をやっている店ばかりなんだからこの店もやってんじゃないのという視点が出てくる店だ。
「ま、実際そういう背景があるかもしれないが……必要じゃないなら掘り起こさないのもマナーだ、星那」
「探られたくない腹は誰にでもある?」
「誰にでもとは言わんが、その通りだ。お互いにな?」
それもそうだ。自分だってそうだ。
納得した星那は、じゃあ入るか、と進む錬の背中を追って店の中に足を踏み入れる。店内はこじんまりとしたものだが、壁際に置かれた棚とカートに所狭しと様々なジャンルのビデオが並べられている。アクション、SF、ミリタリー、ジュブナイル、恋愛、その他様々。ビデオのケースの背表紙に目が吸い寄せられる。
「いらっしゃいませー、本日はどのような要件でしょうか?」
「会員登録とビデオの貸出をお願いします」
「承知しました。いくつかコースがありますのでそちらの説明をしますね」
錬が話をしている相手、二十代前半ぐらいの女性だろうか、ショートカットの青みがかった黒髪の女性はつらつらとビデオショップ会員の特典と規約について説明していく。その中で普通くらいのコースを選んだ錬はさらさらと署名までさっさと終わらせるとボールペンを彼女に返す。
「書き終わりましたよ、と。貴女がここの店長さんですか?」
「半分そうですねー、お兄ちゃんとの共同経営なんで。基本店番とかはうちのボンプの
「なるほど。あ、ありがとうございます。じゃ早速借りる作品を見繕っても?」
「どうぞー、何か分からないことがあったらどんどん聞いてください。映画のことなら大概はお答えできますので」
大概のことか、と少しばかり考えて、じゃあと口を開く。
「ファミリー、アドベンチャー、ノスタルジー……このジャンルで10歳前後の子供が楽しめそうな物ってあるかな?」
「そのジャンルでですか? うーん、アドベンチャーはスターライトナイト、ファミリー系は十万回の拍動、ノスタルジーは虚無あたりがおススメかなー? ただ個人の好みがあるから確実にとは言えないんだけど」
「なるほど、とりあえずはそれを借りるよ。今回の分も含めて一万ディニーを現金でチャージで」
「はいはーい。現金チャージして、今回分の価格を差し引いて……完了っと。カードをお返しするよ」
「はいどうも」
受け取ったカードを財布に戻してポケットにしまい込む。
ちょうどそのタイミングで受付の隣にあるバックヤードと思しき場所に繋がる扉が開くと、そこから一人の男性が出てくる。ちょっと疲れた様子で、目元をもんでいる。
「あ、お兄ちゃん。起きたの?」
「ああおはよう、リン。たった今目を覚ましたところさ。……っと、お客さんかい?」
「どうも、風雅探偵事務所所長、風雅錬と申します」
「助手一号、星那です。 ちなみに二号は兄さんのソーマです」
「その場合、兄の方が一号になるのでは……?」
名刺を渡すとこれはご丁寧にどうも、と受け取る店長のお兄さん。
「おっと、ボクの方も名乗らないとだね。ボクはアキラ、このRandomPlayの店長の片割れを勤めているんだ」
「私も名乗ってなかったなー。私はリンだよ。店長のもう片方をやってるよ!」
互いに自己紹介を終えて、一度落ち着いたところであらためての世間話に戻る。
「二人はいつからここで店を? 二人とも随分若く見えるけど」
「ここ何年かで、だね。運に恵まれてこの建屋を確保出来て、そこから元々趣味だった映画のビデオのレンタルショップをやろうという話になったんだ」
「へえ、確かに六分街はヤヌス区でも治安がいい方だし店が開ける物件を確保出来たのは幸運だな」
「まったくその通りだ。色々手を尽くした結果ここと出会って、今がある」
アキラが懐かしそうに頷く。
どういった過去があるかは知らないが、彼らなりの努力の過去があるのだろう。錬にもまだまだ駆け出しのころがあったもので、彼らの姿は当時の自分の姿を思い返させてくれるようだ。
「……ん?」
ちょっと失礼、と少し距離を置いてポケットからスマートフォンを取り出すとSNSアプリのノックノックに連絡が来ていた。相手の名前欄には『羊飼い』と書かれている。
『羊飼い』。有望なプロキシに声をかけて仕事を斡旋する情報屋のようなことをやっている男だ。彼の持ち込む仕事は質も高く、割もいいために錬自身よく贔屓にしている。そんな彼が話があるとメッセージを送ってきた。また仕事の話だろうか、と思って反応を返すとすぐにメッセージが飛び込んでくる。
『ちょっと困った仕事があってな、それの解決を依頼したい。今回はプロキシではなくホロウレイダーとしての仕事だ』
『羊飼いともあろうものが持て余す案件か。詳細は?』
『インターノットで渡すにはちょっと怖い案件でな。後でバレエツインズのティンズ・コーヒーに顔を出す。詳しくはその時に』
『分かった。報酬の方も色付けを期待しておく』
『……了解、あんまり期待せず待っててくれ』
羊飼いからのDMが途切れたところでスマートフォンの電源を落とすと、振り返って星那に声をかける。
「星那、ごめん。仕事が入った」
「いいよ、借りたいのは借りれた」
「こんな時間から仕事かい? 大変だね」
「自営業だからな、仕方ない。稼ぐ目があるうちに稼がないとだ」
「うーん、映画とかならかっこいい探偵が見られるけど、現実を見せられちゃうとやっぱり大変なんだねぇってなっちゃうな」
「世の中そうそううまく出来てないってことさ。じゃ、アキラ、リン、今日はありがとさん」
「ああ、気を付けて帰ってくれ」
「またの来店、待ってるよ!」
店主兄妹に別れを告げて、錬たちは六分街を離れた。
バレエ・ツインズ近郊に戻り、事務所についたところで事務所の前におおよそ近い年代の男が立っている事に気付いた。見覚えのある男に気付いた錬はゆったりとした足取りで彼に近づくと声をかける。
「ティンズ・コーヒーで待ち合わせじゃなかったのか、『羊飼い』」
「悪い、こっちもちょっと急がなきゃならんくなってな。出来る限り時短するために直接来させてもらった」
「そんなに余裕がないのか?」
「依頼人がな。……訳あって郊外に逃がす必要がある」
「なるほど、それで急ぎの厄介事か。プロキシとしての依頼ってことでいいのか?」
「いや、ホロウレイダーとしてだ。プロキシは別口に用意する」
その言葉に、ぴり、とその場の空気がひりつく。
ホロウ関連の違法業務は必然、裏社会の暴力的な部分と結び付くことが多い。その為舐められたら終わりという風潮もまた存在し、羊飼いの言葉は遠回しに風雅探偵事務所の実力を舐めている、と認識されてもおかしくないものだ。
「おっと、そう怒らないでくれよ。今回は厄介な行程になりそうなんでな、必然的に案内業のプロキシと護衛のホロウレイダーは別口に分けなきゃならんと判断したんだ。だがプロキシも一人だけでは万が一の時の不安があるもんだ、そ・こ・で、いざとなればプロキシも兼任出来るアンタに声をかけたんだ」
「……理由は分かった。で、そのプロキシは誰に頼むんだ?」
「ふっふっふ、聞いて驚くなよ、なんとあの『パエトーン』だ!」
「パエトーン? 伝説級のか?」
「それ以外の誰が居るって言うんだ。依頼成功率脅威の九割越え、多くのホロウを踏破したという
パエトーン。インターノット上に数多くいるプロキシの中でも最上位の実力を誇る人物でありその人物像は謎に包まれている。男性という者も居れば女性と語る者も居る。共通するのは隠れてボンプを操り、依頼人を目的地まで送り届ける、その一点のみ。
たしかにかの人物に依頼が行くならそれで納得がいく。プロキシとしての腕なら彼の方が断然上、それなら何も文句を付ける必要もない。
「分かった。それなら大丈夫だ。依頼の詳細を確認しても?」
「勿論だ。ざっくり言えば、違法研究に携わっていた研究員が足抜けしようとして命を狙われている」
「口封じか」
「ああ。治安局に証人保護プログラムを申請して新しい戸籍を用意してもらったらしいが……どうやらそれが漏れたらしくてな。今は急いで郊外に逃げて命だけは助かろうとしているらしい」
「治安局はどういう状況なんだ?」
「情報流出のルート潰しに躍起になっているらしい。ほら、ブリンガーの選挙ももうすぐだろ?」
「やつか……」
ジャスティン・ブリンガー。
ヤヌス区の治安局長官に任じられている男で、かつては英雄と謳われた男。そんな男が今やそのころの影は見ることもなく政治の道に踏み込まんと市民に胡麻をする日々。今では英雄と謳われた人気は地に落ちてしまっていると言っても過言ではない。それでも治安局長官から降ろされないのは明確な失点というのも存在しないのが大きいだろう。事なかれ主義ゆえに批判され、事なかれ主義ゆえに身を守れている、というのは随分皮肉な話だ。
「情報漏洩の失点をなんとか握りつぶそうとしてそっちに人員をまわして、こっちはかなり手薄になったらしい。だから身を守るために、遊ばせている時間はないってことだ」
「あの野郎、ホントろくでなしのままだな」
「珍しいな、アンタがそこまで毒を吐くとは。古巣の悪評は応えるか?」
「どうでもいいよ、それは。結局、依頼人を郊外まで送るのが依頼でいいんだな?」
「ああ、目的地は旧油田エリアに出るホロウの出口まで。そっから先は現地の運び屋に身柄を運んでもらう手はずになっている」
「郊外……ポンペイさんのところか?」
その言葉に羊飼いはさてどうだろうな、とはぐらかす。同道するメンバーは伝えるが情報隠匿のために次の情報までは明かさないそうだ。
「それでどうする。この依頼、受けるか?」
「報酬の話がまだだぞ、羊飼い」
「おおっと、俺としたことが失敬したな。前金で10、達成で90、総額100でどうだ」
「OK、十分だ。引き受けよう」
一安心したようにほっとした様子を見せる羊飼い。気を取り直した様子で口を開く。
「新人を加えた新生風雅探偵事務所の力、見せてくれよ」
にやりと笑いかける羊飼いに、側で待っていた星那と部屋の隅で座っていたソーマが錬の傍に立つ。
錬もまたふっと笑うと、恭しく礼を取り、ただ一言言い放つ。
「ご用命承りました、我らが風雅探偵事務所にお任せあれ」
「待ち合わせ場所は、ここか?」
ヤヌス区外縁部、名もなき共生ホロウの一つの傍にあるベンチに風雅探偵事務所の一行は座っていた。
共生ホロウ周辺は立ち入り禁止区域に指定されており周囲には人っ子一人いない。人の居ない廃墟の街で、現れたのは地味な服を着た女性だった。目つきは鋭く、声音は固い。黒い長髪に口元のほくろが特徴的だ。
「飼い」
「羊」
「オーケー、合ってますよ。風雅探偵事務所所長、風雅錬です」
「ミザリー・ロックハートだ。しかし、探偵? やり手のホロウレイダーとプロキシを用意したと聞いたが」
「自分はホロウレイダーの方として委託を受けました。仕事柄、荒事もいける口なので護衛として目的地まではきちんとお送りします」
「……そうか」
信用されてないな、とすぐに分かった。カバンの荷紐を握りしめる力の強さ、合わせないようにしている視線、無意識かは分からないが距離を置こうとする態度。それらが彼女の緊張している状態を指し示している。
さて、どうしたものか。
そう考えているとふと彼女の伏せられていた視線が、ベンチに隠れるように待機しているソーマに向けられる。彼女はひどく驚いた様子だ。
「タイプ・アーミードッグ……!? 現存していたの……!?」
『っ!』
ミザリーがこぼした言葉に、ソーマががばりと身を起こす。互いに警戒心が掻き立てられているようでその場の緊張感が一気に跳ね上がる。が、そこで錬は二人の間に立ち、両手をあげて二人を諫める。
「ストップ。事情は分かりませんが、一旦落ち着きましょう。ソーマ、抑えろ」
『……すいません』
戦闘モードに移行しかけていたソーマは錬の言葉に我に返り、上げかけたギアを元に戻す。
対するミザリーも怯えた表情は変わらないものの何度か深呼吸を繰り返して、そうして落ち着いたうえで改めて口を開いた。
「ごめんなさい、とうに失われた物と思っていたものが目の前に現れたものだから驚いてしまったの」
「ソーマたちのことを知っているのですか?」
「恐らくそっちの女の子が、多分指揮官コマンダー役のブリーダーね。正直に言うと直接は知らないわ、ただ他所の支部で対多特化型の群体ユニット部隊が研究開発されていたという噂を聞いたことがある、程度よ」
恐らく、星那達がいた研究所の事だろうとはすぐに分かった。
しかし気になるのは他の支部、ということ。ミザリーが居た研究所は現在進行形で彼女の命を狙っている。つまり研究所の運営に携わっている勢力は生きているという事であり、それは星那達をこの世に産み落とした者たちの暗躍は終わっていないという事。
(ソーマの依頼の一部がここで……いや、まだか)
「それで失われたというのは?」
「さっきも言ったけど、対多特化型の群体ユニット部隊がテスト的に作られたの。一定の成果を納めたそうだけど、ある日突然全滅した、という事らしいわ」
「……」
『……』
星那とソーマは何も語らない。
この子たちが口を開かない以上、単なるうわさをこれ以上聞いても仕方ないだろう。
「だとしたら偶発的に生き残った彼女たちを俺が保護しただけですよ。さすがに幼い子供たちをほっぽり出したら寝覚めが悪いんで」
「そう……」
何か言いたげなミザリーを制して首を横に振る。
子供たちはまだまだ幼い。それをむやみやたらに傷つけてまで秘密を探るつもりもない。もしそれで不利益を被ることがあっても自分は大人なのだから子供たちを守る義務と理想がある。
「話を戻しましょう。これからホロウを経由して郊外の旧油田地帯に脱出する、これが基本的な方針になります。これに対して何か要警戒と言える事項はありますか?」
「研究所は情報漏洩についてはさほど気にしない方針なんだけど、裏切りは許さないの。だから私をターゲットにした実証実験を仕掛けてくるかもしれない」
『人狩り検め、対人を想定した検証方法です。どれだけ効率的に相手を殺害できるか、障害を排除できるか、それらを裏切り者を使って調べるんですよ』
「私たちも昔、やらされた。だから、逃げた」
ぎゅっと口を引き結んで絞り出す星那。そっと頭を撫でてからミザリーに向けて頷く。
「了解しました。後程プロキシにも情報を共有しつつ、最短で郊外まで脱出しましょう」
『ええと、ゴメン。途中から聞いていたよ』
会話に割り込んでくる新しい声。そちらを向くと一体のボンプが立っていた。黒い素体にオレンジのスカーフ、白い頭からは大きな耳が生えている。外見上はすこし古いタイプのボンプだなと思いつつ問いかけてみる。
「トーン」
『パエ。……分かりやすいけど安直すぎやしないかい、この合言葉』
「羊飼いに言ってくれ、考えたのはアイツだ。それで、初めましてかなパエトーン?」
『ああ、はじめまして。うん、はじめましてだ。事前に聞いているとおもうけれど、今回のプロキシ業を引き受けさせてもらっている』
「俺は風雅錬、こっちの小さいのが星那、機械の犬がソーマ。以上が風雅探偵事務所として依頼人であるミザリーさんの護衛につく」
ボンプと握手を交わして、さて、と表情を改める。
「ボンプの通信越しに案内してくれるんだろうが、今回は危険度が高い。もしホロウ内で隠れてるアンタが敵に見つかった場合守ってやれないだろうと思う。出来れば生身で同行してもらいたいんだが」
『ああ、それなら問題ない。詳しい事情は企業秘密だから口外できないけど、その心配をする必要は無いんだ。うちのボンプだけを守ってもらえればそれでいい』
「? どういう……いや、言っても仕方ないか。では君の安全は保障されている、ボンプとミザリーさんの護衛に注力する、で構わないな?」
『構わない。それで事情は聴いていたから把握している。すぐにホロウに入るかい? キャロットはすでに用意しているから案内だけならすぐに取り掛かれるよ』
ミザリーの方を確認してみると、もう行けると頷く。
追手がかかっている可能性がある以上、早く動かなければならないだろう。全員の準備も出来ている。ならばここでぐずぐずしている暇はない。
「よし、出発しよう」
パエトーンを先頭に隊列を組み、一行はホロウの中に足を踏み入れる。
ハイウェイを走る一台のトレーラーがある。その運転席にはたばこの代わりに禁煙用の水蒸気を吐き出すパイプを加える男が、助手席には床に届かない足をぶらぶらさせている少女が座っている。
少女は手元のタブレットのページをめくりながら鼻歌を歌っている。画面をリズムに合わせて叩くその様子に運転手の男は気だるそうに話しかける。
「陽那、随分機嫌がいいな。面倒な仕事だろ?」
「だってワンちゃんたちのお散歩が出来るんだよ。いっつも狭い試験場でしか遊べないからこんな時ぐらい目いっぱい楽しみたいじゃん!」
「そうかい、俺としちゃあわざわざ顔見知りを殺しに行くわけだから萎えてるけどな」
「サボりはだめだよー、
「サボるとは言ってねぇだろうが。気が乗らねえって話」
意味わかんない、と笑う陽那にため息で答える飛。その時、トレーラーの進行方向で誘導灯を扇状に振り回している人影が見える。通行止めの情報なんてあったか、と考えるがそういった表示は無かったはずだ。
一旦指示通りに止まるか、とブレーキを踏んで徐々に減速していく。
そうしているとタブレットを脇に置いた陽那はちょいちょいと飛の方をつつく。
「どした?」
「
「……ほーう」
そうしている間に車は速度を落としきって停止する。
「いやあ、すいません。ちょっと急にここいらの高架に大きめの罅が見つかりましてね、今調査中なんですよ」
「そうっすか、困ったな。ちょいと貨物運送中なもんですが、これが時間厳守って言われててね。この道がいけないと間に合わなさそうなんですよ」
「うーん、生憎安全性の話なんでだれも通すわけにはいかないんですよ。一応迂回ルートを説明しますんで一旦下りてもらっていいですか?」
「それなら仕方ないっすね、今降ります」
飛がシートベルトを外して扉を開く。
誘導員、いやそのフリをしたホロウレイダーはその隙をついて腰の後ろに隠していた拳銃を引き抜くと飛に突きつける。手を上げろ、有り金を差し出せ、そうすれば助けてやる。そう続けようとした言葉は飛から突きつけられた刃で止まった。突きつけられた刃に呆けた馬鹿馬鹿しい声が漏れ出る。
「――――――へ?」
「よっと」
意識に挟まった空白。その隙を突いて飛は握った刃で拳銃の銃身を刎ねてみせた。そして次の瞬間には首に何かが絡まり地面に引きずり倒されていた。アスファルトの地面に首が引っ張られ、気道が締め付けられて呼吸が出来なくなる。
運転席を降りた飛は長剣をくるくると回しながら進行方向で道を塞いでいる車に声をかける。
「おーい、野盗のホロウレイダーさんよォ、検問して金を巻き上げるつもりだったんだろうが、残念だったな」
「てんめぇ……、大人しく金目のもん渡しやがれ!」
「襲ってきて返り討ちにあったのはそっちだろ、今更上から目線ってのは筋が通らねえんじゃねえか?」
窒息して気を失った男を蹴り飛ばして、道路の端に寄せておく。足元に転がしていると邪魔になってしまうから。気だるげな様子のまま歩き出した飛、しかしその足取りはどこか楽し気で。
「んじゃあ、仕事前の清掃でもするか」
後日、違法な略取を繰りかえすホロウレイダーの一団はある一名を除いて行方不明として処理されることとなる。
発見された
彼いわく。
――――――俺たちは剣の鬼に潰された。